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私(ぼく)が君にできること  作者: 本知そら
第一部一章 メランコリーオーバードライブ
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第11話 友達ができた

 学校の帰り、僕と遥、葵さん、綾音さんとで桐町きりまちアーケード街へとやってきた。


 『桐町アーケード街』、通称『桐町通り』(単に『桐町』とも言う)は全天候型アーケードを採用した全長数キロにも及ぶ商店街だ。数年前に近郊に大型ショッピングセンターがオープンしたせいで一時期は人通りもまばらになったけど、二年前アーケード内に大型家電量販店がオープンしてからは少し活気を取り戻したらしい。


 アーケードに並ぶお店を見ると若者をターゲットにしたお店が多かった。葵さん曰く「近隣には学園のほかにもいくつか学校があって、そこに通う子は大抵ここに遊びに来る」のだそうだ。


 たしかに周りを見ると、平日ということもあって学生服を着た子を多く見かける。その中には学園の制服を着た子も結構いた。学園から桐町はそれほど離れていないし、ここには屋根がある。涼しく買い物するならもってこいの場所だ。僕も日傘を差さなくて済むし。


「ここだ。ここ」


 先導していた遥が目の前のお店を指差す。連れてこられたのは『プラナス』という全国にチェーン展開するファミリーレストラン。和風、洋風と豊富なメニューを全て注文しても五万円いかないという低価格がウリだ。


 扉を開けるとカランカランと音が鳴り、ウェイトレスさんが僕達を出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。四名様ですか?」


「はい」


「ではこちらのお席へどうぞ」


 ウェイトレスさんに案内されて店奥窓側のテーブル席に座る。


「御注文がお決まりになりましたら、そちらのボタンでお呼びください」


「あー。今頼みます」


立ち去ろうとしたウェイトレスさんを遥が手を上げてとめた。


「はい、ではご注文をお伺いします」


 もう注文!? まだメニューも見てなかった僕は急いでメニューを開いた。


「ドリンクバー四つ、でいい?」


 同意を求める遥に葵さん、綾音さんが頷く。僕も頷きながら、一応ドリンクバーが何かをメニューで確認する。予想通りジュースやコーヒーなどの飲み物が定額料金で飲み放題になるものだった。


