表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
例えば勇者の模造品  作者: 零月零日
番外編
26/33

第三間四章 例えば誰かと少女の関係

ヒロインは誰なんだろう。

「……ルーナ。なんか用?」


「別に……」


「じゃあなんで俺の背に寄り掛かって本を読むんだ?」


「……別に。ただそこに背中があったから」


「重くはないし、さして邪魔でもないけど、どけてくれませんか?」


「なして?」


「……いや、もういいよ」


 図書室、二人は背中を合わせて本を読んでいた。


「ん、そうだ」


「何だ? また魔石探すとか言うなよな? もうこりごり」


 と、ルーナは本から目をそらさずに言った。


「違う。……今日、休みでしょ?」


「ああ、日曜日だな。それで?」


「お休み、あげようと思って」


「休み?」


「護衛のお休み。今日は一日本読んでるから、好きな事してていいよ。ここならよほどの事じゃないと襲われないし、ラギとナギとも遊べるし。……天才魔法使いだし。自分の身は自分で守れる」


「……そっか。んじゃ、ちょっくら出かけてくるかな」


 自分で天才とか言うのはどうかと思う、とナインは心の中で突っ込んでみた。

 そういう自分も、勇者だのなんだの言っていたりするから声には出さない。


「お小遣いあげる」


「……あ、ありがとう」


 そう言って一万円をポンと渡すルーナ。

 何故だか泣きたくなるナイン。


「お土産よろしく」


「はいはい。何でも良いだろ?」


「あんたが選んでくれた物なら、何でも良い」


「……ん? じゃあ、行ってきます」


「…………。いってらっしゃい」


 何かが気にかかったが、それが何なのか解らないナインだった。



   ☆ ☆ ☆



「付き合ってください!」


「…………は?」


 ナインはいろんな意味で驚いていた。


 いつも通り人気の無い場所へ『転移魔法』を使い、公園に向かう。そして行きがけの駄賃にコーヒーを買い、今日は空いていたブランコに腰掛けコーヒーを飲んでいた時だ。


 不意にそう声を掛けられ、振り返ると同時に誰かが腕に抱きついて来た。

 そう言って自分の腕に絡み付いて来たのは、リオだった。


 そう言ったリオの格好は、いつもと違った。

 いつもの学ランの格好ではない。スカート、つまり普通の女子用の制服姿。


 一言で言えば、女の子だった。


「……あ〜、その髪どうしたんだ? なんか長くなってる」


「ウイッグです」


「なして?」


「似合いませんか?」


 そう言って下からナインの目を覗き込むリオ。

 じーっと、真っ直ぐ、大きな瞳で。

 ちなみに、リオがナインの腕に絡み付いているので、二人は密着していた。


「いや、似合ってる。……うん、可愛い」


「それなら良いじゃないですか」


「……まあそれはいいけど。それより、付き合ってってどういう事?」


「……あ、そういう意味ではありませんよ。ただ、買い物に付き合ってほしいと言う意味です」


「買い物?」


「ええ、買い物です」


 そういって含み笑いを浮かべるリオに、ただならぬ嫌な予感がするナイン。

 だが、彼には断るだけの度胸が無かった。

 ある意味抱きついている女性を突き放す事は、彼には出来なかった。


「じゃあ行きましょう!」


 リオは苦笑いを浮かべるナインの手を取り歩き出す。

 そして、ナインは気付かなかった。



「ちょ、ちょっと! な、な、ななな……何アレ!? 誰!?」


 

 遠くから自分を見ていた愛葉に、ナインは気付かなかった。


 余談だが、このとき街の気温が一気に上がっていた。



    ☆ ☆ ☆



「美味しいですね」


「うん、そうだね」


「あっ、アイスが付いてます。……えい」


 リオはナインの頬に付いていたアイスを指で取り、それを舐める。


「…………」


 ナインは苦笑いを浮かべるしかなかった。



 買い物と言う事で、ショッピングモールへと来た二人。

 しばらく買い物をし、荷物持ちのナインに気をつかったのか(といってもナインは疲れ知らずで、買い物の荷物持ちとしてはかなり優秀だ。ナインが今持っているのは服の入った紙袋のみだが)、二人はアイスを買い、近くのベンチで仲良く並んで食していた。


