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例えば勇者の模造品  作者: 零月零日
第二章
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第二章 失敗作品.6

2/5 一カ所変更。

 自分のしている事が正しいのか解らない。

 彼が言う事ならば間違いは無いだろう、そう思っていた。

 だが、本当にこれで良いのだろうか?

 そう思う事は、魔兵としては失格な思考だ。兵士が個人の意志で動けば、勝てる戦いも勝てなくなってしまう。兵士であるならば、上官の命令を疑う事はいけないことだ。

 だが、今回ばかりは、疑わずにいられない。

 本当に、これで良いのだろうか?


 草薙慎也(くさなぎしんや)の思考は、彼がいる建物の最下層にまで響く轟音で中断させられた。

 都心から離れた場所にある、潰れた研究所。何十年も前に潰れたそこが彼らのアジトで、草薙がいるのはその最深部だった。

「何だ?」

 草薙は自身のスキル、『壁格子(ハインドランス)』が正常に作動している事を確認した。


 『壁格子』は、自分の設定した範囲を魔力の壁で覆う、結界もどきのスキル。その壁は結界と呼べる程耐久性が無いが、破壊されてもすぐに修復できるという物だった。


「……部屋の壁はどこも壊されていない。と言う事は、外で何かあったか」

 草薙は現在、誘拐して来た生徒の監視を任されていた。

 『壁格子』で生徒のいる部屋を覆っておき、破壊された場合はその部屋を仲間に教えるといった、看守のような役割を担っている。

 現在、どの部屋の『壁格子』も正常に作動しており、どの部屋の『壁格子』も壊されていない。

 となると、何者かがこの研究所に襲撃して来た、というのが妥当だろう。

「……始まったな」

 仲間が侵入者と接触し交戦が始まったのを、仲間の発砲音を聞いて草薙は悟った。

「……念のため、各部屋の『壁格子』を硬くしておくか」

 目を閉じ、草薙は集中し、各部屋に展開している『壁格子』を二重にする。それでどれほど強度が上がるかと言えば微妙だが、何もせずに一人ぼうっとしているよりは良いと思った。

 だがこのとき、草薙は何か嫌な予感を感じていた。

 侵入者との戦闘が、嫌に長いと思いながら。



   ☆ ☆ ☆



 元有機生物化学研究所。

 皮肉にも、その研究所、現在は人喰いジョーズなどと噂されている奴らのアジトは、人体実験を行なっていた研究所だった。

 それを知ってか知らずか、彼らはその場所をアジトに、天才の脳みそ集めをしているという。

 実際にそんな事をしているのか、それとも裏で違う目的があるのか定かではないが、とにかくその場所に最近行方不明となった黒嶺学園の生徒は捕われていた。


「俺の名を彷彿とさせる事件を起こしたのは、何の因果かな。運がない……、いや、運が悪いな」

 自らを人喰いジョーズの亡霊と呼ぶ男は、部屋を埋め尽くすパソコンの淡い光に照らされていた。

 現在その大量のパソコンは、とある場所のカメラをハッキング、その映像を映している。

 言うまでもなく、それは元有機生物化学研究所だ。

 そして、一台のパソコンには一人の黒髪の少年が写っていた。

 主な武器は木の棒。

 主な防具は布の服。

 それは、勇者の模造品と呼ばれる一人の少年。


「さあて、人喰いジョーズの偽物達。勇者の模造品を止められるかな?」



   ☆ ☆ ☆



 時刻は八時半。

「あんま遅くなって夜寝れなくなったら困るだろうから、さっさと終わらせようか」

 ナインの呟きと同時に、元有機生物化学研究所は揺れた。それは、研究所のドアに張られていた結界が壊れる衝撃だった。


『強制開閉魔法』

 どんな扉でも問答無用で開けられる、閉められる魔法。そう、例え扉に結界や鍵がかかっていたとしても、だ。しかし、閉める用途が窺えない。昔からこの手の魔法は、開けるためだけに使われるし、なんちゃらの鍵にその地位を取られているのだが、そのなんちゃらの鍵を持っていないナインには便利であった。