「えーっと、アタシはビーフステーキセットのライス大盛り」


「あたしはデミたまハンバーグセットのライス大盛りで」


「オムライスでお願いします」


 遥、綾音さん、葵さんが続けざまに注文を終える。


「あとは楓だけだ」


「ちょっと待って。種類多いから迷っちゃって」


 メニューをパラパラと捲る。んー……うどんにしようかな。でもこっちのパスタも捨てがたい。あ、ビーフシチューもいいかも……。


「和風きのこのスパゲティを一つ」


「はい!?」


 遥の声に驚いて思わず変な声が出た。


「楓、これ系好きだろ?」


「や、まあ好きだけど」


「だったらいいじゃないか。楓は迷い始めると時間かかるくせに結局いつも同じヤツ頼むからな」


「そんなことは……ある、か。うー…うん。それでいいや」


 思い当たる節がありすぎて反論できない僕は、渋々メニューを閉じてテーブルに置く。


「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」


「はい」


 ウェイトレスさんは再度メニューを読み上げて確認を済ませたあと、ドリンクバーについて軽く説明して厨房へと下がっていった。


「遥は何がいい?」


「コーラ。ゼロじゃないほう」


「ちょっと。あんた自分で取りに行きなさいよ」


 椅子に座ったままの遥を綾音さんが睨み付けた。


「えー、せっかく楓が取りに行ってくれるっていうんだから甘えさせてもらうよ。楓よろしくな」


「はいはい」


 遥を残して僕と綾音さん、葵さんはドリンクバーへと向かった。


「ね、楓と遥っていつもこんな感じなわけ?」


 ウーロン茶を片手に綾音さんが話しかけてくる。


「うん、そうだけど?」


 自分の分のお茶を近くのテーブルに置いて、遥の分のコーラをグラスに注ぎながら答える。


「あんまり甘やかしたらダメよ。ああいうのは甘やかすとすぐ付け上がるから」


「うーん……でも、遥にはお世話になってるし」


「お世話に? 遥が? いったいなにを?」


 その答えは予想もしてなかったという風に、綾音さんが目を丸くして聞き返す。


「い、いろいろと……ね」


「へぇ。遥がねぇ……」


 それ以上聞いては来なかったけど、綾音さんは訝しげな視線を遥に向けていた。僕は遥の分のコーラを注ぎ終えると、自分のお茶を持って席へと戻った。


「はい、ゼロじゃないコーラ」


「さんきゅ」


 ストローと一緒に渡したのに、遥はそれを使わず直接グラスに口を付けて飲み始めた。


「やっぱりコーラはこれに限るよな。ゼロは変な甘さがあるし」


「カロリーゼロだからそこは許容範囲内じゃない?」


「別に摂取したカロリーは動いて消費すればいいだろ?」


「まあそうだけど」


「だいたいそこまで気にするほどダイエット中ならジュースなんて飲むなっての」


 身も蓋もないことを……。そんな話をしている間に、遥はコーラを全部飲んでしまう。外はこの暑さだ。きっと喉が渇いていたのだろう。


「またコーラでいい?」


「ああ」


「またアンタはそうやって楓を使う……。自分で行きなさいよ」


「断る」


 綾音さんと遥が言い争う声を聞きながら、僕は立ち上がって席を離れた。


 戻ってくると、何故か綾音さんと遥は息を切らしていた。よく見るとお互い右腕がプルプル震えていた。


「と、ところで遥……。よ、余裕そうだけど明日の実力テストは大丈夫なんでしょうね? はあはあ……」


「じ、実力テスト? はあ、はあ……」


「明日実力テストがあるの?」


 綾音さんに問いながら遥にグラスを渡す。


「楓は転校したばかりだから知らないわよね。学園では学期初めに実力テストがあるのよ。前学期の復習を兼ねてね。まぁ成績には反映されないんだけど、結果は学年ごとに順位付けされて廊下に張り出されるのよ」


「あれは良いさらし者だよな」


 さすが有名進学校。そうやって競争意識を高めるわけか。桜花にはそんなものなかったので、なんか新鮮だ。


「で、中学一緒だったって言うから知ってるとは思うけど……遥のヤツいっつも下から数えた方が早いところにいるから、今度はちゃんと休み中に復習していたのかな、とね」


「するわけないじゃないか」


「まっ、そうよね」


 躊躇なく遥は答え、綾音さんが肩を竦める。


「楓ちゃんは勉強は大丈夫なほう?」


 上品にお茶を飲みながら葵さんが尋ねてくる。


「えっと……悪くはない、と思うけど」


 僕がそう言うと、遥が大げさに頭を振ってみせた。


「いやいや。なに謙遜してるんだか。楓は桜花でいつも一桁だったじゃないか」


「一桁……ここにも秀才がいたのね……」


 綾音さんが肩をがっくりと落とす。話の流れから、僕は葵さんに視線を向ける。


「一学期の期末テスト、トップの朝霧葵さん」


 項垂れたまま、綾音さんが右手を葵さんに向けた。


「すごい」


 進学校で有名な学園でトップということはかなり凄いことじゃないだろうか。僕は素直に感嘆の声を上げた。


「そんなこと――」


「さすがに葵が謙遜したら嫌味にしか聞こえないからなしね」


 綾音が葵さんの言葉を遮って制し、葵さんは苦笑した。


「うんうん。トップなんだから謙遜することないと思う」


「その言葉。そっくりそのまま、楓に返す」


 遥に言われて、僕も苦笑するしかなかった。


 ◇◆◇◆


「失礼します。和風きのこのスパゲティです――」


 数分後、ウェイトレスさんがやってきて、注文した四人分の料理をテーブルに置いていく。手を合わせて小さく『いただきます』と言ってフォークを持つ。パスタにフォークを軽く突き刺しクルクルと回してフォークに巻きつけて口に運ぶ。低価格がウリのチェーン店なので、凄くおいしいということはないけど不満もないそこそこな味だった。


