第三章 魔法使い.1
今回から第三章です。
第三章と第四章は話が繋がるような気がします。
導入部なので短めです。
「実験体No.9、意識接続順調です」
「引き続き実験は進めろ。この実験に、この国の未来は掛かっているんだからな」
「解りました」
一人の人間の何かが、冒されていた。
☆ ☆ ☆
「調子はどう? 頭痛とかはしない?」
白衣の女性は目の前の少女に尋ねる。
「まあまあ、かな」
少女はショートの茶髪を梳き、自慢げに言う。幼さを残した顔立ちで、翡翠のような輝きを持った瞳。
少女の格好は、病院の検査服。そして場所は白い壁で覆われた、診察室。
少女は患者で、白衣の女性は医者だった。
某国の空港、その医療施設だった。
「はいはい。あなたは優秀な子ですからね〜」
「……馬鹿にしてるでしょ」
ジト目で少女は女医を睨み、気まずそうに女医は目をそらした。
「え〜と、あっ、そうそう! 検査の結果は、異常無しだったわ」
「って事は……」
少女の目が期待に溢れ、女性は頷いた。
「ええ、出国許可がされたわ。御免なさいね? 規則だから検査を受けてもらったのだけど……」
「いいわよ、別に。あなたに非がある訳じゃないでしょ? それに、これで大手を振って日本に行けるわ」
小さくガッツポーズをする少女に、女医は彼女に服を渡した。
出国に当たって健康診断が必要だったのだ。
「あなたの行き先は日本だったわね」
「ええ。数年前までは大した見所も無かったけど、今となっては別だもの」
服を受け取り、全く気にする事無く女医の前で着替える少女。同性だからだろうか、まったく恥じらう様子が見られない。
そんな少女に、女医は自分とは別次元の人間のように語りかける。
「あなたに取って数年前までの世界は、どこもそんな物じゃなかったの? 天才魔法使いさん」
「そうね……、確かに詰まらない物だったわ。こんな事言うのは不謹慎だろうけど、その点は侵略者さんに感謝してるかも。魔法使いを表舞台に上げてくれた事に」
「昔なら魔女狩り、昨今では電波なんて呼ばれているものね。で、世界で魔法が認められて、あなたはその最先端の学校に留学するんでしょ? あの黒嶺学園に」
黒嶺学園、という単語を強調しながら女医は言ったが、少女はまるで気にしていなかった。
「そんなの関係ないわ。どうせ今は四魔戦とかいう武闘大会もどきの準備で忙しいから。あたしが興味あるのは、最先端の魔力を使った技術、それと対極の古代魔法だから」
「要するに、魔兵にはなる気は無いってこと?」
「その通り。人口の一パーセントにも満たない魔法使いの一人が入学したい、なんて言えばどこでも入れてくれるし、多少の融通も利くわね。特に、魔兵専門学校ならね」
一通り着替え終えた少女は、くるりと回って変な所が無いか見直す。
少女の服装は、黒を基調とした制服。その胸には金の刺繍が入れられている。
「スキルではどうしても魔法には届かないものね。スキルは、どちらかというと科学の延長戦上にあるもの。魔法は、理解や解釈が不可能な、不思議な力」
「奇跡、と形容するのが一番いいかもしれないわね」
「それで、結局あなたは何をしに行くの?」
少女は、クスリと微笑み女医に言った。
「ちょっと研究に。ついでに、探し物を見つけようかと思って」
しばらく彼女がメインになると思われます。
感想よろしくお願いします。




