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第三話 恋人ごっこ

「とりあえず、雅君は瑞希の名前を呼ぶところから始めないといけませんね」



まるで手のかかる子供を見るような目で俺を見てくる尋。



ムカつくなコイツ。



「わかってるっての。・・・・えっと・・・・・み、瑞希ちゃん?」



「は、はいっ!」



「よ、呼んでみただけ・・・・なんて。あはは」



女の子を下の名前で呼ぶなんていつぶりだろうか。滅茶苦茶恥ずかしい。



「いやはや、初々しいですね。僕のことはお兄様と呼んでもらってもいいですけど?」



「死ね」



まったく・・・・もう疲れた。帰りたい。



「次は・・・そうですね。雅君のその前髪をどうにかしましょう」



「・・・・あ?」



何をバカなことを・・・・・この前髪は煩わしい現実から俺を守る最後の砦でだなぁ・・・・。



「大丈夫ですよ。雅君って意外といい顔してますから」



「嫌みにしか聞こえないが・・・?つか嫌だ」



なんだかんだ言っても俺はこの髪型が気に入ってる。そう簡単に納得出来るはずがない。



「・・・・もちろん、拒否権はないですよ?僕の計画に支障がでますから」



「計画ってなんだよ!ふざけんな!」



「ふざけてなんかいませんって。少なくとも数日以上は妹の隣を恋人として歩くんですよ?」



「ちょ!そのはさみどっから出した!」



尋は、仕方ないな、と呟くと、能力を発動させた。



「雅君が動くのを、゛拒絶゛する」



体の自由が奪われる。



神の遺物<ジャンク>の力に抵抗できるのは、同じ神の遺物<ジャンク>の力だけ。



俺も負けじと能力を発動させようとするも少し遅かったようだ。



パサリ、と落ちていく大事な前髪を目で追いながら。涙が出そうになるのを堪える。



尋・・・・・いつか、泣かす。






☆☆☆☆





「似合ってますよ、雅君先輩!」



床に散った自分の髪を手で掴みながら落ち込んでいると。尋の妹さん・・・・じゃなかった。瑞希ちゃんの声が聞こえてくる。



視線だけを動かして見た瑞希ちゃんの表情は、嘘を言っているようには見えず、少しだけ気持ちが和らいだ。



「いやはや。まるで別人のようですよ」



尋の声が和らいだ気持ちを霧散させた。



「瑞希ちゃん。いいことを教えてあげよう」



俺は手に残った髪の毛たちに別れを告げながら床に落とし、にやりと口角を上げる。



「尋の部屋の、タンスの裏を調べてみるといい」



「ま、雅君!!」



「言っとくがな尋。お前は俺の大事なものを奪っていったんだ!これくらいの報いは受けやがれ!!」



ざまぁみやがれ尋め。もしアレがバレたら実の妹に性癖が知られるんだ。そりゃあ焦るよな。



「くっ・・・・瑞希。今の話は単なる冗談で―――――」



「もしもしお姉ちゃん?実はお兄ちゃんの部屋のタンスの裏を調べてほしいんだけど・・・・うん。そう。よろしくねっ!」



すぐさま携帯電話を取り出して誰かに報告をする瑞希ちゃん。



その顔はとても楽しそうで――――あぁ、こいつらやっぱり兄妹なんだなぁって思わされた。



つか瑞希ちゃん黒いよ!なんかとっても裏切られた気分なんだが・・・・。



「確かに瑞希ちゃんって正直に生きてるよな―――――自分自身に」



校舎裏での尋の言葉を思い出して一人頷く。



たがな、尋。自分は正直に生きてないみたいなこと言ってたけど、お前も十分正直に生きてるよ。



確かに能力を使い始めた頃はコントロールが下手で、人に嘘をついて拒絶してたお前だけどさ。今は違うだろ?



