第二十五話 旅立ち
真っ黒な闇の中に俺は立っていた。音も、空気の流れもない息の詰まるような闇の中に。
しかし不思議と気分は悪くなかった。ふと、微かな音が聞こえる。
耳をすますと、その音は次第にはっきりしてきた。誰かの声のようだ。
『ミツケタ・・・・!!』
途端背中を冷たいものがはしった。この声は初めて聞く。けど、なんとなく誰の声かはわかった。
「・・・・夢か」
ぼそりとつぶやいた。目の前には見知らぬ天井。身体は汗をかいていて気持ち悪い。
今のは間違いなく影。
元の世界で何度も戦ったあの気配に間違いない。
上半身を起こし、息を吸う。早まった鼓動が収まってくるのを感じて頭を働かせる。
見つかった。こんなにも早く。・・・・そりゃそうか。武闘大会で惜しげもなく神の遺物の力を使ったのは俺だ。
しかし、まだ早すぎる。俺はアイツらに勝てるような強さを得てない。
ふんわりと心地よい風が開きっぱなしの窓から入ってくる。
『優勝したのはなんと女の子だ!数十年ぶりの快挙だぞこれはっ!さてさて、さっそく優勝者の瑞希ちゃんにお話を聞いてみましょう』
そんな放送が聞こえてくる。ここは武闘大会会場の医務室か何かか。
「・・・・・時間はないか」
一人呟き、いまだに痺れが残る体を無理矢理立たせる。
「行くのですか」
「・・・・あぁ」
いつから立っていたのか。出口のドアのところには尋が立っていた。
「みんなあなたに会えるのを楽しみにしていたんですよ?僕もまだ、話し足りない」
「影が俺たちの存在に気づいた」
ただの夢じゃない気がするんださっきのは。俺の勘がそう告げている。
なんてな。厨二くさすぎだろ俺。
苦笑していると、それをどう思ったのか尋も苦笑で返してきた。
「一人で行くんですよねもちろん」
「だな。ほかに誰かいると、甘えてしまいそうだし」
「・・・・・僕は残された彼女たちになんと言えばいいのか」
まぁ確かに、瑞希ちゃんとかからボロクソ言われそうだな尋。
「頑張れ」
「まずは自分の命が心配ですよまったく」
ご愁傷様。いっそのこと尋も別口で行動起こせばいいのに。
「・・・・いえ、僕はとりあえず師匠から教わった技術を、影殲滅に協力してくれそうな人たちに教えて戦力を増やすことにします」
そうか。尋は人に勉強とか教えるの得意だもんな。
・・・・さて、時間が惜しいか。
「じゃ、行ってくる」
尋の前をゆっくりと通り過ぎてドアを開く。
俺は旅に出る。自分を高めるために。他の神の遺物を所持している人を探すために。
「じゃ、またな」
「えぇ。また会いましょう」
名残惜しさに後ろ髪を引かれつつ、俺は武闘大会が行われているブルムヘルクの出口へと向かう。さぁて、やれるだけやってみますか。
☆☆☆☆
「雅君先輩・・・・っ!?」
やっと瑞希が来ましたか。これで全員ですかね。
先ほどまで雅君が寝ていた病室には、数人の女の子が集まっていた。
瑞希、如月さん、雅君の家の三姉妹、それにこの世界の人が四名ほど。
「お兄ちゃん・・・・これは一体」
これっていうのは、雅君が立てたフラグの数でしょうか?それとも空になっているベッドの中についてでしょうか。
・・・・言わずもがな、後者ですね。
僕はもれそうになるため息を抑えて真実を口にする。
「雅君は、旅に出ました」
ざわっと空気が揺れ、殺気が部屋に満ちる。ち、ちょっと雅君。この展開は聞いていないのですが。
「お兄ちゃんは、雅君先輩が旅に出るのを黙って見ていたの?」
我が妹よ、どこで教育を間違ったのか。
「坂上尋。ちゃんと答えて」
何ですか、その解答によってはブチ殺すみたいなオーラは。
「あの馬鹿に色々と言いたいことがあるんですけど」
僕に言われてもですね、三姉妹の長女さん。
「・・・・お兄ちゃん」
これ泣かしたら僕のせいになるんでしょうか。
「私をまたも侮辱して――――許せませんわ」
「あぁ、ミヤビ様をこれほどまで怒らせるとは」
「万死に値しますね」
あなた達は誰ですか一体。なぜその怒りを僕に向けているんでしょうね。
「あははっ。苦労するね君も」
わ、笑うなっ!笑いですまされることではな―――――「お兄ちゃん」
えぇ、逃げましたよもちろん。だって妹ながら、あの光のない目は怖すぎますからね。
命がけの鬼ごっこが、今始まった―――――なんてね。本当、洒落にならないですって。助けてください雅君っ!
雅君の旅の内容は書いた方がいいですかね?すっとばして影との戦いに突入しようかと思ってるんですけど