スプリンター
なっ…何とかやり終えたです…
加筆と修正は後で頑張るっす…
もう俺のライフポイントはゼロよ…
----やられる前に…………やる…!
燐太は淡慈の鳩尾に右足で膝蹴りを放った。
二重存在で強化された足だ、それだけで十分な武器となる。
上手くやれば、しばらくは動けないだろう。
しかも自分の足は二重存在の力をその二本に凝縮している、いくら自分と同じ二重存在を持ちえど、威力は自分の方が上----!
「……っな…!?」
しかし、燐太の膝は淡慈の体まで届かず、直前で淡慈の右腕によって脇に抱え込まれるように受け止められた。
やべぇ…!これじゃ身動き取れねえじゃん…!
危険だと判断した彼はすぐさま反対の左足で淡慈の頬をなぎ払った。
燐太の足を挟んでいた腕からは力が抜け、淡慈の体は左方へ吹き飛ぶ。
その衝撃からか、淡慈の足元にあった鞄の中身がこぼれ落ちる。
「……!………うっ……」
「おい…おい…ありゃ…冗談…だ…ろ…」
街灯によって露になったそれを見て藍子は嗚咽を漏らし、燐太は息を呑んだ。
パーツだ---パーツが落ちている。
眼、鼻、唇、耳、髪、手--そして血、血、血----…
自分達の良く見知っている人体の部位が無造作に地面に落ちている。
最近のものなのだろう、それらに蛆などの虫は一つも湧いていないように見える。
一見、作り物のように感じられるが、生気の無い肌色に所々にこびり付いている血液がやけに生々しい。
「…彼女らが…あぁ…なんてことしてくれるの?」
淡慈は幽鬼の如く、ゆらりと立ち上がった。
馬鹿なっ…!あれでまだ立ち上がるか…!?
「…てっ…てめえええええーーー!!」
こいつは----こいつは完全にとち狂ってやがる……!!
彼女ら!?一体、何人殺しやがった…!?
「藍子!ここから早く逃げろっっ!!」
「----でもっ…!」
「早くしろ!!」
燐太は立ち上がった淡慈に突っ込んで行く。
恐怖と同時にやりきれない怒りが自分の内に込み上げてくる。
「くそったれがァァああああああああーーーー!!!」
絶対に藍子だけはやらせてなるものか!!
反撃なんてさせない!
瞬時に顎を蹴り上げ、足を払い、肩に一発見舞う。
そして右の足で踵の方から左肘を思いっきり薙いだ。
曲がる方向と逆に蹴ったのだ、折れてい----
「!!?」
腕は確かに関節とは逆方向に曲がっていた。
当然だ。別段おかしくもない----その曲がった腕が燐太にしっかりと絡み付いている以外は。
「うおッ……!」
足を絡め取られ燐太はバランスを崩す。
体勢を崩した彼に淡慈の折れたはずの淡慈の腕がきっちり巻きついている。
「うふふふふふふふふふ……つかま~えた…」
不気味な笑みを浮かべながら、淡慈が呟く。
淡慈の腕はギリギリと燐太の足を締め上げていた。
「蛇かよ…!てめーは…!」
焦り顔の燐太を、淡慈はひどく嬉しそうに眺めている。
「でも----あなたは後」
急に彼の足を絡め取っていた腕を外し、大きく一歩踏み込んでから、空いている左方の肘を燐太の頭に振り下ろした。
咄嗟にかわそうと頭を引くが、完全には避けきれず、肘は燐太の額を掠める。
「ぐ…あっ…!」
金槌で殴られたかのような鈍い痛みが燐太を襲う。
目の奥に火花が飛び、膝から崩れ落ちてしまう。
ちょっと額を掠っただけなのに……っ!
彼は何とか立ち上がろうとするが、立ち上がれない。
体が拒否する。それほど、その一撃は生身である燐太には致命的だったのだ。
「燐太ぁっっ!!」
意識が朦朧としている燐太に藍子の絶叫とも悲鳴ともつかぬ声が響く。
逃げろっつっただろうが…!
