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私(ぼく)が君にできること  作者: 本知そら
第二部一章 お祭り騒ぎ
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外伝5-2 彼女を好きな理由

 急いで湊と康介の後を追い事情を説明したところ、納得した様子で湊は康介を離してくれた。しかし、その代わり大きくため息をつかれて呆れられてしまった。ちょっと心にダメージを負ったけど、康介から物理的なダメージを受けなかっただけ良しとしよう、うん。康介怒ると結構怖いし……。


「……で、なんでみんなついてくるの?」


 半眼で振り返る。そこには湊を先頭に康介、芽衣と図書部員が勢揃いしていた。勢揃いと大袈裟に言ってみても四人だけだけど。


「俺は彩花が犯罪行為に走らないか監視するためだ」


「だーかーらー、もうそんなことしない……とおもう、たぶん、きっと、そうだといいね」


「なんで最後は他人事なんだ」


「それはだね。今まで隠していたけど、ボクには知られざる第二の人格があり、それがここ最近度々暴走を――」


「中二病かよ」


「チューニビョウ? ワタシニホンゴワカラナイ」


「なんで片言なんだよ」


「アイアムジャパニーズ」


「日本人じゃねーか!」


 康介はちゃんと返してくれるから面白い。やりすぎるとほっぺた挟まれるけど。


「私はお姉さんを守るために」


「一体何から?」


「法から」


「犯罪すること確定!?」


「大丈夫。この日のために六法全書読んでるから。これ武器にもなるし」


「そんな分厚い本を携帯してるの!? 武器にしたら湊が犯罪者になるからね!?」


 湊はいつもボクのことを大事にしてくれるのだけど、大抵行き過ぎてるからボクが止める側に回らないといけない。まったく面倒のかかる妹です。


「それで、芽衣は?」


「なんとなく」


「なんとなく?」


「はい、なんとなく」


「なるほど、なんとなくね……」


 この子はよく解りません。いい子はいい子なんだけど、いつもゲームしてるから湊や康介と比べるとあまり喋ったことがない。それでも先輩のボクをそれなりには尊敬みたいなものはしているらしく、部活中でゲームをしていないときはよくボクの隣にぴったりとくっついている。それが結構かわいかったりする。


 とにかく、みんなボクについてくるらしい。これじゃ変なことできないなあ。……あ、いえ、するつもりはありませんよええしませんとも。


 ……でも写真一枚くらいはいいよね? あ、ダメですか。はい、分かりました。


「別についてくるのはいいけど、楓ちゃんにはバレないようにしてね?」


 三人が頷く。大人しくしてくれるなら気にすることはないか。そう思うようにして前に向き直る。視線の先には楓ちゃん、遥と、その友達と思われる女の子二人がいる。さっき聞こえた会話の内容から、眼鏡の子が奈菜、ポニーテールの子が沙枝と言い、楓ちゃんと遥が以前通っていた桜花の生徒らしい。桜花と言えばお嬢様学校。それなりの寄付金を納められるような家庭の子じゃないと入学すらできないところだ。そう思って見ると、四人がキラキラと輝いて見えるのは何故だろう。楓ちゃんはいつも輝いてるけど。


 楓ちゃん達はまず体育館へと向かった。中に入るとバレー部とバスケット部が合同で体育館の半分を使いフリースローとスリーオンスリーをしていた。楓ちゃん達が来た途端、体育館が騒がしくなる。さすが楓ちゃん、どこへ行っても人気者だ。


「あ、あの、彩花先輩。こんなところで何をしているのですか?」


「んー。いろいろと」


「そ、そうですか……髪、綺麗ですね」


「ありがとー」


 話しかけてきた1年生の女の子にお礼を言ったら顔を赤くして俯いてしまった。どうしたんだろう。あ、楓ちゃん達が試合を始めた。楓ちゃん、遥と臨時で入ったバスケット部員対奈菜さん、沙枝さんと、バレー部部長の綾音さんのようだ。6人の中で楓ちゃんは圧倒的に小さかった。バスケットは身長がものをいうスポーツ。小柄な楓ちゃんにはそれだけで大きなハンデだ。それなのにいざ試合が始まってみると、彼女のジャンプ力と俊敏さはハンデを補って余りあるもので、誰にも遅れを取ることはなかった。


「楓ちゃん凄いなあ……」


「周りが見えていない彩花もすげーよ……」


「ん、なんで?」


「いやなんでも」


 康介が肩を竦めた。言いたいことあるなら言えばいいのに。楓ちゃん達の試合は接戦の末、僅差で楓ちゃんのチームが勝利した。いつの間にかできたギャラリーから拍手が送られる。ボクも影からこっそり拍手する。試合に集中していた楓ちゃんは今になって周りの様子に気付いたようで、きょとんとした後、恥ずかしそうに「ありがとう」と頭を下げた。うん。今またファンが増えた気がする。


「楓ちゃんの人気は鯉のぼりだね」


「うなぎのぼり、な」


 楓ちゃん達は体育館を出ると屋台で飲み物を買って一休み。その後特別棟の3階へと向かった。


「ここに何かあったっけ?」


「たしか……ああそうよ。新聞部が写真コンテストをやってたはず」


「新聞部ってことは結奈か。あの子はちょっと苦手だなあ……」


「ミスコンで大恥かいた元凶だもんな」


「だからミスコンって言うのはやめてくれる? わざわざ避けてるのに……」


 結奈に見つからないよう教室の入口から中をこっそりと覗く。楓ちゃん達は結奈と話をしていた。


「おー。来てくれたんだ。そっちの二人はもしかして桜花の友達?」


「うん。奈菜と沙枝」


「へぇー。たしかにお嬢様オーラが……」


「私は至って普通よ。沙枝は本物のお嬢様だけど」


「それを言うなら遥やってお嬢様やないか」


「そうなんだよねー。遥もお嬢様のはずなのに、オーラはぜんっぜん感じないんだよねー」


「それアタシのこと貶してるよな?」


「もちろん」


「ははは。この子性格はっきりしとるな。面白いわ」


 ……楽しそう。ボクも加わりたいなあ。しかし今日はダメだ。せっかくいつもと違う楓ちゃんを見るチャンス。それをボクが邪魔してはいけない。


 その後もしばらく雑談をした後、展示されている写真を見て回り始めた。今回は学年毎に展示スペースを設けて、そこに新聞部が撮りためた中でベストショットと思えるものを展示し、学年単位で順位付けをしようというものらしい。


