友達?
え~とですね…最初に違和感を感じても大丈夫!
いつものduplicesです!
三話目の導入部ですね!今回は!
「南屋さん…!止めるんだ…」
栖小埜葎の額を汗が濡らす、心無しか顔も赤い。
そんな彼の耳元で南屋灯が囁く。
「何を言っているんです…まだまだこれからですよ…」
「俺にも心の準備が…」
「準備なんて…必要無いですよ…ただ…流れに身を任せるだけでいいんです…」
良く見れば、灯の顔もほんのり赤い。
彼女は口元に微笑を浮かべ、抵抗するように首を背ける葎の耳元まで、自分の顔を近づけた。
「も…もう止めるんだ…十分だろう…!」
ますます、葎は表情を歪め、彼のその様子を見て、灯は更に笑みを強める。
「そんな事言って……栖小埜さんだって楽しんでるじゃないですか…?」
「そんな事は……っく…!」
最後まで----
そして----灯は葎の耳に呟いた。
「----すると……赤い服の女が『お前も道連れだーーーーー!!』って……!!」
「うわぁぁぁぁぁあああ!!!タンマ!タンマ!南屋さんっっ!!」
絶叫しながら葎は耳を押さえる。
通行人の何人かは何があったのか、と振り返った。
「も~怖がり過ぎでっすよー!栖小埜さんはー!」
「その怖がり方は無ぇよな~。なっ?藍子----?」
一緒に歩いている、風早燐太が同じく共に歩く、柳葉藍子に同意を求めた。
「…お前、何やってんの?」
「な…何っがっ!?」
同意を求められていた彼女は、ガッチリと掌で自分の耳を押さえていた。
ついでに声も少し震えている。
「…だからさ、何で耳押さえてんの?まさかお前も怖----」
「ちっ…違うわよっ!
これはっ…耳を塞ぐ事によって、外から聞こえる雑念を捨て去り、無の境地を…」
青ざめながら否定する彼女の言葉は全く説得力が無い。
「ほー、…で?何で無の境地を目指してんのかなー…藍子さんよ?」
「しゅ!修行よ!修行!」
「修行……ね…。じゃあ!耳塞がなくても雑念捨てきれるようにしなきゃなぁ!!」
「や…やめっ!」
燐太は素早く、耳を押さえている藍子の両手を無理矢理剥ぎ取り、灯に合図を出す。
「よっしゃー!取った!よし、行け、南屋軍曹っ!こいつに今の怪談のオチを、ぶちかませっ!」
それを聞いて、彼女は待ってましたと言わんばかりに返事をする。
「アイアイサ~!……………それで、ですね…赤い服の女が……っ!!」
「灯ちゃん!?落ち着いて!?」
「『お前も道連れだぁぁぁあああああ!!』」
「きゃぁあああああああああぁぁ!!!!」
そして、二度目の絶叫が、石動駅表通りに響いた。
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「怖い話しても全然涼しくなりませんねぇ~」
「そりゃーそーだろー怪談で涼しくなりゃ苦労しねーよ」
手をパタパタと扇ぎながら喋る灯に、燐太が応えた。
そんな二人の後ろには、真っ白になっている葎と藍子がふらふらと付いて来ている。
両人とも顔が真っ青である。
「栖小埜さんと藍子ちゃんは、結構、涼しそーでっすね~?」
「…違う意味でな。それにしても……
いくらなんでも効きすぎだろっ!藍子はまぁ…ともかく、葎は俺達より年上じゃん!?」
「何歳になってもよぉ…怖い物は怖いんだよ…風早…」
だんまりを決め込んでいた葎がようやく口を開いた。
「その割、結構しっかり聞いていたよな?アンタ…」
「こういう話って分かっていても聞きたくなるだろ……それが人間ってもんだ」
葎は話の内容を思い出したのか、体をブルッと震わせる。
そんな彼を見て、燐太は怖いなら藍子みたいに聞かなきゃいいのに…と思う。
しかし、嫌がる彼女に、半ば強引に怪談の顛末を聞かせたのは燐太なのだが----
「にしても、ホント…あっちーなぁ…まだ六月だぜ?」
照りつける太陽に燐太は手をかざし、日光をさえぎる、彼の指は日光によりいとも簡単に透けた。
それだけ今日は暑かった。まだ梅雨だというのにこの暑さだ、七月や八月になったらどれだけ気温が上がるのかと考えただけで嫌になる。
「なー?藍子?」
「…………………死ね…馬鹿」
藍子は目は虚ろながらも、怒りの篭もった言葉を返す。
「もう、いい加減、機嫌直せって~」
「うっさい……死ね」
このまま機嫌の悪いままで居られたら、堪ったものではない。
彼はどうすればいいか考える。
「分かったよ…何か一つお願い聞いてやるから、それで許せ!なっ!?」
「………本当?」
燐太がそう言った瞬間、藍子の顔がパァ、と明るくなった。
おっ?いい反応!どーせ、そこまで無茶なのは頼まないだろ。
彼はタカを括っていた、だが彼女は----
「じゃあこの前の玉子焼き食べて」
は………………………い?
