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例えば勇者の模造品  作者: 零月零日
第一章
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第一章 RPG.2

11/20、書き換え。


「ほら、俺逃げたじゃん。あれは負けだからさ、もう止めようぜ?」


 黒髪の少年、ナインは面倒そうに頭を掻いていた。


「逃げた? なんで逃げられるのよ! おまけに無傷とか、冗談じゃないわ! アンタをボコボコにするまで私のプライドが許さないのよ!」


 金髪の少女、朝井愛葉は憤っていた。

 腰まで伸びた奇麗な金髪にピョコっと立った毛が特徴の少女である。大人しく座っていれば高嶺の花になろうだろうが、今の彼女はさながらライオン。

 予想以上に面倒だ、ナインは遠くを見ながらそう思った。


 場所は少女、愛葉と出会った公園だが、時刻はいつもよりだいぶ早い一時となっていた。いつもは三時、学校が終わった頃である。

 ちなみに、いつもと言えるくらい頻繁に遭遇するようになってしまっていた。


「そう言えばさ、なんでお前今ここにいるんだよ? 学校じゃ……、もしかして一般人相手に魔力使ったのがバレて、停学とか?」


「例えそうだとしても、アンタにだけは笑われたくないわ。人として最低限のルールを守れないアンタにはね」


 むっ、と感慨深く悩んでしまうナイン。

 ちなみに、この話題が原因で彼は少女と喧嘩、その後の逃走劇、そして戦闘という過去がある。


「そうですね、試験で不正行為するような俺はお前を笑っちゃ駄目なんでしょうね。社会の底辺の俺は、社会の頂点のあなたに何一つ敵いませんからね。ごめんなさい、無事に帰してください。もう声かけませんから」


 そこはかとなく馬鹿にしてる気がする、と愛葉は怒りに体を震わせていた。

 ちなみに、その様子を食い入るようにナインは見ていた。いや、凝視していた。


「その社会の底辺に傷一つ付けられないなんて、社会の頂点として恥だわ……。ランク『9』のアンタをみすみす放っておくなんてね」


「……ネーム、朝井愛葉。クラス、魔兵専門学校黒嶺学園生徒会長。ランク『S』。特性、物理特殊攻撃無効化。……まじか」


 ナインは愛葉を見続けている。


「…………何言ってるの? なんでこっち見てるの?」


「スキル『空全絶護』、空気に関する森羅万象を操作する能力。……スペック高いな。さすが生徒会長」


 ナインは愛葉を観察するように見ている。


「ステータス。攻撃380、防御445、特殊攻撃1083!? 特殊防御514、素早さ812……ね。けど、『空全絶護』のスキルが大抵のステータスを増加させるな」


「何こっち見てんだ、この変態っ!!」


 よく今まで怒らなかったと思える程、ナインは愛葉を凝視していた。愛葉の叫びは当然である。

 瞬間、風の刃がナインを切り裂こうと放たれた。喰らえば四肢が切断されるのは必至である。


「危なっ!」


 それを転がるように避け、ナインはキッと愛葉を睨みつけた。


「危ねえだろ! 避けなきゃ死んでたぞ」


「どうせ無傷なんでしょ!」


 そう言って無数の風の刃を生み出し、次々と放ってくる愛葉。

 対して本当に無傷のナインは、


「ああくっそ! 解った! ちょっとタンマ! 一回落ち着こうぜ朝井!」


「だからなんで私の名前を知ってんのよ!」


 火に油を注いで必死に逃げ回るナイン。

 照れ隠しと言うよりは、機密保持の抹殺と取れるような攻撃をしかける愛葉。

 平和とは言いがたい状況だった。

 しばらくそんな調子だったが、不意に立ち止まりナインは高らかに吠えた。


「解った、相手してやる! そのかわり俺が勝ったら飯をおごってもらおう!」


 一時攻撃の手を止め、愛葉も同じように叫んだ。 


「上等! 私が勝ったら、アンタを血祭りに上げて曝し首にしてあげる!」


 昼間だったが、走り回って以前に戦った広場に来ていたため、二人の発言は彼ら以外に聞こえていなかった。

 ナインは人目を気にして広場まで走ったのだが、愛葉はどうにもそんな事は考えていないようである。

 きっと、人がいても先ほどの発言をしただろう。


(あれ、条件酷くね? ってか負けたら俺死ぬじゃん。死に花散らしても良いけど、死に恥咲かせたくないぞ俺)


