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私(ぼく)が君にできること  作者: 本知そら
第一部~二部 幕間
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第56話 変なヤツら

 季節は10月。秋まっただ中の今日この頃。みなさんはいかがお過ごしでしょうか。俺は放課後の教室で絶賛黄昏中。空席一つ開けて向こうの窓の外を眺めている。やや日没に向けて東へ傾いた太陽は煌々と輝き、鱗雲が浮かぶ空はとても高く、とても透き通っていた。


 どこか哀愁を漂わせる秋。スポーツをするにはもってこいの気候な秋。冷房なんていらないはずの過ごしやすい気候の秋。それだというのに……


「なんでこんなに暑いんだよ!?」


 ついに我慢の限界が来て叫んでしまった。机を叩きながら立ち上がると、一斉にクラスメイトの視線が集まった。それに気後れするが、ぐっと耐えて元凶を睨み付ける。


「ん、どうしたのよ突然叫んで。暑いのはみんな一緒よ?」


 新階湊しんがいみなとが不機嫌そうに言う。高校生の平均的な身長。腰まで伸びた長い黒髪を高い位置でまとめて垂らした所謂ポニーテール。黒髪黒目のいかにも日本人! という彼女は、今教室で……


 焼きそばを作っていた。


「暑いんだったらエアコン付けろよ!? あーそうじゃなかった。なんで教室で焼きそば焼いてんだよ!? そもそもなんで教室でガスが使えるんだよ!?」


 湊が「質問が多いわね~」と愚痴りつつ、エアコンのリモコン近くにいた女子生徒にエアコンを付けるよう指示する。


「ほら、つけたわよ。これでいいでしょ? じゃみんな続きを――」


「いやよくねーよ! なにまた焼きそば焼こうとしてんだよ! しかも周りのヤツも旨そうに喰ってんじゃねーよ!」


 私立千里学園高等学校。通称学園の2年B組の教室はカオスだった。昼間に教壇があった場所には、今は大きな鉄板が引かれ、その前に立つ湊が両手にヘラを持って焼きそばを焼いていた。その周りにはクラスメイトが円を作り、皿に盛られた焼きそばを受け取っては美味しそうに食べていた。


「学園祭の出し物の焼きそばの試食会なんだから食べて当たり前でしょ?」


 さも当然と言い返す湊。


「百歩譲ってそれはいいとしよう。でもなんで教室でやるんだよ! 明日も授業あるんだぞ!?」


「実際当日に使う調理器で焼かないと意味ないでしょ? 私もこれを使ってみるのは初めてだし」


「だとしてもせめて教室は避けるだろ……」


「もういいじゃない。やってしまったものは仕方ないわ」


 開き直りやがった……。相手するのを諦めて椅子に座り直す。嘆息して、ふと廊下に視線を向けると、D組の四条さんと水無瀬さんの姿を見つけた。


 ほとんど話したことはないが、あの二人はこの学校では有名だ。四条さんは140センチほどの小柄な体でクラスマッチのバレーで優勝に貢献するほどの運動神経をしていて、実力テストでは上位に食い込む頭の良さ。それでいてあまり運動をしすぎると倒れてしまうような弱さを持つ。見かけると大抵キリッと表情を引き締めてかっこいいのだけど、仲の良い水無瀬さんと一緒にいる時やスポーツをしているときは、少しだけ微笑みを浮かべる。その微笑みは本当に僅かな変化だが、それだけでも周りに花が咲いたような錯覚を覚えるほどの可憐さだ。さらにはあんな小さな体だというのに、妹思いの優しいお姉さんだというからたまらない。どうして同じクラスじゃなかったのか悔やまれる。


 水無瀬さんは1年の頃から問題を起こしては新聞部にスクープとして連日取り上げられていたせいで、四条さんとは別の意味で知らぬ者はいないほどの有名人だ。しかしそのほとんどが相手に非があるらしく、一度も停学等の処分を受けたことがない。彼女に関わった人はみな彼女のことを無冠の番長と呼んでいるとかいないとか。


 まあ、それも過去のこと。最近はめっきりそういう話は聞かなくなった。噂では四条さんのおかげらしいが、一体四条さんは何をして彼女を丸い人間にしたのか……。そんなことを考えながら二人を目で追っていると、ふいに視界を遮られた。


