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第七話 過去の過ち


玄関の前に立った俺は、ふと今朝のことを思い出した。



ドアの向こうには、恐ろしい長女次女が待ちかまえているかもしれない可能性が頭をよぎる。



しかし、だ。いまさらネカフェのあるショッピングモールの方まで戻るのもめんどくさい。ということで、このまま帰宅することにした。



適当な言い訳を考えながらドアを開けると―――――誰もいなかった。



一階から物音が聞こえないので、どうやら三姉妹はいつものごとくそれぞれの部屋にこもっているらしい。



小さく安堵の息をはきつつ、自分の部屋に向かった。






☆☆☆☆






周りからあからさまに疎外されている感覚。手や肩が触れても、まるで空気を相手にしているように振る舞われる。



俺はこれが夢であることに気づくと、眉を寄せた。



また、この夢か。



今でもよく覚えている。小学4年生の秋。4時限目の終わり。



給食の前の時間ということもあり、浮つく生徒がちらほらいる普通のクラス。



そのクラスで、俺はイジメを受けていた。



原因はなんだっただろうか。



元々人と話すのが苦手だった俺は、半年前に父さんが研究のためにどこかの遺跡から持ち帰っていた謎のオーパーツの能力を使って人とあまり接触しないようにしていた。



小さなガラス玉のようなそれを始めて見た時は、確かに感動したのを覚えている。


だって、何百年も前の遺跡から、完全に球体で、尚且つパチンコ玉の半分くらいのサイズのガラス玉が見つかったのだから。



父さんの影響でそういうことにかなり興味のあった俺は、父さんにオーパーツを見せてとねだり続けてやっと見せてもらうことが出来た。



「すごい・・・・・」



こぼれたのは感嘆の一言。父さんはそんな俺を見て苦笑していた。



そしてある違和感に気づく。ガラス玉が、ゆっくりと浮き始めたのだ。



初めは何かの見間違いかと思ったが、唖然と口を開いている父さんの様子から察するに、どうやら見間違いではないらしい。



俺の顔の高さまで浮かび上がったガラス玉は、俺の左目をめ掛けて飛んできた。


左目に、激痛がはしった。それからどれくらい時間が経っただろう。



俺はベッドの上に寝かされていて、声も嗄れていた。



そして左目に違和感を感じるとともに、それが妙にしっくりときていた。



こうして俺は騎士になった。



起源の騎士<knight of origin>。全ての始まりにして、全てを終わらせる為の能力を俺は手に入れたのだ。



能力は゛捻<ねじ>る力゛。その干渉力はどの騎士よりも強く、もっとも神に近い。



唯一の体内型神の遺物<ジャンク>である。



全て父さんが調べてくれたことだ。


そして能力を初めて発動する為の条件である感情の爆発は、俺と神の遺物<ジャンク>が適合する時の痛みで満たされていた。



普通の小学生だった俺は、世界をも滅ぼせる力を手に入れたのだ。



能力をコントロールするための訓練も兼ねて、俺は父さん以外の人との繋がりを捻った。



そして事件は起きたのだ。



「おい、お前」



クラスのリーダー的な男子の一人が声をかけてくる。



捻った人間関係のせいでイジメにあっていた俺は、その原因が自分にあることを理解していた。



だからどんな嫌がらせでも耐えられたし、納得も出来た。



これはただの実験だ―――――。あきらかに子供の考えではない。



今思えば、一番捻れて歪んでいたのは俺の心だった。



「なに?」



お気に入りの小説から顔を上げ、話しかけてきたヤツを睨む。



他の生徒たちは、一触即発な空気に身を固くしていた。



「いい加減うっとーしいからさぁ、まじで死んでくんない?」



その取り巻きがケタケタと笑う。



このリーダー的な男子生徒のことは、聞こえてくる噂で少しだけ知っていた。



「親から怒られて苛つくからって、八つ当たり?」



この男子生徒の親は相当に厳しいらしく、テストで90点以下を取ろうものならボコボコに殴られるらしい。



そういえば昨日の数学のテストであまり良い点が取れなかった的な事を喚いていたな。



男子生徒の顔をよく見ると、青あざが所々に見えた。



「お前・・・・・まじで殺すぞ」



小学生の殺す発言などただの脅しにしかすぎない。俺もそれは理解していた。



あまり目立ちたくないいつもの俺なら、ここで謝ってやり過ごすのだが―――――「やってみろ、親にも刃向かえない意気地なしが」



口は勝手に動いていた。



自分で思っていたより、イジメを受けて相当なモヤモヤがたまっていたらしい。



半年間のイジメなど、どれだけ難しい小説を読んで頭の中だけ大人になった気でいても、心は耐えきれなかったようだ。



自分で作った状況なのに、と自分自身への苛立ちも、モヤモヤを後押しする。



男子生徒とその取り巻きは唖然とするも、明らかに怒りの表情を浮かべ殴りかかってきた。



男子生徒の膝が鳩尾に入る。息を詰まらせながらしゃがみこむと、隙ありとばかりに四方八方から足が俺の体目掛けて飛んできた。



痛かった。泣きそうなほどに痛かった。



「お前なんて父親しかいねぇんだろ!しかもろくに仕事しないで家にこもってるんだってなぁ!」



違う。今は俺が小さいし、母さんもいないから、父さんは仕方なく家の中で研究しているだけなんだ!



「母親も死んじまってるんだってなぁ?あはは、ざまぁみろ」



何かが、吹っ切れた。




ざまぁみろ、だと?



母さんがいなくなってどれだけ寂しかったと思ってる。父さんが好きな遺跡巡りを、自由に研究出来ないのが自分せいだって、俺がどれだけ自分を攻めたかコイツは知ってるのか?



何も知らないで、コイツは――――――。






☆☆☆☆






「――――ッ、はぁ、はぁ・・・・」



また、あの夢か。



初めて生き物から大量の血が吹き出る瞬間を目撃したあの時。



むせかえるような血の匂い。誰かの悲鳴。そして、原型を留めていないクラスメイトだったもの。



感情の爆発とともに起きた、能力の暴走。



「わかっ・・・てるよ」



わかってる。わかってるさ。



あれは自分への戒めになった。人外は人と接するな。心の中の誰かがそう呟いた。



能力をコントロールするための訓練は十分積んだ。



万が一を考えて知り合ったヤツとは、どこか線を置いて接した。



あのときした身勝手を、俺は二度としてはいけない。



そう。小学4年生だった俺は、卑怯なことをした。



原型を留めていない肉塊は、存在自体を捻り消した。あの男子生徒の存在も、この世から消えるように捻り消した。



あの事件を覚えているのは、俺一人だけなのだ。



汗ばんだ手で枕元の携帯を取り開くと、午後1時を少し過ぎている。



何度か深呼吸を繰り返し、最後に大きく息をはく。



最近は、尋や瑞希ちゃんに心を開きすぎていたようだ。同じ神の遺物<ジャンク>を持っていても、俺の能力が一番強いはずだ。



もしかしたら―――――。考えて、首を横にふる。



大丈夫だ。俺が気をつけてさえいれば、大丈夫。



小さく鳴ったお腹の音に、一人苦笑した。

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