逃げられる訳が無い、彼女には燐太を一人残して置いていく事など出来なかった。
淡慈はゆっくりと折れた鋸の刃を拾い、その場から動けないでいる藍子に近づいていく。
「----こっ…来ないで…」
「大丈夫よ、生きたまま足を切ったりなんてしないから---だから」
----安心して足をちょうだい
笑顔を崩さないで、そう淡慈は言う。
「…嫌…!嫌!!」
「うふふふふふふふふふ!!」
狂気じみた声が暗夜に木霊する。
そして-----
「やれやれ…こんな夜中に少女を刃物片手に襲うなんて……どんな神経をしているんだい?」
誰だ?突然の声に手が止まる。
気が付けば、淡慈の後方の電柱の一つに一人の青年が寄りかかっていた。
淡慈は自分の楽しみに割り込んで来た、この無粋な青年に腹を立てた。
邪魔をするなら----こいつも殺してしまおう。
手の中の凶器を握り直す。
「……無…い?」
先程まで自分が握っていた刃が無い。
いや…確かに自分は直前までちゃんと持っていたはずだ…これは----どういう事だ?
「………これを探しているのかね?」
青年は二本の指に淡慈が持っていたはずの鋸の刃を挟み、ひらひらと揺らしていた。
「あぁ、すまない。危ないので回収させてもらった」
何時の間に…!
いや…自分が気付かないはずが無い…
まさかこいつも…………自分と同じ二重存在…!
「あらぁ…手癖が悪いのね…?ところで貴方は…だぁれ?」
「私はガラ。なぁに、ただの紳士さ」
--かっこつけてる場合か!ガラ!--
「名乗らないのは失礼だと思うのだが---なぁ葎?」
--アホか!……--
殺伐とした雰囲気を無視するかのように青年は飄々としている。
そんな彼を淡慈は睨みつけた。
「----で?その紳士様が何をしに来たの?」
「大した事では無いよ、そこの勇気ある少年にちょっと助太刀をね」
ガラは膝をついている燐太を指差した。
「あっ…あんた達…来てくれたのか…」
燐太の眼は視点が上手く定まらないながらも、葎の姿を確認する。
彼の方をひしと見据え、ガラは微笑んだ。
「燐太だったね?……君は良くやった、及第点だ。」
その一言で燐太の緊張の糸が切れ、ドサリと水溜りの中に倒れこむ。
燐太は冷たい水の中で、最早聞こえてるかも定かではない、か細い声を発した。
「……後は…………ぜ…?」
俺の言葉届いたかな…?
意識が薄れゆく。
「……………………………」
ブンッ!……メキメキメキ…………ドスン…
さっきまでガラが寄りかかっていた電柱が倒れ、地面が揺れる。
淡慈が拳で殴りつけ、へし折ったのである。
しかしガラは既に数メートル先へ飛び退いていた。
「……まったく…少しは待ってくれてもいいじゃないか」
「無視されるの慣れてないのよ」
感情のこもっていない声で淡慈が言う。
その声色は燐太の時とは違い、完全に葎とガラを敵と見なしていた。
「あっ………………あのっ!!」
突然現れた得体のしれない人物に藍子はしびれを切らし、おそる、おそる問いかける。
「あの…!あなたは---」
助けてくれた所を見ると悪い人でないのは分かる…
燐太も知っている様だし…しかし…何者だ?
