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私(ぼく)が君にできること  作者: 本知そら
第二部一章 お祭り騒ぎ
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外伝5-1 ストーカーは犯罪です

 文化祭二日目。昨日一日で充分な収益を上げた我が図書部の図書館喫茶は売り上げランキングの中間発表でダントツの一位になった。結果、二日目をやらずして10位以内に入れることが確定したので、とくに順位に拘らず、楽しみつつランキングの中より上であれば良かったボク達は、予定通り二日目の図書館喫茶を閉店し、各自で自由に学園祭を楽しむことにした。まあ湊だけは二日目もやって一位をキープしたいなんて言ってたけど、二日続けての重労働はみんな御免被りたかったので、全力で拒否した。それに一日を喫茶店で潰したんだから、もう一日くらいは遊びたかったのだ。


 10時。二日目の文化祭の開催が結奈によって宣言される。沸き起こる歓声は昨日以上、いつもは真面目な生徒でも、この学園祭の時ばかりはテンションが高くなる。むろんボクもさっきから上がりっぱなしで、脈拍が当社比2倍を記録している。


「ほんとに学園祭は楽しいねっ」


「……彩花の場合は学園祭が、じゃないだろ?」


 独り言のつもりだったのに、背後から声が聞こえて慌てて振り返る。そこには呆れ顔をした康介がいた。ボクは首を傾げる。


「どうして? 学園祭のおかげでこんなこともできるのに」


「いやいやいや。学園祭だろうがそうじゃなかろうが、これはやったらだめだからな!?」


「なんで?」


「なんでって、どう考えでもアウトだろ」


「セーフセーフ。余裕でセーフだよ」


「余裕でアウト! 法律的にも人間的にも」


「またまたぁ。そんな大袈裟な」


 手をひらひらと振って笑うボクの肩をガシッと掴む。そして真剣な表情でボクと目を合わせた。


「いいか。良く聞けよ」


「うん」


 彼はゆっくりと口を開いた。


「ストーカーは犯罪だぞ」


 康介の言葉に目が点になる。何を言っちゃってるんだろう。ストーカー? 冬にタンスから出す暖房器具? あれはストーブ。首に付けるアクセサリー? それはチョーカー。脚に履く美脚効果がうんたら? それはストッキング。


 ストーカー。それはたしか、人を影から追い回す変質者のことだったと思う。そのまったく有り難くない称号を、康介はボクに与えたってこと?


「……あはははは」


 康介の冗談が面白くて、我慢できず笑ってしまった。彼は変な顔をしたが、すぐにもう一方の肩も掴み、ガクガクと体を揺らした。


「ち、ちょっと康介なに?」


「現実逃避するな!」


「してないよ。康介がボクのことストーカーだなんて冗談言うから面白くて」


「……あれを見ろ」


「いたいっ」


 顔を挟まれて無理矢理後ろを向かされた。


「あそこにいるのは?」


「楓ちゃんと遥と……そのお友達かな」


 視線の先では楓ちゃんが眼鏡をかけた子と長い黒髪をポニーテールにした子に何かを話していた。親しげに会話するその姿はいつもの彼女とはちょっと違っていて新鮮だった。


「楓ちゃん楽しそうだ。良かった良かった……」


「あっちは良くてもこっちは良くねーよ」


「いたいっ」


 正面を向かされる。康介の真面目な顔が面白い。笑ったら怒られるから我慢するけど。


「ここで質問。彩花は今何をしていた?」


「なにって、楓ちゃんを見てたんだよ」


「いつから?」


「クラスの出し物に顔を出してその後すぐ」


「どこから?」


「楓ちゃんが教室にいたときから」


「今この場所はどこ?」


「校門。見て分かるでしょ」


「その間、四条さんの後をずっと付けていた?」


「うん、そりゃもちろ――いたいっ」


 ボクの顔を挟んでいた彼の両手に力が入る。痛い痛い、顔が潰れちゃう。


「それをストーカーって言うんだよ!」


 ……うん? 康介は何を言ってるんだろう。楓ちゃんを見ていただけでストーカー? あはは。そんなはず――。


「……え、これストーカーって言うの?」


「これをストーカーと言わなくて何を言うんだよ」


「え? ……え? いやだって、楓ちゃん見てただけだよ? 邪魔になるだろうからって、すこーし距離をあけて気付かれないようにこっそりと影から覗いてただけだよ?」


「それであわよくば彼女のことを撮ろうとしてたと?」


 康介の視線がボクの手に向けられる。そこには僕の愛用の携帯電話。数ある発売モデルの中で最大の解像度を誇るカメラを搭載した新機種のスマートフォンだ。……あれ? そういえばこれって、影からこっそり盗み撮りしてるってこと? それってストーカーじゃ――あっ。


 そこでボクは気付いてしまった。自分がストーカーという行為をしていたことに。うーむ。……ストーカーする人の気持ちが分かったような気がする。いや、でもボクのはストーカーの中でもストーカー見習いくらいのものなのできっとまだセーフのはず! ほら、相手を困らせるようなこともしてな……し、写真勝手に撮ったら楓ちゃん怒るかな……?


「……い、一枚ぐらいいいよね?」


「だめに決まってるだろ!」


「あー!」


 携帯を取られた。慌てて腕を伸ばすも、圧倒的なリーチの差でまったく手が届かない。


「ちょっと返してよ! それ先月買ったばかりなんだから!」


「お前がストーカーをやめるってんなら返してやるよ」


「うぐ……卑怯な」


「卑怯なのはお前だ」


「つまり堂々と楓ちゃんに写真を撮らせてくださいと言えと!?」


「そう言う意味じゃない!」


「えっ、いや、さすがに楓ちゃんに付き合ってくださいなんて恥ずかしくて……」


「なんでそうなるんだよ!」


「……何しているの?」


 突然聞こえた声にハッとして振り返る。そこには妹の湊と芽衣が怪訝な顔をしてこちらを見つめていた。なにって、携帯を取られたから奪い返そうと手を伸ばしつつ、康介が変なことを言うからちょっと恥ずかしくなって頬が熱く……。うん、どういう状況だろうこれは。それでもとりあえず携帯を取り返したかったボクはこう言った。


「康介がボクを虐めるんだよ」


「はい!?」


「康介、あんたね……」


 康介が素っ頓狂な声を上げ、湊の目がみるみるつり上がっていく。そのすぐ隣にいたはずの芽衣はいつの間にか数歩下がっていた。


「いや違う、これは彩花が――」


「言い訳はあとで聞くわ」


 湊が康介の胸ぐらを掴み引き寄せる。なんて男らしいんだろう。


「とりあえず、人のいないところへいきましょうか」


 にやりと湊が笑う。こんなに怒っている彼女は久しぶりだ。前回はいつだったっけ。……ああそうだ。商店街で買い物している時に見たことのない制服を着た男子2人組に声をかけられたときだったかな。ずるずるとどこかへ引きずられていく康介。かわいそうに……。


「あの、西森先輩を助けなくていいのですか? おそらく湊先輩はいろいろと誤解していると思うのですが……」


「でもボクから携帯取ったのは本当だよ?」


「どうせまた彩花先輩が何かしようとしたのを、西森先輩が止めてたとか、そういうオチなんじゃないですか? あとで誤解が解けて、西森先輩から怒られても知りませんよ……」


「……よし、二人を止めにいこう」


 芽衣がため息をつく。それに気付かなかったことにして、ボクは二人の後を追った。 

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