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私(ぼく)が君にできること  作者: 本知そら
第三部第一章 楓と柊
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第99話 お泊まり会

 土曜日。


 予定通り三人は僕の家へとやってきた。


「いらっしゃい」


 玄関を開けて迎え入れると、その手(主に綾音さんと遥)には大きなビニール袋がぶら下がっていた。


「おじゃまします」


「よし、パーティを始めるか」


「止めなさい。パーティは夜からよ」


 案の定、二人の頭には勉強会という言葉はないみたいだ。


「勉強はどこでしようか。リビングか僕の部屋か」


 尋ねた瞬間、「え、勉強するの?」という目で綾音さんと遥が振り向いた。


「リビングだと邪魔にならない?」


 真面目なのは葵さんだけだ。


「椿が気を遣って、夜まで帰ってこないから大丈夫だよ。ちなみに夜は椿がみんなの分も作ってくれるって」


「おー。それは楽しみだ」


「できた妹ね……」


「さすが椿ちゃん」


 ほんとできた妹だ。姉として鼻が高い。

「アタシは楓の部屋でいいぞ。あとで移動するのも面倒だし」



「そうね。それに早く楓の部屋も見たいし」


「じゃあ僕の部屋に行こう」


 リビングを素通りし、僕の部屋へ。


「はい。ここが僕の部屋」


 そう言ってドアを開け、三人を中に招く。とくに何もない部屋なのに、葵さんと綾音さんは物珍しそうに部屋中を見回していた。


「……エッチなものがないかしら」


 綾音さんは何を探しているんだか。


「広くていいなあ……」


 葵さんはまともな感想。


「おー。アタシが選んだ服がちゃんとある!」


「遥!? 勝手に開けないでよ!」


 いつの間にか遥がクローゼットを開けて中を物色していた。ブラやらショーツやら、遥が選んだ女の子女の子した私服やらが並んでいるので、葵さんと綾音さんにはあまり見られたくない。


「すごっ。楓って意外と服にお金を掛けてるのね……」


 それは僕じゃなくて、そこにいる遥と、今は近くにいない伯父さんから半ば無理矢理贈られたんです。


「すごいフリル……」


 それは伯父さんが好きで、僕に着てほしいからと贈ってくれた服。恥ずかしいから伯父さんの家に行くときしか著ないことにしている。


「……楓って意外と胸あるよな」


「だから勝手に触らないでよ!?」


 遥が僕のブラを自分の胸に当てていた。すぐに回収して棚に戻す。


「ほら、今日は勉強するために集まったんだから、勉強しよ。ねっ?」


 なんとかしてクローゼットから注意を逸らそうと、三人とクローゼットの間に割って入り、無理矢理閉めた。あとはみんなをテーブルに誘導すれば――


「ねぇ、楓ちゃん。そこにあったフリルが一杯の服、よかったら着てみてほしいなあ」


「えっ。葵さん?」


 あれ……まさかの葵さん? この人に限っては脱線しないと思っていたのに。


 目が凄く輝いていて、断わりづらい。


「あ、それあたしも見てみたい」


「あ、綾音さん?」


「手伝いは任せろ」


「遥ぁ!?」


 ◇◆◇◆


 そうして、何故か勉強そっちのけで、僕のファッションショーが始まってしまった。


「楓ちゃん。凄く可愛いっ」


 葵さんは終始笑顔で褒めちぎり、

「えっ、それ入るの? いや腰無理でしょ。……えっ、入っちゃうの? 楓の内臓とかってどうなってんの?」


 綾音さんは服よりも、それを着る僕自身を見て首を傾げ続け、


「なるほど……。こういうのも合うのか……次はこれだな……」


 遥は一人真剣な表情でブツブツと呟いていた。


 ――ファッションショーはその後二時間も続き、意外にも遥から「そろそろ勉強しないと時間がなくなるぞ?」という言葉でお開きとなった。


 ……あー。恥ずかしかった。


 ◇◆◇◆


 ――夜。


 帰ってきた椿の気合の入った料理に舌鼓を打ち、お風呂に入り、パジャマに着替えた。

 今日のメインとも言っていい、パジャマパーティの始まりだ。ちなみに周りには来るときに買ってきたという飲物やお菓子が散乱している。どれを開けて食べてもいいらしい。それらに適当に手を付けながら、初めは当たり障りのない、最近はまっていることや、趣味について話をしていった。


