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第16話 天使と悪魔

今回は、ミュルザの視点からスタートです。

 “異質な存在”――――――

自分の事をそう言った表現で口にしたとき、何か変なかんじがした。

俺・・・ミュルザは、イブールという魔術師と行動を共にする悪魔。異質といえば確かにそうだが、自身に対してそういった価値観を持ったことはなかった。

 

研究室で倒れていたアレンをラスリアの元へ行くよう促した後、人間には見えないくらいの速さで、コミューニ大学の校舎を走り回るミュルザ。

 この建物に入ってから、妙な気配は感じていたが・・・今は、はっきりと感じる・・・・。魔物が現れたのも、もしかしたらそいつらの仕業かも――――――

走り回りながら考え事をする。

「!!!!!」

何かに身体が反応したのか、その場に立ち止まるミュルザ。

立ち止まった場所は、生徒があまり使わなそうな階段だった。

「・・・コソコソしてないで、さっさと出てくるんだな」

そう呟いて上を見上げるミュルザの瞳は、血のように真っ赤であった。

これは、悪魔が敵に対して威嚇行動を取ったり、特殊能力を使う際に起こる現象である。すると、カツンカツン・・・という靴の音と共に水色の髪色をした女性が現れ、ミュルザの方に視線を持っていく。


「人間界で、お前のような奴を見かけるのは・・・初めてだな・・」

「・・・・それは、こちらの台詞です」

その直後、ミュルザからは黒い翼が。そして、水色の髪を持つ女性の背中からは白い羽が現れる。

「・・・・なんで、“天使サマ”が人間の味方をする!?」

「そういう貴方こそ・・・悪魔のくせに、随分とあの女性に入れ込んでいるようだけれど・・・?」

ミュルザが“天使”と述べる女性は、彼の質問に質問で返してきた。

 天使―――――文字通り、“天の使い”である白い羽を持った種族。“神の使い”とも言われるが、ここで言う“神”は天地創造をした存在ではない。ただ“自分が唯一絶対の存在である”という歪んだ考えしか持たない生命体の事を指す。

「・・・雑魚の魂を貪るのには飽きてしまったからな。・・・お楽しみは最後に取っておいているだけさ・・・!」

そう語るミュルザの表情は狂気に満ちていた。

「くだらないわね・・・」

「そういうてめぇの方こそ!!」

天使がボソッと呟いた直後、反論するかのように叫ぶミュルザ。

「使い魔を利用して、俺達を後ろから尾行していた野郎・・・。あれがお前のご主人様だろう?・・・どう見ても精神がいかれていそうな奴なのに、不浄を嫌う天使あんたが従うなんて、反吐が出るね・・・!」