「ん?だから私は紳士----」
--………多分そういう事じゃないと思うぞ…?--
葎は藍子のニュアンスから、彼女の聞きたい事を察した。
「ふむ…ああ…なるほど!……そうだな…何と言うか---
うん!彼の友達!そう!彼の友達だ!私達は!」
「友…達…?」
ちょっと---いや…凄く怪しいのだが…
果たして信じていいものか藍子は判断に迷う。
何故なら淡慈とこのガラと名乗る男は似たような雰囲気を発しているのだから。
「……私達って…一人しか…」
「あー…その辺は追々…って事で」
とりあえずは----とガラは言葉を繋ぐ。
「こちらをどうにかしなければ…ね」
「だから無視しないでってば」
黒い空間から現れた、生白い手が葎の顔を掴もうとする。
会話をしてる間にも淡慈はガラの近くまで忍び寄り手を伸ばしていたのだ。
ガラは上体を逸らし、それを軽々と避けた。彼にとって、この程度は大して問題ではない。
「……行くぞ相棒…!」
彼は小さく呟いた。
--俺は相棒じゃねぇ!でも…こいつは許せない…!やるぞ…!ガラ!!--
「分かっているなら、細かい事はッっと……無し!」
体勢を戻しつつ、淡慈の背後を取る。
そのまま淡慈の首筋に手刀を叩き込もうとするが、とたんに淡慈の首がぐるんと後ろを向く。
人体の可動範囲を超えた動きに一寸動きが止まってしまった。
それを淡慈は見逃さず、ブリッジのように反り返ると、頭からアスファルトへと噛み付いた。
再び直前で避けたが、砕かれた地面を見れば、それをまともに当たってしまったらどうなるかは容易に想像が出来る。
「驚いた…これでは蛇だな」
「さっきも言われたわよ?それ」
「間違ってはいないだろう?」
--ホント…不気味…こいつ化物みたいだな…--
葎はげんなりするかのように言う。
「ふふっ……そうだな---じゃあその化物を退治しようか」
そう言った瞬間には、ガラは淡慈の懐へと入っていた。
淡慈は反応が遅れ、不意をつかれた形になってしまう。
「な……!」
「ほら、喋っていると舌を噛む」
ガラは淡慈の足を地面を撫でるかの如く払うと、足元を崩し、よろける淡慈の顎を突き上げる。
続けて彼は、先程と同じ所に二、三発追い討ちのように左右の拳で連打した。
「…がッ!」
あまりの威力に葎の身長を超えた高さまで淡路は浮き上がる。
「空中じゃあ身動きはとれないだろう」
ガラはそう淡慈に向かって言うと、足の裏を淡慈目がけ、高く衝き上げた。
「ごばッ…!!」
掠れた声が雨にかき消される。
葎の足は、いや----この場合はガラの足は淡慈の腹に深く突き刺ささり、淡慈は力無くずるりとガラの足から落下した。
--アリカの時もそうだけど…お前…女の人だろうが、容赦無いのな……--
「…何を勘違いしてるか知らないが----彼の体は男だぞ?」
--そうそう、男……………はぁ!?--
葎は地を向くように倒れている淡慈を見る。
どう見ても女----
戸惑う彼にだから、男だ、とガラが事も無さげに言う。
何が「だから」なのだろう?葎には理解し難い。
「ついこの前に言ったじゃないか…ようはイメージだと。
彼は女性を強く自分にイメージする事であたかも女性のように見せていたんだよ----」
ほら、とガラは淡慈の髪を引っ張る。
--何を----!?--
すると、淡慈の髪はいとも簡単に取れてしまった。
その髪の塊をぽいっと投げ捨て、彼は葎との会話を続ける。
「第一、体の線が女性のそれと違うだろう」
--よくそんなの分かるよな…--
こいつ、本当に俺から生まれたのかよ…………なんだかなぁ…
葎は自分の二重存在ながら、呆れてしまう。
「紳士の嗜みだ。スリーサイズも分かるぞ?」
--嗜まなくていいよ…--
「ちなみに、そこの彼女は----」
藍子をちらりと見る。
「上から87、60、82だ」
--何で分かるんだよ!…おい!彼女困ってるじゃねーか!--
サイズが合っていたのか、藍子はほんの少し赤くなっている。
この変態紳士やだ……葎は嘆く。
「………あいつそんなあったんだ…」
--……?--
「どうかしたかね?」
--風早君が---ううん…んな訳無いか…--
今、風早君がちょっと反応したような…
「…きゃあっ!!」
不意に、藍子の悲鳴が聞こえる。
「好き勝手言ってくれるじゃない?」
先程までそこにいた淡慈が居ない。
淡慈は藍子の首を腕でガッチリと捕まえていた。
くそっ…!油断したっ…!