燐太の表情は一瞬で凍りついた。
思い返されるフラッシュバック。
初めて弁当箱に入っていた時から、その異様さには気付いていた。
しかし、他のおかずがまともであったのと、せっかく作って貰った物を無碍にする事は彼には出来ず、ためらいながらも口に運び---そして----吐き出した。
何と言うのだろう?
上手い表現が見つからない、そう、あれは----砂糖を袋ごと口にぶち込んだ様----
ただ、甘いだけなら理解が及んだのだが、口に入ると何故か頭痛が起きたのだ。
そして、彼が吐き出した卵焼きの一部には、何処から沸いたのかも知れぬ、虫の軍勢が群がっていた。
「アレ」は人の口に入れていいものではない、断じて駄目だ。っていうか危険。
追いかけられて食わされた時には、見知らぬ川で自分の服を剥ぎ取ろうとする謎の老婆と格闘した。もう、あんな体験は二度としたくない。
玉子焼きというか、最早あの物体は兵器なのだ。
嗚呼…さっきまでの暑さはどこへやら…汗は汗でも冷や汗が出てくる。
彼は決意した。何としてでもアレを食べる事態だけは阻止せねば…!!…と。
「あっ藍子?ほら~お前さっ?前に51のアイス全種類食べたいとか言ってな----」
「食べて?」
何が彼女をかき立てるのだろう?
----おい!葎!南屋っッ!助けてっ!
---女の子の好意は素直に受けるべきでっすよ!風早君!そーゆー訳でファイト!!
---こちら栖小埜葎…通信障害が発生してるようです…通信障害が改善されてからどうぞ…プッっ…
燐太は葎や灯に視線を送るが、悉く《ことごと》無視された。
灯は親指をグッと立ててウインクしており、葎にいたっては、半笑いになって、今にも吹き出しそうだ。
どうやら彼等は自分を助ける気は微塵も無いらしい。
「いや、でも…せっかくの頼み聞くってんだから、もっと他の----」
「食え」
「はい……」
こうして燐太は藍子の玉子焼きを食べる事が決定したのである。
「良かったじゃないか、風早?」
「そうですよ~風早君も、せっかく足が治って、藍子ちゃんと仲直りしたんですから、それぐらいの頼みを聞いてあげても罰は当たらないんでっすよ~」
「人の気持ちも知らないでーーー!覚えてやがれよーー!」
燐太は憤慨したが、柳に風、暖簾に袖押しといった感じで、葎達はニヤニヤと笑っている。
「フ~ンフフ~ン♪」
藍子はといえば、泣きそうな表情で自分の頼みを承諾した途端、ご機嫌になり、鼻歌など歌い始めた。
「なぁなぁ……」
燐太は葎の腕を引っ張り、自分の方まで引き寄せた。
声のトーンを落としている。どうやら、前を歩く彼女等には聞かれたくない話の様だ。
「何だよ、風早…」
「アンタ……二重存在の事---南屋にはまだ言ってないんだろ?いいのかよ…?
