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例えば勇者の模造品  作者: 零月零日
第三章
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第三章 魔法使い.4

「とりあえず、ここをどうにかしないとな」


 手榴弾によって焦げてしまった床と、ルーナによって吹き飛ばされたドアを見ながらナインが呟いた。

 不審者を侵入させた学校側の責任と言えばそうだが、しかしドアに関しては適応外だろう。


「そうね。……ん」


 相槌を打ち、指先に魔力を籠めるルーナ。ルーナは指先で六芒星を円で囲った、ペンタクルを空中に描き、それに魔力を籠める。

 周囲を淡い蛍火のような輝きが満たし、次の瞬間には、何事も無かったかのようにドアと床は元通りになっていた。


『再生魔法』

 物体の状態を一定時間前と同じ状態にする魔法。皆が使えれば、修理屋さんとか首になっちゃいそう。こういう魔法は使えない人が多いから、認められているのかもしれない。


「魔法ね。便利だこと、すばらしい——げほっ」


 他人事のように呟いたナインの腹を突くルーナ。


「何言ってんの。あんたも魔法使えるんでしょ? それも、王家の墓にでも掛けるような、馬鹿みたいな魔法」


 腹を抑えてルーナを見るナイン(どうやらお腹を触れられるのが苦手のようだ)は、恨めしそうにぶつぶつと文句を言った。


「……というか、なんでいきなりドア吹っ飛ばすんだよ。聞き耳立てろよ。俺の苦労が水の泡だろ。……あれ掛けるのに『日本の名水』三本消費したのに」


 ちなみに、ナインのMPの回復は、基本的に水分である。

 その回復量はかなりいい加減で、名水とか湧き水が100mlで50回復、コーヒーやジュースなどが100mlで20回復、青汁や栄養ドリンクが100mlで100回復する。

 どうやら、『RPG』のスキルを創ったプログラマーが、聖水とかエルフの飲み物などで回復させようと思ったみたいである。

 勿論食事でも回復するが、それは大体、その時のMPの5パーセントだった。

 HPと比べて、MPには厳しい制限がされていると言える。


「悪かったわね。でも、何にも言わないあんたも悪い!」

「あうっ」


 ビシッとナインにチョップするルーナ。さすがにこの程度の攻撃に『RPG』を使う気はないみたいだった。


「……で、さっきの奴は何?」


 逃げてしまった男を捜すように廊下を見るルーナだが、その男の姿はどこにも見当たらなかった。


「ん? あれがお前を狙ってた奴じゃないのか?」

「知らないわよ。敵の素性をいちいち調べてたら切りがないもん」


 拗ねるように言うルーナに、ナインは小言を言った。


「あ〜、それ止めといた方が良いぞ。自分がなんで狙われてるか知らないと、思いもよらない陰謀に巻き込まれたりするから」

「何? あんたもそういう経験あるの?」


 好奇心が見え隠れするルーナの視線を避けるナイン。


「いやいや、たまたま相手がどういう組織か見当ついたから。かなり厄介な組織だけど理由無く狙われる事なんてない、と言う事はその理由が無くなれば襲われないで済むだろ?」

