22
デパートを出て、ファーストフード店でハンバーガーを食べた。そんな当たり前のことが当たり前にできなくて、でも今日の私は普通にできてる。なんだか不思議な気分だった。
「なんかこれって、デートみたいだな」
ハンバーガーを食べながら康太くんが笑う。そんなことを言われたら妙に照れて、康太くんの前でハンバーガーをかぶりつけなくなってしまう。
そしてちょっと弓香さんのことを思う。弓香さんに、申し訳ないなって思う。
「そろそろ出ようか?」
トレーを持って、康太くんが立ち上がる。
「うん……」
答えようと思って、体が止まった。心臓がどくんと鳴って、心が震える。
康太くんの向こうに――初音がいた。
初音は私が着ていた制服を着て、私の知らない友達と一緒にいた。
三人でテーブルを囲んで、携帯電話をいじりながら、楽しそうに笑っている。
私が、いた場所。そしてもう、戻れない場所。
あそこに座って、初音と笑っていたのは、私だったのに……。
「志乃ちゃん?」
呆然と突っ立ったまま動けない私に、康太くんがつぶやく。
その声に気づいたのか、初音が顔を上げて私を見た。
「志乃……」
初音の唇がかすかに動く。初音もものすごく驚いているみたいだ。
胸の鼓動が激しくなる。目をそらしたくなる気持ちをぐっと押し込め、私はただ初音を見つめる。
やがて初音が立ち上がり、ゆっくりと私の前に来た。
「元気……なの?」
初音が私を見ていた。初音の視界の中に、私がいる。
「うん」
小さいけれどはっきりと答えた。
「なら、いい」
初音はなんの感情もないような顔つきでそう言って、私にすっと背中を向ける。
「じゃ、また」
初音の声がかすかに聞こえた。
「もうそろそろ出ようよ」
「えー、もう?」
「カラオケ行くんでしょ?」
初音が私の知らない友達のもとへ戻って、テーブルの上を片づけている。
「ちょっと待ってよー、初音―」
「ほら、早くー、置いてくよー」
ばたばたと店を出て行く三人を、私は何も言わずに見送っていた。
「志乃ちゃん」
三人の姿が見えなくなったころ、康太くんの声がした。
「あの子ね……」
私は前を見つめたままつぶやく。
「すごく……大切な、友達なの」
「……うん」
小さく深呼吸をしてから、私は次の言葉を紡ぎ出す。
「今はまだ……うまく話せないけど……」
でもいつかまた……初音と話ができたらいい。
「大丈夫だよ」
康太くんの声に、私はゆっくりと顔を向ける。
「だってあの子言ったじゃん。『じゃ、また』ってさ」
私の目に、康太くんの笑顔が映る。
うん、そうだね。そうだよね。
次に初音と会ったとき、私はもっと変わっていたい。
康太くんと一緒に店を出た。
やさしい風が吹いて、私の肩にかかる髪がふわりと揺れる。
「今度は桜が咲いたころに、会おうよ」
「うん」
「『こむぎや』に迎えに行く」
人ごみの中で康太くんが笑う。それを見て私も笑った。
ビルの上に広がる空は青く、かすかに春の匂いがした。