あいつも………いるだろ?中に…」
「あぁ…それな…色々複雑な事情があるんだよ。
………それに彼女には、俺や真さんじゃなくて、ちゃ~んと別に説明する奴がいるからいいの」
「でもさ~…」
「お前こそ、足の事…よく学校での説明通ったな?」
「襲われた時にいかれてた神経が治ったっつったら、大丈夫だった!」
「そんなんでまかり通るのかよ」
少しばかり葎は呆れた顔をする。
「検査もしたけど、医者じゃ説明できないってんで、俺の言うのを、信用するしかなかったみてーだな」
「まぁ…出来ないよなぁ」
「俺だって、こいつの事は知ってるようで知らなかったし…説明しろっつーのが無理だろ」
燐太は自分の足をチラリと見た。
そう、彼の両足には二重存在が入っており、彼の足の運動を補助---というよりも、健全であった頃よりも頑強に、強靭に、強化しているのである。
「あの真って人から、藍子と一緒に説明された時は結構、驚いたぜ…
他の奴は意識が無くなったり、その…二重存在と性格が入れ替わったりするんだろ?」
「風早のは、稀なケースだからな」
「アンタもそーじゃん」
「……俺のは、性悪紳士野郎が取り付いているだけだ」
「仲いいくせにー」
「良くないッっ!---ちょ!…ガラ…勝手に…」
葎の瞳が涼しげなものに変わり、薄っすら笑みを浮かべた表情になる。
それは、明らかに葎の中身が入れ替わった証拠であった。
「そう、君の言う通りだ。私達は仲がとてもいいのだよ」
--良くないってッ!--
「照れるな」
--照れてねぇー!!--
「ではな!」
言うだけ言うと、ガラは引っ込み、先程までの葎のそれに戻った。
「あんのっ野郎っ!何しに出てきやがった!」
「こ…個性的だな」
いきなりガラが現れたので、燐太としては、面食らった感じになってしまう。
「個性的…?…君、人の事言えないだろ?」
葎は意地の悪い顔になって燐太を見た。
先日、藍子と共に天儀屋で二重存在やら姥季淡慈について説明を受けた時の事を言っているのだろう。
「だって、あれは、しょーがね~じゃんっ!!」
そう、あれは丁度真の説明が終わった時の出来事であった。
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「---以上で大体説明は終わったかな?質問は?」
真の言葉に椅子に座っている、燐太と藍子は頷く。
「俺は無いっすわ」
「私も無いです。何よりこいつの足が一番の証明ですから」
「そうか---ところで君の二重存在はどんな感じなんだい?」
真がそう言うと、燐太はどうしてだろうか、視線を逸らした。
彼の口の端がひくひくと動いている。
「いやーそれはー…止めときません?」
「ん?それはどうしてだ?」
真が訝しげに首を傾げる。
「あのですねー何と言うかー……………クッソ恥ずかしいとゆーかー…」
「いいじゃない、見せてよ。見たいですよね?栖小埜さん」
藍子が興味津々といった感じで言ってきた。
「うん、俺も見たい。この前から気になっていたし」
同席している葎も同意してくる。
「でも~…こいつ、俺と入れ替わった事無ぇし…それに…」
「それに?」
真は燐太に聞き返した。
「性格が…アレなんすよね…」
「何だ、それなら大丈夫だ、もし、暴れたりしても此処には葎君と俺がいる。心配しなくていい」
「……わっ!笑わないでくれよ?」
「…?ああ」
燐太がゆっくり目を閉じた。
そして、一寸してから再び開ける。
もう、その目の光は燐太の物とは異なっている。
「……………………へい!で、あっしを呼びやしたか?」
それは、まるで時代劇の泥棒役のような調子だった。
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「いやぁ、あれこそ、個性的…ッププッっ…ってもんだ」
「だから、あいつと代わるの嫌だったんだよ!…笑うな!」
燐太が赤面しながら葎を恨めしげに見る。
「あっははは!だってさ~、あれはちょっと我慢出来ないわ。
俺や柳葉さんだけじゃなく、真さんまで少し笑ってたしさ」
「我慢しろよ!」
「おまけに、名前聞いたら‘アシ‘って………それはないなーと思ったぞ。正直」
「いーじゃんよ。下手に格好付けた名前よりマシだぜ」
「それもそうだな。どっかの、大層な名前の変人よりは良いよ」
--名前負けしてるからな、私と違って--
いや、あんたの事です。
「南屋には、どんなのが憑いていんの?葎は知ってるんだろ?」
「そうだな……機嫌の悪い時の…ん~虎みたいな?」
「どんな奴だよッっ!」
「いやぁ…そうとしか…」
「俺、会いたくないかも…」
「い~や、君は絶対会う。俺が道ずれにする」
「…逃げるぞ?」
「追うよ」
「一人で行け!」
「やだよ、怖いもん」
「知るか!」
あっ…、と葎が何やら思い出したように声を出した。
「君達急がなくていいのかい?電車もう来てる時間じゃないの?」
葎の言葉に学生服の三人が一瞬ポカーンとした顔になり、その直後にそれは驚愕の表情に変わった。
三者三様に反応する。
「あぁぁぁぁあああああぁぁ!!忘れてたーーーーーーーーーーーーー!!」
「あ…そうだった」
「遅刻しちゃいますよーーーー!急ぎましょう!」
ばたばたと彼等は駆け出す。
「じゃーな!葎!」
「それじゃ、栖小埜さん」
「では、また~」
「うん、じゃあね」
歩道に一人残され、葎はふと考える。
よくよく考えてみれば、こっちに来て同い年の友人が一人も出来ていない。
あの子達は、自分を同学年の友人のように扱ってくれてるが、それは----
「同情じゃん?……」
--寂しい奴だな--
「うるさい…いじけるぞ…」
--まぁ、彼等はそんなに深く考えてないと思うがね--
「そうだといいんだけどな………おっと…俺も遅刻しちまう!」
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「お早うございま----ん?その人誰ですか?」
天儀屋の扉を開けると、真と共に、見知らぬ短髪の人物が立っていた。
その人物は、真とおそらく知り合いなのだろう。二人の間には何となく親しげな雰囲気が漂っている。
少なくとも客といった感じではない。
「おいおい、前に会っただろーが、あの穣ちゃんの時に」
「穣ちゃん?」
葎は眉をひそめ、自分の記憶を思い返す、どこかでこんな人に会った事があっただろうか?
