第二十二話 武闘大会
あれから何日経っただろうか。特に長女やその友達のキリカとの接点もなく、日は確実に過ぎていく。
力は確実についている。何度かあった実戦の授業では、神の遺物に頼らず、身体の能力と微力な魔法の力だけで乗り切れた。
決戦の日はそう遠くない。そんな予感がなんとなく頭をよぎる。
「またお会いしましたわね。折り入って話が―――――こ、こらっ!待ちなさいっ」
「ミヤビ様を無視するとはなんと愚かなっ・・・・」
変わったことといえば、長女とひと悶着あった金髪とその取り巻きが俺に執拗に絡んでくるようになったことくらいか。
とりあえず面倒なので無視してるが。
この世界にやってきて約半年――――だいぶこの世界に慣れてきた俺の目に、ふと一枚の紙が止まった。
「゛騎士学校武闘大会゛?」
詳細を見て、思わず目を見開く。
゛参加資格は、騎士養成学校に通っていること。゛
つまり、この大会には色々な騎士たちが集まるわけだ。なんとなく。なんとなくだが、尋がこれに参加しているような、そんな気がした。
それに試したい。今自分がどこまでやれるのか。もちろん゛全力゛で。
どうやらうちの学校は全員強制参加らしい。色々な国からも同規模で人が集められるようだ。そうとう大きな行事になるらしい。
猶予はあと1ヶ月程。さて、尋に会って笑われないように頑張りますかね。
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大会の会場がある都市、ブルムヘルクまでは歩いて約一週間。俺たちミヘンチルダ騎士養成学校の生徒は長い行列を作ってブルムヘルクへと向かった。
多少精神的に疲れたくらいで特に問題はなくブルムヘルクと到着したはいいが、そこら中、人、人、人。人ばっかりで俺の気分一気に悪くなった。
だいぶ人見知りも直したつもりだったがこれはきつい。早く泊まる宿に着くことを祈りつつフラフラ歩いていると、トン、と肩をたたかれた。
肩でもぶつかったのかと思い謝ろうと振り返ると、そこには―――――見覚えのある眠そうな目がこちらを見ていた。
「ひさし、ぶり―――――雅」
思わず笑みがこぼれる。
元クラスメイト。如月九<きさらぎここの>の姿がそこにはあった。
☆☆☆☆
「雅、会えると思ってた」
まるで確信に満ちた言葉。いや、それはそうだろうな。なんたって如月は予知能力を持っていて、俺たちの世界ではわりと有名人だった。
きっと俺と会うことも知っていたのだろう。
「・・・・おう」
素っ気ない返事だったかな。でもなんだ。改めて何か言おうとしても、何も思いつかないんだよね。
如月とゆっくり話をしたいと思った俺は、とりあえず宿の場所を把握して静かな所へと移動を開始する。
如月はそんな俺の数本後ろをちょこちょこと着いてくるだけだ。
「そういえば、瑞希も一緒だった。香撫も」
香撫・・・・三女もかよっ!とりあえずこれは長女に報告してやるか。
それにしてもこいつら運いいなおい。そんだけ知り合いが固まってこの世界に来てれば、そう不安もなかったんだろうな。
羨ましく思いながらも、元の世界の友達と呼べるレベルで仲良かった如月と会えて本当に良かったと嬉しさがこみ上げてくる。
なんだかんだ言って寂しかったようだ。
「雅、私と会えて嬉しい?とか聞いてみる」
「嬉しいよ」
はっきりそう言うと、如月はピタリと足を止めた。
どうしたんだろ、と振り返ると、あまり表情を変えない如月が珍しく取り乱していた。
「・・・・今のは、卑怯」
「何が?」
「・・・・雅。なんか前より優しくなった」
「そうか?・・・まぁ、そうかもな」
まぁ、色々あったしな。こうやって心置きなく喋るの久しぶりだし、自然とそうなってるのかも。
そこから会話が無くなったが、なんとなく心地いいような、むず痒いような静けさが続き、こういうのも悪くないなーなんて思ったり。
少しこじゃれたカフェみたいな店を見つけた俺は、如月と共に店に入りこの世界に来てからのことをお互いに話し合った。
「それじゃ、また」
「・・・・・うん」
気がつくと空はオレンジに染まっていた。この都市に到着したのが昼前だったのでかなり話していたことになる。
瑞希ちゃんたちとは今度会うことにして、今日は別れることにした。
少し歩いて振り返ると、如月はずっとこちらを見ていた。苦笑しつつ、変わらないなぁとどこか安堵しながら、自分の宿へと足を進める。
意外と、尋と会えるのもそう時間がかからないだろうな、なんて思いながら。