出会ったばっかりの頃の尋を思い出しながら、兄妹のやりとりを眺める。



変わったな、尋は。それに比べて俺は何にも変わってない。



・・・・まぁ、そんなことはどうでもいいか。



「ほら。部活始めるぞ」



絶望に打ちひしがれている尋と、さっきより五割り増し笑顔の瑞希ちゃんに声をかけて、俺は小さく笑った。






☆☆☆☆






俺たちの部活、騎士の安息所は、何をする部活かと問われれば何もしない部活、としか答えられないだろう。



言葉の通り、何もせずまったりと過ごすのがこの部活の主な活動だからだ。



尋と二人の時はもっぱら、某有名なカードゲームや、持ち込み禁止のポータブルゲーム機などを使って、遊び時間を潰していた。



本当に、よくこんな部活を作る許可が降りたもんだな。



その辺は尋のヤツに任せっきりだったからよくわかんないんだけどさ。



「それで、瑞希ちゃんもこの部活に入るのか?」



「はい。これからよろしくお願いしますっ」



ふむ。まぁ男二人ってのも花がなかったし。全然問題ないな。



「ん、よし。とりあえず今日は何をしようか・・・・三人で出来るゲームとかなんかあったかな―――――って、尋。鞄なんか持ってどうしたんだ?用事でもあるのか?」



俺がそう質問すると、尋は何を言ってるんだコイツは的な表情を見せる。


「時は金なり。いい言葉だとは思いませんか?」



また意味不明なことを・・・・・。



「つまり、ですね。いつものようにダラダラと過ごす時間があるなら、瑞希の能力を早く開花させよう、というわけです。・・・・・能力を使いこなすのに、どれだけの時間がかかるかなんて誰にも解らないですからね」



まぁ、確かにそうだな。能力を完全にコントロール出来るようになるまでには個人差がある。



俺の場合はほぼ自学で、約三年間かけてコントロール出来るようになったんだ。



最初から教えてくれる人がいたら、だいぶ変わるんだろうが、最低でも1ヶ月以上は覚悟しておいた方がいいだろう。



「そうだな・・・・確かに、早めに行動してた方がいいのかもな。下手すりゃ、コントロール出来るようになる前に、俺たちが高校を卒業してしまう可能性もあるしな」



そうと決まればあとは本人次第だ。



「瑞希ちゃん。どうする?部活ってことは毎日放課後に色々やらなきゃならなくなるんだが、大丈夫か?」



「がんばりますっ!」



いい返事が聞けたところで、さて、何から始めようか。



「とりあえず雅君には、瑞希と一緒に手をつないで下校してもらいます」



「ほぅ。尋、俺が目立つの嫌いなの知ってるよな?」



コイツとはそろそろお話という名の殴り合いでもしとかなきゃいけないらしい。



人の嫌がることを無理矢理させようなんて本当にドSだな。



しかし、俺は尋に対してはNOと言える日本人でありたい。



「大丈夫ですよ。今の中途半端な時間なら帰宅部は校舎の中にはあまり残っていないはずですし、部活生は言うまでもなくそれぞれの部活動に勤しんでいるでしょう」



「・・・・でもなぁ」



瑞希ちゃんは可愛い。しかもかなり上位レベルの可愛いだ。



そんな瑞希ちゃんと手を繋いで下校なんてしたら確実に目立つだろう。


ぶっちゃけ不釣り合いだし、どうしようか。



「・・・・瑞希ちゃんがいいなら」



結論。結局どうするかを決めるのは瑞希ちゃんだ。



「私は大丈夫ですよ。問題ないですっ」



・・・・・・・・仕方ないな。



鞄を手に取り立ち上がる。



「さてさて。僕がいては邪魔でしょうから遠くから見守ることにしましょう」



そう言って、尋はいい笑顔を残しながら部室をそそくさと出て行った。



「い、行きましょう」



手を差し出す瑞希ちゃん。



さっき黒瑞希ちゃんを見てしまったし、なんか微妙な感じだがやっぱり恥ずかしいな。



俺は瑞希ちゃんから目をそらしながら、その手にそっと触れた。


その手はあったかくて、小さくて。なんだよコレ。緊張しすぎだぞ、俺。



妙な沈黙が部室に漂い、耐えきれなくなってきた俺は一歩踏み出した。



「・・・行こう」




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