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私(ぼく)が君にできること  作者: 本知そら
第三部第二章 楓と楓
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第105話 お泊まり会へ

 試験勉強中に約束したとおり、先週同様に今週末もお泊まり会が開催されることとなった。


 開催場所は葵さんと綾音さんの家。来週はクリスマスイブなので、二人分を今週にやってしまおうという話になったのだ。日程は金曜日に葵さん、土曜日に綾音さんだ。


 当日。学校が終わるとすぐに家に帰り、事前用意していたリュックとバッグを持って、待ち合わせ場所の駅前で遥と合流した。


「電車に乗るんだよね?」


「ああ。朝倉までは……220円だな」


 遥が構内にある路線図を指差す。


 220円の切符を買い、改札口を通って二番ホームへ向かう。


「綾音さんはそのまま葵さんの家に行くんだっけ?」


「家から近いからな」


 話では、葵さんと綾音さんはご近所で、歩いて一分以内の距離にあるのだとか。


 十分ほど待っていると、電車がホームの中に入ってきた。電車が完全に止まったのを確認してから、両開きのドアのすぐ横にあるボタンを押して、ドアを開いた。中は空調が効いて暖かかった。十一月並の気温といっても、時刻はもう夕方の五時前。大陽はすっかり遠くの山に隠れてしまって見えなくなっている。おかげでひんやりと寒い。


 電車に乗ると、僕の後ろに誰かいないか確認したのちに、内側にあるボタンを押してドアを閉めた。


「こういうの、都会にないらしいぞ」


 ドアのすぐ横の席に座りながら、遥が言う。


「そういえば、京都や大阪にはなかったね。電車もすぐに来て、すぐ出て行くし」


「あっちは利用者が多いから、便数も桁違いに多いんだろうな」


「こっちは時間と行き先によっては二時間待ちとかあるもんね」


「電車は使わないからなあ……」


 ガラガラの車内がその証拠だ。みんな席に座っていて、立ってつり革に掴まっている人は一人もいない。


「もう二、三便早いか、これより遅い便は帰宅ラッシュでもう少し混むんだけどな」


「僕はまだその時間に乗ったことがないんだよね」


 電車自体、これで生まれて何度目だろう。修学旅行で乗ったのを除けば、本当に数えるぐらいしかない。


 スピーカーからアナウンスが流れる。出発まであと五分あるそうだ。そうこうしているうちに、外はあっと言う間に真っ暗になった。


「冬は日が落ちるのが早くてイヤだな」


「うんうん。寒い」


 日照時間が短いと、必然的に気温は下がっていく。寒いのは嫌だ。一人頷いていると、遥が「いやいや」と苦笑しながら、


「一日が短く感じて、勿体ない気がしないか?」


「うーん。どうだろう」


 言われてみれば、そんな気がするような、しないような。気にしたことがない。


「たとえば、朝起きてもまだ外が暗いんだぞ? イヤじゃないか? 暗いと朝からテンション下がるんだよなぁ」


 それはそうかも、と答えようとして、すぐに気付く。


「でも遥はそんな時間に起きてないんじゃない?」


 まるで自分か体験しているように話しているけど、最近の日の出の時刻は六時半ぐらい。朝に弱い遥がそんな早い時間に起きているはずがない。


「鋭いな。でも楓はそれぐらいの時間に起きてるだろ?」


「最近は寒いから、そうでもないかなあ」


 起きてはいるけど、布団の中にいる。朝の作業は布団の中で丸くなって、熱を蓄える作業から始まる。布団から出る頃には、外は明るくなっていることが多い。


 再びアナウンスが流れる。もうすぐ発車するようだ。途端にドアが開いて人がなだれ込んできた。


「少ないって言っても、それなりに乗ってきたね」


「一応金曜の夕方だしな」


 座席はほぼ満席。ドアの付近に数人の立ったままの客を乗せたところでドアが閉まり、電車がゆっくりと発車した。


「都会のと比べるとちょっと遅い?」


「田舎は急ぐ必要ないからな」


 田舎という一言で済まされる。


 電車に揺られて十五分ほど。目的地の小さな駅で下車した。この駅には改札口がないようで、代わりにホームから下りる階段横に備え付けられた箱に切符を入れる。


「どっちに行けばいいんだっけ。あっち?」


 スマホの地図アプリを見ながら左を指差す。


「逆だ」


 遥が真逆を指差す。地図だとこっちだと思うんだけど……。


 遥が僕のスマホを覗き込み、画面をタッチして画像をクルッと回した。


「方角が合ってないだろ」


 なるほど、地図と今自分が向いている方角が合ってなかったんだ。


 ……今はこれであってるの? 遥が触ったから合ってるんだろうけど、どこを見て確認したらいいか分からない。


 そんな僕の空気を察知したのか、遥が僕の空いている方の手を握って、


「楓はすぐ迷子になるんだから、ちゃんと付いてこいよ」


 そう言って歩き出した。

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