 ナインのやる気が、死ぬ気に変わった。

 が、時既に遅し、ナインは風の渦に包囲されていた。

 以前に見せた竜巻の改造版だろうか。その渦の範囲はとても狭く、ナインを中心に目まぐるしく回転している。渦の中には小石などが巻き込まれており、無理矢理突破しよう物なら、たちまちミンチになる所は以前と同じだった。


「チェックメイト、かしら?」


 不敵に笑みを浮かべる愛葉に対して、ナインは動けなくなっていた。

 勝負するなどと宣言する以前から、戦いは始まっていたのだった。宣言したのも戦いの最中、宣言するため止まったのも停戦中でない。この時代、重要なのは勝利と言う結果だった。


「正々堂々の戦いとかしないんだ。黒嶺学園生徒会長としての誇りとか無いの?」


 苦笑いを浮かべながらナインは計算、そして指を立てていた。


(『守備力強化魔法』、『吐息系軽減魔法』発動)


「さっきからアンタ、どうしてそんなに私の個人情報知ってるのかしら? その情報の出所を聞きたいな〜。教えてくれたら、曝し首は止めてあげる」


「血祭りは避けられないんだな(ナインだけに)」


 ナインは自分のシャレに小さく笑いながら指折りを、愛葉は話すのを続けた。


(『魔力障壁』発動、『加速魔法』発動)


「勝てばランクが上がって、負ければランクが下がる。ランクは就職に大きく関わってるって解ってるの? アンタが無職で学校に通えないのも、その『9』なんてランクだからじゃないの? 仕事付きたかったら、手段を選ばず勝ちに来なさいよ」


 学校に通えないのではなく、停学後に通っていないのだが、対して差がないのでナインは無視する。


「本当に酷い格差社会だよな、今の世界。それで、お前はそれに納得してるのか?」


「良いんじゃないの? 才能が有れば過ごしやすい世界よ?」


 そっか、とナインは辛そうに呟き、指折りはもう止めており、そして。


「俺はさ、そんな世界が嫌なんだよ。ランクだとか、無理矢理戦う理由を作ってる気がするし。魔法は争いのためにある物じゃないと、俺はそう考えてる」


「……魔法?」


 愛葉はナインの言動を訝しむ。


 魔法。

 それは何百年も前に忘れられた力。発展可能な科学と違い、魔法はその原理の解明が不可能であり、扱える人間を選んだためだ。

 侵略戦争以後、魔力の存在を世界は認めたが、魔法の存在は埋もれたままだ。

 現に、魔力を使う者を能力者と呼び、魔法を使える者を魔法使いと呼んで差別している。


(もしこいつが魔法を使えるのなら、私とやりあって無傷でいられる理由も解る。『9』なんて巫山戯たランクも理解できる)


 目の前に現れた好敵手に、愛葉は獰猛な笑みを浮かべた。


(私は勝たなきゃ駄目。絶対に引けない。負ける訳にも行かない。勝たなきゃ——)


 決意を新たにした愛葉の思考を読んだように、ナインは言った。


「お前にどれほどの理由があろうとも、俺には関係ない。悪いけど、創られた感情は見飽きたんだ。負けてもランクは変わらないから、安心して負けな」


 はっ、と愛葉はそれを笑い飛ばす。思考を読まれたことを隠すように。

 創られた感情、その一言に揺さぶられた心を隠すように。


「調子に乗っていいのかしら? アンタ、私の竜巻の中にいるのよ」


 その台詞を無視して、ナインは自分の言いたい事を最後に言った。



「ちゃんと飯奢れよ?」



 ナイン、今日の収入はゼロ。

 晩ご飯の当ては……無かった。

 食べるために戦う。

 なんというか、生物としては間違っていないが、人間としては最低な理由で、ナインは愛葉との戦いを認めたようだった。

 理由が無ければ戦えない、逆に言えば、理由さえあれば戦うようだった。



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