「貴方…男って言ったけど、二重人格としての私は女よ…
女っぽく体を見せていたのは事実だけれど----」
「…そんな事、聞いていないのだがね…それより彼女を放してくれるかな」
「嫌よ」
「即答か……ところで聞いてもいいか……
君は何故こんな事をする?人の一部を集めるのが趣味とでも?」
ん----と口に人差し指を当てながら、淡慈が言う。
「半分合ってて半分違うわね。これは私達の趣味よ」
「私達?それは、君の元の人格という事かい」
「そうよ………ねぇ?」
淡慈の目付きが変わる。
おそらく元の人格になったのだろう。
「ああ、そうともさ。俺達の趣味---素敵だろう?」
雰囲気ばかりか、口調まで男のようになる。
それら一連の会話は、葎達には一人芝居みたいに見える。
「…いやいや、全く。…女装しながら、人殺しとは良い趣味だな…」
ガラは皮肉気に言うが、彼らは先時と同じ不気味な笑みを満面に浮かべるのみである。
「うふふふ…貴方今…そんな皮肉言える立場なの?
……………………貴方の元の人格を出しなさい。さっきのお返しをしてあげるわ」
「何を---」
「あらぁ…いいの?この子死んじゃうわよ?」
淡慈は腕に少しづつ力を入れていく。
藍子の顔面が湯上りのように赤に染められていき、それと同時に白い首筋に血管が浮き出る。
「あ…ぐ……」
「ほら、早くしないと…」
藍子が苦しそうにもがく。
「下衆め…」
--……ガラ、いい…代わってくれ--
「しかし…!」
--相棒なら信じろよ、俺を--
「葎…………分かった」
葎とガラの意識が入れ替わる。
「……やれよ気が済むまで」
「うふふふ…じゃあ遠慮なく---」
歪な笑顔で淡慈は葎の脇腹を殴りつける。
「ぐっ…!」
「大丈夫よ…じっくりやらせて貰うから」
葎の顔に手を伸ばし爪を立てた。
血が頬を流れていく。
続けて、痛みを堪える彼の膝を蹴った。
「っつ---!」
あまりの痛みに頭が真っ白になる。
こいつ…わざと手加減してやがる…!
そのお陰か、何とか葎の膝は折れずに持ちこたえられている。
しかし膝は葎を支えきれず、地に着いた。骨に衝撃が響く。
「顔もやってくれたわね」
頬を蹴り飛ばされ、完全に硬い地面に倒れてしまう。
肌が擦り切れて血が滲む。
「ぐ…あ」
「…まだよ?」
うつ伏せにになっている葎を淡慈は足で弄る。
蹴られ、踏まれ、彼は傷だらけになるが、致命傷には至らない。正確には淡慈が至らせないのだ。
葎は、正に生殺しのようにされていた。
そして、暫くそれをやり続けると、満足気に微笑んだ。
「どう?もうすぐ楽にしてあげるわ---」
「止めてぇえーーーー!!」
藍子が叫ぶが淡慈はそれを完全に無視する。
最後は頭でも踏み潰してやろうか----
それは淡慈が足を頭部の上に動かした時であった。
「……………なぁ…あんた達…殺された人達の気持ち考えた事…あるか?」
虫の息の葎が突然口を開いた。
「なぁに?可愛そうとでも言いたいの?……生憎、そんな事、考えもしないわ」
同情でも誘おうとでも?そんなのに私達が乗る訳、有りはしない…
戯言は聞かない、殺してしまおう、そして、次はあの子達を----
「…いや?そうじゃないぜ……
…俺が言いたいのは、あんた達に殺された人はどんなにあんた達を----」
殺したいのかなって。
「何を----言ってる…の?」
ざわざわと淡慈のうなじの毛が逆立つ。
気持ちが悪い。
こんなにも雨は冷たかっただろうか?
