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第十九話 偉大なる魔法使い


係員から案内され到着したのは、大きな建物の中だった。



外観はまるで教会のような西洋風の建物。



中の広さは、一般的な高校の体育館と同じくらいか。



建物の中には、在校生らしき人も含め1000人はいる。



それでも結構余分なスペースがあるのし、天井も高くて風通しがいいので何とか具合の悪さは抑えられているけど、きっついな。



いい加減人が多いのにも慣れないと、集団戦とかあったらきついよな・・・・なんて思っていると、人が全員入りきれたのか、建物に入るための唯一の扉が音をたてて閉じた。



そこからはまぁ、なんというか。学長の挨拶だの眠くなることばかりだったので割愛。



小さく欠伸をしながら周りに視線を動かすと、俺の服装がだいぶ浮いていることに気づいた。



皆さん、お洒落な服とか軍服とか、旅人っぽい格好とかそんなのばかり。



黒の学ランは相当目立つ。



目立つからと言って誰かが話しかけてきたりなんてことはなく、学長の話が終わり諸注意などが行われる。



どうやらここの学生には寮が用意されるらしい。しかも食事付き。



この世界には魔物がいるらしく、それの討伐等を管理するギルドがある。テンプレな感じもするが、これでお金にも困らないだろう。



衣食住が確保されたわけだ。俺はかなり運が良かったらしいな。



尋たちは大丈夫だろうか。いや、尋なら俺より上手いことやってるだろうなきっと。



話が終わり、建物から係員の指示で出て寮へと向かう。



寮はもちろん相部屋だ。1000人も学生がいるんだし仕方ないんだろうけど、人見知りな俺としてはめっちゃきつい。



そのうち慣れるとは思うんだが。



俺の部屋は寮の15階。1階から魔法で15階まで移動できるんだぜ?エレベーターよりはるかに便利だ。



「どこのホテルだよ・・・・」



思わず声が出る。一流とは言わないまでも、立派なホテル並に廊下は綺麗に掃除されていた。



部屋の扉も、広いくらいのスペースで等間隔に列んでいるし。



とりあえず、と自分の部屋に向かう。



微妙に緊張しつつ、部屋のドアを開くとそこには、見覚えのある顔が。



「校長・・・・先生?」



高級なホテルの一室だと思えるくらいの広さと豪華さを兼ね備えた部屋の中に、ポツンと中年男性が立っていた。



「やぁ、御代雅哉君」



間違いなく、そいつは゛元の世界の゛俺たちが通っていた学校の校長だった。



「君はわたしに聞きたいことがあるだろう?」



笑顔でそう言った校長に、俺はゆっくりと頷き返した。





☆☆☆☆






先生はなぜここに?



「君の師匠はあの時学校にいた教師を含め、生徒全員をこの世界に飛ばしたからね。いやはや、あの魔力量には驚きだったよ」


先生は俺や尋、師匠のことを知っていたんですか?



「もちろん。わたしはこう見えても君達側の人間だったからね。だから君達が事件を起こした時もそれを隠蔽することが出来たのさ」



俺以外の、尋や瑞希ちゃんたちはどうなったんですか?



「無事に到着しているよ。君の師匠がどこかしら人がいるところに皆を飛ばしたからね。まったく、彼女には本当にチートという言葉がピッタリだよ」



俺たちの元居た世界はどうなったんですか?



「消滅したよ。完全にね」



これから俺たちは何をしたらいいんですか?



「それは君が一番わかっているはずだよ」



・・・・影は、あの異形はこの世界にもやってくるんでしょうか。



「来るよ。間違いなくね」



影って、一体何なんですか?



「さてね。あの異形の存在意義なんてどうでもいいさ。ただ確実なのは、あいつらは我々の敵だってことくらいか」






☆☆☆☆






「最後に、いいですか」



「ああ。わたしが理解できていることならね」



しばらく躊躇って、俺は口を開いた。



「俺たちが今より強くなれば、影に勝つことは出来ますか?」



――――確信をついた。この答えは、俺がこの世界で生きるための意義であり目的でもある。



答えを聞きたくないと恐れる自分と、もう始めから理解ってるだろうと諭す自分がいる。



圧倒的な力を、師匠でもどうにかできなかったあいつらを俺なんかがどうにか出来るわけがないんだ。



「わからない、かな」



校長は薄くなってきている頭を掻きながら苦笑いする。人の良さそうな目はしっかりと俺を捉えた。



「君達は若い。若さとは、それだけでどんな困難にも打ち勝てる可能性を秘めている」



そう言った校長は、腕時計をチラリと見て部屋に備え付けてある大きな窓の方へ向かう。



「君達の師匠は、昔はとっても病弱な女の子だった」



・・・・・いやいや、それはないだろ。



「本当のことさ。彼女は想いの力だけで病気を打ち破り、凄まじい魔力をその身に収めた」



校長は窓を開け放つと、どこからともなく左手にステッキサイズの棒を出現させた。



右手には黒いシルクハットを出現させ、頭に乗せる。その姿は、見たことがあった。



裏の世界の、異能者なら誰でも知っているような、そのレベルの有名人だったからだ。



「頑張りたまえ雅哉君。わたしは、一人の魔法使いとして、君の学校の校長として信じているよ。君の、君達の想いの力を」



校長がパチンと指を鳴らすと、その姿は靄のように霞み、消え去った。



大魔法使い。世界で唯一、司令官級のずっと上・・・・墜神<だしん>級を葬り、死者蘇生を成功させた偉大なる人物。



リナミカ・シセイカンゲ・ハレワ。



俺は開きっぱなしの窓を閉じて小さく笑った。



そんな偉大な人物が俺たちの学校の校長だった。それだけで色々納得がいかない疑問に片が付いた。



尋と俺が考えたしょうもない部活がなぜ許可をもらえたのか。なぜうちの学校にばかり異能者が集まるのか。影に関わる事件がなぜニュースにならないのか。



今になってようやく理解できた。



けど、それよりも重要なことがある。



可能性が見えたのだ。あの偉大なる魔法使いが俺たちの力を信じていると言った。



気休めかもしれない。しかし、可能性が見えた以上俺はやるしかない。



もう会えないであろう父さんの為にも、一人で俺たちを庇ってくれた師匠の為にも。そして、どこかで生真面目に頑張っているであろう尋の為にも。



俺は、暗くなってきた空に浮かぶ月を見ながら新たな決意をした。

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