第二十四話 恋する乙女はどんなチートよりもチートである
「賭け、ね」
嫌な予感しかしないが、一応内容を聞いてみよう。
「雅君先輩と離ればなれになって、私気づいたんです」
瑞希ちゃんの瞳には、微かに狂気のような光が見えた。
「やっぱり、雅君先輩は私のものだって」
・・・・この世界に来て何があったんだまじで。
きょろきょろと観客席を見渡し、尋を探す。身体強化を強め、視力を上げて尋を見つける。
『どうなってんの』
口を動かすと、尋が苦笑するのが見えた。よく通じたな。
(・・・・失礼。この方が話すには楽ですし)
頭の中に尋の声が響いてきた。おおう。これは便利な魔法だ。
(どうやら、何かリミッターが外れたようですね)
リミッター?何かを我慢してたってことか?
(雅君。女の子というものは恋に生きているのです)
ほうほう。
(会えなかった半年という期間に加え、いつ影がこの世界に来るかわからない状況ですからね。他人のことを考える余裕がなくなったのでしょう)
(つまりそれはどういうことなんだ?)
(瑞希が好きなのは雅く―――――)
ブツッとノイズのようなものが耳に響き、尋との通話が途切れた。
「そこから先は、自分で言います」
瑞希ちゃんはそう言ってにこりと微笑んだ。
今の俺と尋のやり取りをどうやってか聞いていたらしい。なんか笑顔が黒いんだが。
「大好きです、雅君先輩」
いつもの感じとは違う雰囲気を醸し出す瑞希ちゃん。その目はかなり真剣だ。
・・・・瑞希ちゃんが、俺を好き?
「雅君先輩は忘れてるかもしれないですけど、私が小学生の頃も雅君先輩に助けられたことがあるんです」
思いだそうと頭をフル回転させるも、ピンと来ない。
まぁ、瑞希ちゃんが小学生ってことは、俺も小学生かもしくは中学に入学したての時か。
ちょうど黒歴史的なトコだし、あまり物事を考えないように生きてたからほぼ記憶にないんだよなぁ。
「二度も助けられて、私思ったんです。私には、雅君先輩しかいないって」
なに言ってるんだ。瑞希ちゃんには尋もいるし、三女とも友達なんだろ?そんなこと言うなよ。
「先輩、それとこれとは別ですよまったく・・・・」
なんだその呆れ顔は。
言い返してやろうと口を開くと、絶妙なタイミングで試合開始の合図が鳴った。
「だから先輩。私が勝ったら――――」
風が吹いた。
立っているのがつらくなる程の風だ。
どうやら瑞希ちゃんは、魔法の才能があったようだな。神の遺物の力に魔法。まじでチートだろこれ。
「・・・・行きます」
風が目視出来るほどに一カ所に集まり始める。それは三日月型をとり、動き出した。
「うぉっ!?」
ガガガガガガと闘技場を削りながら飛んできたソレを横に動いて避ける。
よく見れば削れているのではなく、石で出来た闘技場は消失していた。
「当たったら死ぬだろ、コレ・・・・」
愚痴を言っている暇などなかった。次々に風は飛んでくる。
危ねぇ・・・・・。決勝まで来れたわけだよまったく。神の遺物と魔法の組み合わせはダメ絶対。
けどまぁ、負けたらどうなるかわからんし、本気でやらせてもらうさ。
神の遺物を超える神の遺物。それが俺の力だ。
どの神の遺物よりも世界への干渉が強く、普通なら相殺するはずの神の遺物同士の衝突も、俺だけは例外なのだ。
力業で、無理やり風を捻り切る。驚く瑞希ちゃんに構わず、俺は体を動かした。
どんなに神の遺物の力を使おうと、俺に対してだけそれは無力だ。
「卑怯ですっ――――雅君先輩の力は」
何とでも言うがいいさ。言っとくがこれは完璧な力じゃないんだぞ?
「――――ッ!」
頬を風が微かに掠め、血が伝う。
風の魔法ってのはやっぱりチートだ。これじゃあ゛想像出来ない゛じゃないか。
そんな俺を見て何か思いついたのか、瑞希ちゃんが目を瞑り口を動かす。
ザワッと空気が揺れた。
魔法の才能がない俺でも感じれるほどの魔力がうねる。
「風よッ!!」
三日月型の風がいくつも精製される。
しかし、多数に風を作っているせいか一つ一つの威力が落ちているようで、とても゛感知しにくい゛。
風は次第に俺の周りを取り囲むと、そこで一時停止した。
「はぁ、はぁ―――――私の全力です雅君先輩」
威力は低そうで、切り裂くだけの力はなさそうだが、打撲のようなダメージを残すくらいのことは出来るだろう。
これは――――きっついな。
俺の力には、大きな弱点がある。俺の捻る力は、頭の中で想像することによって発動するのだ。
想像さえできればどんなとこにでも干渉出来る。
逆に言えば、想像出来ないものには干渉出来ない。不意打ちのような、気づかない攻撃には。
とりあえず今は俺の周り全体を捻って、俺が立っているこの場所を別の空間にすることくらいしか――――「捕まえました」。
にやりと瑞希ちゃんが笑った。足下に違和感を感じて視線をやると、魔法陣のようなものが浮かんでいた。
周りの風で出来た三日月は、ブラフか・・・・。やられたなまじで。
ピリッと足が痺れたと思ったら、そこから全身を痛みがはしった。これは確か、魔物捕獲用の麻痺魔法――――。
「先輩。私の勝ちですね」
やっぱ、卑怯だよな魔法。
そんなことが頭をよぎり、ぷつりと意識が途切れた。