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duplices  作者: rakia
17/71

名前を呼んで

情景描写って難しいですね。

もっと勉強しなければ、と反省してます…今更ですが…

と…とにかく、もう直ぐ三話目、クライマックスです!

「何か見つかったかー?」


空鉦が天井を見上げながら、部屋の中をうろつく。

真は壁にある、能面を無言で見ていた。

やはり…これは俄面の…だが----弱過ぎる…。


「おい、真ー?」

「聞こえてますから。…これ見てどう思います?」


彼は能面に指を指す。

陰影によって、能面のその不気味さは余計に引き立っている。


「どう…って、気持ちわりーのと、残留思念が残っている事ぐれーだろ」

「そう。残留思念です。問題は、どの程度の強さか、誰のものなのか、最後に何時の時代のものなのか----」

「そうだよなぁ…悪夢を見させているのは、こいつらかよ?」

「…間違い無いでしょう。これで、原因自体は分かりました。次にどの程度の強さなのか---ですが、俺には、これが村中の人間に悪夢を見させる程の強い力を持っているようには見えません。『花境』にあった物も然りです。おそらく、俄面陰餓がここに残し、村の人間が持ち帰った面が怪しいでしょう」


 ふうん…、と言いながら、空鉦は窓際の僅かなスペースに寄りかかった。


「誰のかは?」

「………簡単ですよ。俄面陰餓のです」

「今も残ってるってどんだけ粘着質なんだよ。そいつの念は…」

「そこが、よく分からない。いかに強い思いがあの仮面達に篭もっていたとしても、時が過ぎれば薄れて、消えるものでしょう。しかし、何故か最近になって逆に強くなった…その理由が分からないんです。そうなると、本当に俄面陰餓のものかも怪しくなってしまう…」


 そう、問題は何故、‘今‘か、という事だ。偶然に面への念が強くなるとは考えられない。もし、そうだったら、他の時代でもありえた筈である。現代で何かきっかけとなる出来事が----


「でも、お前はそういうふうに判断したんだろうよ?」

「…ここまで禍々しい残留思念は珍しいですから。……ただ、力は無い」

「どうするよ? 全部処分するか?」

「それがいいと思います」


 空鉦は真の顔をジロジロと見ながら、何が面白いのか、笑った。


「……何ですか?」


 真は訝しげに空鉦に聞く。


「いや、昔のお前だったら有無を言わさず、こんな面なんて壊しているんだろうなーと…。……丸くなったよ、お前は」

「………どうも」

「素直じゃねぇな~!」


 空鉦は真の肩を軽く叩く。


「痛いです。…慶吾さん」

「おっ? やっと、前の呼び方に戻ったな? そうだ、そうだ、言い忘れてたが、天音ちゃん元気だぞ!」


天音----…そうか…良かった…。


「…聞いてませんよ…」

「そんな事言って~気になってたんだろ~? 自分に正直になろうぜ~?」

「余計な事を……」


真は空鉦にプイッとそっぽを向いた。

そんな彼に、空鉦は急に真面目になって言った。


「たまには、こっちにも顔出せよ。彼女寂しがってんぞ、きっと」

「……分かってます。そのうち---そのうち行きます…」

「ツンデレ?」

「火葬ですか、水葬ですか、土葬ですか。三つの内からどうぞ」

「死ぬの前提!?」


 本気なのか、真の眼は道端の塵クズでも見るように冷めている。彼の様子に空鉦は戦々恐々である。彼の場合、本気でやりかねないからだ。

 ゴホン、と真は咳払いをしてから、話を切り直した。


「……ところで、葎君の方は大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だろ。ガラって奴強そうだし」


 ゴンッ

 んがッっっ!

