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例えば勇者の模造品  作者: 零月零日
番外編
25/33

第零章 例えば誰かの昔話

 秋山雪日は思う。

 この世界は腐っている、と。


 秋山雪日は侵略戦争前、北海道知事であった。

 仮面を被っていたが、それでも彼は当選した。

 北海道の不況を止める、そういうマニフェストを掲げた彼は、付け足すようにこう言った。


「私が当選した暁には、私の私財を衣食住に困らない程度、十万円程残して、それ以外を全額寄付する事もマニフェストに付け足しておこう。私が当選しても良い結果を残せなかった時、再選挙後はその資金をどう使われても構わない。……最後に、私は国民に問いたい」


 そう言った彼の後ろには、高々と積まれた札束があった。そして、彼は言う。



『君たちが求めているのは、私の顔か? それとも、私の実力か?』



 侵略戦争後、魔力が満ちた世界の指導者となるため、彼は総理と会談をしていた。


「何かを得るためには何かを犠牲にしなければならない。それがこの世の摂理だ。何かを犠牲にしなければ何も得られない、そうだろう?」


 秋山雪日は仮面を被る。口元から上を全て覆い隠した白と黒の仮面。

 国民を前に、彼は思う。


「……なってやろうじゃないか、犠牲に。それでこの国が良くなるのなら」


 犠牲なき幸福など、そんなものは存在しない。何かを失うから、手に入るのだ。

 秋山雪日は、第九十九代内閣総理大臣佐藤大和と向かい合う。

 それは首相官邸の、とある一部屋での会話。


「秋山君、君は本当にそう思っているのかい? 君が犠牲になる必要がどこにあるのだい? なぜ他人のためにそこまで尽くそうと思う?」


「それが国を統べる人の言葉ですか? 総理、あなたは一体なんの為に政治家をやっているのですか?」


「愚問だね、秋山君。総理も仕事の一つさ。仕事はなぜするのか分かっているのかい? 自分の趣味を楽しむためには、どうしたところでお金が必要だ。そのお金を稼ぐためだよ。政治家なんて、そんなものだ」