「……まあ、そうね。努力はするわ」


 それって、覚えていたらね、そのうちにね、みたいに真剣さが伝わらないよな。

 と思ったナインだが、自分の忠告は対外聞き入れてもらえないと悟っていた。

 というか、自分もそう言って仕事をしていなかったのである。


「だから聞くが、お前、この国に喧嘩でも売ったのか?」

「はい?」


 何を言ってるんだこの馬鹿、というような目で見られるが、それは気にしないナイン。

 だが、どうしてだろう、既視感が……。

 それを無視して、ナインは言った。


「さっきの奴は、政府特務機関(ナンバーズ)の一人、通称『生者の蹂躙』、No.6だ」



   ☆ ☆ ☆



「まいったな、こりゃ」


 そう言って黒嶺学園から逃げるように走っていたのは、一人の男。

 ルーナを襲撃した男だった——男だ。

 その服装は黒嶺学園の制服から白と黒を基調とした独特のコートに変わっており、その髪の色も普通の黒から銀色へと変わっていた。


「なんであいつがいんだよ。冗談じゃねぇ。相性が一番悪い奴じゃねぇか」


 そこそこ大きな独り言だったが、幸い現在この学園には生徒はほとんどいなかったため、それが聞かれる事は無かった。


「確かにあいつが通ったことのある学校だが、過去の話だろ? なんで今、よりによって標的の護衛なんてやってやがる」


 男、No.6、ムクロは大きな溜息を付いた。


「いや、いるならいるで良いんだけどよ。幸い、あいつがいるなら最悪の条件は守れるな。が、どうやって任務をこなす? 俺の依頼は『二重螺旋』の殺害だろ? 殺せって、そりゃ厳しくね?」


 難問とぶつかったと頭を抱え込み、


「無理だわ〜。俺の能力あいつには効きにくいし、あいつとは仲良くしたいし〜。でも任務断れないし〜、どうすっかな〜」


 そんな事を言っているムクロだったが。



 その顔には、獰猛な笑みが浮かべられていた。



   ☆ ☆ ☆



「せ、政府特務機関!? はぁ? なんであたしが国に狙われなきゃいけないのよ! というか、なんでそんな奴を知ってるの!?」

「そりゃ、俺が前いた組織だし」


 さらっととんでもない機密情報を漏らすナインだったが、混乱しているルーナは気にも止めなかった。


「政府特務機関って、日本政府に狙われてるってこと? 冗談じゃないわ! あたしが何をしたって言うのよ!」

「だから言っただろ? こうならないように、自分が誰になんで狙われてるか調べておいた方が良いって」

「さっき言われたことでしょーが! それまで気にもしてなかったのよ!?」

「あっ、悪い」

「謝るくらいならなんとかしてよ!」


 かなり混乱してるな、とナインはニヤニヤ笑いながらルーナを見ていた。

 他人の不幸は面白いのだろう。

 それも、安心が保証された不幸なら、安心して面白がれる。

 だから、


「なんとかするって、言ったらどうする?」


「え? な、何? なんて言った?」


 ナインはニヤニヤ笑いながらルーナを見た。

 ルーナは、その無責任にしか思えない台詞をもう一度尋ねる。


「だから、なんとか出来るかもしれない、と言ってる訳だ」


 ナインはもう一度、笑みを消して至って真面目な顔でそれを口にした。

 対してルーナは、


「馬鹿じゃないの? あんた、自分が何言ってるのか解ってるの? 国に喧嘩売るって意味よ? それも魔力技術大国日本に。あたしだったら無理ね。この国のスキルは、魔法に匹敵するレベルの力を持ってるわ。いくらあんたが優秀な魔法使いでも、……無理よ」


 ルーナは淡々と、真実を述べる。

 魔法と呼ばれる力だって、所詮力だ。

 限りはあるし、不可能だってある。

 これは、その不可能な話だ。

 少なくとも、ただの魔法使いには、何も出来る事は無い話だ。

 けれど、


「いや、なんとかなるね。真っ正面から国に喧嘩を売る訳じゃない。ただ、お前が狙われる理由が解れば、対処出来るさ」


 自信満々にナインはそう言った。

 勿論、その理由が解るまで襲われるのを知っていて尚、そう言っているのだった。

 ただの駄目人間だと思っていたルーナは、思わず、ナインに聞いてしまった。


「……王家の墓にかけるような魔法を使えて、爆発でも無傷。それで政府の組織にいた? あんた、一体何者よ? 有名な魔法使い?」


 それに対して、ナインは答えた。


「俺は魔法を使えるけど、魔法使いじゃないな」


 ナインは、さらっと答えた。



「時給五百円、三食付きで雇われた、お前の護衛だ」



二日に一回更新したいと思っています。

相変わらず改行が安定しません。


指摘・感想などお待ちしています。

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