 何処からともなく聞こえた鈍い衝突音と、奇声に真と空鉦は眼を見合わせた。方向から、葎とガラがいる方角だと分かる。

 彼等に限ってまさか、無いとは思うが、不測の事態でも起きた可能性もある。行って、確認するべき、と真は判断した。そんな真を、いや、今のどう考えても違うだろ、というような視線で空鉦は見ていたが、「何だか面白そうだ」と思った彼は、何も言わなかった。


「……戻りますか」

「おう!」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 --それにしても、君の間抜けな顔は非常に楽しめた--


「一番知られたくない奴に知られちまったよ…ああ無情…」


 --驚かされて、自分から頭を打ちに行く奴を、私は初めて見たぞ? いや~貴重、貴重…--


「わっ…忘れて?」


 --すまない。記憶から消去しようとも、もう、脳内ダビング済みなのでね、諦めてくれたまえ--


 葎は舞と出会った部屋に居た。思い返すとあのような醜態を晒してしまったのだ、気落ちしない筈が無い。彼が落ち込んでいるのは、舞に知られたからではない。ガラに知られてしまったからである。ガラの事だ、きっと石動市に帰ってもネチネチとこの事を言うに違いない。ひょっとしたら燐太あたりにうっかり、…いやガラの場合「わざと」、うっかり喋ってしまうかも---

 とにかく彼は穴があったら頭から飛び込みたかった。


「葎~? 無事か? うおっ! 何だ!この、漂う負のオーラ!!」

「ああ……空鉦さん……穴…穴探してください…」

「穴!? 穴に何かあんのか!?」

「葎君…大丈夫じゃないな…色んな意味で…」


 ブーッ…ブーッ…ブーッ…ブーッ

 突如として真の胸のポケットが震えた。彼の携帯が震えていたのである。


「………はい……!? はい…! 分かりました、直ぐ戻ります…!」

「どうした?」


 葎のほっぺをペシペシと叩きながら、空鉦は怪訝な顔で真に聞いた。何かしらの事が起きたのは、真の様子から明白であった。


「…急いで「花境」の方に戻りましょう…!」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「何か……静か過ぎません…?」


 外に出た葎は村の様子がおかしいと感じた。

 ここ浦奴うらど村は、村とは言うものの、近くに温泉が湧いている関係で、宿泊施設も多く、今でこそシーズンでは無いが、それなりに温泉街として、多少なりとも活気があったはずである。

 少なくとも葎達が「俄面の館」に来るまでは、あった。だが、今は虫の音がハッキリと聞こえるほどに、静寂が広がっていた。


「…誰かいる」


 空鉦が呟いた。

 彼が向いている方向に、こちらへと向かって来る人影があるのが確認できた。

 その人影はユラリ、ユラリ、と葎達にゆっくり近づいている。


「……あの人…変じゃないですか…?」


 こちらへと寄って来る人影の顔が、肌の色が浮いてるように見える例えるならば、枯れ木色である。

 何か----被っている。そう、面でも被っているように。

 ……………………いいや、違う。あれは、面を被っているように見えるのではなく、‘被っている‘のだ。そして、手には草刈鎌を携えている。


「…真? 今日って祭りの日? トリックオアトリート?」

「空鉦さん…そんな訳無いでしょう…ハロウィンは11月です」


 …とんちんかんな事を言う、空鉦さんも空鉦さんだが、真さんも冷静に突っ込み入れる所が違う!!

 ああ、もう! 目の前まで来てるし!

 面を付けている人物は一番先頭の真の前でピタリと止まった。


「………………………………が…つ……た」


 聞き取るのも困難な、くぐもった声で何かを言い、直後に真に向かって鎌を斜めに薙いだ。


「……………………………喋れない…か…」


 真は顔色一つ変える事無くそれを避ける。

 相手は明らかに殺意を持って鎌を振るった事は、葎のからも容易に理解出来た。


「…おい、真…いっぱい出てきたぞ? こいつら」


 出た時は分からなかったが、周囲には似たように面を被っている人間が十人以上いるのだろうか、農作業に使うくわなたなどを持って足元もおぼつかない様子で葎達を取り囲んでいた。

 先程の真に対する行動を考える限り、今の状況は非常に危険である。

 何コレ…現実リアルサバイバルゾンビゲーム?


