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私(ぼく)が君にできること  作者: 本知そら
第三部第一章 楓と柊
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第98話 そして勉強

「……あたし達、ずっとテストしてるような気がするわ……」


 放課後。例によって期末考査対策として勉強会が開かれた。場所は学校の図書館。ほどよく空調が効いていて、僕にとってとてもぴったりな環境になっていた。


 長いテーブルの端の方で、僕と遥が並んで座り、その正面に葵さんと綾音さんが同じようにして、テーブルにノートを広げていた。


「ねぇ、そう思わない?」


「ああ、すっごくそう思う……」


 綾音と遥が机越しに見つめ合い、ガシッと力強い握手を交わした。


「二人の言い分も一理あるかも。三学期制で学期毎に試験が二回の合計六回。単純に長期休暇を引いたら学校に通っているのは十ヶ月分。二ヶ月に一回以上のペースでテストしていることになるから、そう感じても仕方ないね」


 葵さんが苦笑しつつ二人の気持ちを代弁する。


「やっぱそうだよな!?」


「うわぁ……。そうやって考えると、ほんとにテストばっかりじゃない。ねぇ、あたしたちはテストをするために学校へ通ってるの?」


 そんな真剣な顔をして、僕に聞かれても困る。


「うーん……まあ、そうじゃないかな。これまでの成果を試すものだし」


 中間、期末考査は日頃見つけた知識を、点数という形で評価するシステムだ。最終的にはそれらを含む日頃の行いを加味された内申点となって、大学進学や就職に使われる。この学校は進学校だから、ほとんどの生徒が進学を選択するはず。進学先の大学を左右する内申点。その内申点の大半を占める中間、期末考査。そう考えれば、テストをするために通っていると考えてもあながち間違っていないと思う。


「一番嫌いなことのために学校へ通っているのか。アタシは……」


 遥が頭を抱える。大袈裟な。そんなに成績なんて気にしていないくせに。綾音さんの話に悪乗りしている。


 ……まあでも、テストのための勉強は嫌なのかも。教えているときはともかく、一人で勉強しているときは凄い顔してるし。


「逆に考えれば、テストを一度受けたら、それから一ヶ月以上はテストがないってこと。少なく感じない?」


「いいや多い!」


「そうよ多いわ!」


 葵の解釈に猛抗議を入れる二人。


「アタシとしては学期毎に一回でいいと思う」


「いいわね。でもあたしとしては年に一回でいいと思うわ」


「いいなそれ!」


 また握手を交わす。


「一回だけだとウェイトが凄すぎて勉強が大変になると思うんだけど……」


 テストが年一回だと、もちろんテスト範囲は一年分で、評価もその一回で全て決まってしまう。僕としてはそれは御免被りたい。テスト範囲はともかく、一回で評価が決まってしまうという環境は、ケアレスミスも許されない。それは息が詰まりそうだ。


「――ハッ。むしろテストなしっていうのはどうだ?」


「いいわね!」


 良くない。テストをしなくてどこで評価をするのか。毎日小テストや、こまめにレポートを提出するようにすればいらないのかもしれないけど、たぶんそれだと二人にとっては本末転倒だろうから考えない。とりあえず他にいい案が思い浮かばないし、テストをするのが妥当だと思う。


 ――何にしても、


「そういう話はテストが終わった後で良いから、今は勉強してね」


『……はぁ~』


 そう言うと、二人は大きく肩を落として椅子に座り直した。


「もう。遥はやればできるんだから、テストの時ぐらいはちゃんとしてよね」


「はいはい。ったく、楓じゃなかったら逃げてるところなのに……」


「後半聞こえなかったけど、僕じゃなかったらなに?」


「なんでもない。しゃーないけど、楓のためにやりますか」


 僕のためじゃなくて遥のためなんだけど。


 ……と、勉強を始めた直前はこんな感じに逸れがちだけど、集中し始めると遥も綾音さんも文句を言わずに勉強に打ち込んでくれた。……綾音さんは定期的に葵さんに小言を言われながら、だけと。


 二時間ほど勉強に集中し、図書館を出る頃には大陽は傾き、校舎を赤く染めていた。


 図書館から校門へと向かっているときのことだった。ふいに綾音さんが思い出したかのように話し出した。


「そういえば、あたしと葵って、まだ楓の家に行ったことがないのよね」


 となりで葵さんがコクコクと頷いている。


「それを言うなら、楓だって綾音と葵の家に行ってないだろ?」


「そう。それよ」


 綾音さんが遥を指差す。


「あたし達ってお互いの家に行ったことがないから、何かの機会に行ってみようってずっと考えてたんだけど」


 そこまで言って、遥を指していた指を上に向ける。


「パジャマパーティなんてどうかしら?」


 名案とばかりに綾音さんが口の端を吊り上げる。


 パジャマパーティとは、服装がパジャマと言うことから分かるように、言い換えればお泊まり会ということだろう。みんなで一つの家に集まり、夜を一緒する、ということだ。


「まずは勉強会も兼ねて楓の家で。翌週にあたしと葵の家でって感じで」


「アタシは?」


「あんたのところはみんな行ってるみたいだし、なにより大きすぎて落ち着かないのよ」


 たしかに。ちょっと凄すぎて感覚が付いてこない。ちょっと訪ねるくらいならいいけど、泊まるとなると疲れそうだ。


「……まあ、そりゃそうか」


 遥もどちらかと言えば僕達と同じ感覚を持ってるから分かってくれるはず。……正確には同じ感覚『も』、だけど。


「で、どうかしら? もちろん都合もあると思うから、日程は全然調整可能よ」


「うん。いいと思う。僕も二人の家に行ってみたいし」


 ……実は高校の理事長を親に持つという綾音さんと葵さん。どうせ普通じゃないんだろうけど、好奇心として見てみたい。


 さっそく椿にスマホでメッセージを送る。内容はもちろん、週末にみんなを連れて行って止めても良いか。姉妹でもこういうのはちゃんと確認しないといけない。


 すぐに返事がきた。問題ないらしい。ご飯をどうするかなど、色々聞いてきてるけど、細かいことは帰ってから直接話そう。


「今週末オッケーだよ」


「じゃあ今週は楓の家で勉強会、来週は休校日にあたし、週末に葵の家ってことにしましょうか」


「続けてするのか?」


「早くしないと冬休みに入るでしょ? 年末年始でみんな忙しいだろうし、とくに遥はそうなのよね?」


「あー、そういやそうか」


 試験の一週間後には冬休みになる。遥に限らず、年末年始は何かとみんな用事があるらしく、四人の時間を合わせるのは難しそうだ。僕だって年末には伯父さんの家に行く約束をしているし、年始には叔母さんの家に行く約束をしている。どっちも心待ちにしているらしいから、約束を破るわけにはいかない。


「じゃあ今度の土曜日に楓の家ってことで。お菓子や飲物は各自で持ち寄りね」


「行く前に集まって買って行くってのでもいいかもな」


「いいわね。それでいきましょ。あとはみんなでできそうなゲームを――」


 綾音さんと遥の会話を聞き、僕と葵さんは目を見合わせる。そして同時に苦笑する。勉強会のはずなのに、二人は遊ぶことでいっぱいみたいだ。まぁ、集まるとなればそうなるような気がしていたけど。


 次の月曜日には期末考査だ。日曜日があるとは言え、金曜日までに一通りの復習を済ませておかないと。


 今後の予定を考えつつ、隣で盛り上がる会話を聞いていた。

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