第三章 魔法使い.3
微妙にスランプ気味な気がするので、差し替えるかもしれません
「……気が乗らない」
ナインは、もう二度と潜る事は無いと思っていた門の前に立っていた。
幅五メートル、高さ三メートルの巨大な門。
黒嶺学園の入り口立ったナインは、大きな溜息を吐いた。
「護衛?」
その不穏な空気を帯びた言葉を再度尋ね、ルーナは頷いた。
「そっ。あたし達魔法使いは希少な存在だから、色々な組織に様々な目的で狙われる事が多々あるの。この国に来る前から鬱陶しいくらい、ね」
「それで、護衛が必要だと?」
リオが頷き、愛葉が答えた。
「普段は私たちが周りにいて見張っているんだけど、五月はちょっと無理なの。だから、五月一杯護衛を頼めないかしら?」
「というか、食べたんだから働け」
前払いとして豪華な食事を食べてしまっているナインには、もう後戻り出来なかった。
「生徒のほとんどが、試合やら修行とやらに出歩いているみたいなのは幸いだが……」
五月は四魔戦に参加する学校を決めるため、学校対抗でトーナメントが開催される。黒嶺学園も例外でなく、そのトーナメントを勝ち上がらなければならない。
チーム戦と個人戦が行なわれるが、当然のように全員が参加出来る訳ではない。そのため、試合に参加出来ない生徒は応援(という名の偵察)、もしくは各々で修行するように言われるのだとか。
修行、という辺りが魔兵専門学校らしいと言えば、らしい。
「嫌だな……」
ナインは、会いたくない人間が一人いた。
黒嶺学園にいたのは、一ヶ月にも満たないわずかな期間。
それでも、苦手な人間の一人は出来たのだった。むしろ、一ヶ月しかいなかったからかもしれないが。
「まあ、そんな事言っても仕方ないか。ちょうど、あいつとは縁の無い場所だし」
諦めたように、ナインはその門を潜った。
「時給500円! 三食付き! これで今月を乗り切れる!」
金額は控えめだった。
☆ ☆ ☆
黒嶺学園の図書館には、二人しかいなかった。
図書館は学校と渡り廊下で繋がっており、
ルーナとナインである。
現在、他の生徒は他校との試合に出向いており、校舎内には二人しかいない。
「……護衛って、学園内でも本当に必要なのか?」
「あたしだって必要ないと思ったわよ。でも、愛葉が……」
「なるほどね」
黒嶺学園は結界が張られており、生半可な攻撃では揺らぐ事は無い。そこに侵入するのは、ほぼ不可能と言っても過言ではなかった。
「で、あんたのその格好は何?」
「これか? 変装、という奴だな」
ルーナに怪訝そうに見られたナインの格好は、黒嶺学園の学ランにサングラスと言った、昨日のまでのボロい格好とは一線画する格好。
制服は停学時の物をそのまま使っており、サングラスはワンコイン臭がしていた。
「変装って……、何? 会いたくない奴でもいるの?」
「まあ、そうだな」
ふうん、とルーナはどうでも良さそうに相槌を打ち、思い出したように付け足した。
「ああそうだ。好きな事しててもいいわよ。あたしの邪魔さえしなければ」
「いいのかよ。俺の自給って、お前が払ってくれるんじゃなかったか?」
「だから、形だけ。別にあたしはあんたの事頼りにはしてないから」
先日のシャレの所為でナインの信用はがた落ちしていた。
「自分の身は自分で守る。そうやって生きて来た訳だし。魔法使い舐めんな」
本当に護衛の意味も無かった。
「………そうか。じゃっ、俺は飯喰って来るわ」
そう言って普通にドアを開け、図書館から抜け出すナイン。責任感とか無いのだろうか。
「……本当に駄目な奴」
ルーナのナインに対する信用が底辺に達した! 時給が400円に下がった! 三食付きから二食付きに下がった! 態度が素っ気ないから刺々しいになった! ジト目が哀れみを帯びた!