馬鹿にするような表情で、ミュルザは相手を皮肉る。

 彼らの間に緊迫した空気が流れる。天使と悪魔は、古代より争いが絶えず、永きに渡って対立している関係。相容れない存在なのだ。

「・・・私はただ、“命令”で動いているだけ。それさえなければ、あんな汚らわしい男に力を貸したりしないわ」

真剣な表情で、その女性は述べる。

彼女の髪が少し揺れた時、前髪の隙間から何か痣のようなモノがちらりと見える。それを見逃していなかったミュルザが、首をかしげながら口を開く。

「あんたの額にある刺青・・・。それって確か・・・・」

「!!!」

彼の台詞を聞いたとたん、女性の顔色が激変する。

「ここは、人間が多くいる場所・・・。あの男の事もあるから今日はここで退散するけど、次に会った時は容赦しないから・・・・!!」

「あ・・・おい!!!」

翼を羽ばたかせる音が一瞬聴こえたかと思うと、ミュルザの頭上に先ほどの天使はいなくなっていた。

 奴の額にあった刺青・・・あれは確か、堕天使の刻印――――――

自分が持つ黒い翼を収めたミュルザは、あの堕天使がなぜ人間の味方をしているのかを考えながら、アレン達のいる方向へ歩き出す。


「お!イブール姐さん!!」

イブールの気配をたどって進んだミュルザ。

そこにはアレンやラスリア。そして、ロレリア教授もいた。

「ミュルザ・・・あんたってば、今までどこにいたのよ!!?」

いつもと変わらぬ態度で、イブールの怒号が飛んでくる。

「悪ぃ悪ぃ!!ちょっと、町中をうろついてたもんで・・・」

とりあえず、いつもの軽い口調で受け流そうとするミュルザ。

 イブールには、後で話しておかなくてはな・・・・

笑顔で会話する一方、内心はそう思っていた。

「あー・・・・ゴホン!!」

気がつくと、わざとらしい咳払いをしているロレリア教授おっさんが自分たちの横に立っていた。

「あ・・・ごめんなさい、教授」

「いや、構わないのだが・・・わたしは講義もあるので、ここいらで失礼するよ」

そう言って、ソソクサと退散していった。

 ・・・どうやら、寂しがりやのおっさんみたいだな・・・・

歩いていくロレリア教授を見て、ミュルザは思う。彼は普通の人間の心が読めるため、どんな言葉を発しようとも、嘘か真実かは手にとるようにわかる。

「さて・・・と。私の用事も終わった事だし、アレンの用事を済ませましょうか!」

「・・・頼む」

 アレンとイブールの会話が終わった後、”イル”に関する情報を調べるため、大学内にある図書館へ向かい始めた。ラスリアとイブールは女同士で他愛もない会話をしながら進み、アレンとミュルザは黙ったまま進んでいた。

 …野郎と2人で歩く趣味はねぇが、女2人の会話に割り込む気はなれねぇな…。

アレンをチラッと見ながら、ミュルザは考える。


「おい…」

「…なんだ?」

アレンの方から話しかけてきたので、一瞬戸惑うミュルザ。

すると、アレンは低い声で話し始める。

「あんたは…”イル”の事、本当は何か知っているんじゃないのか?」

その台詞を聞いたミュルザは一瞬黙る。

しかし、思い出したかのように話し出す。

「確かに…俺は人間(お前ら)より長く生きているから、いろいろな事を知っている。…しかし、”星の意思”に関する事だけは、何も知らないな…」

 そもそも、悪魔は”星の意思”については関わろうとしねぇから―――――――

アレンに告げた後、一瞬だけそう考えた。

「ついでに言っておくと、俺はあんたの心だけは読めない」

「…どういう事だ?」

ミュルザの台詞に、アレンの表情が険しくなる。

「そのままの意味だよ!俺が言うのもあれだが、お前も人間じゃない”何か”かもな…」

「そうか…」

その後、2人にまた沈黙が訪れる。

 悪魔が心を読める生き物というのは、太古の記憶によりある程度知っている奴らばかり…。アレン(こいつ)のように心の読めない生き物っていうのは、相当やっかいな連中…って事になるのかもな―――――

歩きながらミュルザはそんな事を考えていた。


          ※


 図書館に向かう途中で私はラスリアと普通に会話をしていたけれど、他人に興味を持たないミュルザと、割と無愛想なかんじのアレンが2人で会話をするなんてめずらしいな…

図書館に到着後、本を物色しながらイブールは考える。

図書館に到着したイブール達は、「ここでは一般人も本の閲覧ができる」とアレンやラスリアに告げ、各自調べ物を開始していた。本棚越しに見えるアレンとラスリアを見ると、2人は違う本棚を眺めている。アレンはいつもと変わらず無表情だが、ラスリアの表情は冴えない。

 何があったのかは知らないけど、魔物トロルに襲われたりすれば、普通は沈むわよね…

「今はそっとしておこう」と考えたイブールは、星命学関係の本を探し始める。すると…

「イブール姐さん」

「あら、ミュルザ!…どうしたの?」

隣にミュルザが来て、彼女に声をかける。

「ちょっと、話が…」

 

