第15話 治癒魔法
<前回までのあらすじ>
アレン達は”イル”の手がかりを求めて、学術都市アテレステンにあるコミューニ大学を訪れていた。
イブールの師でもあるロレリア教授との会話中、突如意識を失ってしまうアレン。
その後、アレンを介抱していたラスリアだったが、研究室の外から悲鳴が聞こえ・・・
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「逃げろぉぉっ!!!!」
コミューニ大学内に突如現れてたトロル。
周囲にいた大学関係者は、皆パニックになっていた。
ドガァァァン!!!
トロルが棍棒を一振りしただけで、中庭にあった銅像が粉々に砕けてしまう。
どうして、こんな所に魔物が――――――――――
そう考えているや否や、トロルの青白い瞳がこちらへ向く。
「あれ・・・・・?」
魔物を正面で見たとき、ラスリアは首をかしげながら違和感を感じる。
トロルは本来、知能が低いって聞いたことあったけど・・・・。あれは、まるで・・・・
「そこのお嬢さん!!下がりなさい・・・!!」
すると、目の前に甲冑を身にまとった兵士が何人か現れる。
おそらく、国の兵士であろう。
「はい・・・」
少しずつ後ろに下がるラスリア。
「この・・・なんで、コミューニ大学に魔物が!!?」
「とにかく、こいつを倒すぞ!!!」
そう叫びながら、この4人の兵士達がトロルに立ち向かう。
すると、魔物は近傍を持った左手を思いっきり振り回す。
「ぐわぁぁっ!!!」
「ぎゃぁぁぁぁっ!!!!」
剣を持って立ち向かう彼らだったが、トロルの一撃でそれぞれが壁に吹き飛ばされてしまう。
なんていう怪力(力)・・・・・!!!
トロルの馬鹿力を目の当たりにしたラスリアは、つばをゴクリと飲み込む。
「!!!!」
気がつくと、トロルがラスリアの目の前まで移動していて、しかも腕を振り上げていた。
「きゃぁぁっ!!!」
物凄い轟音と共に振り下ろされる棍棒。
ラスリアは何とか避けたが、彼女が立っていた地面に大きなひびが入る。
「黒髪・・・・・女・・・・・・・・・」
「え・・・?」
トロルがうわ言のように何かを呟いている。
「キ・・・ロの・・・・・末・・・裔・・・」
「!!!!」
まさか、こいつの狙いは・・・・私・・・・!!?
本能的に「逃げなくては」と感じ取ったラスリア。しかし、先ほどの攻撃を避けてから床に座り込んでしまい、彼女の足がガクガクと震えていた。
足が動かない・・・・・どうして!!?
逃げようにも逃げられないラスリアにお構いなく、トロルはゆっくりと彼女に近づいてくる。
いや・・・誰か・・・助けて・・・・!!
怖くて声が出なくなっているラスリアは心の中で叫ぶ。トロルが腕を振り上げ、彼女に手を出そうとした瞬間・・・
「ラスリア!!!!」
彼女の名前を呼ぶ声が聞こえる。
ドガァァァァン!!!
物凄い音が周囲に響いたが、ラスリアは自分を誰かが抱きかかえているのに気がつく。
視線を上にずらすと、銀色の髪が彼女の頬に触れる。そこにいたのは、息切れしながらラスリアを抱きかかえるアレンの姿があった。
※
ラスリアがトロルを確認する数分前・・・・
「一体、何が・・・・」
ラスリアが研究室を出て行った後、ボソッと呟きながら立ち上がろうとするアレン。
「っ・・・・!」
立ち上がった瞬間、少しだけ眩暈に襲われる。
貧血・・・ではないはずだが、何だか気持ち悪い気分だ・・・
顔が真っ青になっていたモノの、何とか外に出ようと試みる。すると―――――――
「アレン!生きてっか!?」
「お前・・・」
なぜか窓際に、ミュルザが立っていた。
「一体、外で何が・・・・?」
頭を抱えながら話すアレンにミュルザは言う。
「・・・問題なさそうだな」
「!!?」
「・・・よく聞け、アレン。どういうわけだか、この大学校舎内に魔物が現れた」
「何!!?」
“魔物”の言葉を聞いたとたん、がバット身を乗り出すアレン。
「早く倒さねば・・・・・!!!」
大学校舎内のため、当然魔法を使うことは許されない。だから、尚更、剣などの打撃で倒さなければならない。
一刻も早く向かおうとするアレンに、ミュルザが軽く制止する。
「お前なら気がついているかもしれんが・・・この大学に、俺みたいな異質な存在がもう一人いる・・・」
「何・・・だと・・・・?」
悪魔みたいな異質な存在・・・・?