「…ガラ!」


--ああ--


「いや……いい。俺がやる」


ガラと代わろうとする葎を、真が片手を出して制した。


「えっ!? 一人でなんて、無茶ですよ!!」

「葎、ここは大人しく下がってようぜ? それに、お前アイツがやる所、一度も見てないだろ。………だいじょ~ぶ! 真はクソ強いからよ」


 空鉦も真に同意した。

 この人数…一人でなんて…


--空鉦の言う通りだ。真の手並みを拝見させてもらおうじゃないか?--


「ガラ…! お前まで…!」

「葎君達はそこで見ててくれ。直ぐ終わる」


 何時の間にやら、真の頭の上辺りには、以前見た五つの光が漂っている。

 真は地面に手を当てると何かを呟いた。


「……土為して、金を生む…土生金…」


 黄土色の光と白色の光が地面の中へと吸い込まれるように入っていく。


「……が……の…めぇっ!!」


 最初に真に切りつけた一人が、再び真に鎌で切りつけようとした、だがその瞬間---


 ガギンッ


 地中から歪な金属が飛び出し、鎌を弾いた。


「…あの能面だな」


 真はその歪な金属を掴み、引きずり出した。

 それはよく見れば剣のような形に見えなくも無い、だが、ひどく不恰好で、大きな塊から削り出したような歪んだ物である。


「……つ…のためぇぇぇぇえええ!!」


 鎌を取りこぼし、素手で能面を被った人物は彼へと襲い掛かる。


「………………………」


刹那、能面が真っ二つに割れた。

葎には何も見えなかった。


「え? え? え? …なっ何? ………って来てるーーーーーーー!」


 慌てる葎を尻目に、真は次々に能面を切り裂いていく。

 ガラの流れるような動きとは違う、精密ともいうべき無駄の無い動きで、彼は能面の中を掻い潜っていた。しかも、鉈などを避けながらである。

 能面を被っている者達は、彼になす術も無く仮面を割られていた。


「……すっげぇ…」

「だろ?あいつはそういう奴なんだよ」


 最早、人間技とは思えない速さで真は動いていた。

 二重存在ではないにも関わらず、あんな動きの人間を葎は見た事がない。

 圧倒的だ。能面の数はグングン減っている。

 しかし、後数人という所で、真の持っている歪な剣は音を立てて砕け散った。


「…折れたか」


 だが、彼はそれを気にする事も無く、地に手を置く。


「土生金」


 再び、地中から歪な剣が木が生えるように突き出てきた。

 地中より、這い出てきたそれを当然だと言わんばかりに彼は振るう。

 あの枝のように伸びる剣は、いくらでも換えがきくようだ。


「最後…」


 真は最後の面を切り裂き、動きを止めた。


「……さ、急ぎましょうか」


 平然と彼は言ってのけた。

 信じられない…。ものの数分で片が付いてしまった。


「おう!」

「ええ? はい? あ…はい」


あまりの事に葎は呆けてしまった。

というか、何で空鉦はあんな衝撃映像を見て平然としていられるのだろうか?


「く…空鉦さん…?真さんって人間ですよね?」

「何言ってんだ?当たり前だろうが」


 葎の頭の辞書では「当たり前」の項目が、「当たり前?」に入れ替わった。

 常識も何もあったものではない。

 葎は、一先ず真達の後に続く事にした。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「無事ですか!? 橋間さん!?」

「え…は…はい」


 彼女は「花境」の入り口に立っていた。

足元には数人の村人らしき人物達が、どういう訳か倒れていた。

真は顎を撫でながらそれを見ると、寧の方へ視線を移した。


「何が---あったんですか?」

「あっあの…いきなりこの人達が、変なお面を被って…こっちに…明らかに様子が変なので…私や仲居の皆さん…お母さ…いえ…女将は入り口の鍵をかけていたのですが---…」


