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第十六話 世界が終わる日



友達の定義とはなんだろうか―――――。



俺は先輩を追いかけながらそんなことを考えていた。



人によって考え方は様々だろう。俺の考えはこうだ。俺が相手を友達だと思っている――――それだけ。



そこに、相手も自分のことを友達だと思ってくれていればなおよし、だ。


だから俺は先輩を友達と思わなければならない。けど、俺は先輩のことを何も知らない。



臆病な俺は、知らない相手を友達だと言い張れるほどの勇気はないし、傲慢でもない。



だからまず、先輩のことを知って―――――。



けど、俺の考えは甘かったのだ。人は独りでは生きていけない。特にまだまだ子供な俺たちの年代は、誰かしら人と接しないと、すぐに壊れてしまう。



それは壊れかけていた俺がよく知っていたはずなのに――――。



この町には、悪魔が存在する。影と呼ばれる異形で、呼ばれ方は様々。妖怪や化け物等。



この町は、死の誘惑で一杯だ。影は弱った人を自分の領域に誘い込み、喰らう。



校門のところで見つけた先輩の背中に、黒い影が見えた。夜中でもないのに、影存在している。



これは初めての経験だ。影は夜の暗闇でしか生きていけないはずだが――――いや、そんなことはどうでもいい。



俺は人目をはばからず、全力で走る。



「先輩ッ!」



声に、先輩が振り返る。



「た、すけ」



瞬間、先輩が消えた。影も残さずに。



何が起こったのか、理解出来なかった。いや、理解をしたくなかった。



先輩は、影に喰われたのだ。俺の目の前で。



俺は助けられなかった。いつからだ。いつから先輩は影に憑かれていた?何で俺はそれに気づかなかった?



