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私(ぼく)が君にできること  作者: 本知そら
第一部二章 いつもとは少し違う日
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第29話 週末が楽しみ

「……っとに、遥は何してんだか」


 あの後、遥をなんとか問い詰めて聞きだしたところによると、その女の子を殴った事件以外にも、スポーツ万能な遥が部活に無理矢理割り混み試合を挑むという、道場破りみたいなことをしたり、体育館裏で煙草吸っていた子を吸わないよう注意したり(手はぎりぎり出していない)したらしい。他にもナンパされていた子を助けるどころか相手をボコボコにしたり、ストーカーされている子に頼まれて一緒に帰っていたら、そのストーカーを見つけたので問いただしてホゴボコにして二度と近づかないよう脅したりといろいろ。


 並べてみると、遥のやらかしたことは、そのほとんどが傷害事件(言いすぎ?)だった。でも遥に言わせれば、道場破りはちょっと体験入部してみたかっただけであり、別に他意はなく、煙草の方も用事があって通りかかったところを見つけて、煙草なんて百害あって一利なしだから吸わないに越したことはないと注意しただけらしい。


 実際はどうなのか分からないけど、とにかく遥が私や奈菜に隠し事をしていたということは事実だ。


 ◇◆◇◆


 話を聞いたあとの昼休み。学食で昼食を取る私に何故か遥はひどく焦った様子で言い訳を始めた。そんな遥を見たくなかったので、昼食を食べ終えると早々に遥を振り切って図書館へと逃げた。


 別に怒ってないのに、どうして必死になって弁解を始めたんだか……。


 そんなことを考えつつ、自動ドアを通り図書館の中に入る。入り口でカード型の生徒証を取り出して駅の改札口にあるような機械の読み取り部に当てる。ピッと音がしたのを確認して中に入った。


 周りを見回すと、お昼休みということもありポツポツと人がいた。みんな机に座って本を読んでいるけど、各々二つないし三つ席を離して座っていた。近くに人がいると気が散って集中して読めないというのは分かるけど、これじゃ座れるところがあまりない。一階をグルッと見て回ってから二階に上がる。二階は一階よりは空いていて、奥の方は人気がないようだったのでそこへ向かうことにした。


 それにしても大きな図書館だ。小さめの二階建てのコンサートホールくらいの建物に、背伸びしても届かない高さの本棚がびっしりと並んでいる。大学の図書館と言われても信じてしまうほどの数だ。


「あれ、楓さん?」


 ふいに呼び止められ、足を止めて振り返ると、蓮が本棚から顔を出してこちらを見ていた。


「どうしたの、なんか怒ってるみたいだけど」


「どこが?」


「いや、その尖った物言いといい表情といい……」


「いつも通りじゃない」


「いや、それこそ『どこが?』だと思うけど……。あ、もしかして柊?」


 連はキョロキョロと辺りを見回してからそう言った。たぶん周りに誰もいないことを確認したんだと思う。


「そうだけど?」


「久しぶりだね。でも、なるほど、それでなのか……」


 何か呟いている連を横目に、私は手近な本棚から適当に一冊本を引き抜いて、空いている席に座り本を開いた。


「……なにこれ?」


 本を閉じて表紙を見ると、『哲学』と大きく書かれていた。


「哲学に興味あるの?」


「ない」


 私は本を脇に置いて頬杖をついた。


「なにかあったの?」


「別にぃ……」


 正面に座った蓮を一瞥して遠くの窓の外を見る。今日も天気はいい。


「やっぱり怒ってるじゃないか」


「なにか言った?」


「う、ううん。なにも」


 何故か蓮がたじろぎながら首を左右に振った。


 それからしばらく蓮と私は会話はなく、私は窓の外をぼーっと眺め、蓮は本棚から取ってきた本を読み出した。たまに蓮が私の様子をちらちらと様子見しているのを肌で感じる。けれど、それに気づかないふりをして、外を見続けた。