「へぇ~。上品に食べるのね」


 クルクルとパスタを巻きながら顔を上げると、綾音さんがハンバーグを頬張りながら僕を見ていた。


「ん、そう? って、はやっ」


 驚く僕の視線の先には、もう半分も消えてしまったハンバーグ。遥が食べるのが早いのは知っていたけど、綾音さんも負けず劣らずの早さだ。


 まさか葵さんも……と慌てて見ると、こちらはあまり減っていない。よかった。これで葵さんまで早かったらどうしようかと。視線に気づいた葵さんが僕を見て微笑んだ。


「遥も綾音も早くていつも私一人だけ残されてたの。楓ちゃんがいてくれてよかったぁ」


「それ分かる。一人だけ食べてるとジッと見られてる気がして落ち着かないよね」


「うんうん」


 葵さんと話しながら食事を進めていく。半分ほど食べたところでお腹がいっぱいになってきた。……結構量多いなあ。


「……ジィィ」


 視線を感じて顔を上げると、もう食べ終えた遥がものほしそうにこっちを見ていた。視線を追うと、思ったとおり目の前のパスタに注がれていた。


「いる?」


「いる!」


 お皿を持ち上げる僕に、遥は子供のように元気よく頷いた。苦笑しながら少し残ったパスタをお皿ごと遥に渡した。


「食い意地はってるわねぇ」


 遥同様食べ終えた綾音さんが呆れたとでも言うように、半眼で遥を見る。


「楓はいつも残すからな。勿体無いだろ?」


「楓ちゃん小食なの?」


「うん。あまり食べられなくて」


「ダイエットとか無縁そうね……羨ましいわ」


「お前、部活であれだけ動いてるのに気にしてるのかよ」


「その分食べてるからしょうがないでしょ……」


 呆れたように遥が言い、それに綾音が弱々しく反論した。


「うーん……でもやっぱり食べられないのはキツイと思う。特に夏はそのせいでよくフラフラするし」


「そ、それは困るわね。そういえば楓は見た目あまり運動は得意そうには見えないんだけど……向こうの学校ではどうしてたの? やっぱり体育は見学していたのかしら?」


 僕は視線を上げて天井を見ながら、しばらく考える。


「出来るだけ参加するようにしてたけど……時々は休んでたかな」


 中学の頃を振り返ってそう答えた。


「話の流れ的に楓が言いそうにないから名誉のためにアタシが言うけど、これでも楓は運動神経良いんだぞ? 持久力がないだけで」


 パスタを平らげてコーラを一気に飲み干して遥が言う。


「だから出席すれば活躍するんで、体育の成績も結構いいんだよ」


「へぇ~。意外ね」


「楓がスポーツする姿を見た人はみんなそう言うよな。楓」


「そ、そうかな……。遥飲み物は?」


 自分のお茶がなくなったので、淹れにいくついでに遥の分も聞く。


「アイスコーヒー」


 頷いてから葵さんと綾音さんもほとんどなくなっているのに気づく。


「葵さんと綾音さんは?」


「自分で淹れるので一緒に」


「あたしは遥と違うからね」


 三人で席を離れ、それぞれ飲み物を淹れて戻ってくる。


「はい。砂糖もミルクもいらないんだよね?」


「ああ。さんきゅ」


 僕からアイスコーヒーを受けとって、またストローを使わずに飲み始める。


「ほんと、よく砂糖もミルクもなしで飲めるよね」


「楓は砂糖入れてもコーヒー飲めないじゃん」


「苦さが勝っちゃってダメなんだよね。アメリカンとか薄くすればなんとか飲めるけど美味しいとは思わないし」


 僕は紅茶にミルクと砂糖を2本入れてかき混ぜて一口飲んだ。少し砂糖が足りなかった。


「さっきの話に戻るけど、それだけ運動神経良かったら体育会系の部活がほっとかないと思うけど、楓は部活何かやってたの?」


「一応中学の頃の所属は剣道部だった……かな」


 ほとんどマネージャーみたいなことしかしてなかったけど、間違いじゃないはずだ。


「剣道ね……剣道ってことは級とか段があるのよね? いくつだったの?」


「去年二段になったよ」


「ふーん。よく分かんないけど二段って凄いんじゃない? やっぱり段っていうくらいだから」


