第10話 猟奇殺人
今回、1文だけ少し残酷な表現が入り混じっているので、苦手な人は読まない事をオススメします。
「悪魔」――――――人間を含む、全ての生物が持つ負の想念から生まれた生物。「天使」と敵対関係にあり、一説では“神が堕落した存在”という話もある。皆が一様に黒い翼を持ち、鋭い牙を持つ。能力の強い悪魔は人間の姿をとって、時折、人の手によって“召喚”される事で世界に現れる事も少なくない。恨み・絶望・恐怖といったあらゆる負の想念を好む。そして、元は「神」だったとされる事から、彼らを崇拝する「悪魔信仰」なるモノも、人々の知らぬ所でひっそりと動いているのだった。
「・・・ちょっと、セリエル!あたしの話、聞いてるの!?」
「え・・・?」
軍が運営する寮で暮らしていたセリエルはこの日、同室のルミナと朝食を摂りながら会話をしていた。
彼女の話をあまり聴いていなかったセリエルは、きょとんとした表情でルミナを見る。
「あ・・・ごめんなさい。あまり、ちゃんと聴いていなかったわ・・・」
セリエルの台詞の後、ルミナはため息をつきながら口を開く。
「全くもう・・・。だからね、もう4人目なのよ・・・!!」
「“4人目”?」
「・・・私達のいるこの街で起きた連続猟奇事件・・・。しかも、殺されたのは皆女性で、身体をめった刺しになっていたのよ・・・!!」
最初は低い声を出していたが、次第に怯えた表情になりながら話すルミナ。
「猟奇殺人ねぇ・・・」
「あーもー!!!なんで、そうセリエルは落ち着いてられるのかなぁ!!?」
「・・・もっと恐ろしい事を知っているからかしら・・・」
周囲で殺人事件が起きているにも関わらず、落ち着いててどこか他人事のような表情をするセリエル。しかし、彼女の呟きだけはルミナには聞こえなかった。
自分が“世界を滅ぼせてしまう存在”なんだし、そんな殺人事件ごときで「怖い」と感じる事はないでしょうね・・・
コーヒーを飲みながら、セリエルはふと窓の方に視線を移す。
軍司令部に近い場所にあるとはいえ、この寮の場所自体は住宅街のど真ん中。朝は犬の散歩をする人や、軍事学校に通う学生の姿が寮の窓からよく見える。
「・・・あら?」
「・・・ルミナ??」
セリエルのが振り向くと、ルミナが何かを見つけたような表情をしていた。
「・・・どうしたの?」
「・・・何か今、誰かに見られていたような・・・」
「え・・・!?」
その言葉を聞いた瞬間、セリエルはバッと身構える。
「あ・・・ごめん、セリエル!やっぱり、気のせいかも!!」
何かを感じ取ったのかと思いきや、すぐに普段の表情に戻るルミナ。
「・・・行きましょ、セリエル!始業時間には遅れないようにしないと・・・」
ルミナは口を動かしながら、朝食の食器を片付けるために席を立つ。
その時の表情に戸惑いと不安が入り混じっているのを、セリエルは気がついていなかった。
「・・・女性の連続猟奇殺人・・・?」
お昼の時間帯となり、セリエルは軍の食堂でナチと今朝していた事件についての話を持ち出した。
「ああー・・・。そういえば、憲兵司令部に勤めている同期が、そんな事件の話をしていましたね・・・」
「具体的に言うと、どんな事件だったの・・・?」
セリエルがナチを見つめる。
少しドキッとしたナチだったが、すぐに声を小さくして話し出す。
「・・・新聞とかでは“刃物で切り裂かれた”とされていますが、本当はそれだけじゃないんです」
「どういう事?」
「凶器は鋭利な刃物ですが、被害者は皆、未婚の女性で、全身の血が抜かれた状態で殺されていたらしくて・・・」
「血が抜かれた・・・?」
深刻な表情になるセリエル。
事件の内容が残酷なのに、怖がるスキもないセリエルに、ナチは首をかしげながら見つめていた。
「こんな事件が続くのは、治安の悪い証拠です。・・・セリエルさんだって、同じ女性として無関係ではないんですから、気をつけてくださいね?」
「・・・そうね、気をつけておくわ・・・」
そう呟いたセリエルの瞳には、友人であるルミナの姿が映っていた。
ルミナ・・・・?
彼女の視線の先にいたルミナは虚ろで、何も見えていない表情のように見られた。
普段は元気で世話好きなルミナの変わった表情に、セリエルは違和感を感じていた。
それから、数日後・・・・。
「それでは・・・失礼します、セリエルさん!」
「ええ、お疲れ様」
1日の業務が終わり、セリエルはナチと別れて寮へ向かおうとしていた。
そういえば、ルミナ。司令部には来ているのに、寮には帰ってきていないな・・・
ここ2日間ほど、仕事はしているが、寮には帰ってこないルミナの事をセリエルは気にしていた。
買いたい物があるのを思い出した彼女は、来た道を引き返し、お店が立ち並ぶ通りへ向かう。
「あら、軍人さんじゃない!いつも、お勤めご苦労様です」
「はぁ・・・」
必需品の買出しに来て、セリエルは軍服のまま来た事を少し後悔していた。
今会話していたお店の人はああ言ってくれるが、一般人でも軍人を嫌っている人は少なからずいる。だから、他の軍人もプライベートの際は私服に着替えて街をうろつく事の方が多いと言われている。一通り買い物を終わり、今度こそ寮に帰ろうと思った瞬間・・・
「っ・・・・・!!!?」
何かを感じ取ったのか、セリエルの全身に鳥肌が立つ。
この悪寒は・・・凍りつきそうな感覚は・・・何・・・・!!?
これを「第六感」とも呼ぶべきなのか。この時、セリエルは今まで感じ取ったことのない“何か”を感じ取っていた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
「!!!?」
割と近い場所から、女性の悲鳴が聞こえてくる。
何があったのかとその場へ駆けつけてみると、そこには床に座り込んだ女性の姿が・・・
「どうかしましたか・・・!?」
座り込んでいる女性の目線に合わせて、セリエルは横から声をかける。
顔が真っ青になっている女性は、全身を震わせながら、前方を指差す。
「あれ・・・・・・」
「“あれ”って、一体何が・・・?」
その後、女性が指差している方向をセリエルは見る。
「・・・・・・!!!!!」
自分の視線の先にあるモノを確認した時、セリエルの表情は激変する。
そして、驚きの余り声を失う。
どうして・・・こんな事に・・・・・!!?
普段、余り驚いた表情を見せないセリエルの表情を固まらせたのは・・・四肢をめった刺しにされ、全身の血を抜かれたルミナの変わり果てた姿であった――――――
いかがでしたか。
今回は、これまでのと比べると、1話分が短く感じられたかもしれません。
これは、話の展開的に”ここで区切っておこう”と考えた末の量となっています。
話についてですが、セリエルは寮暮らしとなってますが、ちなみにナチは実家暮らしなので、彼女とは少し離れた場所に住んでいるという設定です。
ちなみに、”憲兵隊”は今で言う警察官みたいな役目をする軍人さん達ですね☆
なぜ、ルミナは殺されてしまったのか!?
セリエルが感じた悪寒は何を意味しているのか?
次回以降をお楽しみに♪
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