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例えば勇者の模造品  作者: 零月零日
第三章
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第三章 魔法使い.7

「……で、やっぱり中入らないと駄目か?」

「何言ってんの。あんたは、ご・え・いでしょ」

「……はあ」


 頭を垂れるナインを小突き、ルーナ達は黒嶺学園の門を潜った。

 時刻は九時。

 学園内は試合も近づいており、生徒が慌ただしく動き回っていた。


「右見て左見て……いないか。よし!」


 何かに怯えるナインは、悪目立ちするサングラスの下でしきりに目を動かす。


「……あんたがそこまで怯えるって、一体何者よ」

「いやいや、強さじゃないんだ。ただ、相性の話だ。苦手なんだよ」


 そう言いながらさりげなくルーナの後ろに隠れるナイン。どこからどう見ても、護衛しているようには見えなかった。


「えっと、とりあえずしばらくここに来る必要は無いから……手続きに生徒会室かな」


 ルーナは後ろのナインを気にせず進んで行く。ナインはナインでそれと気付かれないように、存在を極限に消して付いて行った。



「……えっ!? これから一週間探し物を探しに行く?」

「そっ。だから、特別欠席扱いしてくれない?」

「…………」

「別にここに居てもやる事無いし、昨日の事件でどこにいても襲われるって解ったんだからさ。それに、愛葉の言った通り優秀な護衛が付いてるし」

「………………………わかったわ」


 愛葉はしぶしぶ頷き、何故かギスギスした視線を投げ掛けられるナイン。

 場所は生徒会室。

 試合の準備のため慌ただしく動く愛葉とリオがそこにはいた。


「……昨日は大変だったんじゃない?」

「ん? そうでもなかったけど。少なくとも、お前に追っかけられてた時の方が大変だった」


 意味ありげな質問を投げかける愛葉。しかしナインは気付かない。


「へえ……、そうなんだ。で、昨日二人はどこに行ったのかしら?」

「え?」「はい?」


 何のことか解らないと言う感じに二人は顔を見合わせる。

 二人は、昨日尾行していた人物が愛葉達だと知らなかったのだ。


「どこって言われても」

「図書館に居たけど」

「……………………」


 二人の中が微妙に良くなっている事に何故かイライラしてしまう愛葉。

 そうとは知らず、ルーナは爆弾を投下した。


「あっ、こいつの家に行った」

「はぁ!?」


 愛葉がポカンと口を開け、ルーナは首を傾げ、ナインは背後に殺気を感じていた。


「……貴様、何をやっている?」


 ナインの背後に居たリオが、ポンと肩を叩いた。


「別に俺はナニモシテイナイヨ?」


 では何故片言になる、などとは誰も言わなかった。

 ナインの頭の中では、今朝のルーナの着替えのシーンが再生されていた。

 愛葉とリオの頭の中では、何やらあらぬ妄想が渦巻いていた。

 ルーナはさっさと魔導書を読み漁りたいと思っていた。


「一回人生やり直してこいっ!!」


 ナインは『RPG』を発動する暇も無く、生徒会室から吹っ飛ばされる。

 吹っ飛ばされたナインに駆け寄るルーナの行為が、火に油を注いだのは別の話。


(こいつがいなきゃあの洋館に入れない!)


 という打算塗れの行動だったのが、ナインに取って不幸な話だった。



「いってて。スキルの切れが無駄に良かったな」

「それで護衛が務まるの?」


 校舎から出て、グラウンドの横を通り門へ向かう二人。グラウンドでは試合の準備だろう、七メートル程の柱が立てられていた。結界を張るための柱だ。

 廊下に後頭部を叩き付けられたナインは、痛そうに頭を擦っていた。

 それを呆れた表情で見るルーナ。自分が事の原因だと気付いていなかった。


「あ〜、なんだ。無駄にHPは消費したくなかったんだな」

「HP?」


 首を傾げるルーナに、説明する気はないと言わんばかりにナインは先を歩く。

 一刻も早くここを出てしまいたいナイン。心底会いたくない人物が居るようだ。

 が、それを妨げるように。


「危ない!」


 グラウンドの方から叫び声が聞こえた。


「あ?」「ん?」


 二人がそちらを見ると、



 直径三メートル程の火球が二人に迫っていた。

 その距離、十メートル弱。



「あ〜、何コレ? デモンストレーション? デーモンストリートの間違いじゃね?」

「どうでもいいから。護衛、仕事しなさい」


 ルーナに背中を押され、ナインはその火球とルーナの間に立った。

 火球は大きさが大きさなため、ゆったりと近づいて来ているように見える。しかし、それは逆に言えば、当たればただでは済まないと言いたげだった。そして、火球の周囲が歪んで見える事から、その攻撃範囲の広さを物語っていた。


「あ〜、跳ね返したら駄目だよな」


 一瞬、『魔法反射壁』を発動して事なきを得ようとしたが、それだとこの火球を放った人物にコレが跳ね返ると気付き、ナインは別の魔法を発動した。そしてナインは火球に向けて手を伸ばす。



 ナインに火球の攻撃範囲が被った瞬間、火球は霧散するように跡形も無く消滅した。



『魔力無効化魔法』

 魔力による攻撃を一度だけ無効化する魔法。その攻撃が大きかろうが小さかろうが、一度で消えてしまう欠点を持つ。何でも打ち消す、そのために消費MPが馬鹿にならない。普通の補助魔法三回分のMPを消費してしまうのだ。他人を気遣うナインだから必要な魔法で、『魔法反射壁』を覚えていれば無用の長物だろう。

