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第十三話 放課後の練習



「好きな人・・・・」



ぼそりと呟く瑞希ちゃん。



俺は首を傾げつつ答える。



「俺に好きな人とかいたらおかしいかな?」



別に俺も思春期真っ盛りなわけで。確かに三次元の奴らは群れるし、うるさいし嫌いだ。



集団の中にいたら具合が悪くなるし、知らない人と話すのは精神的にきつい。



けど、別に全部を嫌ってるわけじゃないんだ。



それに、今のは単なる冗談。確かに彼女にときめいてしまったのは認めよう。



けど、それは所詮憧れでしかなく、告白なんてしたところで結果は見えてるからな。



「誰なんですか?雅君が好きになるような人なんて数人しか思い当たりませんが・・・・」



顎に手を当てて考え始める尋。やけに楽しそうだなおい。



「・・・・・いや、やっぱさっきのはなかったことにしよう。好きっていうより憧れに近いしさ。告白なんて無理だし無謀だし」



俺はそう言って逃げるように走った。本当に何てこと口走ったんだ俺は。・・・死にたい。






☆☆☆☆






尋が教室に入ってきたのは、俺の顔の火照りがようやく冷めた頃だった。



尋は席につくなり、にやにやと笑いながら俺に話しかけてきた。



「ちなみに、さっきの好きな人は誰だったんですか?僕の予想では水島せんぱ―――――」



とりあえず殴った。誰かに間違って聞かれたらどうするんだ。



「・・・・どーしてそう思う」



じと目で睨むと、キザったらしく肩をすくめて尋はため息をはいた。



「簡単なことです。考えてみれば雅君の性癖―――――属性にぴったり当てはまる人物が一人だけいたな、と」



そうだよな。そういえば尋は、俺の好みとかをばっちり知ってやがる。逆もしかりなんだけどさ。



「リアルお嬢様、黒ニーソ、金髪、姉属性。ほら、一人しかいないでしょ?」



「・・・・・誰にも言うなよ」



俺は諦めたように呟く。バレてしまったらしょーがない。



それに俺も、尋の性癖に当てはまる人物に心当たりがあるし、お互い様だろう。



まったく。二次元の中にしかいないような属性を持ってるやつがゴロゴロしているこの学校は異常だ。



「それにしても、雅君が一目惚れするとは・・・・いや、興味深いですね」



これ以上何か言ったら能力の発動も視野に入れるが?



「あはっ。わかりましたよ。これ以上詮索するのはやめときましょう」



それでコイツは何でこんなに楽しそうなんだろうな?むかつく。



俺はチャイムの音と共に、大きくため息をついた。






☆☆☆☆






「雅君先輩っ!私、頑張ります!」



ドアを勢いよく開いて部室に入ってきた瑞希ちゃんはそう宣言した。



何を、とは考えなくてもわかるだろう。



今朝の俺の失言に対する答えを瑞希ちゃんは導き出したのだ。



「瑞希ちゃん、あれは冗談で――――」



「まずは告白の台詞を考えましょう!」



瑞希ちゃんは人の話を聞いてない。テーブルの上にカードゲームを広げて一人で遊んでいる尋に視線を送り、助けを求める。首を左右に振られた。



どうやら尋でも瑞希ちゃんの暴走じみた行動を止められないらしい。



「そうだ!告白の練習相手は何人かいた方がいいですよねっ。私、誰か連れてきます!」



勢いよく部室を飛び出していく瑞希ちゃん。



前とはあからさまに違う、元気な様子に小さく安堵する。どうやら、瑞希ちゃんのイジメが再発しているということはなさそうだ。



しかし元気すぎるのもなぁ・・・・。



「尋。まじでどうにかしてくれ」



「雅君。言っておきますが、僕は家族の中で一番下っ端なのです。それは知っているでしょう?」



いや、知らねぇよ。最近まで尋に妹がいることすら知らなかったんだぞ?



「では知っておいたほうがいいですね。家族の中で僕の発言はほぼ意味がないに等しいのです」



「・・・・言ってて悲しくないか?」



「もう慣れましたよ」



尋も苦労してんだな。まぁ、俺も負けてはいないんだが。



お互いに顔を見合わせて苦笑する。



しばらく経って賑やかな足音が聞こえてきた。



「お待たせしましたっ」


瑞希ちゃんの声。振り向いた俺は唖然とした。



瑞希ちゃんの連れてきたというメンバーがあまりにもカオスすぎたからだ。



「紹介しますねっ!まずこの子から」



見覚えのある顔。というか、瑞希ちゃんと仲良くなったんだな―――――じゃなくてっ!何でここにいるんだ。



混乱する頭で必死に考える。瑞希ちゃんは言った。告白の練習をする、と。



つまり、だ。



「紹介します。私のお友達第一号の相良香撫ちゃんですっ」



―――――俺は妹相手に告白の練習をしなければならないということか?



呆れる俺を見て、とうとう尋が声を出して笑い始めた。しかも、他のメンツを見てみる。



妹と一緒に不良に絡まれていた女の子。それにピンク髪のクラスメイト。



何の罰ゲームなんだこれは。



俺の反応をどう思ったのか、瑞希ちゃんが顔を寄せてきた。



「もしかして、この中に雅君先輩の好きな人がいるんですか?」



ボソリと小さな声で呟く瑞希ちゃんに、いや、と否定の言葉を返す。



「二人とも、何してるのと言ってみる」



不機嫌そうに言葉を発したのはクラスメイトの如月九。



さては無理矢理連れてこられて機嫌をそこねたな。



まったく。子供っぽいのは身体だけじゃないってわけだ。



とかなんとか、皮肉たらしいことを考えるも、口には出さない。



「如月は何でここにいるんだ?」



「・・・・私がいちゃ、ダメなの?」



悲しそうに俯く如月。



少しストレートすぎたか。



「そーいうわけじゃなくて、瑞希ちゃんと知り合いだったのかって話」



瑞希ちゃんに連れてこられたんだ。まったく面識がないというわけじゃないだろう。



「知り合いじゃない。たまたま聞こえたから」



いつものような口調でないことに違和感を感じる。



「雅が誰かに告白するって」



ゾッと背筋に寒気がはしった。何だ今の。



見つめ合う俺と如月の間に入って、瑞希ちゃんは両手を合わせてパチンと鳴らした。


「時間も限られてますし、さっそく始めましょう!」



何を?とは質問するまい。一応俺のためにやってくれてるわけだし、仮病を訴えて帰るわけにはいかない。



完全下校時刻が来るのを待つしかないってことか・・・・。



17時を知らせるチャイムが、部室に響いた。

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