第2話 ”星降り”の夜に
突如中に入ってきた少女ラスリアを見たアレンの脳裏には、一瞬だけ何か映像のようなイメージが映し出されていた。
「・・・あら？お客さん・・・？」
アレンの存在に気がついたラスリアは鍛冶屋の旦那に問う。
「ああ・・・。“今日は祭りの日だから、仕上がりは明日になる”って言ったのに、せっかちなんだよ。この坊ちゃんは・・・」
「ふうーん・・・・」
ラスリアはアレンの方に振り向く。
「はじめまして、旅人さん！・・・今日の宿は決まりましたか？」
「・・・いや・・・」
「じゃあ、帰りがけに私が紹介します・・・っていうより、私の家に来ませんか！？」
そっぽ向いているアレンにかまわず、彼の顔を覗きこむラスリア。
「・・・・近いぞ、チビ」
「・・・え・・・？」
その台詞を聞いたラスリアの表情が固まる。
「・・・初対面の男に顔近づけすぎだって言ってるんだよ、このチビが！！」
「た・・・・旅人・・・・さん・・・？」
物凄い形相で睨まれたラスリアは鍛冶屋の旦那と一緒にポカーンとしていた。
ギィィィィィ・・・
アレンは戸を開けた後に、チラッと彼らの方を向いて言った。
「・・・おい、女！！」
「え・・・はい・・・？」
呆然としていたラスリアは、彼の声を聴いて我に返る。
「案内・・・してくれるんだろ？行くぞ・・・」
前を向いて歩き出したアレンの表情が、普段の無表情さに比べると、少し緩んでいた。
2人が外に出ると、すっかり日の入りの時間になっていた。
「・・・日が沈んだら、始まるのか・・・？」
「え・・・？」
「今夜は“星降りの夜”・・・とか言っていたな。あのおっさんは・・・」
そう呟いたアレンは、沈む太陽の方角を眺めていた。
銀色の髪を持ち、澄んだ緑色の瞳を持つ旅人。この人は一体―――――――？
ラスリアは彼の瞳を見ながら、そう考えていた。
彼女は予感していたのかもしれない。アレンは自分の運命を大きく変える人物ではないかと・・・。
日は沈み、ストでのお祭りが始まった。
村人は酒を片手に、食事をしながら楽しそうに会話をする。“祭り”といっても、このような小さい村なので、何か特別な儀式をするわけではない。今宵の“星降り”に関しても、観測されそうな時間帯に、皆で見るだけだという。
「・・・楽しんでますか？」
テーブルに座って静かに食事をするアレンの目の前に、ラスリアが歩いてきた。
「ご一緒・・・してもいいですか・・・？」
「・・・勝手にしろ・・・」
「では、お言葉に甘えて・・・」
そう呟いたラスリアは彼の向かいの席に座る。
2人の間に沈黙が続く。ラスリアはどう話しかければいいか迷っていた。
さっきはからかいすぎたかな・・・？
彼女を見て、ふとそう思ったアレンの重たい口が開く。
「“イル”・・・って知っているか・・・？」
「え・・・？」
初めて聴く言葉に、ラスリアは食べる手を一旦止める。
「いえ、知らないです・・・。何なんですか・・・？」
彼女の台詞を聞いたアレンは深刻そうな表情をする。
「古代語で、イルは“心”という意味らしい・・・。だが、“心”に形がないように、その形状も全く不明だが・・・」
「・・・それを、あなたは・・・」
「アレンだ」
「あ、えっと・・・。それを探すために、アレンさんは旅をしているのですか・・・？」
「まぁな・・・」
ボソッと呟くアレン。
初対面の人間に、なんでこんな事を話しているのだろう・・・・？
アレン自身も不思議でたまらなかった。
しかし、ラスリア（こいつ）を見た時に頭の中に映ったビジョン・・・。あれのせいなのかもな――――――――――
アレンは考え事をしながら、シチューを口に入れる。2人は互いに黙り込んだまま、祭りの時間が過ぎていく。
「おい！！あれ・・・・・！！！」
村人の一人の叫び声と直後、アレンとラスリアは我に返る。