「だって……………殺されたなら…殺したくなるだろ?殺した奴を……
…今でも探してるんじゃないか?あんたらを」
何が---何を言いたい、こいつ…!
「そ…そんな訳無いわよ……だって…だって…!あの子達は死んだもの…!殺せる訳ないじゃない…だって私は二重存在…悪霊になったとしても…怖くなんて---…」
そんな事ある訳無い…殺した人間が、殺した人間を探しに来るなんて…!
でも…!でも…!たとえ霊になっても私達なら…
だからそんなのは…
藍子は、急に動揺し始めた淡慈を怯えた目で見ている。
「じゃあ----」
淡慈の背後を指差す。
絶対…!絶対嘘だ…!馬鹿げている…!
こいつは時間稼ぎをしたいだけなのだ…!耳を傾ける必要は----!
こっちを見ているその眼は何だ?
え----…?
眼が、一つの眼が見ていた。
あれは---昨日殺した女の眼----
「……!!」
嘘だ!嘘だ!嘘だ!こんなの…こんなのある訳ない…!!
幻覚---そう!幻覚に決まっている…!
それに霊体ならこんなにはっきりなど見える筈がないのだ…!
ぐちゃ…
何かを踏みつけてしまった…?
足元に目をやる。
「あ……あ…」
淡慈の足首を手が掴んでいた。
何で…何で…
手が私を掴んでいる?
誰だ?誰のだ?
嗚呼…これはあの時の女の…
「あ……う---うわぁぁああああああ!!」
急いでそれを踏み潰す。
幻想だ!まやかし…!こんなのありえない!あってはいけない!!
グチャ…グチャ…グチャ…グチャ…
靴に赤い肉片がへばり付く。
挽肉をこね回すかのような音が雨音に混じる。
無くなれ!無くなってくれ!お願いだから…!
霊なら消える。そう思い、必死で消そうとする。だが、踏み潰したそれの感触は生身のそれであった。
----…お前が…
声が聞こえた。
----お前が
「なっ…何…何なのよぉおおおおお!!」
----お前が殺したんだろう?
「なっ…な…そんな…」
そう、私が殺した。
----お前が私達を殺したんだろう?
「う---煩い…」
忘れていた。
----見ろ
見なくては。
「うるさい!」
----見ろ
私達が手にかけた彼女等を。
「うるさい!!うるさい!!」
淡慈は目を閉じ、狂ったように頭を振り乱す。
声が---止んだ。
ゆっくりと瞼を開け、周囲を見回す。
何も無い。
やはり…気のせいではないか
はったりだったのだ。全て。
地面に散らばっている自分が殺した女性達を見る。
ほら…やっぱり、動いてなど---
----見ろ
「うぁぁぁぁあああああああぁーーーーーーー!!!」
手が、眼が、髪が、鼻が、口が、動いている。
その肉片達はざわざわと集まったかと思うと、一つの顔のようになる。
まるで正月にやる福笑いの顔のように。
----お前が殺したんだ
その口は確かにそう言った。
「あああああああああああぁぁぁ!!消えろ!消えろ!消えろ!消えろ!!」
半狂乱になった淡慈は藍子から腕を離すと、のたうち回った。
いくら淡慈が暴れ、引き裂こうとそれは消えない。
聞こえないはずの声が頭に響く。
----お前が殺したんだ
「きッっ貴様らぁあああああああ!!私…俺…に何をしたぁあああ!!」
もはや、元の人格か、二重存在か分からない口調で淡慈が叫んだ。
それを、葎はぜいぜいと立ち上がりながら睨む。
「…何もしてねぇよ。何が見えてるか知らないけど………それはあんた達がやってきた事のつけだ…!」
--君は無茶し過ぎだ…--
ガラが葎に語りかける。
少し呆れているように聞こえる。
「でも…さ…お前の言う通りにやった……ぜ?イメージだろ?イメージ…」
息も絶え絶えに葎は笑う。
--私は、私達に対して強いとイメージを持てと言ったつもりなのだが……相手に使うかね…それ--
「いや、ほら、南屋さんが…今日、俺を怖がらせてきた…じゃん?