寧はそこで言いよどんだ。

しかし見れば分かる。玄関のガラスは粉々に壊されている。あそこに倒れている人達は、ここを壊して無理矢理入ろうとしたのだろう。


「それで…入って来たかと思ったら…急に力が抜けたように倒れたんです…」


真は倒れている一人の顔の辺りにある能面を引っ張り出す。

彼はそれを暫く見つめてから、葎達に倒れている人達全員の面を回収するように指示を出した。


「………………あ……」


一番近くにいた葎がかろうじて彼女を抱き止めたからよかったものの、寧は声を発したかと思うと、その場に倒れてしまった。


「ちょ…ちょっと橋間さん!?大丈夫ですか!」

「待ってろ!直ぐ人呼んでくる!」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



どうやら寧は貧血で倒れたようだ。

彼女は大広間に運ばれ、今は寝ている。

最近は夢のせいで眠れない夜も多く、それが一番の原因だそうだ。


「あの子…気丈に振舞ってはいたのですが…やっぱり無理してたんですね…」


そう話すのは彼女の母親、橋間茜はしまあかねである。

娘の事が心配なのだろう、寧の方ばかりをしきりに見ている。

彼女の母親であるのと同時に、「花境」の女主人兼、女将だ。

茜は離婚しており、一人でこの「花境」を切り盛りしている。

観光シーズンではなく、人が少なかった事が幸いだった。もし、人が多い時にこのようなことが起きては大事だからだ。

事態が事態だけあって警察を呼ぶ訳にもいかず、倒れた寧と能面を被っていた人達は大広間に寄せ集められるように寝ている。真が能面を切り割った方の人達は、それぞれ最寄の民家で休んでいるそうだ。

真はいつにも増して厳しい顔付きになっていた。


「さて…どうしたものか」

「明日にしてはいかかがでしょう…?今日はもう夜も遅いですし…」


布団に横になっている寧を横目で見る。


「そうですね…次に何が起きるか分からない…寧さんも心配だ…」


部屋を用意いたします…、と茜は下がっていった。


「今からあの不愉快な仮面共…消しに行きますか…」

「まぁそうカッカすんなよ。寧ちゃんが倒れたんだってアレが直接の理由じゃないだろうに。

それにお前がぶち切れたら、また前みたいになんぞ?」

「………ですが…!知っているでしょう?俺は夜は----」

「んん~…そこら辺は葎に頑張ってもらうしかねぇな…」


夜に何があるってんです…?

聞くのが怖い。


「な!?頑張れ!葎!」


だから何がですか…?


「真さん…夜に何かあるんですか?」

「ああ----ええっとね…」


珍しく真が取り乱している。

いつもの彼からは考えられないので、葎はキョトンとしてしまう。

空鉦は真を見て急に、ブっ…はははははは!!と噴出すように笑った。


「ははははははッっ!!ふっ…!は…

あっ…あのな?葎、こいつはある夜の十二時以降は起きてられねぇんだよ。

しかも一度寝たら何しても起きない特典付き!」

「だから…言わない方が良かったのに…」

「ええ!?ホントに何をしてもですか!?」

「体質なんだ…時間が来るとどうしても駄目でね…」


冗談なのか本気なのか葎には判別がつかない。

ガラでさえもノーリアクションだ。

おうよ、とニヤつきながら空鉦は膝をパシンと叩いた。


「前にこいつが寝てる時に寺の野良猫を八匹ぐらい連れてきて、真の近くに置いたら、こいつ起きた時に身動き取れないで困ってたな~こいつすごい神妙な顔で「猫…」って呟いただけだけど、あれは面白かった!!」


なんつー事を…なんつー事を…

………………………ある意味幸せかもな…

葎は真が猫に取り囲まれてるえらくファンシーな光景を思わず描いてしまった。


「……それで?空鉦さんはその後どうなりました…?」

「うんにゃ。二時間ほど説教されて、猫を全部戻して来るように言われた。ちなみに真はそれから二週間は口聞いてくんなかった…」


最初からやるなよ!!

思っても口には出さない。人間関係の鉄則である。


「……ちょっと住職、ペチャクチャ喋り過ぎです」


真は物凄い怖い顔になっている。効果音が付きそうだ。


「ちょっと、葎君は外で暇を潰してきてくれないか?