 ナインが研究所の中に入ると、結界が破壊された振動で気付いたのだろう、男達が銃を構えていた。

「動くな。大人しくしろ」

 正体不明の侵入者相手、という訳かどうかは知らないが、三人の男が十メートルの距離をあけてナインに銃を構えていた。サブマシンガンである。

 研究所内部は電気が通っており、頭上で蛍光灯が灯っていた。よく手入れが行き届いているのか、壁は綺麗な白いのままだ。

「物騒だな。今時銃かよ、なんて笑えないな」

 大人しく木の棒を落とし、手を挙げるナインだったが、その手の形は不自然だった。

 両方の親指が伏せられている。

 男達には、それが何なのか解らない。まさかそれが魔法の詠唱と同義の行動だとも、解らない。

 だが、さすがに目の前に変化があれば、気付く。


 黒く澱んだ球体が、ナインと三人の間に目の高さで浮いていた。


 三人の行動は迅速だった。

 球体が現れたのと同時に、サブマシンガンの引き金を引いていた。


 ダダダダダダダダダダダダダダダダーー!!


 銃声が繋がって聞こえる程、激しい銃撃。

 しかし、連射で繋がっていた銃声は、すぐに止まってしまったが。

「なっ!?」「いっ!?」「ああぁ!?」

 その代わり聞こえた三人の驚きは、その目の前で起きた現象が原因だった。


 黒い球体が、銃弾を引き寄せていた。

 そして三人の手元の銃本体も。


『磁力魔法』

 特定の金属器を引き寄せる磁力に似ているためこう名称されているが、金属器でなくても引き寄せることができる、吸引魔法。ブラックホールもどき。簡単にまとめて片付けたいあなたに。


 当初、球体に引きつけられて宙に浮いていた銃器だったが、時間と共に落下。それでもまだ効果が残っているのか、銃器同士はくっついて離れない。それは、一つの鉄の塊と化していた。

「貴様……魔法使いか!」

 男の一人が叫び、腰からサバイバルナイフを取り出し切り掛かった。

「違うな。俺はスキル持ちだ。魔法使いじゃない」

 拾い上げた木の棒でサバイバルナイフを弾き、ナインは男の鳩尾へと突き立てる。男が埋めき声を上げ倒れた。

 それに感化されたのか、残っていた二人のうち一人がナイフを抜き、一人が応援を呼びに奥へと向かった。

「応援呼びに行かれた所為で、敗北フラグが立っちまったな」

 残った一人にナイフを振らせる事も無く気絶させ、ナインは奥へと向かった。



   ☆ ☆ ☆



「どうなっているんだ?」

 草薙は焦っていた。

 いつまで経っても戦いの音が止まない。いや、断続的に続いていると言った方が適切だろう。

 先ほどから銃声が鳴ったと思えば止まり、またしばらく経って鳴り響くということの繰り返しだ。

 今このアジトには三十人程の仲間がいる。その中には戦闘用のスキルを持った奴らも何人もいるのだ。それにも関わらず、戦闘が止まる気配はなかった。

「……くっそ」

 草薙は駆け出した。

 どうせ『壁格子(ハインドランス)』は自分が気絶するか死ぬまで発動しているのだ。どこに自分が居ようと関係ない。上で何が起こっているのか調べに行っても、管理体制には問題ないのだ。

 自分一人だけが残っても、なんの役に立たない。少しでも助けになればいい。

 そう思い、草薙は上へと向かった。



   ☆ ☆ ☆



 何度か戦闘、そのたびに気絶させて、一階を全部見回り何も無いとナインは判断した。二階は廃れており、ナインは地下へと向かう。監禁するならば地下だろう、と言う偏見もあったが。