それで思いついたんだよ…それ…二重存在に使えんじゃないか…って…痛っ…!」
--はぁ……あのなぁ…効かなかったらどうするつもりだったんだい…?
それにその前に君が死んでしまっては意味が無いだろうが…--
「ま…結果…オーライって事で…」
むっ…私が前に言った事を…葎め…
--しかし、ここまで激しく動揺するとは思わなかったな…言葉で揺さぶりをかける…か。
君にしては良く考えたな--
淡慈が踏み潰した、もはや赤い肉塊と化している物を見る。
彼等に人生を奪われた者達の魂だろうか。叫び狂う淡慈の近くには大量の黒い影が舞い踊っている。
「『君にしては』は余計だ…!それよりほら…行くぞ…!」
怒りに満ちた目で淡慈はこちらを見ている。
「ふーーっふーーっ…!許さない…!お前ら…!」
葎は強い意思を秘めた瞳でもう一度淡慈を睨み返すと、彼等に向かって言った。
「覚悟しろよ…散々やられたんだ…今度はあんたらが殴られる番だ……っ!!」
そう言うと彼はガラと代わった。
「----という訳で……私も相棒が傷つけられてかなり腹が立っている……手加減など求めるなよ」
葎とは対照的に冷ややかに言い放つ、しかしその言葉には冷たい怒りが含められている。
「う・る・さいぃいいいいいいい!!」
心の均衡を失い、直情的に突進する淡慈の頭をガラの片手がすっぽりと包み込み、そのまま地面に押し付け引きずり始めた。地面と淡慈の顔がお互いに反発し合い、その強い衝撃から地面の欠片が周囲に撒き散る。
「あが…が…ががが!!」
「貴様の方がうるさい」
冷徹に言い放ちながら、ガラはがりがりと音を立てながら彼の頭部を引きずっていく。
「うがぁあああああああ!!」
淡慈は無茶苦茶に暴れ、何とかガラの手から抜け出したかと思うと、彼の腕にぐるりと巻きついた。
「ふむ…こういう気持ちの悪い動きが得意なのか----では----」
こうしよう。
ガラは淡慈が絡みついたままの腕を振り下ろし、地面に叩きつけた。
「ぐ…はぁ…」
彼は容赦なく叩きつけ続けると淡慈が動かなくなったのを確認してから動きを止めた。
--…お前ってやっぱりえげつないな……--
「そうか?そんなつもり---」
--ガラッっ!--
「うふふふふふふふーーー!!!」
遅かった。
気付いた時にはガラの喉元に淡慈の歯が食い込んでいた。
「こいつ……まだ…!」
すぐさま振り払う。
ガラの腕を避けながら淡慈は藍子のすぐそばに、にじり寄っていた。
「後悔しろぉっ!!うふふふふふふ!!」
その瞬間文字通り淡慈は車道に藍子を放り出していた。
「あっ……」
宙に放り出された藍子は一瞬何が起きたか分からなかったが、直ぐに何が起きたか理解した。
時の流れがゆっくりになり、彼女にはまるでコマ送りのように遅く感じられた。
時期に、車の群れに飲み込まれる。
そうか…死ぬのか私……悪くはない人生だったかもしれない。でも----唯一悔いがあるとしたら…
「くそっ…何て事をっ!」
間に合わない…!葎は焦る。既に彼女は落下しつつあるのだ。
落ちるまで、もう僅かしかない。ガラと自分では追いつくか分からない。
「…………俺が----やる」
ガラ達が横を見ると、水溜りの中に倒れていた風早燐太がクラウチングスタートのように地面にしゃがみ込んでいた。
「でも…おまっ……!!」
既に彼は走り出していた。
足の全ての筋がギシギシと軋む。
二重存在に頼っているはずなのに、まるで怪我をする前みたいに生身の自分の感覚を感じる。
----頼む…!間に合え…!