「……ただの買い物か?」


「いえ、違いますよ。……その、ルーナとはどうですか?」


「仲が悪い訳じゃないと思うけど、どうして?」


「いえ! それなら別にそれで良いんですが……」


 何か思う所が有るのか、リオは顔を口元に手を当てて考え込む。


「……ちょっと昔話をしましょう。私の、昔話」


 リオはナインをじっと見つめながら、話し始めた。


「私って女の子っぽく無いじゃないですか。髪型も口調も意識しないと女の子に見えないでしょう? 男の子っぽい格好をすれば、男の子にしか見えないでしょう?」


「……俺は一目で女の子だと解ったけど?」


「——話が先に進まないんで、そこは肯定してくれると助けるんですけど……」


「……ごめん」


「いえ…………嬉しいです」


「うん? なんか言ったか?」


 何も、とリオは首を横に振り、話を続ける。


「私が入学した時は、ちゃんと女の子の格好していたんですよ。その時の制服がコレですね」


 そう言ってベンチから立ち上がり、くるりと回ってみせるリオ。

 スカートが波を打ち、長い黒髪がたなびく。


「でも、入学初日に喧嘩を売られたんですよ。男みたいな女だな、って。で、喧嘩を買ったのは良いんですが、その当時の私は、スキルを上手く使えなくて……」


 リオは再びベンチに座り直した。


「そんな時でした。会長が、私を助けてくれたんです。会長のスキルの前では、誰もまともに動けません。それで、会長は『もう大丈夫よ』って優しく手を握ってくれました」


「…………」


「それから私は会長にスキルを認められて副会長になって、会長に変な虫が寄り付かないように男装したんです」


「なるほどね。それが、いつもの格好の訳?」


「そうですね。今は会長がいませんし、あなたは私が女の子だって知ってますから、この格好ですけどね」


「……なあ、その話からすると、もしかしてそのウイッグ付けてる理由って……」


 ナインは若干引きつった笑みを浮かべ、リオは満面の笑みで答えた。



「勿論、あなたに変な虫が付かないようにですね」



 はははは、とナインは笑い、不意に何かを思いついた。


「あっ、そう言えば……ルーナにも言ったから、言っても良いか。リオの過去も聞けたし、俺も俺の過去を話そう」


 リオは首を傾げてナインを見て、ナインはどこ吹く風と言った感じで、遠くを見ながらこう言った。



「俺は四年前に記憶喪失になったんだ。んで、それ以前の記憶が無いんだよね。ナインだけに」



「……はい?」


 何を突然言い出すんだ、とリオはナインを凝視したが、ナインは空を見ながら続ける。



「んで、どうにも俺はーーーーらしいんだ」



 リオが硬直したのは、言うまでもない。



   ☆ ☆ ☆



「な、な、一体誰なのよ。あ、あんなにいちゃついて……私、一体何を言ってるの?」


 どうしてかナインとリオ(愛葉は気付いていない)を尾行していた愛葉は、ぶつぶつとそんな事を呟いていた。

 今二人はベンチでアイスを食べていて、愛葉はそれを遠くから誰かを待っているような態度で見ていた。


「だいたい、あんな奴どうでもいいし、あいつが誰と付き合っていても、関係ないし……。確かにカッコいい所も有るけど、基本的に駄目人間だし……」


 もやもやとした何かが胸の辺りに溜まり、愛葉はムシャクシャしていた。


「ああ〜もう! なんでか気になる! よし、ちょっと話を聞いちゃおう!」


 黒嶺学園の規則で外出も制服となっているため、二人に近づけばバレてしまう。

 だが、『空全絶護』は伊達じゃない。

 空気に干渉する全てを影響下に置くのが、『空全絶護』の能力。

 声とて、例外ではない。


 そして、愛葉は聞いた。



「俺は四年前に記憶喪失になったんだ。んで、それ以前の記憶が無いんだよね。ナインだけに」



「はい?」


 思わず、声が漏れてしまった。それで周りから奇異の目を向けられ恥ずかしく思うが、それどころではなかった。

 次に聞こえて来た内容が、そんな事を吹っ飛ばした。



「んで、どうにも俺は秋山雪日(あきやまゆきのひ)らしいんだ」



 愛葉も硬直した。



   ☆ ☆ ☆



「ただいまー」


「「おかえり」」「おかえりなさい」


 ルーナとルーナにじゃれていたラギとナギがナインを出迎えた。


「お土産、ケーキ買って来た」


「「やった!」」「……ごくり」


 ナインの持っている袋を見て、ラギとナギがハイタッチをし、ルーナは涎を飲み込んだ。


「とりあえず店にあるの全部買って来たけど、喧嘩するなよ」


「……お小遣い、どうしたの?」


 ナインの金の汚さを知るルーナは、聞かずにいられなかった。


「いやいや、俺だけのために使うわけにはいかなかったからさ。ケーキに費やした」


「……はあ〜」


 呆れたとルーナは頭に手を添える。


「っと、忘れる所だった」


 そんなルーナを見て、ナインは思い出したように懐に手を入れ、小さな紙袋を出した。


「これ、お土産な」


「へ?」


 それをルーナの白い手の上に置き、ナインは着替えるために階段を登り始める。

 登りながら、ルーナの顔を見ずにナインは言う。


「俺にはセンスが無いからリオに手伝ってもらったけど、俺が納得して買った物だから。まあ、気に入らなかったら捨ててくれて結構だ」


 ナインが二階へ消えたのを見計らって、ルーナは紙袋を開けた。



 中には、蛍火のような光を灯す宝石のペンダントが入っていた。



「……………」


 ぎゅっとそれを握りしめ、ナインが消えた方を見るルーナが居た。


ヒロインが誰だか解らなくなった作者です。

目標だった十万語を達成出来ました。


とりあえず、週一更新したいです。


感想お待ちしております(特にヒロインに付いて)。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