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第二話 騎士の安息所


俺と尋は同じクラスだ。



二年C組。なぜかこのクラスには個性的なヤツが多い。



担任に至っては見た目幼女、実年齢十五歳の天才少女だからな。



こんな個性豊かなクラスの中で、俺という存在はかなり影が薄い。いや、ありがたいね本当。



尋はイケメンという特徴を持ってはいるが、残念ながらクラスの中では普通の生徒。頭に超とかつかないとこのクラスで目立つなんてのは無理だろう。



つまらない授業を聞き流し、ぼぅっとしながら視線をさまよわせていると、一人の女の子と目が合った。



ソイツは俺を睨むと、黒板へと視線を戻す。



いつものことだし、いまさら何かを思うなんてことはない。彼女の名前は相良 奈留<さがら なる>。一応戸籍上は家族ということになっている。



何の恨みがあるかは知らないが、毎日のように睨まれるのはさすがにだるい。



「相変わらずですね」



教室の一番左端の一番後ろの席という好ポジションが俺の席。その右隣に座っているのは尋だ。



ノートと黒板を交互に見ながらペンを動かしつつ苦笑する尋。器用なヤツ。



「まぁ、うちの家族は俺のことが相当に嫌いらしいからな。仕方ないっちゃ仕方ない」



「しかし、雅君は何もしてないんでしょ?さすがに理不尽だと僕は思いますけど」



「さてね。知らないうちに何かしたのかもしれないし」



「どうせなら僕の家族にでもなりませんか?家に帰っても雅君をいじれる。考えただけで楽しそうです」



「死ね。つか俺が精神的に死ぬわ」



何気ない会話。こういうのが出来る相手って、友達って呼んでいいのだろうか?・・・・ま、友達云々の前に俺と尋はライバルだからな。



もっともっと強くなって、いつかはあの人に認めてもらう。それが俺と尋の共通点であり、俺と尋の絆。



「今日の授業はここまで」



先生の声とともに、静かだった教室に声が溢れる。



平凡でこれといって特に目立つ特徴を持っていない数学の教師は、そそくさと教室を出て行った。


俺は一つ欠伸をすると、次の時間もこれといって特徴のない歴史の先生だということを尋に確認し、夢の中へとダイブした。






☆☆☆☆






放課後。部活生はさっさと部室に行き、帰宅部の連中は帰りにどこに寄ろうかと話し合っている。



そんな教室を小さく欠伸をしながら後にした俺は、いつものごとくとある教室に向かう。



尋のヤツは日直だから少し遅れてくるだろう。



B棟。通称文化部棟と呼ばれている校舎がある。



学生の教室とかがあるA棟から渡り廊下をつないで建っている校舎で、通称の通り、主な役目は文化部の部室をまとめている校舎だ。



うちの学校はかなり自由な校風で、同好会にすら部室を与えるほどの優遇っぷり。



俺がこの同好会を作った主な理由はただの時間つぶし。



家で三姉妹と遭遇しないように、遅く帰るための休息場所がほしかったからである。



まぁ、尋と会ってなければこんな同好会を作ろうなんて思いもしなかっただろうけど。



文化部棟の一階の一番奥の教室。そこが俺と尋の所属している、騎士の安息所なる謎の同好会の部室である。



ちなみに部活名を考えたのは尋だ。文句ならアイツに言ってくれ。



部室のドアを開けると、そこには尋の妹さんの姿があった。



「・・・何してんの?」



部室の中心部辺りに置かれている長机。



その各場所に4つ置いてあるパイプ椅子の一つに座りながら、何か本を読んでいた尋の妹さんは、本から顔を上げると、はわわっと慌てて立ち上がった。



「こ、こんにちわです雅君先輩!え、えっとお兄ちゃんから放課後ここに来いって言われてて、それで待っている間暇だったから勝手に座らせてもらってたのですが・・・・・だめ、だったでしょうか?」



どこか怯えた犬のような目で俺を見る尋の妹さん。



俺は苦笑しながら、尋の妹さんの正面の席に荷物を置く。



「気にしなくていいよ。あと、雅君じゃなくて別の名前で呼んでくれるとありがたいんだが」



「ぇ・・・・えっと」



「御代 雅哉<みしろ まさや>ってのが俺の名前ね」



う〜んとあごに手を当てて考える尋の妹さん。



さて、あだ名のネーミングセンスが兄に似てなきゃいいんだけど。



「ま、ま、ま・・・・」



むむむ、と唸り、ついに何かを閃いたのかポンッと手を打つ尋の妹さん。



「まーりゃん!!」



「却下」



「がーん・・・・」



今のネーミングセンスは兄を越えたな。



まぁ尋の場合、今のあだ名の元ネタを知ってるだろうから敢えて言わなかったんだろうが、元ネタも知らずそのあだ名を思いつく尋の妹には感嘆するしかないだろう。・・・・いろんな意味で。