気がつくと、南の方角から無数の星の光がこちらへ向かって飛んでいるのが見える。このストという村は、世界地図から見ても割りと北側に位置するため、“星降り”は南方から北上してくるように見えるのだ。
「すごい・・・まるで、流れ星みたい・・・・！」
初めて見る光景に、ラスリアは感激していた。
祭りを楽しんでいた村人達は、皆が同じ方角を見ている。
※
「来る・・・・」
「えっ?」
ラスリアの後ろでアレンがボソッと呟いたが、彼女は何を呟いていたのか聞こえていなかった。
すると、流れ星のように地上へ降り注ぐ星の内、一筋の光が、この村の方へ向かってくる。
カッ！！！
向かってきた星の光は、村の広場に植えられていた1本の木に当たり、周囲が一瞬だけ眩しくなる。
「きゃっ・・・」
ラスリアやその場にいた全員が瞬時に目を閉じた。
数秒後・・・光が消えた事を感じ取ったラスリアは恐る恐る目を開く。彼女の黒い瞳が最初に映し出したのは・・・アレンだった。本人は、光が当たった木の方を向いて、床に座り込んでいる。
「アレンさん・・・？」
何か違和感を感じたラスリアはアレンの名前を呼び、恐る恐るその肩をポンと触る。
えっ・・・・・・！！？
ラスリアは何か熱いものに触れてしまったような勢いで、アレンの肩から手をどかす。
なんか、得たいの知れないモノに拒絶されたような―――――
ラスリアは驚きを隠せない状態で黙り込んでいた。
彼女は、他人には教えていないけれど、幼い頃から不思議な能力を持っていた。一つ目は、生まれつき回復魔法が使えること。二つ目は、右手で何かに触れた時、稀にその触れた人から何かを感じ取れる能力の２つだ。後方の能力は、気まぐれのように起きるので、あまり便利なモノとはいえない。
今まで何度か、他人（人）の「何か」を感じ取って来たけど・・・こんな風に拒絶されるような反応を見せるなんて、初めてだわ・・・・
ラスリアは自分の右手を見つめながら、一人考え事をしていると・・・
「おい・・・！！」
「え・・・・」
気がつくと、自分の目の前にアレンが立っていた。
「祭りの片付けを少しやるから・・・って、あんたの姉さんが呼びに来てたぞ」
「あ・・・そっか・・・」
“星降り”など、祭りのメインイベントが終わった後はいつも、片付けを開始する。しかし、時間帯は既に宵の刻のため、できる範囲で片付けをした後、残りは翌日に行うのが、いつものパターンである。
「はい、わかりました・・・！じゃあ、私は片付けをしてから帰るので、アレンさんは、私の家に戻っていてください！」
「・・・そうさせてもらう・・・」
そう言い残したアレンは、ラスリアの家の方へ歩いていった。
さっきのは一体、何だったんだろう―――――
不思議でたまらないラスリアは、姉の下へ首をかしげながら歩いていく。
※
星の光が俺に告げたあの言葉――――――
ラスリアの家に到着し、鍵が開いていないので、アレンは家の外で彼女達を待ちながら考え事をしていた。
彼は見た目で判断すると20歳くらいの青年だが、本人はそれ以前の記憶が全くない。そのため、自分はどこで生まれて、なぜ旅を始めたのかすらわからない。ただ一つわかるのは、“イルを必ず見つけなくてはいけない”という事だけ・・・。
ラスリア・・・とかいったか・・・。それにしても、“黒髪の少女と連れて行け”なんて・・・・声の主は、俺に何をさせたいのだろうか・・・・？
一人考え事をしながら、アレンは座り込んでいた。
いかがでしたか？
物語を読んでいて、アレンとラスリアは性格がまるで違う事をご理解いただけたかと思います。
今回の主人公は、割と寡黙な青年のため、ヒロインのラスリアは彼を引っ張っていくような光景が、既に頭の中にイメージされています。
物語の概要は、大分先まで考えているので、少しずつ整理しながら書いていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