俺はちょっと住職と大事なお話があるから」

「は…はい…」


あ~…空鉦さん…助けてって視線を送られても困ります。俺も怖いんで。

葎はそっとその襖を閉め、手を合わせた。

空鉦さん…楽しかったです…骨は拾っておきますから安心して逝って来てください…。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



頭痛がする。

あぁ…私気絶してたのか…。

さっきまで母が居たのだろう、自分の寝ている布団の近くには盆が置いてある。

水の入ったコップと共に、母のぬくもりも残っている気がした。

心配させちゃったな…。


「う…よ…っと」


何とか立てた。まだ頭はふらつくが、単に寝ていたせいだろう。

ゆっくりと歩き、廊下へと出る。

母や、仲居の皆は夕食の準備でもしてるのだろうか、人影がない。


懐かしい夢を見た。いつもの悪夢ではない、気持ちのいい夢だ。

夢の中で私は誰かと遊んでいた。

楽しい----夢だった。

昔の記憶なんだと思う、私と彼女は子供だった。

そういえばあれは誰だろう?

思いだせない…。

親しかった事は覚えている。何時でも私は‘彼女‘と一緒だった---…

でも、時間が経って、私に他の友達が出来た頃にはもう‘彼女‘とは遊ばなくなっていたと思う。

あの頃、私はひどく内向的な性格で友達がいなかった。

そんな時に‘彼女‘に出会った。


---遊ぼう?寧!


あの言葉を何で私は忘れていたのだろうか…

その言葉で少しは変われたんだろう。多少は性格も改善され、友達も出来るようになった。

でも…でも…!何で私は…何時の間に彼女を忘れてしまったの…?。

知らずの内に彼女の存在は自分の中で消えてしまった。

名前が---名前が---思い出せない。

彼女に謝りたい…もう遅いと分かっていたとしても…。



………こんな事…今更思い出してどうするのだ…私は…。


何処に自分は向かっているだろう?。

いる筈もない‘彼女‘を探しているのかもしれない。

……馬鹿げてる。


気づけば私はあの無数のお面の前にいた。

何時見てもこの多くの仮面には圧倒される。

どうしてこんな所に来てしまったのだ?

自分なのに自分が分からない。

これらは祖父が集めていた物だ。

変わった人だったと記憶している。

それもそうだ。この村にはただでさえ、不気味な能面があるにも関わらず、更にそれとは違う色々な種類のお面まで収集しようというのだから。


「橋間さん?起きたんですか!?」


直ぐ近くから声が聞こえた。低くは無いが、聞こえ辛い声だった。

間もなく、その長身を確認した。

JRPCから来たという、栖小埜葎という青年だ。

青年と言っても、私と同い年らしい。確かに顔にはまだ大人になりきれてない独特の雰囲気がある。

明るい人物とは言えない感じだが、何となく親しみを私は持っている。

自分と雰囲気が似てる気がするだからだろうか?


「無理しちゃ駄目ですよ!?倒れたんですから」

「あ…いえ、ご心配をおかけしたみたいで…すいません…」

「いやぁ…そんな事はないいですよ」


…今噛んだよね?この人…。


「ぷっ……ふふふふ…あっ!ごめんなさい!」


あぁ…見る間に顔が赤くなってる…悪い事しちゃったかな…。


「い…いや?だいじょーぶデスヨ?…それより何でここに?」

「…何ででしょうね…私にも分からないんです」

「…橋間さん?」

「ややこしいでしょうから寧でいいです。私あなたと同い年らしいじゃないですか?」

「は…はぁ…」


そう…私はこんな所に何をしに来たんだろう…。


「栖小埜さん…栖小埜さんは何か大切な事を忘れた事がありますか?」

「へ…?……まぁ結構ありますよ?それがどうかしました?」


彼は不思議そうな顔で私の言葉に返答する。


「私…大切な友達を忘れてしまったんです…その子の顔も…名前も……しかもずっとです。

……酷い人間ですよね…大切なのに…こういう時…どうしたらいいんでしょうね…

謝ろうと思ってもその子が何処にいるか分からない---…」


本当に何を言ってるんだ…私は…。

彼は黙って私の言う事を聞いていたが、じっと私の眼を見て、口を開いた。


「……あなたが後悔してその友達は喜ぶんですかね?」

「えっ…?」


何それ……!そんなの…!