「うーん……」


 どうなんだろう。同級生の中にも二段取っている人はいたし、それほどでもない気がする。


「奈菜は……桜花の友達は楓のこと褒めてたけどな。初段に続いて二段も一発合格でとかなんとか」


「じゃあやっぱり凄いのね。あたしもそういう段とかあるスポーツにしたら良かったかしら」


「綾音さんは部活は何かしてるの?」


「あたしはバレー。ちなみに葵は料理部ね。ついでにもう一人は帰宅部」


「ついでっていうな。ついでって」


「あんたは決まった時間に決まったメニューをこなすなんて無理だもんね~」


「アタシは練習しなくてもそこそこいけるからいいんだよ」


 反論する遥だけど、綾音さんはそれを聞いてにやにやと笑っている。


「葵さんは料理部かあ……」


「うん」


「桜花では剣道部だったし、学園ではそういう文化系の部活に入ろうかな」


「文化系の部活も楽しいよ」


 葵さんが微笑みながら手招きする。


「あら、剣道はやらないの?」


「うん。剣道は元々友達がいたから始めたようなものだし」


「もったいない……」


「まあ楓はそっちの方が似合ってそうだからそれでいいと思うな。それに、剣道ってあの防具着るだろ? よくあんな臭いもの着れるよな。あれ、洗えないんだろ?」


「うん」


「うへぇ。楓はそれやめて正解」


「あんた剣道部員に喧嘩売ってるわよね……」


「事実を言ったまでだ。実際臭いしな」


 ひどい言われようだ。奈菜が聞いたら絶対怒るだろうなあ……。


「ところで桜花では、授業でバレーってやっていたのかしら?」


「うん。数えるくらいだけど」


 まさかバレー部へ勧誘……とかはないよね?


「よし、これなら今度こそ我が二年D組が優勝できそうね!」


 次の言葉に身構えていたら、突然綾音さんは立ち上がってガッツポーズを取った。ここがお店の中だということを忘れているのだろうか。何人かの人がこっちを見てて、少し恥ずかしい。


「何をこだわってるんだか。クラスマッチなんて優勝しても何もないじゃないか……」


 遥が面倒くさそうに吐き捨てた。……ん、クラスマッチ?


「そっちはただのクラスマッチでも、こっちはバレー部部長としてのプライドがあるのよ!」


「プライドなんて捨ててしまえ」


 綾音さんが部長だということに少し驚きつつも、僕は疑問を解決することを優先することにした。


「綾音さん。クラスマッチって?」


「クラスマッチっていうのは、来週の月曜、今日が金曜だから三日後ね。三日後に行われる全校生徒参加の球技大会よ。種目は女子はバレー、男子はソフトボール。一学期のクラスマッチでは準優勝に終わったから今度こそ優勝をいただきたいのよ」


 拳を握って力説する綾音さんから意気込みが伝わってくる。それだけ負けたことが悔しかったのだろう。


 それにしても、よく一学期にクラスの親睦を深めるためにとクラスマッチを行うというのは聞くけど、二学期にもあるのは初耳だ。とくに学園は進学校だからそういうことはしなさそうに思ったけど。


「うちの学校は行事多いから覚悟しといた方がいいわよ」


 僕の様子に感づいたのか、綾音さんがそう付け加える。


「これが終わっても、来月には学園祭で忙しくなるからね」


「学園祭の後には中間テストがあって、そのあとすぐ修学旅行。まったく、このスケジュール考えたの誰だよ……」


「あんたは学園祭中に勉強したこと全て抜けてしまいそうよね」


「どうせ一夜漬けするから問題なし」


「ああ。あんたに予習復習という言葉はなかったわね。忘れてたわ」


「アタシは過去は振り返らないことに決めているからな」


「過去は振り返らなくても、せめて復習くらいはしようね、遥」


 そのあとも僕達はウェイトレスさんに白い目で見られるようになるまで、これから訪れるイベントの話に花を咲かせた。

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