その願いに応えるかのように加速していく。
「……!!」
そうか……こいつも一緒に走ってくれてんだ……!わりぃ………ッ力貸してくれっ…!!
「間に合えぇぇぇぇぇええええええーーーーーーーー!!!!」
ブゥォォォオオオオオ…---
「燐…太?」
車の走り抜ける音がする。
燐太は藍子を抱きかかえるように反対側の歩道に着地していた。
彼は青ざめた顔で照れくさそうに笑う。
「……お前なぁ…藍子…!二回目だぞ……助けんの…!」
ああ、そうだ。あの時も彼はこうして笑っていた。
「ご----」
「ご?」
「ご…めんな……さい」
はい?
「ごめっ…んなさい…」
塞き止めていたものが流れ出るように、藍子は泣き始めた。
「えぇえ!?俺何かした!?……そりゃまぁ…助ける時に…変なとこ触っちまったかも…ゴニョゴニョ…………で…でもっ!それは不慮のなんたらかんたらで----!」
いきなり子供のように泣きじゃくり始めた彼女にどう接すればいいか燐太は分からず、あたふたとする。
「そっ……そうじゃ…なくっ…て……私のせいで…走れなく……」
「あーーーお前まだそんな事言ってたの?」
「…そんなことって……ぇ…」
藍子は涙でぐしゃぐしゃになった顔を燐太に向ける。
「アホか……確かにあの時走れなくなったは悔しかったけど、お前を助けたの自体は後悔なんかしてるはず無ェだろうが…!ってゆーかもう走れるし………だから…気にすんな!」
「…燐太……」
「ほら!……そんな顔じゃ帰れねぇぞ?
…………………おい、お前…さりげなく今、俺のジャージで鼻噛んだろ…」
「えっ…何の…ずびィーーー!話?」
「て・め・え・なぁーーー!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「何で…上手くいかないのよォおおおおお!!」
燐太達が無事、向こう側まで行ったのを見て淡慈は絶叫する。
「まだやるか?大人しく魂を砕かれろ…!」
「あっ…貴方なんかにィィ!俺達はやられないッっ……!!」
「まだ…何かやるつもりか…!」
うふふふふふふと一笑すると淡慈は車道とは反対の崖に剥き出しになっているガードレールから身を乗り出すと----飛び降りた。
その姿が暗闇に飲み込まれる。
ドサッ…
--あいつ…!逃げたのか…!--
「分からない……だが、彼は飛び降りる時に二重存在を出していなかった…」
--……!それじゃ…!--
「念の為…追いかけるか?」
--頼む…!あ……--
「どうした?」
--悪い…も…う…限界…--
「おい葎!しっかりしろ!葎!?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
ーーーーーー
胸が痛い…生身であそこから飛び降りたのは無理があったか…
おそらく肺は潰れているのだろう。息をするのが苦しい。
「げほッっ……」
血の混じった唾を吐く。
鮮血が月灯に照らされる。
水に溶かされた絵の具ようにそれが雨に流され、薄まっていく。
--私が一旦代わるわ…--
「………すまない…」
彼女と入れ替わる。
痛みが無い分楽になる。しかし---やはりどこからか見られている気がする。
怖い…怖い…怖くて堪らない…
「貴方は…」
彼女の足が止まった。
誰だ…………?
……………………何だ…こいつか。
「 」
「何か文句あるかしら?悪いけど消えてくれない?今とても不機嫌なのよ…!」
「 」
「ふざけているの?殺すわよ…!」
「 」
「----で?私達に何の用?」
「 」
「なっ…何を言ってるの?」
「 」
「ちょっと…何をするつも----」
いただきます。
「いッ……いやぁああああああああああああああああ」
ゴリッ……バリッ…バリッ…クチャ…クッチャクッチャクッチャクッチャクッチャ…クッチャ…
ごちそうさま。
書き終ってから気が付いたのですが、これ2分割にした方が良かったですね…




