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私(ぼく)が君にできること  作者: 本知そら
第二部三章 楓と遥
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第88話 みんな浴衣

 浴衣に着替えてしばらく部屋でごろごろしていたら夕食の時間になった。


「浴衣のまま行って良いのかしら」


「いいだろ。ほら、みんな浴衣だぞ」


 部屋を出た先の廊下にいる遥が、通りかかったクラスメイトを指差す。みんな浴衣姿だ。


「あらほんと。このホテルは浴衣姿で歩き回って良いのね」


「だいたいのホテルじゃ浴衣OKだぞ。ダメなのはビジネスホテルみたいな洋風のホテルだな。それでも最近じゃ客室階ならOKにしてるところが多いな」


「へ~。そうなのね。だったらそのまま行きましょうか。……場所どこだったかしら?」


「私が覚えてるから大丈夫だよ」


「んじゃよろしく」


 葵さんに続いて大広間へと向かう。途中、何認可のクラスメイトとすれ違った時にじろじろと見つめられてしまった。浴衣の着方でも間違ってるのかな?


「あ、楓さーん」


 階段を降りたところで偶然彩花さん達と合流した。彼女達も浴衣姿で、彩花さんはもうお風呂にでも入ってきたのか、バスタオルをぐるんぐるんと振り回していたし。


「あんた達、もうお風呂入ってきたの?」


「まだよ。ご飯の後にすぐ行けるよう持ってきたの」


 お風呂に入れる時間は決まっている。先に入れるのはたしかB組だったはず。


「楓さんも一緒に入ろうよ」


「え、あの僕は……」


「クラスが違うんだから無理だろ」


 返答に困っていた僕を、すかさず遥がフォローしてくれた。彩花さんは不満そうだけど、こればかりはどうしようもない。


「それに、一緒に入ってどうするつもりなんだよ」


 遥が彩花さんを睨み付ける。でも彩花さんは気にした様子もなく、


「どうするって……ぬへへ」


 ……なんで一緒にお風呂に入るだけで、あんなにも緩ませた表情ができるんだろう。彩花さんが何を想像しているのかは考えない方が良さそうだ。


「どうするもこうするもただ一緒に入るだけでしょうが……」


「お姉さんのあの顔から察するに、だけってことはないと思う。……変態」


 湊さんの表情が険しい。視線を向けられた先の彩花さんが体をぶるっと震わせる。


「なんか寒気が……」


「自業自得だ」


「そんなっ、ボクはただ自分の欲望に正直なだけで」


「それがダメだって言ってんだよ」


 欲望は制御しなきゃ。理性ある人間なら。


 ふと視線を動かすと、彩花さん達の一番後ろにいた蓮君と目があった。……と思ったのに今は別のどこかを見ていた。気のせいだったのかな。まあいいや、と彼の元に近づく。


 身長が高いせいか、彼の浴衣姿はとても似合っていた。なんとも男らしくてかっこいい。


「浴衣、似合ってるね」


 見上げて声をかける。蓮君を見ていると、この身長を少しでも僕に分けてくれたら、と思ってしまう。一八〇もあるんだから、少しぐらい減ってもいいと思う。


「えっ。あ、ありがとう」


 蓮君の態度が余所余所しい。ちらちらと遠慮がちにこちらを見つつ頭を掻いている。


「……楓さんも似合ってるよ」


「うん? 何が?」


「何がって……その、ゆ、浴衣姿が」


「あー。そっか、僕も浴衣だったっけ」


 自分を見下ろし確認する。浴衣だ。当たり前だけど。


「ありがと」


「う、うん」


 礼を言うと、あからさまにそっぽを向かれた。耳が赤くなっているけど……暑いのかな?


「楓」


「なに、遥。――わわっ」


 返事をしたのに、無言で手を引っ張られた。無理な引っ張り方をしたせいで体勢が崩れ、遥に寄りかかってしまった。


「もう、遥危ない」


「悪い」


 悪いと思ってるのならやらないでほしい。


「で、なに?」


「え?」


「何か用があったんだよね? なに?」


 遥から離れて、彼女を見上げる。……あれ。なんかさっきの蓮君と同じ顔をしてる。


「えっとその、だな。ああそうそう。そろそろ行かないと遅れるぞ」


「え、でも出てくるときにまだ時間に余裕あったような――」


「ほら行くぞ」


 有無を言わさず僕の手を取って歩き出す。もしかして怒ってるのかなと思って遥の顔を覗き見るものの、そういうわけじゃないようだ。お腹でも空いたのかな。


「楓、どうしたのよ」


「遥が早く行こうって」


「なに焦ってんだか……。まあ立ち話もなんだし、行きましょうか」


 遅れて綾音さん達も付いてくる。


「だーかーらー。遥だけずるいって!」


 走ってきた彩花さんが僕の空いている方の手を握る。そして和やかに笑いながら、繋いだ手を前後に揺らし始めた。走ってくるまでは不機嫌そうだったのに、今は凄く上機嫌だ。


「楓さん一緒にご飯食べようね」


「いや、大広間は大広間でも、B組は隣の大広間だぞ?」


「うそーっ!?」


 他の階にまで響きそうなほどの大声で叫んだ彩花さんは、驚愕に目を見開いて、僕そして遥と視線を送り、最後に湊さんを見て頬を膨らませた。


 ちなみに、これだけの大声を出したのだから、当然彩花さんの声は廊下の先にあった大広間まで届いていて、聞きつけてやってきたB組の担任の先生に、彩花さんはこっぴどく叱られました。

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