「本当に心からの友達だったら、寧さんが十分悔やんでた事を、分かってくれる筈…だと思います。

だって、いかにも後悔してましたって顔してますもん。分からない訳ないですよ。

それとも寧さんの友達は、人が苦しんでいて、それに追い討ちをかけるような奴なんですか…?」


そんな訳ない…!だってあの子はいつも明るくて友達思いの----!


「ちっ違いますっ!!あの子は…!本当に…!本当に…!」


上手く言い返せない…。

‘彼女‘が侮辱された気がして、私は感情が高ぶっているのだ。

あの子…!「  」は…!


「ほら、もう答えは出てます。その、大切な友達を悲しませるような事はしないでください。

……それに、寧さんがそんなに必死に否定するぐらいの奴なんだから、笑って許してくれますよ!…多分!」


彼は、笑え切れてない照れ臭そうな笑顔を作った。


「またいつか遭えた時に笑顔じゃないと…その友達、がっかりしますよ?」

「…あなたには…後悔は無いんですか…?忘れてしまって悔やむ事も…?」


私がそう言うと、彼は笑顔から不思議そうな表情に変化した。


「そうですね…数え切れないくらいありますよ。現に今でも思い出せない事もあるし---

…でも、昔を思い出すより、振り返らないで走り続ける方が俺には合ってる。

----そんな気がするんです」


私は何も言えなかった。

この人は、どうしてここまで割り切れる?。

私は---…

この人みたいに前に進めない…。


「そうだ。ちょっと聞きたいんですけど…?いいですか?」


切り替えるように彼は話題を変えた。


「……はい…何でしょうか…?」


殆ど上の空といった状態で、私は答えた。


「いや---…少し、あなたと双子の---」


双子…双子…?誰の事を言ってるの?

急に頭が冴えてくる。

私は---私は何かを---

私は何か思い出そうとしている…?


「寧!勝手に居なくなって…!心配させないでよ!」


突如、母の声が割って入った。

こっちを、かなり怖い顔で睨んでいる。

咄嗟に、身構える。

だが母は、彼と私を交互に見てコロコロと笑い声を立てた。

…怒るんじゃ…?怒ってない?


「……栖小埜さん……あ~なるほどねぇ…そういう事なのね…あらあら、お邪魔だったかしら、ほほほ。

お食事の準備は出来てますので、ごゆっくり~」


勝手に何か納得している。

私もよく理解が出来ないのだが…

彼の方を見ると彼も首をかしげていた。


「…なんですかね?」

「さぁ…?あ、じゃあ俺行きますね!寧さんは?」


食事の事を言っているんだと思う。

でも、多分今は食事が喉を通る気分ではない。

もう少し寝よう…それがいい…。


「私は後で…それよりさっきの…?」

「ん…やっぱりいいです。本人に聞いた方が早いと思いますし」


本人?誰の事?