「な、なんでですか!?」


「詳しい理由は尋に聞け。俺から言えるのは、俺なんかにそのあだ名を付けたら全国のまーりゃんファンに失礼だって事くらいだな」



「まぁーりゃんファンですか・・・・?」



「そうだ。尋がこういうのには詳しいからな。根ほり葉ほり聞くといいさ」



くっくっく。尋の困った顔が目に浮かぶわ。


なんて悪どい笑みを浮かべていると、タイミングよく尋が部室に入ってきた。



「おや、二人ともおそろいで」



それを見た尋の妹さんはキラキラと目を輝かせながら手を勢いよく上げた。



「お兄ちゃん、質問!」




いやぁ、それからのやり取りは見てて楽しかったね。尋の困った顔といったら・・・・くくく。



どうやらアニメ系の趣味は妹に隠していたらしい。隠し事はいかんよ隠し事は。



「それで、俺は尋の妹さんに何を教えればいいんだ?」



ぐったりと疲れて長机に突っ伏している尋に質問する。



「・・・・えぇ。神の遺物の能力を初めて起動させるのに必要なことは、知っていますよね?」



「ん、あぁ。感情の高ぶりだろ?」



最初の一回。初めて神の遺物<ジャンク>を起動させるには、適合者の感情の高ぶりが鍵になる。



二回目以降は意識するだけで能力の発動を出来るようになるし、大変なのは最初の一回だけだ。



「えっと・・・・最初の一回能力を使えればいいんですか?・・・私、一回で覚えられる自信なんてないんですけど」



「あぁ・・・・なんて言うかな。自転車とかに一回乗れるようになったらその感覚を体が覚えてるだろ?それと同じで、一回成功させたら何となく出来るようになるから大丈夫だって」



俺がそう声をかけてあげるも、尋の妹さんはどこか不安そうな表情をしている。



「まぁ、何はともあれ、一回発動してしまえばわかることなんだけど。・・・・つか尋、妹さんの感情を高ぶらせるのはいいが、俺に出来ることって何なんだ?もちろん、いい案は考えてるんだろ?」


俺がそう質問すると、疲れ切った顔から一変。尋はグッドスマイルイヤーを受賞できそうな勢いで微笑んだ。



「えぇ、もちろん」



妹さんも内容は聞かされてないのか、緊張した面持ちで唾を飲んだ。



俺はとてつもなく嫌な予感に眉をひそめる。



「いまから、雅君と瑞希は恋人同士という設定で生活してもらいます。まずは、そうですね―――――」



「ちょっと待て」



尋の言葉を止める。聞き間違いでなければ、俺と自分の妹を恋人同士という設定にして何かをやらかすつもりらしいな。



「・・・・何でしょうか?不満でも?」



「不満だらけだっての!」


俺がそう怒鳴ると、尋の妹さんがビクッと身を震わせた。



「・・・・わ、私じゃやっぱり不満ですよね。雅君先輩は私みたいな可愛くない女の子、嫌ですよね。」



結局あだ名は雅君先輩で固定なんだ・・・・・じゃなくて!



「何を言ってるんだ尋の妹さん。別にそういうわけじゃなくてだな・・・・えぇとほら、俺って根暗だし友達もいないし。君の方が不満なんじゃないかって」



「私は別に、不満なんてないですっ!雅君先輩と恋人同士になりたいですっ」



・・・くっ!なんなんだこの娘!!今の言葉は胸キュン(死語)レベル32の威力だぜ・・・・。



「おいおい・・・・いいのかお兄ちゃん」


「もちろんです。僕、言いましたよね?これは雅君にしかできないことなんです」



ニヤニヤと笑いやがって。コイツ、さっきの暴露事件のこと根に持ってやがるな。



「俺にしか出来ないか?ってかむしろお前がやればいいじゃん。尋の妹さんも、俺みたいなヤツよりイケメンの兄ちゃんのがいいよな?」



「私とお兄ちゃんは兄弟ですよ?恋人なんてなれるはずありません」



・・・ちっ。尋の妹さん、ブラコンっぽいけど、常識人だな。アニメや漫画のようにはいかないかさすがに。



「だ、そうです。ちなみに、ほかの男となんてのは許しませんよ?僕が」



「・・・・つまりお前のわがままか」



「兄として、妹を知らない男に差し出すなんてありえないでしょう?だからこれは、雅君にしか頼めないことなんです」



どうせ何を言っても聞かないんだ尋は。一応色々と反発してみたがな。



俺は大きくため息をつくと、仕方ないと頷いた。



「恋人のフリするだけだからな。尋の妹さんの能力発動したら、すぐ終わりだから」



そう言うと、尋は満足げに笑った。



「えぇ。期待してますよ雅君」



「よ、よろしくお願いしますです。雅君先輩・・・・」



まったく。この兄妹には色んな意味で勝てそうにないな。




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