「撃て!」 

 非常階段で地下一階へ下り、防火扉を開けて脚を踏み出した瞬間、集中砲火を受けた。

「危なっ」

 慌てて非常階段の方へと戻ると、銃撃音は去った。

 作戦としては、待ち伏せして攻撃だとナインは思った。

「……『守備力強化魔法』と『加速魔法』は展開中。だがゴリ押ししてこの後HP切れなんて嫌な展開だな。MPは使い切っても良いから、スマートなやり方で行くか」

 スマートなやり方って何だろう? 駄目だ、俺ってNEETだから解らないや——、となんでもNEETの所為にしているナイン。マッチポンブな思考である。

「ま、ゆっくりやるのは性に合わないな」

 左手の小指を立て、それからナインは飛び出した。

 銃撃は始まらない。男達の動作は非常に緩やかで、スローのような動きだった。

 その間にナインは状況を確認。左側は行き止まりで、右には五人の男がいずれもサブマシンガンを持ち陣取っていた。どうやら『磁力魔法』展開も間に合わず蜂の巣に出来ると踏んでいたようだ。

 まあ、HPなんて持っていない普通の魔法使いならばそうだろう。

 現に、先ほどの攻撃は少し被弾していた。

 ナインは再び『磁力魔法』を発動し、自身は壁を蹴って五人の後ろに回り込む。

 そこで男達の動きが戻ったが、銃器は『磁力魔法』によって奪い取られた後。

 そちらの方へまとめて蹴り飛ばされた。

 『磁力魔法』の球体ごと壁に打ち付けられ、五人は動かなくなった。

 『緩急魔法』で相手の動きを遅くし、『攻撃力強化魔法』を用いた蹴りでまとめて一掃。

 スマートかどうかは無視して、本当に『磁力魔法』を使う必要はあったのかが疑問だった。

「安全第一、かな」


 強化系統の魔法に関しては持続性があるが、他の魔法は時間的制約があるため、本来なら多用するべきではないのだが、今現在の彼のステータスはとても高いので問題ないとも言える。

 HP3450、MP235。

 HPは最大値という概念が無く、食べた分だけ増え、寝ればデフォルトの2000になるという設定。MPも同様で、寝ればデフォルトの200になる。

 MPに関しては魔法を乱用しているためあまり多くないが、HPは非常に高くなっている。数刻前に奢ってもらったため、ここまで高ステータスなのである。


 非常階段からは一本道で、左右に部屋がちらほらあったがどれも蛻の空だった。

「……さあて、残存戦力はどのくらいかな?」

「このくらいだ!」

 ナインの独り言とも思える言葉に律儀に答え、十人程度の武装した男達が前後に現れた。

 どうやら二階から上にも何人か潜伏しており、非常階段から背後を取ったようだ。

「少しでも動いてみろ。撃つぞ?」

 そう言ったのは、草薙だった。自分のスキルでは戦闘に向かないと理解して、武装している。

「貴様、何が目的だ? 只者じゃないようだが」

 ナインはちらりと後ろの様子を見ようとしたが、威嚇射撃でそれを止めさせられた。

「……目的、ね。強いて言うなら、囚われのお姫様を助けに来た、とかか?」

「巫山戯ているのか?」


「いやいや、こっちとしては結構真面目なんだよ。なんせ——」


 ナインはそこで言葉を切り、右手を上げた。

 だが、実際に使う魔法は、左手中指一つだけを折り曲げた時に発動する魔法。

「撃て!」

 ナインの動作に草薙達は発砲、しかしその銃弾がナインを動かす事は無い。

 『RPG』が生み出すHPは、万物に干渉する緩衝剤。銃弾も例外ではない。

 銃弾が保存していたエネルギーを完全に無くし、銃弾は床に転がり、そして。



 全てを押しつぶすような圧力が、草薙達を襲った。



『重力魔法』

 文字通り、重力を操る魔法。考え方によっては圧力魔法とも取れる。対象に立っている事すら儘ならぬ程の力をかける魔法。ゲーム内では補助キャラが好き好んで使ったりする。主人公クラスになるとあまり使わない印象がある魔法。


