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第十一話 迫る強敵

「・・・・嫌な予感がする、と意味深に呟いてみたり」



帰宅中だった少女は足をとめてぼそりと呟いた。



もう春も終わりだというのに、その日の風はとても冷たい。



眉を少し隠すくらいの、ピンクの髪がさらりと揺れる。



眠そうな目で空を見上げた少女は、小さく息をはいた。



本当に、あの人はなんて不幸なんだろう。



少女―――――如月 九<きさらぎ ここの>はクラスメイトの少年を思いながら笑った。



彼が持っている何かが不幸を呼んでいるのだ。的中率90%の未来予知が出来る九が、唯一未来を見通せない人物。



その人物の未来は不確定要素だらけで、ぐるぐると絡まり合い捻れている。


しかし、そこが九の心をくすぐった。初めて出会ったのは中学の時か。



クラスで浮いている彼を、友達に言われて視たのが彼という存在を知ったきっかけだった。



彼は、私のことなんか知らなかったけど、私はずっと彼を見ていたのだ――――――とかなんとか。少し恥ずかしいことを考えてみる。



実際に中学の時の彼は私など眼中になかっただろうし、あったとしても関わりは持ってくれなかっただろう。



中学の時の彼は、どこか他人と触れ合うのを極端に嫌っている節があった、というのは彼をずっと観察していた私だから気づけたのだ。



そして私は彼を追うように高校に入学した。




未来が解るというのは良いことばかりではないのだ。



なんといっても一番の問題は――――退屈。



贅沢な悩みなのは理解している。けれど、人というものは退屈に耐えられない生き物なのだ。



高校に入学して彼は変わった。坂上 尋のおかげであろう事は察することができる。



坂上 尋も、未来を見通しにくいが、的中率せいぜい50%といったところか。



やはり彼にはかなわないのだ。



だから私の興味は彼にしか向かない。彼以外は興味がない。



不意に熱くなってきた胸に手を当てる。まだ女性の象徴と言えるほど成長してはいないが、これからなんだ、これから。



「そろそろ、限界かもね」


わざとらしく作っている口調ではなく、素の自分が呟く。



限界なのだ。彼を見ているだけというのも、いつしか芽生えていた熱い感情を抑え込むのも。



「雅<まさ>・・・・」



少女は切なげに息を漏らした。






☆☆☆☆





「嫌な予感がするな」



俺がそう呟くと、隣にいる尋は大変嬉しそうに笑いやがった。



「それはそれは、頑張ってください」



殴りたくなる衝動を抑えつつ、視線を動かす。



瑞希ちゃんの一件でそうとうストレスがたまっているのか、尋が俺をいじる頻度が増えている。



俺のストレスは―――――奴らにぶつけよう。



視界の端にとらえた黒い異形を追う。

影と俺たちが呼んでいる異形は、路地裏にひっそりと隠れているが多い。



まだ夜の9時を回ったばかりだから、影は眠って獲物が路地裏に入り込んでくるのを待っているのだ。



案の定、俺が路地裏に足を踏み入れた瞬間、暗い路地裏に二つの赤い光が灯った。



そして、すぐに影のうなり声が聞こえてくる。まるで犬が威嚇するようなうなり声だ。



「はいはい。こっちは忙しいからさっさと終わらせるよ」



俺は赤い光を頼りに、その周辺を一気に捻りあげる。



影から悲鳴のようなものが聞こえて、その気配は無くなった。



小さく息をはき、路地裏からショッピングモールの表通りへと戻る。



待っていた尋が、お疲れさまですと労いの言葉をかけてきたので、右手を上げてそれに答えた。



「まったく。この数はなんなんだよ」



瑞希ちゃんの件などで、だいぶ部活をサボっていたせいか、影の数が多い。



今日だけでもう10は狩った。



しかも全部犬に酷似した型。何かない方がおかしい。



「ふむ・・・・司令官級がいるのかもしれませんねこの辺りに」



俺も同意するように頷く。



影には階級があり、主に動物なんかを象っているのが兵士級、人と獣が混じったような奴らを司令官級と呼んでいる。



その実力は基本的には雲泥の差だ。もちろん例外はある。


兵士級でも、生物を大量に喰っているヤツは司令官級の実力を持っている場合がある。



司令官級の上もいるらしいが、師匠曰く、滅多に会えるものじゃないから覚える必要はないと言われた。



確かに司令官級でも、前回戦ったのは半年以上前だ。



その上となると、確かに遭遇率はかなり低いだろう。



どちらにしろ、今日は遅くまで帰れないようだ。



影が本格的に動き出すのは、深夜0時から深夜3時まで。



その間に、司令官級がいるという可能性を潰さなければならないだろう。



「なぁ、尋」



「・・・・?」



「瑞希ちゃんは元気でやってるか?」



突然の質問にきょとんとした尋は、小さく笑い出した。



「・・・・そこで笑うか?」



不機嫌そうに言うと、尋は反省の色が見えないいつもの笑顔で謝った。



「すみません。いや、雅君がそこまで瑞希のことを気にかけてくれていたとは」



「俺は別に、他人を思いやれないほど冷たい男じゃないと・・・・思いたい」



そこに他人と知り合いの差はもちろんあるけど、知り合いに冷たく出来るほど、俺は人間を辞めてはいない。



瑞希ちゃんの件が解決してから3日。



あれから瑞希ちゃんとは一度も会ってないし、俺も出来るだけ会うのを避けてるけど、やっぱり瑞希ちゃんのイジメがまた始まってないかとか気になるじゃん。



「おかげさまで、だいぶ改善されてきましたよ。瑞希もよく笑うようになってきましたし」



「・・・・それだけ聞ければいいや」



俺はそう言って苦笑する。



あれから何が変わっただろうか。瑞希ちゃんのクラスメイトが、俺を見た瞬間青ざめて逃げる事とか?



他には、香撫のやつが家でもよく話しかけてくるようになった。もちろん、上の二人には見つからないように。



ま、このくらいだろうな。うん。



色々動いて何も変わらなかったら虚<むな>しいだけだしなー。



とりあえず深夜0時になるまではだいぶ時間がある。お腹がこれ以上鳴く前に、腹ごしらえでもしておかなければ。




「マクドナ○ド安定ですかね?」



同じくお腹が空いてきたのか、尋が提案してくる。



俺はすぐさまそれに同意。と、不意に携帯が振動する。



『お兄ちゃん、今日遅いの?』



妹からのメールに、じわりと胸の奥が暖かくなった。



悪い、と返事を返し、パタリと携帯を閉じる。



熱い気持ちが溢れないように、俺は拳を強く握った。


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