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例えば勇者の模造品  作者: 零月零日
第一章
5/33

第一章 RPG.4

今回は用語が多いです。

11/30、感想で指摘を受け、若干変えました。

2/5、一点変更。



「意外と律儀だな。俺は何を奢れとは言わなかっただろ? そこらのジュース一本でも良かったんだけど」


「そういう訳にはいかないわよ……。負けは負けだもの。安心して。ちゃんと私の奢りだから」


 愛葉の意外に素直な一面を見ながら、ほっと安心したように溜息を吐くナイン。

 夕方、彼らがいるのは普通の家族向けのレストランだ。先ほどの勝負の結果、愛葉がナインに食事を奢るために来た場所である。幸いかどうかは定かではないが、客は家族連れが多く、彼女達が浮く事はなかった。

 価格は家族向けと言う事も有り、無難にワンコイン、もしくは一枚で頂ける料理ばかりだ。

 しかし、このナインと言う少年に取って、ファーストフードと呼べる価格以上の料理は、実は食べた事が無かった。食べたいとも思わなかったが。

 そして、もしも奢りではなかった場合、臨時皿洗いのバイト君になってしまうような手持ちでもあった。


「ありがとう!」


「……………………そんなにお金がなかったの?」


 先ほど自分を殺そうとした相手に感謝するナイン。それを複雑そうに眺める愛葉。

 ナインの前には、ハンバーグ定食。愛葉の前にはシーフードパスタが並んでいる。

 二つ合わせて税込み千円(内訳、ハンバーグ480円、シーフードパスタ520円)、それで殺人未遂事件は穏便に、平和的に解決を迎えていた。


「アンタ、本当に大丈夫なの?」


「…………実際はそんなに大丈夫ではない」


 愛葉は、ナインの財布と先ほどの戦闘を気遣っており、ナインは、自分の先ほどのダメージを語っていた。


「そうなの?」


 きっと財布の中身の話だろう、と愛葉思う。なんだかんだ言って、結局自分はこの少年に傷一つ付ける事は出来なかったのだから。

 しかし、ナインは若干とがめるように愛葉を見て言った。


「あの攻撃が魔力で創られた雷だったら、ノーダメージだっただろうけどな。『魔法反射壁』で完璧に抑えられた。が、あれは天然物の雷撃……っていう表現は変か。そんな事はどうでもいいが、アレは正直まずかった。アレを受けて死なない奴なんてほとんどいないと思う。だから、使う相手を選んだ方が良いと忠告させてもらうかな」


「…………へえ。そう、今度から気をつけるわ」


 愛葉はさらりと言われたノーダメージ発言に若干むかっと来たが、しかし負けは負けだと諦める。そして、逆に自分がこの少年を追い込んだ事に驚いてた。

 これまでの戦い、確かに少年はダメージを受けたと言い続けて来たが、それはどこか余裕のある台詞だった。しかし、今回ばかりは本当に危なかったらしく、茶化したような台詞が戦闘後には見られなかったからだ。

 まあ、本気を出したのだから、それくらいの反応が無いと困る、というのが本音だったが。


「でも結局、アンタ無事なのよね」


「まあな」


 ナインは忠告をほとんど聞いていない愛葉に若干危機感を覚えるが、それ以降は何も言わなかった。

 時代は、勝つ事を求めている。

 相手の生存に関わらず。

 


 この世界に魔力が満ちている事の証明は、奇しくも戦争中だった。

 戦争、数年前でありながら今とはまるで違う世界、世界がまだ科学だけを発展させていた時代。

 宇宙からの侵略者に地球の科学は乗っ取られた。科学兵器は歯が立たず、情報は筒抜け、地球人の滅亡が眼に見えた、その時だった。

 その人物達は、たった七人で侵略を止め、そして侵略者を滅ぼした。

 放たれた銃弾は空中で止まり、天候は指を鳴らすだけで変わる。爆発は時空の彼方に消え去り、死者は傷を治され甦る。

 いくらか誇張されてはいるが、それはまぎれも無くその当時起きた事。

 世界の法則を丸ごと変えてしまうような出来事。

 それは奇跡としか形容できないような事件。


 まさしく、魔法。


 七人の一人、現日本首相、秋山雪日(あきやまゆきのひ)は言った。


『世界には魔力が満ちている』


 そして現在、世界は魔力の存在を認め、それを用いた技術開発に当たっている。

 魔力の証明から数年、まだ魔力については解らない事が多いのは事実だ。

 だが、高々数年で世界がここまで変わったのも、事実だった。



「ところで、アンタ。魔法ってどういう事? 私の聞き間違いならいいんだけど」


「……魔法は、魔法だ」


「ってことは、アンタ魔法使い!? でも、ランクがあるし、スキルを持ってるのよね?」


「そう。だから、魔法使いとは違う」

 

