最終話 終わり。そして始まり。
リアルに今日が土曜日だと思っていました・・・・休みボケって怖い
色々と町が半壊する程のトラブルがありつつも、俺はなんとか生きていた。
というか、よく半壊程度で済んだな・・・・。もちろん警備隊なども動いたが、暴れ回る神の遺物<チート>保持者にかなうわけもなく、早々に全滅していたのは言うまでもないだろう。
「大変ですね。雅君も。まぁ自業自得ですけど」
彼女たちに見つからないように隠れている俺に、尋が話しかけてきた。
「・・・・わかってるよ」
俺は小さくため息をつきながら返事をする。自業自得ってのは痛いほどわかってるさ。
先ほどまで争っていた彼女たちは、協力しながら俺を捜しているに違いない。
尋はと言えば面白そうに俺の後を着いてきただけ。止めようとする素振りすら見せなかったからなコイツ。
それにしても、こうやって尋とゆっくり話すのはいつぶりだろうか。
瓦礫の影から空を見ると、茜色の空が妙にしんみりした気持ちにさせてくれる。
「影に、勝てるんでしょうか」
尋がぼそりと呟く。確かに俺たちが成長し、実力をつけたとしてもあの圧倒的な力に勝てる気はしない。
「勝てるか、じゃない。勝つんだよ」
あれ?今の俺ちょっと格好よくね?・・・・まぁ、勝つための゛あの術゛だ。対価は大きいが、世界を救うための犠牲としてはちっぽけなものだろう。
その後も尋と話をした。今までの空白を埋めるように。気がつくと空には星がキラキラと瞬いている。
「そういえば雅君。影に勝つための秘策っていったい―――――」
不意に悲鳴のようなものが聞こえてきた。頭に響くような甲高い音で。
瓦礫から外に出る。空に浮かんでいたはずの月が、半分真っ黒になっていた。今日は満月のはずだ。いったいどうなってる。
グォォォォォォォ―――――。低いうなり声が聞こえてくる。夜の闇が、さらなる黒に塗りつぶされていく。くそっ!予定よりだいぶ早いじゃないか!
そして空に浮かび上がる、膨大な数の赤。ヤツら、影の瞳が無数に輝く。
「さて、予想よりだいぶ数が多いですね。それにあれは」
「あぁ。あんなでかいヤツ初めて見た」
一際大きく光る赤が、幾千の赤の後ろに数体浮かび上がる。
俺は大きく息を吸い込み、攻撃の準備をする。先手必勝に限るだろこういいのは。
「魔力補充<チャージ>」
唱えると、空気中の魔力がじわじわと身体に染みてくる。そしてその魔力を神の遺物がある目へと集中させ力を発動させる。
「捻れろ」
世界が、捻れた。遠くから無数の叫び声が聞こえてくる。今ので二、三百は消えただろう。しかしどこからともなく影はわいてくる。やはり後ろのでかいやつを潰さないとダメか。
「尋、これを」
俺は尋に、青く光るビー玉サイズの宝石を二つ渡した。
「一つは瑞希ちゃんに渡しといてくれよ」
そう言って、俺はポケットから魔法具を取り出し魔力をこめる。すると身体がフワリと空に浮かんだ。
「雅君!」
「大丈夫だっての。くれぐれも頼んだぜ」
あの術を使うのに、周りに人がいたら逆に邪魔だ。
それに犠牲は俺一人でいい。ゆっくりと影に向かいながら、この世界に来てからのことを振り返る。なんだかんだ言って、楽しかったな、なんて。
魔法なんて未知の力にも触れられたし、友達も何人か出来た。つっても、ほぼ女の子なわけだが。
「届いたか」
俺が持っている、尋に渡した宝石よりも一回り大きい宝石が、淡く光り出した。この宝石は、神の遺物を持っている人皆に渡しているのだ。
これで全員の手に行き渡ったらしい。
゛盗魔石゛それがこの宝石の名前だ。字のごとく、魔力を盗む石。それを旅の途中で出会った変なじいさんに頼んで、改良してもらったわけだ。俺が持っている石に、他の小さい石を通して他人の異能を盗むのがこの石の力。