「……では、あなたは自分の生活を守るために政治家をやっていると? 所詮政治家もそこらのサラリーマンと同じ一つの職業に過ぎない、そう言っているのですか?」


「当たり前だとも。それなら君は何だ、全ての人がやりたい、趣味と同義の職業に付いていて、一生懸命熱心に仕事をやっていると思っているのかい? それは幻想だよ?」


「……まさか。そんなに今の世の中はうまく出来ていませんよ」


「そうだろう? 政治家とか総理だとか、そんなのどうでも良いのだよ。高い給料が出ればそれでいいのだ」


「ではもう一度お尋ねしましょう。あなたは、一体何のために政治家をやっているのですか?」


「言っただろう、秋山君。私は私の生活のために、一つの職業としてこの仕事をしているのだよ。君だってそうだろう?」



「…………やはり、な。犠牲なき政治に幸せを望む意味は無い」



 秋山雪日は、ぽつりと呟いた。それは総理にも、誰にも聞こえなかった。

 秋山雪日は、総理の顔を見て言った。


「私は国民のためにやっているのだよ、大和総理」


「戯れ言だな。それなら秋山君、君は何かね。国民のためならなんでもするというのかね、だから私財を投資してまで、ここまで這い上がったと言うのかな?」


「そうです。私は私を犠牲にして、この国を良くしたいのですよ。何かを犠牲にしなければ何も手に入りません。ですから、大和総理」

 秋山雪日は、そして言った。


「あなたには、総理の座を降りてもらいます」


 瞬間、佐藤大和は理解した。

 秋山雪日が、何をここにしに来たのか。


「ちなみに総理、先ほどの会話は全て全国に流れておりますので。一体どちらに支持が集まるでしょうね?」


「———————! 秋山君、君は言ったじゃないか! 国民のためだと。私だって国民だ! 私が私を助けて何が悪いと言うのだ! 何が間違っていると言うのだ!」


「間違ってなどいませんよ。ただ、私には理解できないことです」



「国民に認められた。……それ以外に何を求めるのですか?」



「私は分からない。どうしてあなた達は認められる、選ばれる価値に気付かないのか。なぜそう貪欲に、自らのためだけに生きるのか」


「————」


「選ばれる価値の分からない者が治める国に、望む明日はありません。さようなら」


 秋山雪日の時代がここから始まった。



   ☆ ☆ ☆



「貴様が特殊体No.ナインか。我が名はワンオー。No.ワン、モデル名は『犬』だ。貴様にこの世界を教えてやろう」


 そう言って、ワンオーは俺を谷底に突き落とした。


「君がそうか、No.ナインか。僕はイーグル。No.ツー、モデル名は『鷹』だ。人は僕の事を『死者の冒涜』と呼ぶ。君に正義はあるかい?」


 そう言って、イーグルは死体を踏みつけた。


「……私の名前はミーナ。No.スリー。モデル名は『猫』です。あなたに常識を教えます」


 そう言って、ミーナは俺に常識を教えてくれた。


「しゃはしゃは、No.ナインね。うん、あたしはシャーク。No.フォー、モデル名は『鰐』だぜ。この世界は地獄だぜ?」


 そう言って、シャークは俺に地獄を見せてくれた。


「九番目のお兄ちゃん、私はイツカです。No.ファイブ、モデル名は『鬼』です。お兄ちゃんは優しいですか?」


 そう言って、イツカちゃんは俺をひねり上げた。


「ああん? お前がそうかよ、No.ナインか。俺はムクロ、他人は俺を『生者の蹂躙』って呼ぶぜ。No.シックス、コード名は『六変化』だ。お前って、正義とか悪とか信じてるのか?」


 そう言って、ムクロはざっくり人を殺していた。


「よっと、うにゃ、アンタがNo.ナイン? ウチはNo.セブン、ナナミや。よろしくさん! コード名は『最良調整』。なあ、ウチと良い事せえへん?」


 そう言って、ナナミは俺を連れ回した。


「あなたがNo.ナイン、ね。私はNo.エイト、ヤガミと言う。コード名は『超能力』。実に負抜けた人間ですね、あなたは……いや、化物か」


 そう言って、ヤガミは悪意と嫌みを俺にぶつけてきた。


 ナンバーズは、正義を重んじる。

 九人は九人がそれぞれの思う正義を貫いている。

 そして、ナインの正義はとある事件で砕かれ、組織から捨てられる事になった。

 その裏に、『葉桜学園』の事件が関わりある事は、明確だった。



   ☆ ☆ ☆



 とある会談の後日談。

 佐藤大和、元総理は秋山雪日の背中に話しかけた。


「秋山君、どうして私が君を選挙に出られるように計らったか分かるかね?」

「……どういう事ですか?」


 去ろうとしていた秋山雪日はぴたりと動きを止めた。


「君は仮面で顔を隠し、秋山雪日と偽名を名乗っている。戸籍上、そんな人物は存在しない。さて、どうしてそんな君が選挙などに出られたのかね?」


「……私が裏に手を回したからですが? あなただけではなく、色々と」


「そうだな、秋山君。だから君は選挙に出られた。君は実に優秀だった。本当に北海道の不況を回復させた。それは越権行為ばかりだったのだが、私は黙っていた。しかし、私が否定してしまえばそれまでだったのだよ? なぜ私は君を認めたか分かるかい?」


「……必要だったからでは?」


「そう、秋山君、君は必要だった。何がだと思う?」


 大和総理はにやりと笑う。


「君は代替可能だということだよ、秋山君。秋山雪日という仮面さえ被っていれば、誰だって君に成り得る。秋山雪日という存在はまだ確定されていない。だから、君は誰でもないが、誰にでもなれるのだよ」


「……貴様!」


「仮面の入れ替わりトリック、君はそれを狙っていたんだろ? 君がどうしてこんなことをしようと思ったのか知らないが、有効に利用させてもらおう」


 大和総理は懐から何かを取り出した。


「ありがとう、秋山君。君の築いた信頼と力は、私が有効活用させてもらうよ」



 何かが弾ける音が部屋に響き渡った。



「犬養、これを始末しておけ」

「はい、閣下」


 犬養と呼ばれた男は、黒い歯をむき出し、口元を歪めた。


タイトルの通り、過去の話でした。

なんとなく、作者が書きたい事が見えてくるかもしれません。


そして、ごめんなさい。

作者の執筆方針は、書きたい物を書きたい時に書く。


と言う訳で、しばらく『例えば名無しの英雄譚』の方を執筆したいと思います。

これは、タイトルから解る通り、この物語とリンクしております。

リンクしておりますが、それを読んだからと言って、何か変わると現段階では思えません。

興味の有る方はぜひどうぞ、といった具合です。


感想・意見・指摘など、お待ちしております。


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