「ボクのクラスの写真は……あれ、なんかボクが多くない?」


 2年B組の展示スペースに飾られた写真の半分以上にボクが写っていた。


「そりゃ勝つためならお姉さんを出すのが当たり前じゃない?」


「そう? あー、金髪目立つもんね」


「いえ、そういうわけではないと思いますけど……」


 楓ちゃん達は2年D組の展示スペースの前で止まっていた。すると突然楓ちゃんが顔を真っ赤にして結奈に詰め寄った。何か抗議をしているようだ。その理由はすぐに分かった。2年D組もB組と同じように、そのほとんどが楓ちゃんの写真だった。その比率はB組より酷い。あれじゃ2年D組というより楓ちゃん専用の展示スペースになっている。


「冷静に客観的にいい写真を選んだらこうなったんだって」


 結奈が弁解していた。彼女のことはあまり好きじゃないけど、その写真の腕は認めている。なんせ展示された写真に写る楓ちゃんはどれも輝いていたから。ほしい。


「取ったらだめだぞ」


「うっ……。分かってるよ」


 現在の投票状況も結奈は教えてくれた。やっぱりというか予想通り、2年D組がダントツらしい。当然の結果だ。楓ちゃんは納得がいかないという顔をしている。謙虚な人だ。


 全クラスの写真を見た後、楓ちゃん達も投票して教室を後にした。もちろんそのあとボク達もコンテストに投票することを忘れない。ちなみにボクは2年D組です。


 その後、楓ちゃん達は特別棟から外へ出て、中庭の屋台を巡り始めた。ボク達もちょうどお腹が空いたのでたこ焼きやら焼きそばを買って腹ごしらえをすることにした。


「なあ、彩花」


「ぬー?」


 イカ焼きに齧りつきながら康介を見る。


「なんでお前ってそんなに四条さんのことが好きなんだ?」


 以前それについては話したはずだ。歯ごたえのあるイカを飲み込んでから、やれやれと肩を竦めながら言う。


「前にも言ったけど、ボクは昔男の子で、それで今も女の子が――」


「それ以外に、だよ。それだけじゃないだろ?」


 今日の康介は少ししつこかった。表情も少し硬い。いつもと違う雰囲気にボクも真面目に応えようと、食べかけのイカ焼きを芽衣に押しつけた。


「なんでそう思うの?」


「彩花は一見すると何も考えてないように見えるが、実際はその行動にいつも意味があるじゃないか。善し悪しは別としてな。それで、四条さんが好きなのも、もっとちゃんとした理由があるんじゃないかと思って」


「んー……」


 さすが1年間同じ部に所属していただけのことはある。康介の言うことは的を射ていた。ボクは昔男の子だった。仮性半陰陽という病気だ。そのせいで小学生だった時に男の子から女の子になった。生きた年数で言えば16歳になった今では半々といったところで、女の子として生きていくことにもすっかり慣れてしまっている。それでもまだまだ心は男の子の部分もあって、女の子に惹かれることもたまにある。


 しかし、楓ちゃんの場合はそれだけじゃないのだ。


「お姉さん……」


 湊が心配そうにボクを見つめている。あることがきっかけで始めた姉妹ジャンケン。勝った人がその日一日お姉さんになるという湊と決めたルール。今のところ勝率はボクが8割というところ。ボクが姉になる日の方が圧倒的に多い。しかしそれでいい。実際ボクが湊の姉なのだから。


 湊に心配しないでと笑いかける。康介が持っていたたこ焼きを一つ失敬して口の中に放り込む。手放しでおいしいとは言えないけど、文化祭らしい味だった。


「楓ちゃんとは昔何度か会ったことあるんだ」


「へえ。初耳だ」


「まあ、会ったって言ってもボクが一方的に見ていただけだから、楓ちゃんは知らないと思うけど」


 もうずっと昔の話。でもあの時のことは今もはっきりと覚えている。


「あの時楓ちゃんに会えたから、今ボクはこうしていられて、湊とも仲良くやれているんだよ」


「……そうか。じゃあ仕方ないな」


 康介はそれだけ言って、ボクから視線をそらした。ベンチに置いてあった焼きそばを手に取り、ズルズルと音をさせて豪快に食べ始めた。


「そう。仕方ないんだよ」


 ボクにとって楓ちゃんは特別な人。真っ暗で、どうすればいいか分からなかったボクに道を指し示してくれた。毎日俯いてばかりいたボクに前を向く勇気をくれた。


 久しぶりに会った彼女は昔のように何かに苦しんでいたけど、最近はそれもなくなり、あの頃には見られなかった優しい表情をしている。それが自分のことのように嬉しく、さらにボクは彼女に惹かれていった。そうしてボクは思い知るのだ。ああ、ボクはどうしようもなく楓ちゃんのことが好きなんだなって。


 買い漁ったもの全てを食べ終えて、ボクはんっと伸びをする。


「さて、午後からも頑張って楓ちゃんを観察するとしますかっ」


 康介は呆れながらも、笑みを浮かべて頷いた。 

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