第一章 RPG.3
12/2若干付け足しました
俺に戦う覚悟はあるのか?
誰かを傷つけてまで求める結果を、俺は持ち得ているのか?
答えは……。
☆ ☆ ☆
ナインは愛葉に向けて駆け出した。竜巻など関係ない。
「え?」
ズタズタの血祭りになる、そんな愛葉の予測を裏切った結果になり、思わず声が漏れた。
ナインが竜巻に脚を踏み入れた途端、竜巻は弾け飛んだ。否、それは言うならば、無理矢理消し飛ばされた——、そんな表現が正しいだろう。
竜巻を破壊し、ナインは愛葉との距離を縮めるべく脚に力を込めた。
瞬間、踏みしめた足下から土煙が舞い、弾丸の如く加速させる。
「————————————————ッ!!」
ゴッ! と空気が爆ぜる音がして、二人の間で大きな土煙が起こった。
迫るナインと自分の間に真空を作り出し、その真空に流れ込む空気の流れに身を任せ、愛葉は無理矢理ナインとの距離を取った。
『空全絶護』の自動衝撃吸収機能を使い、愛葉は自分の背後にクッション用のエアーを生み出し、地面に叩き付けられるのを回避する。
(真空刃でどうにかダメージを与えられたと思うけど……、それにしてもちょっと強引な避け方よね。空に逃げた方が良かった?)
体勢を立て直しつつ、先ほどの自分の行動を反省する愛葉。
真空を生み出し、そこに流れ込む空気を利用して攻撃する真空刃だが、攻撃回避にはあまり向いていないのだと再認識する。
本来の彼女ならする事の無い失態。だが、本来の自分でいられなくなる程、愛葉は動揺していた。
そして、
「11ダメージ。完全に防げたと思ったんだがな……」
動揺させた人物、ナインは埃を叩き落としながら、平然と立っていた。爆発から1メートル程しか離れていない。
「……だから、なんでそんな布切れすらも無事なのよ!」
愛葉の指摘通り、ナインの服にはかすり傷一つない。完全に無傷だった。
……まあ、服の方はもともとボロく、一昔前のファッションに似ていたが。
「理解できないだろうから教えない」
「あっそ!」
愛葉の周囲を、彼女を守るように風が渦巻き始める。
それを見ていたナインは、一瞬だけ、右手の小指だけを折った。
瞬間、ナインの周囲にも同様の風の渦が出来上がっていた。
「……へえ、アンタも風使い?」
「まさか。『風護魔法』って感じかな」
だが、それは一瞬で弾けるように消え去った。
「残念。空気は私の味方よ?」
空気を掌握する能力『空全絶護』相手に、風を使って何かするのは間違いだった。
ナインは肩をすくめ、ひっそりと次の魔法を発動させた。
「けど魔法……ね。それなら、これはどう!」
愛葉の声と共に、空間が歪んだ。
それはよく見ると、空気の槍がナインを囲むように展開しているためだった。
1メートルを超える何百本もの風の槍が、隙間無くナインを取り囲んでいた。
「一歩でも動けば串刺しよ」
「……そりゃ怖いな」
だが、それでもナインは動いた。
瞬間、なんの躊躇も無く、槍はナインに全て直撃した。
だが、ナインの体に変化は見られない。
逆に、それを見た愛葉に変化が見られた。恐怖と驚愕に顔が強張っていた。
「……総計500ダメージ、か。『魔法反射壁』で相殺したと思ってたらこれか」
ナインは面倒そうに言い、はあ、と溜息をついた。
「……やっぱ無理かな」
その弱気な発言に勝機を見出した愛葉は、ひっそりと能力を最大解放。
大気中に霧散している魔力をフルに活用する。
「……アンタさ、正直すごいと思うわよ。私の攻撃で無傷なんてね」
「そりゃどうも。無傷じゃないんだけどな」
「アンタのスキルがどんな物か知らないけど、絶対に弱点はある。アンタに勝つには、それを付けば良い話。そうでしょ?」
「そうだけど、解ってんのか? 今日まで何度俺がお前の攻撃受けて来たか。そして、その結果が無傷なのを」
愛葉は憎々しげに頷きつつも、自分の出せる最高の力を放つ準備をする。
空に暗雲が立ちこめる。
「そうね。でも、アンタも解ってるんでしょ? 私のスキル『空全絶護』の前では、どんな攻撃も無意味だってこと」
「ああ解ってる。……だからって、引き分けに終われない事もな。解った、受け止めてやるよ。お前の最高の力って奴を」
愛葉のしようとしている事を見透かし、ナインは笑みを浮かべた。
「アンタが立っていたら、アンタの勝ち。解りやすいでしょ?」
獰猛な笑みを浮かべ、愛葉言った。
そして。
大地を震撼させる程の落雷がナインを直撃した。
☆ ☆ ☆
『空全絶護』のスキルの最大能力は、天候すらも支配する事。天候・気温・湿度・気圧など、そのスキルの影響範囲は非常に多い。風を操るだけのスキルではないのだ。
攻撃という観点に関しては、例を挙げるならば気温調整・気圧変化・酸素濃度調整などの特殊攻撃の方が優れているスキルだ。最も、物理攻撃に置いても、真空刃・竜巻・雷などがあり、十分な火力を持つ。リスクとしては、処理魔力が大きい事か。
だが、真空を生み出せる能力者である彼女が、大量の魔力を処理する物理攻撃をし、様子をみる必要性は無い。したがって、ナインには特殊攻撃が何一つ効かなかったと言う事である。
愛葉は先の戦闘で口にこそしていないが、既に特殊攻撃は仕掛けていた。
特殊攻撃を見透して防ぐ事は不可能に近い。気温、気圧、酸素濃度などは、眼に見える現象ではないからだ。
しかし、結果から言ってしまえば、それらの特殊攻撃はナインに防がれていた。
どんなトリックを用いたか定かではないが、ナインは汗一つ掻く事も、気圧減少によって(大げさだが)爆発をすることも無く、酸素皆無の状態でも息苦しい様子を一つも見せなかった。
そして、
「俺の勝ちだ、生徒会長」
「……嘘でしょ」
大地を削る程の雷を受けても、ナインはその服を焦がす事も無かった。
愛葉のスキルで最高の威力を持つ雷をまともに受け、それでもナインは立っていた。
愛葉の持つありとあらゆる能力を全て無効化した、そう言える結末だった。
「飯、奢ってもらうぜ」
ナインはにっと笑みを浮かべた。