 ナインを除いた全員は倒れ伏し、指一本動かす事が出来なくなっていた。

 あまりの力に嗚咽を漏らし、息苦しさから気を失いそうな草薙は、それでも確かに聞いた。


「俺は勇者……その模造品だからな」



   ☆ ☆ ☆



 それは『不可視力(インビジブル)』と呼ばれる男のアジト。そこに倉崎は監禁されていた。

 倉崎の捕われている部屋には一切の光が入ってこなかった。

 鉄の扉がその部屋の唯一の出入り口で、今は鍵が掛けられ、固く閉ざされている。

 倉崎は衰弱していた。

 『不可視力』との戦闘で打ち込まれた銃弾には薬が仕込まれていたのか、頭が朦朧としていた。

 決して微量とは言えない血が傷口から溢れ、体力は酷く消費されていた。

 元々体力はあまりない倉崎に、それは酷な状態だった。呼吸は荒く、目の焦点はおぼつかない。

 掛けられた手錠が重く感じる程、倉崎は弱っていた。

 スキルを使えなくする手錠、ではないのだが、今の倉崎にはこの手錠を外す体力も残っていない。ここに連れ込まれてから、『不可視力』によって暴力を受け、今まで気を失っていたのだ。

「……すいません……会長。僕は……」

 倉崎が弱々しく何かを呟こうとしたその時、地響きが聞こえた。

 衰弱しきった倉崎の意識でも確認できる、大きな魔力の動きがあった。

 次いで、男達の罵声。扉越し、ここからそう遠くない場所で戦闘が起きているのが解った。

 数秒程でその音は止まり、足音が倉崎のいる部屋へと近づいて来た。その足音は全ての部屋を開けているようだった。まるで何かを探してるような、誰かを探しているような足音。

 そして、ピタリとこの部屋の前でそれは止まった。

 数秒後、扉が無理矢理、とでも表現できそうな不自然な動きで開いた。

 光が部屋を照らす。

 数時間ぶりの光は眩しく、倉崎にはその足音の人物が誰だか解らなかった。

「…………朝井会長?」

 助けを望んでいた、きっと心配してくれているだろう人物の名を、思わず声に出して呼んでしまった。

 そして、その人物は答える。


「悪いな、会長じゃなくて。えっと、リオ、だったか? 大丈夫か?」


 相も変わらずボロい布の服を着た、黒髪の少年がそこにはいた。



   ☆ ☆ ☆



 ビクッと倉崎の体が震え、手錠と足枷が音を上げた。

 刺すような視線がナインに注がれていた。

「……悪い、名前で呼ばれるの嫌いか?」

 自分を睨む倉崎に対し、そんな事を言ってみるナイン。

 そう言えば、最初に会った時にもこんな反応されたな。いや、アレは俺がじっと見てた所為か。

 などとどうでも良い事を考えていたが、弱々しい声でその思考は遮られた。

「ち、違う。あ、アレはそういう訳じゃないんだ。……いや、そうじゃなくて、お前、どうしてここに……」

 警戒するようにナインを伺う倉崎。

「……ええと、弁解するのも面倒だし、何より時間がないので、自分の無罪は行動で示そうと思います」

 ナインは手ぶらで倉崎の元に近寄り、そして手錠に指を当て、『強制開閉魔法』を発動。

 重々しい音を上げ、手錠が床へと転がった。

(……しかし、酷い)

 倉崎の顔には殴られた時に出来たであろう痣、手には擦りむき傷、学ランには血が滲んでいる。恐らく、その学ランの下はもっと酷い事になっているだろう。深く被っていた学帽も部屋の隅に転がっている。

