第二十六話 集結の時
凍てつくような寒さが身に染みるこの世界の冬はさすがに辛かった。
俺には魔法の才がないし、身を暖める魔法すら使えないのだ。
「さって、と。久しぶりだなぁ」
武闘大会で賑わっていた半年前と雰囲気は違うも、町並みはそう変わっていなかった。
そう。あれからもう半年も経つのだ。最初はミヘンチルダ騎士養成学校へ戻ろうと思ったが、影の狙いがこのブルムヘルクだとわかったのでここへ来た。
まぁ、影に神の遺物の存在を察知されたのがこの街だしな。影がブルムヘルクを狙うのも納得がいく。
影の進行は始まっており、旅の途中で何度も対峙した。どうにもヤツら、前の世界にいた時よりもだいぶ強くなっているらしい。
「・・・・さむっ」
一段と強い風に身を震わせた俺は、急いで適当な宿を探す。
冬といえどこの世界の人たちはたくましい。半袖で客寄せしてるおっさんとかいるし。考えられん。
適当な宿を探し、そういえば、と武闘大会の時俺たちの学校が泊まった宿を見つけて入る。多少でも慣れたとこが落ち着くしね。
宿の受付のおばちゃんは俺を覚えていてくれたのか、軽く声をかけてくれた。そこで少し世間話をし、部屋へ向かう。
そういえば学校はどうなっているのだろうか。まぁ、半年も無断欠席すれば退学にでもなってるんだろうなぁ・・・・。
「みんな元気かなぁ」
尋や瑞希ちゃん。三姉妹に如月。早く会って話がしたい。積もる話がたくさんあるのだ。たとえばそう――――他の神の遺物保持者についてとか。
いや、待て。確かに重要なことだが尋以外には話さない方がいい気がする。なんとなくだけど。
ぼふっと部屋のベッドに腰を下ろす。とりあえず一眠りでも、と思っていると、部屋の窓が開き風が侵入してきた。
「・・・・・ちゃんと閉めてください、校長先生」
感じたことのある気配にそう声をかけると、窓がそっと閉じられた。
「なるほど、多少は成長したようだね」
風はゆっくりと人の形を成していく。
黒いシルクハットを深くかぶった校長先生は、嬉しそうに笑った。
「まぁ、色々とありましたからね」
それに苦笑で答える。なんか物凄くいかつい魔物がうじゃうじゃいる森で迷った時に、嫌でも気配に敏感になってしまったのだ。
まぁ、命がかかってたからな。
「で、どうだね?奴らに勝てそうかい?」
「そうですね・・・・はっきり言って戦力不足です。でも、゛勝機はある゛」
俺がそう答えると、校長はふむ、と何かを思案しだした。
「何の犠牲もなしに?」
それには無言で答える。何の犠牲もなしに奴らと戦うのは無理があるってことは校長先生もわかってるだろうに。
「まぁ、いいでしょう。私はあなたともう一度話がしたかっただけですからね」
校長先生はそう言って立ち上がると、窓をそっと開けた。
「敵はすでにこの世界への浸食を始めています。決戦までもう一週間も残されていません」
もう時間がないのか。予想していたのより少しばかり早い決戦の時に苦笑する。
術は完成している。あとは俺の覚悟だけだ。
「ではまた会いましょう」
そう言い残して校長先生の姿は消えた。きっとあの人は気づいているだろうな、俺がやろうとしていることに。
今度は自分で窓を閉める。視線を少し下にずらすと、彼女たちの姿が見えた。
尋たちの方が彼女たちより早く着くと思ったけど、まぁいいか。とりあえず宿の受付に、部屋を追加してもらおうと、俺は足を進めた。