 魔力の存在が世界的に認められ、侵略者には扱えない特殊なエネルギーとして開発が進む中、その問題は生まれた。

 特殊な体質、血統を持つ者でしか魔力は扱えないという問題。

 生まれながらにして魔力を扱える者……彼らを、魔法使いと呼ぶ。

 ただの一般人が念じては、指先に火が灯る事も、空を飛ぶ事も出来ない。

 だからと言って、魔力を扱える人間だけを兵士として育成するのは、人種差別、ひいては魔法使いの独裁する世界となってしまう。

 なんとかして、魔力を誰でも扱える物にしなければならなくなった。

 そこで生まれたのが、『スキル』だった。


 特殊な機器を用いて、魔力をエネルギーとして変換できるように脳にプログラミングを行い、魔力変換機とする。内容、『スキル』は、人によって違う。脳の処理能力が人によって違うからだ。

 例えば、魔力を炎に変換するスキル保持者は比較的多い。便利であるし処理が簡単で、ほぼ万人に使えるものだ。

 例えば、空気を自在に操る『空全絶護』。この能力者は現在、朝井愛葉ただ一人である。それは彼女自身が生み出したスキルであり、脳のスペック的に彼女しか使えないためだ。

 脳、そのメカニズムは未だに解明されてはいない。そのため、当初はそれを非人道的だと非難する科学者もいたが、今では全人類が受けていると言っても過言ではない。したがって、脳の性能の良さイコール強さとも言える世界である。

 例外は、魔法使いだろう。彼らは『スキル』無しで、魔力を扱う事が出来る。

 この技術により、魔法使いと同様に誰でも魔力を使えるようになった。

 全人類が魔力を操れるようになることで、魔法使いの目立った差別は生まれなかった。


「それなら、アンタは一体何者なの? 攻撃した私が言うのもなんだけど、普通のスキル保持者じゃあの攻撃を捌けないと思うんだけど……」


 それなら使うなよ、などと小さく呟きながら、ナインは水を飲む。


『RPG』

 それがナインのスキル。

 ありとあらゆる攻撃、森羅万象に対して干渉する万能の緩衝剤、HPを生み出すスキル。

 自分が受けた攻撃を数値化し、それに応じてHPは消費される。そのかわり、自分に対する攻撃は完全に無効化するスキルだ。

 ちなみに、その消費されたHPは食事、睡眠で回復される。食事、1kcalにつき、HPが1回復、睡眠で全回復するというようにプログラミングされている。

 ナインは自分が受けたダメージは、奢らせて回復するという算段だったのだ。

 しかし。


(……本当にあの攻撃はまずかった。今日は大体1500くらいHPがあったのに、あの攻撃で一桁にされた。……正直、ここに来るまで攻撃されなくて助かった)


 HPはカロリーとも置き換えられるが、だからと言って体を動かすために使うエネルギーをHPで使っている訳ではない。カロリーは変数でしかない。

 今回のハンバーグでの回復は、およそ800。ちなみに、彼がいつも飲んでいるコーヒーは、200程度回復してくれる。

 ちなみに、HPが0になったからと言って、彼は死なない。

 あくまで緩衝剤、彼の生命力とは一切関係ない。

 戦闘以外で使っていると、小石がぶつかった程度でもHPを消費するので、『RPG』は戦闘時のみ発動させている。


「そう言えば、負けてもランクが変わらないって言ったけど、それどういう意味なの?」


「……質問ばっかりだな」


「当たり前でしょ? アンタは私の事をなんか色々知ってたけど、私はアンタのこと何も知らないんだから。不公平じゃない?」


「………………」


 愛葉の台詞の裏には、次は倒す、という決意のような照れ隠しのような感情をナインは視た。


算出眼(ステータスアイ)