何のことかとアレンは考えていると
「あーもー、思考ストップ!!とにかく、俺はその“異質な存在”を確かめてくるから、お前はラスリアのところにでも行ってやれ・・・!!!」
そういったやり取りがあって、現在に至る。
「ラスリア!!!!」
大学の校舎内を走り回っていると、魔物に襲われているラスリアを発見する。
彼女を抱えて逃げた事で、魔物の攻撃から助け出すことはできたが、寝起きの運動がきつかったのか、息切れをしているアレン。少し落ち着かせた後、口を開く。
「・・・・大丈夫か?」
「ええ・・・大丈夫よ!」
苦笑いでそう頷く。
気丈な表情をしていたラスリアだったが、手が微かに震えていた。
本当は怖いはずなのに、無理しやがって・・・
表情は笑顔なのに、内心は怖がっているラスリアを見て、なぜか「守らなくては」という想いに駆られる。
なんだ・・・このかんじは・・・・!!?
「人を守りたいという気持ち」を知らなかったアレンにとって、この想いは生まれて初めてのモノであった。
「・・・お前は下がっていてくれ」
トロルから少し離れた場所でラスリアを下ろしながら、アレンは低い声で呟く。
「・・・・!!」
ラスリアを庇うようにして抱きかかえたせいか、魔物の攻撃が少し掠ったようだ。
「アレン・・・腕・・・」
ラスリアが、血の出ているアレンの二の腕に視線を向ける。
「ああ、これか・・・。全く問題はない・・・」
棍棒の先っぽが当たったのか、少しだけ痛む二の腕。
「でも、戦っているうちに骨が・・・なんて事になったら、取り返しがつかないし・・・」
そう呟いたラスリアは、怪我をしている方の腕を掴む。
パァァァァッ・・・
ラスリアがその黒い瞳を閉じたかと思うと、彼女の手が光りだす。
「これは・・・・」
気がつくと、傷口がみるみると塞がっていく。
これは・・・治癒魔法・・・・・・!!?
どんな魔法かは知っていたものの、初めて目にした治癒魔法に対して、アレンは驚きを隠すことができなかった。そして、二の腕に負った傷は、あっという間に治ってしまった。
「助けてくれてありがとう、アレン!」
「あ・・・・・ああ・・・・」
このとき、柔らかい笑顔で礼を言ってきたラスリアに、アレンは少しドキッとする。
気を取り直して、トロルに剣を向けるアレン。
ガキィィィン!!!!
彼の剣とトロルの棍棒が当たったとき、耳を塞ぎたくなるような音が中庭に響く。
幸い、トロルは怪力が取り柄の魔物で動きも鈍いため、この後はあまり苦戦することなく倒すことができた。
アレンはこの時に戦っていたから気がついていなかったが、この時、物陰から彼とラスリアのやり取りを眺めている人間がいた。
「“あれ”が言っていた通りだ。・・・あの娘は、やはり・・・」
独り言をつぶやきながら、ほくそえむ男。
その片手にはトロルが封印されていた本がある。そして、魔物が倒されたのを確認した男は生徒たちのいる方へ去っていくのだった―――――――――
いかがでしたか。
この回を読まれた事で、ラスリアが古代種族「キロ」である事はすぐにわかると思います。
しかし、まだアレン達には教えていないので、知っているのはラスリア本人と、この作品をお読みになっている皆様のみです。
私は”既にわかりきっているけど、登場人物たちには知られていない”という書き方がこれからも多いと思いますが、よろしくお願いします!
ご意見・ご感想、そして評価の方をお待ちしています!!
たくさんの方にお読みいただければ幸いです♪