 さすがに疲れてきた私はふうとため息をついて、机に上半身をだらーっと寝かせた。


「はあ……」


「どうしたの?」


 蓮が閉じた本を脇に置いて私を見た。私はだらーっとした姿勢のまま頬杖をついた。


「遥が隠れていろいろやってたの」


「水無瀬さんが隠れてって……なにを?」


「私がここに転校してくる前に、いろいろと問題を起こしていたらしいの」


「ああ……そのこと」


 蓮が納得したように頷く。


「『そのこと』って、やっぱりこの学校じゃ有名だったんだ」


「学校で有名かはともかく、水無瀬さんが休み時間に突然俺のいる教室にやってきて、目の前で女の子を殴ったからね。あれは強烈だったよ」


「そんな白昼堂々と……」


 せめてもっと人気のないところでやればいいものを……。それもダメだけど。


「……そうか。さっきから柊が怒ってるのは、水無瀬さんが自分にはそのことを話してくれなかったから、ってことか」


「別に怒ってないって」


「そんな頑固にならなくても……。きっと水無瀬さんも何か事情があったんだよ」


「私や奈菜――中学の友達に隠すような事情?」


「心配されたくなかった、とか?」


「……」


 ありえる。


「怒ってないんだったらさ、水無瀬さんのこと許してあげたら? 悪気があったわけじゃなさそうだし」


「うーん……」


 そんなことを話していると遠くから足音が聞こえた。ここは図書館だというのに、誰かが走っているようだ。……ったく。一体誰が――


「あーいたいた」


 聞き覚えのある声が聞こえて、私は閉じた本をまた開いた。


「まだ怒ってるのか? さっきも言ったように、どれもたまたま通りかかっただけで最初からやり合おうなんてつもりじゃなかったんだって。……とにかく、諸々話さなかったことは謝る。悪かった」


 そう言って頭を下げた。ここまで追ってきて、しかもこんなこまでとされると、なんか私が悪いことをしているような気分になって来る。


「……もういいよ。私も、というより楓も遥に言ってないことあるし」


「え? なにをだ?」


 ガバっと勢いよく顔を上げて、遥がさらに顔を近づけてくる。


「少し前に例の学校の子にナンパされたからちょっと返り討ちに――」


「誰だそいつは!?」


「誰って、名前聞いてないし……」


「よし、それなら似顔絵描いてくれ。それでソイツ見つけ出して世間的に抹消してや――」


「そんなことしなくていいって。楓のこと見て怯えて帰っていったから」


「ちっ……命拾いしたな。ソイツ」


 やっと遥が私から離れて椅子に座る。私は心の中でほっと胸をなでおろした。


「って、アタシ用事あるんだった。柊、その話、後でもう少し詳しく聞くからな。蓮、またなっ」


 そういうと、遥は図書館だというのに足音を鳴らしながら走り去った。


「まったく、図書館なんだから静かにしないと」


「きっと柊に許してもらいたくて、用事があったのにこっち優先してきたんだよ」


「許してって、私は別に怒ってないのにね」


 私がそう言うと、蓮は何故か苦笑した。


 ◇◆◇◆


「あ、そうだ。蓮って今週の日曜は暇?」


 目次のみ読破した本を本棚に返して席に戻ると、私は蓮に声をかけた。


「うん。部活もないし、予定ないよ」


 やった。私は喜びを表すかのように、両手を胸の前でパチンと合わせた。


「じゃあ、久しぶりに二人でどこか遊びに行こうよ」


「えっ?」


 途端に蓮が目を丸くした。何故驚いているのか分からなかったけど、とりあえず話を続けることにする。


「遥も葵さんも……あ、葵さんっていうのは同じクラスの友達なんだけど、みんな日曜は用事あるらしいんだよね。だからどうかなって」


「う、うん……」


「ちょっと行きたい所もあってさ……ん、もしかして何か予定でも思い出した?」


 蓮の返事が芳しくなく、もしや先に誰かと約束でもしていたのかと思って聞いてみた。


「いや、そ、そんなことないよ。うん、日曜は間違いなく予定入ってなくて暇だ」


 蓮は首を勢いよく左右に振り、続いて縦に振った。なんかさっきから様子が変だけど、日曜は空いてるってことは分かった。


「よかった。ほら、私が桜花に転校してからは遊ぶどころかまったく会ってなかったし、せっかくまたこうやって同じ学校になったんだから昔みたいに、って」


「な、なるほど……。そ、それで柊はどこ行ってみたいの?」


「えっと、クレナタ。私も楓もまだ行ったことなくて」


 クレナタとは、クレナタショッピングモールという複数の小売店舗が集まった大型のショッピングセンターのことだ。巷でも一番大きい商業施設と評判で、このクレナタが出店したせいで桐町のアーケード街は一時期人がこなくなったらしい。


「クレナタか。うん。あそこならなんでもあるし、遊ぶならちょうどいいね」


「ホント? じゃあ行き先はクレナタってことで。待ち合わせは……11時くらいに現地集合でいい?」


「うん。それでいいよ」


「よし、決まり。日曜忘れないでよ?」


「そっちこそ、道迷ったりしないでよ?」


「それは楓、私は大丈夫だって」


「本当に?」


「本当だって」


 私と蓮はお互いを見て笑う。


「ああ。それとね、蓮ごめん。今まで連絡しなくて。約束だと『連絡をしない』っていうのは中学までだったのに」


「気にしないで。伯父さんから様子は聞いていたし、なにより連絡がないってことは元気にしてるってことだろ? 楓と柊が元気にしていれば、それだけで十分だよ」


 そう言って笑う連は、少し格好良く見えた。 

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