「起動<スタート>」
ウィィンと機械音のような音を発しながら、俺の手の中の盗魔石が光り出す。その光から、尋たちの異能。神の遺物の力が流れ込んできて、俺の力と混ざる。
脳に負荷がかかったためか、鼻からツーっと血が流れてきた。
全ての力が混ざり、一つになる。果てに完成したのは虚無。
全てを無に還す力。
光る赤を睨み、小さく笑う。振るうは世界を改変する力。代償はただ一人の命。
「まぁ、なんだかんだ言って楽しかったからいいや」
悔いはないと言えば嘘になるが、それなりに満足出来る人生だった。死にたいなんて思っていた小学生の頃に比べれば。
光が空を満たす。影の悲鳴が響く。呆気ないななんて苦笑するくらいには余裕があった。これで皆安心して暮らせるだろう。そこに俺がいないのは少し残念ではあるけどな。
力の抜けた身体が重力に従って落下を始める。キラキラと光の粒になって消えていく影たちは、とても綺麗だ。
まるで夜普通に眠るように、俺の意識は途絶えた。
☆☆☆☆
「やっぱりこうなった」
キラキラと空を舞う光の粒を見ながら、如月九は呟く。この未来は知っていた。何故か彼がこのあと眠るように死んでしまう未来は視ることが出来たのだ。
こんな時だけ――――と、唇を噛みしめながら九は風の魔法を唱える。何事にも無関心だった自分がこんなに焦っているのは彼のせいだ。この責任は取ってもらう。だから死なせはしない。
風をまとい移動する九。そして雅哉の異変に気づいた者たちが、彼の落下地点へと急ぐ。
皆が到着した時には、すでに彼は息をしていなかった。その身体を受け止めたのは、あれほど彼を嫌っていた三姉妹の長女。
九は泣きながら何か叫んでいる彼女や他の人を、わりと冷静な思考で観察しながら気づく。
自分の頬を伝う涙に。
あぁ。泣いたのなんていつぶりだろうかと、苦笑する。不思議と涙は勢いを増していった。
世界は残酷だ。この世界を守ったのは彼だというのに、彼は命を失った。これがこの世界のやり方なのか。こんな世界の法則なんてなければいいのに。
とうとう、嗚咽まで口から漏れ始めた九は、自分の無力さに絶望する。
「世界の法則でいえば、死んだ人が蘇ったりはしないだろう」
声がして、皆の視線が集まる。黒いシルクハットを深くかぶった誰かが空に浮かびながらにこりと笑った。
「なら簡単だ。世界の法則を書き換えればいい。その力を、君たちは持っているだろう?」
そしてそれぞれが気づく。ここには、十一もの世界を騙す力があるではないか。そして願う。一度でいいから、世界の改変を。彼が死んだという事実を、塗り替えるのだ。彼が実は生きていたという事実に。
パリンと何かが割れた。きっとそれは、世界の何かが壊れた音なのだろう。世界を騙す力を宿した神の遺物は、淡く光り、その役目を果たしたとばかりに崩れ去る。
そして世界は人の手によって改変された。
「さて、私はそろそろ去ろう」
寝ぼけたように起き上がる彼と、シルクハットの男は目があった。駆け寄る仲間たちに色々と謝罪をしながら、シルクハットの男と雅哉はもう一度視線を交わす。
「さて、この世界の神にでも挨拶に行くとするか」
シルクハットの男は空高く飛び上がった。
そして世界は、改変されたことに気づかないまま、時を刻んでいく。
ぐだぐだな終わらせ方で申し訳ない。思ったよりも就活がうまく行かないもんで・・・・もっと色々書きたいことはあったのに・・・・・。というわけでここにて完結にさせてもらいます。急ぎ足で進めたのは本当に謝罪したいですはい。
就活が落ち着けばまた何か書くつもりなので、その時はまた拙い小説を読んでいただけると嬉しいです。