しかし、そんな事を知らないナインはと言うと。
「さて、学食は無理だろうから、購買でなんか売ってないかな〜。最悪、自販機でも良いか」
と、手を擦りながら図書館を後にしていた。彼の財布には、食費として渡された五千円が入っていた。ちなみに、今日の分だとか。
「こりゃ楽な仕事だ」
自分の評価がとんでもなく酷くなっている事に気付かず、ナインは閑散とした校舎を見て回っていた。誰もいないと、何だかテンションが上がるのだった。
☆ ☆ ☆
ルーナは調べ物をするため、学校の図書館に来ていた。
調べ物とは、この国で異常に発展した魔力を使った技術だった。
今ルーナが調べているのはスキルだった。
情報の削除しやすさを求めたのか、それは紙媒体でまとめられていた。
「スキルは……、中学二年生時に自分のスキルを考え、中学三年前までにその考えを元に脳のスペックと相談しながらプログラムする。なるほど、だから独創的なのか。あらかじめ脳のスペックを提示して、それに見合ったスキルを選ばせるあたし達の国のやり方とは全然違う」
本当なら魔導書なんかを読みたい所だが、生憎この図書館にはその類いの本が無かったため、ルーナはそれを読んだ訳だったが、それでも目的を十分に果たせそうだった。
ルーナの目的、それは——。
「……って、一体いつまでご飯食べてるのよ」
と、ルーナはナインが出て行ってからもう二時間程度経っている事に気がついた。
いくら何でも遅いし、これではお金を払える仕事振りではない。
「……あたしもなんか食べに行こう」
時刻はちょうど昼だった。
ルーナは図書館のドアを開けようとして——、
「あれっ!?」
開かなかった。
ドアは押しても引いてもまるで動かない。いや、これは——、
「結界……いや、魔法!?」
ルーナは魔力を手に集め、図書館のドアに触れる。
瞬間、ルーナの魔力に反応し、紫色の魔法陣が浮かび上がった。
ドアには無数の複雑怪奇な魔法陣が重ねられている。いや、よく見るとその魔法陣は図書館全体を覆うように展開されていた。
「これは『強制開閉魔法』に『呪縛魔法』……『魔法反射壁』を重ねてる!? どこのどいつよ、こんな王家の墓にでもするような魔法使ったの!」
『強制開閉魔法』により扉を封印並みに閉じ、『呪縛魔法』で扉を固定、『魔法反射壁』で魔法を効かなくしている。『呪縛魔法』と『強制開閉魔法』で物理を、『魔法反射壁』で魔力を完全にシャットダウンしていた。
閉じ込められていた。
「……けど、内側には『魔法反射壁』は効力を及ばない」
ルーナは魔力を指先に込め、六芒星を描く。描かれた六芒星は紫色の軌跡を残し、ルーナはそれに手を添えて、魔力をそれに籠める!
「はっ!」
刹那、ドアは掛けられた魔法ごと吹き飛ばされ、そして——。
黒嶺学園の制服を着た二人の人間が対峙しているのを見た。
☆ ☆ ☆
「誰だ……って、ルーナか?」
制服を着た一人、ナインはサングラス越しにルーナを見るが、その目はもう一人に向けられてた。
その視線先にいるのは、取り立てて特徴の無い男だった。
その男とナインはおよそ五メートル程離れており、その間にルーナがいる形だった。
「あんた、何してんの?」
何がどうなってるのかさっぱり解らないルーナは、ナインと男を交互に見る。
そして、男が動いた。
取り出したのは、サブマシンガン。安全装置は外されており、指先が引き金にかかっている。
そして、躊躇無くルーナにそれを向け、引き金を引いた。
ダダダダダダダダダダダダダダダダ!
銃声はなり響く。ただ、何も破壊しない。
ルーナと男の間に現れた黒い球体が、銃弾を全て引き寄せていた。
男はそれを見るとサブマシンガンを投げ、代わりに拳サイズの何かを取り出し、ピンを抜き、ナインとルーナの間に放り投げた。
ナインがそれを何か理解するのと、男が笑みを浮かべるのは同時。
それは、手榴弾。
次の瞬間、爆音が学園内に轟いた。
爆発が、二人を飲み込んだ。
「……大丈夫か?」
いつの間にか床に倒れ、目を閉じていたルーナが瞼を開けると、そこは爆心地だった。
埃が舞い、床に黒く煤けた跡が見えるが、それ以外は特に変化が見えないのは、さすが黒嶺学園と言った所だろうか。
そして、ルーナにも怪我は無かった。
ナインが覆い被さっていた。
「え? ……ちょっ、え!?」
平然と立ち上がり手を差し伸ばすナインに驚き、さらに先ほどまでの戦いに混乱するルーナ。
「とりあえず、怪我はなさそうだな」
ナインはほっと一息つくが、次の一言は謝罪だった。
「悪い、あいつ逃がしちまった」
ナインの言葉通り、先ほどまでいた男はもういなかった。
しかし、ルーナに取ってはそんなのどうでも良かった。
「あいつ? ……いや、全然解んない! 何がどうなってんの? ああ〜、もう!」
頭を抱えて唸っているルーナにナインは言った。
「お前の予想以上に、こりゃ厄介な依頼だよ」
異世界トリップものとか、現在更新停止中のもう一作とかも書きたい。
どうしたものだろうか。