膝をつき、うなだれる。



下校中の生徒たちが何事かと俺を見て立ち止まる。



俺は思い切り地面に自分の頭をぶつけた。痛い。けどそれがどうした。



苛立つ。自分の不甲斐なさに。影の気配に気づかなかった自分の弱さに。



何のために師匠から学んだ。誰かを守る為じゃないのか。人を傷つけてしまった罪滅ぼしをする為じゃないのか。



考えればいくらでも自分を攻める言葉が浮かんでくる。しかし、一度影に喰われた人は、二度と戻ってこないのだ。



存在ごと喰われた人は、皆の記憶から消える。先輩は誰の記憶にも残らない。誰のせいだ?俺のせいだ。



誰かの悲鳴が聞こえる。誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえる。



頭を地面にぶつけ、血がいい感じで抜けると冷静さが戻ってきた。



「大丈夫か!?」



無理矢理起こされた。顔を見ると体育の教師だ。何でこいつはこんなに焦っているんだ?まぁ、校門前で自分で頭を地面にぶつけて流血しているやつがいれば当たり前か。



突然の出来事に、心の整理がつかない。しかし、頭の中はすっきりしていて気持ちがいい。



ゆっくり視線を動かし、固まった。



何だアレは。



それは夕方の空にうごめいていた。まるで空を埋め尽くすように。



茜色の太陽は見えない。黒一色に染まっている沢山の黒に空が覆われているから。



何故、気づかなかった?こんなに近くに、こんな沢山の影が蠢いているのに。



体育教師は、俺の視線の先を見て、首を傾げる。


どうやら一般人には見えていないらしい。



「雅君!」



尋たちが駆けてくる。視線は俺にしか向いていない。どうやら尋ですら気がついていないらしい。



何だこれは。一体何が起きて――――。



「間に合わなかったか」



風が吹いた。聞き覚えのある声と、懐かしい匂いがした。



校門のところに、以前と全然変わらない黒い髪を揺らして立つ女性がいた。



髪と同じく黒いマントに身をつつみ、不適に笑っている。



「「師匠!」」



俺と尋がそう呼ぶと、その女性は、一瞬でこちらまでの距離をつめた。



体育教師が驚いて尻餅をつく。



「師匠、いつこっちに帰ってきて――――」



「師匠、あいつらは?」



尋の言葉を遮り、俺は蠢く影を見る。



尋は何だと首を傾げるも、何かに気づいたように眉根を寄せて空を睨む。



そしてすぐに目を見開いた。



「・・・・あれはいつから?」



震える声でそう呟く。



俺は首を振って答え、師匠を見る。



「さて。肉眼で確認できるようになったのは一週間前かな」



その事実に、俺と尋は唾を飲んだ。



「ヤツらは一刻も早く、脅威になりえるものを消したいらしい」



脅威・・・・神の遺物のことだろう。



「運のいいことに、今、この学校には全部のパーツがそろっている」



師匠は小さくため息をつくと、俺と尋の頭を撫でた。



「離ればなれになるけど、頑張れよな。お前らは私の弟子なんだから」



寂しそうに、しかし満面の笑みを浮かべた師匠は影を見つめる。



何がなんだか理解できない。いったい、今何が起きていて師匠は何をしようとしてるのだろうか。



「この町は、世界の防衛線だ」



それを察してか、師匠がぽつりと話し始める。



「ここは世界の中心で、この世界の軸なんだ。だからヤツらはここを破壊しようとしている。けど、私たちには止める術も力もない」



だから、と言った師匠の足下に幾何学的な紋様が浮かび上がる。



「この世界は滅びる。ヤツらの餌になってな」



紋様は広がり、学校の敷地を埋め尽くした。



「あとは頼んだよ。やられっぱなしは性に合わないしさ。お前らは自慢の弟子なんだし、ガツンとヤツらを殴って皆の無念を晴らしてくれ」



「待ってください!師匠、僕は」



尋の言葉は最後まで続かなかった。俺たちは眩い光に包まれたのだ。



何も知らない生徒たちから、無数の悲鳴があがる。



俺はただ冷静に、目に焼き付けた。町を喰らう影と、師匠の笑顔を。



ゆっくりとまぶたが落ちる。眠くもないのに、ゆっくりと。



そして――――俺たちの世界は影によって喰われた。





☆☆☆☆






いつだったか、師匠はこんなことを言っていた。



『異世界があるとしたら、行ってみたいか?』



俺は頷き、行ってみたいと言った。師匠は笑いながら俺の頭をポンと叩き、異世界の話をしてくれた。



そこには魔法があってドラゴンやらエルフやらがいて、戦争がずっと続いていて、そして師匠の好きな人がいて―――――最初は冗談かと思った。師匠は、自分が異世界から来たのだと語ったからだ。



けど、師匠の懐かしむような目は嘘をついていなかった。それに、師匠が師匠であるなら、そんなものはささいなことなのだから。



だから俺と尋は師匠の世界の話を沢山聞いた。それを話している時の師匠は、誰よりも、何よりもキラキラしていて綺麗だったから。



けど、たぶん師匠は故郷の世界に帰ることなく死んだ。



帰りたいなら帰ればいいじゃん、という質問に、師匠は苦笑しながらこう言ったのだ。



『世界を移動するのは簡単じゃないんだ。人の命は膨大な魔力の塊。それがいくつも必要なんだ』



師匠の魔力は、人外レベルだった。だからこそ、師匠は自分を犠牲にして俺たちに未来を与えたのだろう。



そして俺は、また守れなかった。大切なものを。大切な人を。



このまま、眠ってしまいたい―――――――「お、起きてください」



誰かが俺の頭を優しく叩いた。目をゆっくりと開くと、俺をのぞき込むように誰かが見ている。



「あの、こんなところで寝てたら危ないですよ?」



そこには、見たこともない女の子の顔があった。

急展開ですが、やっと本編に入れた感じです。ぇ?学園ラブコメ?そんなのありません(大嘘



そのうち、ちゃんとありますよー(棒読み


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