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私(ぼく)が君にできること  作者: 本知そら
第一部二章 いつもとは少し違う日
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第35話 これから伸びる

「さて、どこ行こうか」


 蓮を引き連れて混雑するフードコートを出た私は、近くのベンチに座って、さっき手に入れたパンフレットを開いて眺めていた。


「柊は何か買いたいものないの?」


「んー。別にこれと言っては。元々ここがどんなところか見てみたかっただけだし。そう言う蓮は何かないの?」


「俺も特には……あ、ちょっと靴見てもいい?」


「うん。じゃ、靴屋だね。靴、靴っと……」


 視界一杯に広がるパンフレットから靴屋を探す。左端から右へと読み進めていき、半分くらいまできたところで目的のお店を見つける。


「あったあった。えーっと……」


 私は立ち上がり、パンフレットと周りの景色を交互に見比べて、現在地からどっちの方角に目的の靴屋があるか調べる。しばらくそうしていると、蓮も近寄ってきて隣からパンフレットを覗き見た。


「あっちじゃないの?」


「このお店がこっちにあるから……こっちだよ」


 私が指差した方角とまったく反対の方角を指差す蓮。


「あれ?」


 蓮がさらにパンフレットに顔を近づけた。


「……本当だ。さすが柊。地図読めるんだね。楓は相変わらずなようだけど」


「相変わらずって?」


「ほら、夏休み最後の日の午後」


「……あー。あの日か」


 夏休み最後の日といえば、楓が実家に戻ってきた日だ。たしかにあの日、楓は道に迷っていたところを蓮に助けられた。その時はまさか私も楓もそれが蓮だなんて思わなかったけど。


「今思い出したけど、あの時の楓、かなり困ってたよね?」


 あの時のことを思い出したのか、蓮が含み笑いをする。


「まあ、あまり日に当たると日焼けして後が大変だからね」


「そういえば肌が弱いんだっけ」


「うん。だからこっそり登下校中は日傘差してる」


「そうか。たいへ――」


 蓮は途中までいいかけた言葉を飲み込み、軽く頭を左右に振った。私はそれを見て苦笑した。


「……じゃあ、今日は曇ってて良かったね」


「うん」


 私が頷くと、連は笑みを返した。


「それにしても、この案内図分かりづらいね……」


「そう? ちゃんと色でゾーン分けもしてて分かりやすいと思うけど」


 パンフレットの案内図では、建物全体をいくつかの色に分けて、この色のゾーンにはこういうお店がある、という具合に分かりやすくしてある。けれど、たしかに少し分かりづらいかもしれない。きっと楓では迷ってしまうだろう。実際の通路や壁もパンフレット同様の色で固めるような親切さがないと。


「改良の余地ありだね……。まあいいや。行こう」


 パンフレットを小さく畳んでポケットに入れ歩きはじめた。


 ◇◆◇◆


 エスカレーターを使って2階に上がりしばらく進むと、目的の靴屋に到着した。


「それでお目当ての靴は何用?」


「普段用。もう結構ぼろぼろだから、そろそろ買い換えようかなって」


 蓮が視線を下ろしたので、つられるようにしてその先に目を向ける。たしかに蓮が履いているスニーカーはくたびれていた。


「次はどんなのを買うつもり?」


「奇抜過ぎなければなんでもいいかなあ……」


 ふーんと返しながら、蓮の後をついていく。


「あ、今のと同じのがあった」


 蓮は棚に飾られていた靴を手に取った。蓮の言う通り、本当にまるまる同じデザインの靴だった。


「これ気にいっているし、これでいいかな」


「え。一緒のにするの?」


「うん」


 それはさすがにどうだろう。せっかく買うなら、同じデザインの物じゃなくて別のものを買えばいいと思うけど。


「柊は別のにした方がいいと思う?」


「うーん。一緒のでもいいと思うけど、私ならせっかく買うんだから、別のを買うかな~って」


「なるほど……」


 蓮は靴を棚に戻すと、腕を組んで顎に手をやり、ずらっと並ぶ靴を眺め始めた。。


「じゃあどれがいいと思う?」


「どれって言われても……。あ、これとかどう?」


 私はさっきの靴があった棚から2段下にあった白地に青の線が入ったスニーカーを手に取り、蓮に渡した。


「今のとそんなに違わないし。蓮は青が似合ってる気がする」


「うん。これいいね。これにしよう。すみませーん」


 蓮は私から靴を受け取り頷くと、近くの店員を呼びとめた。


「はい」


「これの27.5センチありますか?」


「27.5センチですね。少々お待ち下さい」


 店員は軽く会釈すると、お店の奥へと走っていった。


「なんかあまり考えずに決めたように見えたけど、あれでいいの?」


「うん。正直、履ければデザインはそこまでこだわってないし」


「あーそー」


 せっかく選んだのにこの返事。……ま、私もそこまで悩んで選んだわけじゃないからあまり強くは言えないけど。


「それにしても、27.5センチって大きいね」


 身長も高いのに足のサイズも大きいなんて……って身長高いんだから大きいのは当り前か。


「男だったらこれくらいが普通なんじゃないかな」


「そう? 蓮が身長高いからじゃない?」


 クラスでも蓮ほど身長高い人はあまりいないから、蓮が普通または平均ということはないだろう。


「高いって言っても181だよ?」


 十分高いっての。


「部活じゃ周りみんなこれくらいだし」


「さすがサッカー部……」


 サッカーは身長高い方が有利だって聞いたことがあるし、それでだろうか。


「そういう柊はいくつ?」


「……はい?」


 私は蓮の言葉に驚いて目を丸くした。


「いやそんなに『聞かれるとは思わなかった』みたいな顔されても……」


 そう思ったんだから仕方ない。


「いくつって、どっち? 足? 背? 背は言わないからね」


「背はだいたい分かるから足で」


 だいたい分かるって、一体私を何センチだと思っているんだろう。聞いてみたい気もしたけど、ここは我慢することにする。楓ほどではないけど、私も自分の背にはコンプレックスがある。だからあまり触れられたくはなかった。


「足は20センチ」


「それ小さくない?」


「こんなもんじゃない?」


 私が答えると、蓮は「そんなに小さいのか」と呟いた。


「で、身長はっと……」


 そう言うと、蓮は私の頭に触れるか触れないかの位置に右手を下向けて広げ、そのままの高さで水平に移動させた。手は蓮の首の付け根より少し下あたりについた。


「……135くらい?」


「失礼なっ」


 言うに事欠いてまさかの小学校中学年くらいの身長と間違えるなんて…!


「じゃあ140」


「そんなに低くない!」


 蓮は私の身長を過小評価しすぎだ。


「145?」


「………うん」


 ……まあ、間違ってはないよね。うん。


「……142センチか」


「なんで!? ……あっ」


 言ってしまってからしまったと思ったけど、もう遅い。蓮は私を見てにやりと笑いながら、肩に手を置いた。


「…どんまい」


「うっさい!」

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