 その後、イブールとミュルザは図書館近くにある人気のない場所へ行った。

「話って何?」

移動中、いつもは何かしら話しかけてくるミュルザが黙ったままだったので、到着後、イブールはすぐに話を切り出す。

「…この校舎内に魔物が出没していた時、俺は珍しい奴を見た」

「え…?」

急に真剣な表情をして話し出したので、イブールはドキッとした。

「”珍しい奴”なんて言葉、あんたが使うのも変なかんじだけど…なんだったの?」

「…天使だ」

「…は…!!?」

あまりに予想外の言葉に、イブールはつい声を張り上げてしまう。

その後、イブールは声量を小さくして話す。

「…まぁ、悪魔あんたみたいな生き物がいるのだから、天使がいても不思議ではないけれど…。でも、なんでまたコミューニ大学(こんな所)に…?」

星命学を勉強するイブールの周囲には型破りな思想を持つ人が多かったため、この突拍子のない話に対して、すぐに理解を示す事ができた。もっとも、悪魔と”契約”をしている時点で、イブールは普通の人間とは異なる人生を歩んでいるわけだが―――――――


「どうやら、天使そいつも俺と同じように、とある人間についてるみたいだ。…奴の目的はわからないが、本題はそいつではなく、そいつが味方をしている人間のほうだ」

「天使が側にいるくらいだから…そいつも”特殊な人間”って所かしら…」

イブールが腕を組みながら考え込む。

「…その人間は、おそらくラスリアを狙っている」

「え…」

ラスリアの名前が出たとたん、イブールの表情が凍りつく。

だが、イブールはチラッとミュルザの顔を見る。彼の表情が深刻になっているのが、見てすぐに気がついた。

「”おそらく”…なんて、あんたらしくない曖昧な表現ね?」

「…多分、あの天使が周りをうろついているから、考えている事が読みづらいんだろうよ」

イブールの台詞に、ミュルザは皮肉っているような口調で答えた。

その後、ミュルザは一息ついた所で会話を再開する。

「ラスリアちゃん…。彼女は古代種”キロ”の生き残りだ」

「…そういう事…」

”ラスリアが狙われている”という事実がわかったとき、「なぜ彼女か」と疑問に思っていた。しかし、絶滅したと思われている古代種であるのなら、納得ができる…イブールはそんな表情をしていた。

「という事は、その男…ライトリア教の関係者というかんじね…」

「ライトリア教ね…」

そう言って、ミュルザは鼻で哂う。

しかし、そんなちょっとした仕草に対して、イブールは気にも留めていなかった。

 星命学を元にした宗教であるライトリア教における古代種”キロ”は、”星を切り開く民”として、教団の中で神聖視されている存在である。しかし、古代大戦によってその数が激減。彼らを味方につければ、世界の発展と共に教団の権威も強くなる―――――――――教えとは裏腹に、そういった野望を持つ彼らがキロの生き残りを探すのに対して、躍起になっているのをイブールは知っていた。

「ここ周辺は兵士共が目を光らせているから大丈夫だろうが、これからは注意してやった方がいいかもな」

「…軽い気持ちであの子達を選んだのに、どうやらすごいのに当たってしまったようね…」

イブールが頭を抱えながら、ため息をついた。

すると、ミュルザは彼女の耳元でささやく。

「…だが、あいつらみたいな連中と旅した方が、”目的の奴”に早く逢えるかもしれないぜ…?」

「……」

「人間って奴は、特異な存在同士だと惹かれあうようにできている…。俺がお前の魂を頂戴する日も、近くなりそうだな…」

そう呟くと、ミュルザの唇がイブールの首元に触れる。

「…私は、”奴”を見つけて殺すまで、絶対死ぬわけにはいかない…。両親を…殺した奴を見つけるまでは…!」

ミュルザがイブールの身体に触れている一方で、彼女の瞳は憎悪に満ちていたのだった…。


いかがでしたか。

初期設定でのイブールとミュルザの関係はこんなモノではなかったのですが、ミュルザを”悪魔”という設定にしたらこんな風になっちゃいました(苦笑)

でも、主人公のアレンとラスリアのペアが純な雰囲気なので、対照的で良いかなとも思います。


話についてですが、イブール・ミュルザペアはラスリアが古代種の末裔である事を知りましたが、本人はまだアレンにだけは話していません。

次回以降では、最後の主要キャラであるチャスが登場してくる事になりますが、彼らの関係はどうなるのか!?


次回はセリエル編となりますのでよろしく!

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