 スキルとは別に、生まれ持った特性と言うべき能力。

 ネーム・特性・スキル・ステータスを視る事が出来る特殊な眼。

 これにより、相手の弱点を突く事が可能になるが、『RPG』発動中にはネームしか視えないため、戦闘中にはあまり役に立たない。

 『算出眼』保持者は他にもいるようで、それぞれ視える物は違うらしい。


「それじゃ、ごちそうさま」


「ん。どういたしまして」


 食べ終え、食事中に大方話していたので、二人は外に出た。


「アンタ、私に勝てる程の腕前ならさっさと学校通うなり、仕事に就きなさいよね?」


「……なんだ。心配してくれてんのか?」


「ちっ、違うわよ! アンタがNEETのままだったら、それに負けた私の立場が無いじゃない!」


「あっそ。ま、お気遣いどうも」


 しれっと返事をしたナインだったが、その背後をジト目で睨む愛葉には気付いていた。


(そういえばなんだかんだ言って、最初に喧嘩になったのも、俺を心配してくれていたからか? ……生徒会長を務めるだけあって、ある程度の人格者だな)


 ある程度の人格者が、プライドのために自分を殺すような攻撃をするものだろうか? という疑問をナインは抱かないようだ。


「それじゃ、ごちそうさまでした」


「ん。次は負けないからね?」


「え? 次なんてあるのか?」


「え? 当たり前でしょ?」


「……嫌だ。血祭りで曝し首とか、嫌すぎる」


 と、引きつった笑みでコチラを見るナインに気がついたのか、しれっとした顔で愛葉は笑った。


「何言ってんのよ。あんなの冗談に決まってるでしょ? 私が勝ったら、アンタにはNEETを止めてもらうわよ」


 さすがに少し不思議に思ったのか、ナインは愛葉に尋ねた。


「なんでそこまでして、俺のNEET生活に口出しするんだよ」


「なんでってそりゃ、有能な人材は有効活用しないと駄目じゃない? アンタ、もう少し自分の価値を見直した方が良いわよ?」


 愛葉の人を物扱いする台詞にナインは溜息を吐く。


(コレくらいで苛つくなよ、俺。まあ、そんなこと言っても無理か。だから——)



「だから俺はNEETなんだけどな」



 誰でも魔力を扱えるのなら、他人より劣ったスキルの持ち主は必要ない。

 それがこの世界の現状だ。

 

「じゃあな、もうこりごりだ」


 ナインは自分を睨む愛葉の視線から逃れるようにして背を向け、そして人差し指を折り曲げた。

 瞬間、ナインの姿は愛葉の前から消えた。


「……結局、何者よ、アイツ」


 愛葉は大きな溜息を吐いた。

 愛葉が黒みがかった空を見ながら、家へと向かった。


 同時刻、ナインは洋館、さっさと眠りについていた。



『転移魔法』

 マーキングした場所に瞬く間に移動する魔法。高速で空を駆けている。

 ナインは、1024種類の魔法を操ることが出来る能力者だ。

 『守備力強化魔法』、『吐息系軽減魔法』などの補助魔法が大半を占めているが、中には『雷撃魔法』やら『重力魔法』、『再生魔法』などもある。

 魔法は、RPGの魔法使い同様、MPを消費する。というよりも、『RPG』のスキルがMPという制限をつけているのだ。

 HPがあるから、MPがある。

 HPという万能の緩衝剤を生み出すには、彼の脳ではスペックが足りなかった。そのため、本来ならば自在に扱えたはずの魔法に制限を掛けた。

 MPはHP同様、飲食、睡眠で回復する。

 HPは一時間ごとに500、MPも50回復する。ただし、寝ると最大値はHPが2000、MPは200に設定される。

 寝ている途中にイベントが発生すると回復が中途半端だったり、回復していなかったりしてしまう設定だ。


 『RPG』は言うまでもなく、ロールプレイングゲームをモデルに創られた、お遊びのスキル。

 魔法の代名詞とも言える詠唱が無いのも、ゲームでいうショートカットキーと同じように、魔法を彼の指に連動させているからだ。



 <勇者の模造品ブレイブ・オブ・イミテーション>と呼ばれるだけの力を、ナインは有していた。



最後までちゃんと読んでくださった方、おつかれさまです。

次回からストーリー、ここまでがプロローグみたいな物です。


11/30 HPを一時間で500、MPを一時間で50回復としました。

2/5 『瞬間移動魔法』→『転移魔法』に変更しました。



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