「それじゃ!」

「あ…はい…」


行ってしまった。

戻らないと…。

体の調子は起きた時より楽にはなっているが、頭の中は余計にごちゃごちゃになった。

もうすぐ、寝ていた部屋だ。時間が早く流れている気がする。

元の部屋という目指す場所があるだけに、早く着いたのだろうか。

開きっぱなしの襖から部屋に入り、倒れるように布団に横になった。

眠い。寝よう。


---遊ぼ?寧


懐かしい声がする。

私はそれに応じる。

ああ…うん……


「そうだね…」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ふぅ~山菜料理、美味しかったな!ガラ」


--ふき、が中々美味だったな。---にしても…君は案外まともな味覚を持っているのだね--


「何が美味しいかぐらい分かるっつーの!」


葎は名物の温泉に浸かった後、夕飯を頂き、腹ごなしに外に出ていた。

これでは完全に観光か何かに来たのと何ら変わりが無い。

温泉はゆっくりと入れなかった。

そんな気分になれる訳が無い。当たり前だ。

空鉦さんは、真さんからお許しが出るまで、夕飯は抜きらしい…。

ううむ…修行だ…耐えてください…。

それにしても---…


「んな事より……誰も知らないってどういう事だ…?」


--………聞けばいい--


「聞けばいいって…何処---」


--あそこだ--


俄面の館からここまでは、緩やかな道が伸びている。

その途中の小高い丘に彼女はいた。

そこだけ妙に起伏が激しくなっているので直ぐその姿は分かった。

草が生い茂る中を葎は歩いていく。

そして、声をかけた。


「……どうも…舞さん。探しましたよ」


声を聞いて舞は葎の方を見た。

寧と寸分違わぬ姿が星の明かりによって晒されている。

灯が乏しい場所にも関わらず、ハッキリと彼女は視認できる。

彼女自身が星を纏っている気がする、そんな幻想的な光景だった。


「あぁ…あなたか……星…綺麗でしょ?」


眼を空に向けつつ、舞は返事をした。


「……こりゃあ、凄い」


星で彩られている夜空は、彼女の言う通り綺麗だった。

こんな光景、プラネタリウムとか、学校の教科書とかでしか見た事が無い。

星達はそれぞれ人のように、個性的な輝きを放っている。


「こんな田舎じゃないと、こんなに見えないからね!」

「ああ…」

「『ああ』って何よ!気の無い返事!もっと感動したーだの、何だの、あるでしょうに!」

「えぇ!?俺にそんなの求めないでくださいよ!?」

「それに敬語はむず痒いから、タメ語!」

「へぇへぇ…分かりましたよ…」


勝手だなぁ…この人…。

いきなりまくし立てて来た舞に、葎は半ば呆れてしまう。


「ここ横、来て。あたしが教えてあげる」


ほら、と舞は指で宙をなぞる。


「あれがね---さそり座…であれは蛇使い----……」


次々に彼女は星と星を指で繋いでいく。聞き慣れない、星座もあった。

星を見ていると、葎は自分の実家を思い出す。

そういえば、小さい頃はよく見ていたかも---

勿論その時の自分は星座など、考えずに綺麗であると、ただ眺めていた。

それだけでも暇は潰せたものだ。


「星座…詳しいんだね」


葎がそう言うと、舞は寂しそうな表情になった。

そして、彼女は小さな声で友達が、と呟いた。


「友達?」

「友達。…あたしよく友達とこうして、星を見てたんだ…」

「それはいいね」

「うん…。でもその子とはもう遊ばなくなっちゃった…」

「どうして…?」

「違う友達が、その子に出来て―――あたし…忘れられちゃった…」


夜に映える、舞の眼は潤んでいるようにも見える。

悲しいのか。

悲しいのだろう。

寧の話を不意に思い出した。

…もしかして…

葎の頭の中で何かが噛み合った。

ああ…!なるほど…そうかもしれない…!

だったら尚更、俺は彼女に聞かなきゃいけない…。


「舞さん……質問がある…」

「…いいよ…何でも聞いて」

「………………………あんた誰だ?」


風が止まった。


「『花境』の人や女将さんは勿論、真さんにも確認してもらった…

だけど、橋間舞なんて人間はこの村のどこにもいなかった…!」

「………………………………………」

「そもそも、橋間寧さんは一人っ子だ----」


彼女は無言のまま、葎の方を少しも見ようとしない。

潤んだ瞳で夜空を見上げてるのみだ。


「もう一度聞く…あんたは誰だ…!」








あれぇ…?これ真がメインだったはずだけど…

まぁ、彼の話は別作品で書くつもりなんで、いいよね?

感想、お待ちしてます!

ちなみにこの作品にロマンス成分はおそらく皆無です…

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