「ふぁにみふぇんの~?」


 視線を上げる。金髪碧眼の女の子が焼きそばを頬張っていた。その少女、新階彩花しんがいさいかは湊の双子の姉妹だ。まったく外見の違う二人だが、それは両親がクォーターで、彩花だけがハーフである祖母の血を色濃く受け継いだ結果らしい。


 肩ぐらいの長さの髪は金色で、右サイドでまとめて垂らしている。目は少し釣り目で意志が強そうに見えるが実はそうでもない。肌は四条さんに負けず劣らずの白さで、腰の位置も高い。ただ、身長が低いわ胸はないわ骨格は日本人のそれだわで、外国人というよりは金髪に染めてカラコン入れた日本人といった方がしっくりくる。


「ものを食べながら喋らないって親から教えられなかったか?」


「おひへらふぇた」


「だったら喋るなよ……」


 ペットボトルのお茶を飲んでぷはーと息をする。仕草が子供っぽい。


「なに見てたの?」


 宝石のように青い瞳が俺を見つめる。彩花はこの容姿のせいでかなりの有名人だ。この学校で金髪碧眼なのは彩花を除くと3年の塚崎先輩しかいないのだ。


「四条さんと水無瀬さんが廊下歩いてたから」


「えっ、どこどこ!?」


 慌てて彩花が廊下を見る。彩花は四条さんのことが気に入っているらしい。


「とっくに行ったぞ」


「なんだぁ~」


 ガックリと肩を落とす。


「なんでそんなに四条さんのことが好きなんだよ。同性だろ?」


「同性?」


 ぴくっと肩を揺らす彩花。ゆっくりと振り返って、大袈裟に肩を竦めた。


「だから言ってるでしょ? 今ボクは女だけど、小さかった頃は男の子だった、って」


 また変なことを言いだした。コイツとは1年の頃からの付き合いだが、いまだにこの冗談の意味が解らない。いや、一応行き着いた答えの一つとして、『自分が同性好きだということをごまかすための方便』があるが、どうもそうではないようだ。というより最近では彩花のブレない態度に本気で言ってるんじゃないかと思うときがある。


「毎度毎度そう言うが、証拠はあるのか?」


「あるある。女の子が好き!」


 拳をぎゅっと握って高らかに宣言する彩花。みんな見てますが、あんたはそれでいいんですか。彩花がこんなんだから、うちのクラスは四条楓派と新階彩花派で二分されている。彩花は「女の子が好き!」宣言により同性から多くの支持を得ている。もうこのクラス変な人ばかりで頭痛い。


「ふう。お腹も膨れたし、そろそろ部活の方も頑張らないとね」


 彩花が腹をぽんぽんと叩きながら、湊のいる方へ顔を向ける。


「湊~。そろそろ部活行こうか~」


「ええ。分かったわ」


 すぐに反応した湊は持っていたヘラを隣の男に預けて小走りで彩花の元へやってきた。


「おいおい。鉄板あのままでいいのか?」


「ん? あー、誰かが片付けてくれるでしょ」


 他人任せかよ。


「芽衣は呼んだ?」


「まだ」


「じゃあ私がメール送っとくから。先に行って始めましょうか」


 各々が鞄を持って立ち上がる。部室のある特別棟4階は、ここ一般棟3階から2階へ降りて渡り廊下を経由していくのが一番近い。ぶっちゃけそれでも遠い。なんであんなところを部室にしたんだといつも思う。


「そうだ。お姉さん。さっきの焼きそばどうだった?」


「美味しいと思うよー」


「良かった」


 本当に嬉しそうに湊が笑う。ここだけの話。いや周知の事実だが……湊は双子の彩花のことが誰よりも好きなのだ。やはり姉妹。好きになるのも似たり寄ったりだ。


「なにぼーってしてるの。早く行くわよ。康介」


「はいはい」


 よいしょと立ち上がり、二人の後に続く。


 新階湊、新階彩花、そして俺、西森康介。これに1年の坂口芽衣を加えた総勢4人。それが俺達が所属する図書部だ。

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