 そしてパーティが始まって一時間が経過した頃。


「こういう時の定番と言えば、やっぱり恋バナよね」


 唐突に綾音さんが言い放った。


「そうか?」


「そうでしょ?」


 綾音さんが僕と葵さんに同意を求める。葵さんと顔を見合わせてから、「さあ?」と返事する。


「えっ、ちょっと。この豪華なメンツが揃ってその反応?」


 豪華……。豪華と言われたら豪華かもしれない。家柄的な意味で。でもそれは恋バナとあまり関係ないと思う。


「遥。あんた好きな人とかいないの?」


 それでも無理矢理恋バナをしたい様子の綾音さんが遥に照準を絞る。でもそのチョイスはどうなんだろう。


「いないな」


 ほらやっぱり。


「あー。今のなし。好きな人ならここにいる」


 言いながら、遥が僕の頭に手を置いた。


「……え、あんたやっぱレズ?」


「楓相手なら問題なし」


「いや否定しなさいよ、はあ……」


 綾音さんはため息を吐き、今度は僕に視線を向けた。


「楓は?」


「う、うーん……」


 元々男だったのに恋も何も……。そう思っていると、何故か葵さんがおずおずと手を上げた。


「楓ちゃんは蓮君が好きなんじゃないかな?」


 蓮君? 蓮君は――


「それは違う」


「なんで遥が答えてるのよ……」


「楓はアタシが好きってことにしとけ」


「だからなんであんたが答えてるのよ……」


「なっ?」と遥が微笑む。まあ、それでいいかも。遥のことは好きだし。結婚とか、そういうのとはちょっと違うけど。


「じゃあ葵は?」


「綾音は知ってるでしょ?」


「はいはいいませんよね」


「そういう綾音はどうなんだよ」


「いないわよはいおしまい」


 やる気なく手をヒラヒラさせる。


「はー。なんなのあんた達は……」


「綾音もだろ……」


 大きなため息をつく綾音さんに、遥がジト目を向ける。


「じゃあみんなの中学時代の話でもしましょうか。それだったら遥にもあるでしょ?」


 綾音さんは投げ遣りに次の話題を振る。


「当たり前だろ。アタシをなんだと思ってるんだ」


「遥と楓ちゃんって、桜花にいたんだよね? そこの話を聞きたいなあ」


「ああいいぞ。じゃあまずはアタシと楓の中学時代の話をしようか」


 葵さんが目を輝かせて手を叩く。僕は遥に目配せして、「変なことは言わないように」と釘を刺しておく。遥は本当に嫌がることはしないので、釘を刺す必要もないんだろうけど、相手は仲のいい葵さんと綾音さんだ。つい口が滑ると言うこともありえるから、念には念を、だ。


 そして始まる昔話。僕と遥は、以前椿に語ったのと同じような話を。ただし、若干全体的にマイルドに。遥が桜花ではお姫さま(王子さま?)的扱いをさせていたことを話すと、葵さんと綾音さんは酷く驚いていた。


 代わって綾音さんと葵さんの昔話はとても穏やかで、僕達みたいな出会い方をすることもなく、喧嘩もなく、幼稚園で知り合ってからずっと仲良くここまで来たとのこと。数少ない大きな出来事と言えば、葵さんが両親の反対を押し切って蓮池高校ではなく学園に入学したことだ。綾音さんは綾音さんで、もし葵さんが学園に入学できなければ自分も入学しない、と両親に迫ったそうだ。葵さんの成績なら学園への入学は確実。それができないということは、両親同士で何かしらの話し合いが行われたということになるからだ。


 ――話が一段落したころには日付が変わっていた。


「そろそろ寝るか」


 僕が眠たそうにしているのを見て、遥が話を切った。


 電気を消し、僕は自分のベッドで、三人は床に敷いた布団に入る。


「おやすみ」


 挨拶を交わして目を閉じる。すぐに眠気はきた。


 ……今日は楽しかった。いや、最近はいつも楽しい。あの頃とは比べものにならないほどに。


 こういう毎日が続けばいいなと願いながら、流れに身を任せ、そのまま夢の世界に旅立った。



 ――はずだった。

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[一言] ついに柊ちゃんとの別れか。
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