穣ちゃん?穣ちゃん……あっ!もしかして!
「あの夜、南屋さんを運んでくれた人ですか!?」
「おーそうそう!それそれ!」
短髪の男はニカッと笑う。
ああ確かに、あの時の人だ。髪が伸びていたんで、全く気付かなかった…
あの時は短いってよりも、ほぼ坊主だったしな…
「お早う、葎君。いきなり変なのが居て困っただろう、悪かったな。
こちらは----空鉦住職だ。俺の昔なじみだよ」
短髪の人物の代わりに、真が自己紹介をした。
「んだよ!急に他人行儀じゃねぇか。
えっと……栖小埜葎だっけっか。JRPCに入ったんだって?」
「ええ…まあ」
「じゃー!これから同じ仲間だな!これから宜しくな!」
「あ………はい」
南屋さんや、風早に負けず劣らずの、明るい人だなぁ…
そういった空鉦の空気に気圧されてしまい、葎は曖昧な返事しか出来なかった。
「それで、こいつも来るんだろ?」
何の話だろうか?ここ最近、どこかに行って来て欲しいと、言われた覚えはない。
「……それなんですが、まだ、葎君には言ってないんです」
真はそう言うとレジの机に目を落とした。
「はぁーー?ま~だ言ってないってどういう事だよ」
呆れたように空鉦が言う。
暫しの沈黙の後、真は重苦しく口を開き始めた。
「しかし、これは自分の先祖の問題です…彼を巻き込んでいいものか…」
「先祖っていっても、気が遠くなるほど前だろうが」
「そうですが……」
「全く……まだ昔の悪い癖が抜けてないなぁ…お前」
「あの~」
話についていけず、葎がようやくか細い声で、口を挟んだ。
「一体何の話でしょうか…?」
「おお!そーだ!だったら、こいつはどうだ?こいつは真、お前の友人として付いて行くってぇ事で!」
「ええ!?な…何がです!?」
「止めて下さい。葎君も迷惑してるでしょう…」
「そんな事ぁないよな!?お前だって真の友達だもんな?」
「は…はい?」
何が何だか分からない葎に空鉦が詰め寄る。
「そうだよな?」
「あ…え…?はい?」
「ほら!そうだってよ!じゃあ決定だな!」
葎は再び圧倒され、訳も分からないまま返事らしきものをしてしまった。
「これは強引過ぎ----」
「うだうだ言うな、真!決定、決定!」
「----……分かりました…でも本当に彼が来てくれるかは俺が聞きます…」
そして、真は真剣な面持ちで葎に問うた。
「葎君…俺達と一緒に来てくれないだろうか…!」
「えっと…よく分かんないんですが………とりあえず-----はい…?」
「いいのかい!?」
「あぁ…はい。真さんが困ってるんだったら…俺に出来る範囲で手伝いますよ……と…友達としてっ!」
--どさくさに紛れて友達か…君らしい--
ガラが嫌味のように呟いた。
「いいだろっ!別に!………とにかく行きますよ…真さん!」
こうして、葎はどこかも分からない場所に行く事が、決定したのである。
三話は真が中心になると思います。
さー、次投下出来るのは何日後だ…
…頑張りますよ?多分…