 

 ナインは火球が完全に消えたのを確認して、ルーナの元へ戻って来た。

 当然、火傷一つない。


「さ、目立たない内に出るぞ」

「……十分目立っちゃってるけど?」


 ルーナの言葉に嘘は無く、グラウンドでは歓声が起こっていた。

 ただの事故だったのだが、これで本当にデモンストレーションになってしまった訳だ。


「あ〜、まずいな。嫌な予感がする。……悪いなルーナ」


 と、ナインは唐突にルーナの手を掴み、次の瞬間には『瞬間移動魔法』で飛んでいた。


 歓声に沸いていたグラウンドが、一瞬で沈黙に包まれた。

 しかし次の瞬間には、再びざわめきが起こった。

「さっきのあいつは誰だ?」「黒嶺学園の制服を着てたが、あんなのが黒嶺学園に居るのか!?」「あれ? でも消えちゃったってことは、……どういう事?」等々、色々と話は盛り上がっていた。


 ナインに取って不幸な話だが、この話が黒嶺学園中に広がり、会いたくなかった人物の耳にもしっかりと入ってしまったのは、仕方が無い話だった。



   ☆ ☆ ☆



「……うっわ」


 ルーナとの買い物に付き合わされたナインの呟きだった。

 二人が買い物に来たのは、デパート。

 先ほどからルーナは怖くなるくらいに買い物をし続けている。


 保存食と呼ばれる食料品、全く統一性のないお菓子の数々、ミネラルウォーターを大量に購入。それに登山用のリュック、スケッチブック、包帯から傷薬、電池と懐中電灯などなど。


「……山登りでもするか?」

「するかもね」


 その大量の荷物を持ったナインは、呆れたように呟き、何故か家具売り場の方へと進んで行くルーナ。

 そして。


「えっと、アレを三つとコレ、それにコレも買おう」

「……………」


 ルーナが店員に頼んだのは、天蓋付きのベッド三点、種類の違う柔らかそうな毛布を二つ。

 店員は恭しく礼をし、会計と商品の在庫を確かめるために飛んで行った。


「おいルーナ、どうやって持って帰る気だよ? さすがに俺にもコレは無理だけど」

「だから、試したい事があるって言ったでしょ?」


 店員が戻って来て、交渉して、クッションを二つプラスして買うことで、五万円弱安くしてもらうルーナ。そしてポンと現金でそれらを購入するその様は、ナインには恐ろしいものだった。


「では、こちらはどこに?」


 若干涙目になりながら、ベッドなどを運んで来た店員。

 普通なら送り届ける所だが、何故かルーナはここに運ぶように言ったのだった。

 ルーナは、それらを囲むように魔法陣を展開、そして。


 魔法陣から黒い光が溢れ出し、買った品を飲み込んだ。

 魔法陣が消滅し、無駄にスペースの空いたベッド売り場になっていた。


『異次元魔法』

 異次元を作り出す魔法。時間と奥行き、広さなどが自由な空間を生み出す魔法だろう。RPGなどにある、やたらと物が入る道具袋の正体。

 

「よし、成功成功。それじゃ護衛、帰る」

「……了解」


 呆然とした店員を残し、颯爽と去って行く二人。

 後に、この買い物がデパートの伝説として語り継がれる事を、二人は知らなかった。



   ☆ ☆ ☆



 昼をちょっと過ぎた頃に洋館に戻った二人をラギとナギが出迎え、少し遅めの昼食を取り、ルーナは図書室に籠り本を読みふけり、ラギとナギは買い物に出かけて行った。

 ナインも図書室に同席してはいたが、何か深く考えていた。


(魔法使いが狙われる理由は多々あるが、この国がルーナを殺そうとしている理由は、魔法使いだからなどでは無いだろうな。となると——)

「ルーナ。ちょっと良いか?」

「なに?」


 本から目を逸らさずに返事をするルーナに、危機感無いなと思うナイン。


「お前さ、最近体調が悪かったとかあるか?」

「……んん、そういうのは無いけど? どうして?」

「……なら良いんだけど」


 当てが外れたな、とナインは思い、再び考えようとして。


「ちょっとこれ見て!」


 不意にルーナがナインの背後に現れ、肩越しから地図を見せて来た。

 当然、ルーナの体が密着して、顔が近くにあり、若干ナインは焦っていたが、ルーナは気付かずに嬉々として語る。


「探し物見つかった!」

「……はい?」


 ルーナが持っていた地図に記されている場所は、どこかの山奥。

 その山奥の洞窟マークの所に、星印。

 そして、下に注釈として書かれている文字は。


 

 魔石。


 

「あ〜、探し物って、魔石?」

「そう! はるばる日本まで来た甲斐があったぁ!!」

「その前にお前、自分が狙われてるってことに気付こう。これ、どうみても山だろ。遭難に見せかけて殺されても文句言えないぞ」

「あんたが守ってくれるんでしょ?」

「………………」


 何も言い返せないナインだった。


ストーリーの進み方が遅いのは、第四章以降が一気にシリアスになる予定のためです。


感想お待ちしてます。



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