「あ、……ありがとう」

 手錠を外した段階でナインは感謝されてしまった。

「……どういたしまして」

 と素直に言いたいところだが、しかしこの状況、ここで感謝されるべき事は何も無い。まだ何も終わってはいないのだから。

 本当ならここで帰ろうと思っていたが(ナインは倉崎が苦手だし、正直嫌いだった)、感謝された分は働く事にしようとナインは考えを改めた。

「歩けるか?」

 倉崎は手をついて立ち上がろうとしたが、すぐに崩れ落ちてしまった。

(……俺がおぶって行くと言う案はないだろうし(恐らく全力で拒否してくるだろう)、悠長に体力が戻るのを待っている暇もない……か)

 非常にどうしようもなくなっていた。

「……お前、なぜここに来た」

 どこか馬鹿にした口調で言う倉崎。ナインは自分が引きつった笑みを浮かべているのが解った。

(やっぱり、俺はこいつが苦手だ)

 だからなのだろうか、ナインはちょっと意地悪したくなった。

「ああ、どうせ説明しても解らないよ。お前等みたいな社会の頂点の人間にはな」

「……………それは」

 倉崎は俯き、目を泳がせる。

 助けてくれた人を馬鹿にした過去を少し悔やんでいるのだろうか。

(……ま、本当に解んないだろうな。魔兵として育てられれば、感情なんて必要ないからな。誰かを助けたい、なんて気持ちも忘れるだろうさ)

 自分が停学になった事件を少し思い出し、あの頃と自分が少しも変わっていない事を再認識するナイン。

 そして、本当にどうしようもないと思った。

 自分はどうしようもなく、馬鹿なのだと。

「……どうせ俺の能力は説明したって解らないから、お前は黙って感じてろ」

「はぁ?」

 若干『何を言っているんだこいつ』という視線を浴びたが、それくらいでナインの決心は鈍らない。ナインは倉崎のすぐそばで膝をつき、頭に手を乗せた。

(この魔法は、本当に魔法だろう)



 蛍火のような淡い光が倉崎を包み込んだ。



「これは……」

「系統的には『治癒魔法』っていうのかな? まあ、詳しい事は知らんけど。どうだ? なんか変化あったか?」

「……………」

 何も答えない倉崎だったが、その変化は一目瞭然だった。

 先ほどまであった目に見える傷は全て綺麗に消えている。不思議そうに手を動かす倉崎だったが、先ほどまで感じていた痛みすらも消え去っている事を知った。

「……………………」

「ん。その様子じゃ全快みたいだな。良かった良かった」

 じっと見つめてくる倉崎の視線から逃れるように、ナインは顔を背ける。

「……さてと、後はお前が助け出せよ? 俺はもう疲れた。武器とかは使い物にならなくしておいたし、ほとんど気絶させておいた。また不覚をとられる事も無いだろ?」

 そう言ってふらりと立ち上がるナイン。どこか不自然な動きであった。

 というのも、『治癒魔法』はMPの消費が激しいからだった。残っていたMPの大半を使ってしまっている。

「ちょっと待て! お前には聞きたい事がたくさんあるんだ!」

 そんなナインを倉崎は呼び止めた。ナインは目線だけ倉崎の方にやる。

「お前は一体どうして、ここまで来たんだ? お前に僕を助ける理由なんて無いだろう? ——いや! それよりもこれはどういう事だ? 治癒魔法、とか言ったか? それ以外にも何かのスキルを持っているんだろ? お前は一体、何者なんだ!?」

 一気にまくしたてる倉崎の台詞を全て聞き、ナインは答えた。

「悪いな。俺にも隠しておきたい事があるんだよ」

 そして、さらっと倉崎の顔を見ながらそれを口にした。



「お前が女なのに男の格好をしているのと同じでさ」



 瞬間、倉崎リオは体を震えさせた。

 今、深く被っていた学帽は床に転がっている。

 倉崎の、リオの顔はよく見れば、それは間違い無く、女性のものだとわかるだろう。

 格好と深く被った学帽、それに中性的な顔立ちが彼女の性別を曖昧に、そして男だと勘違いさせていた。

「……知って、いたんですか?」

 不意に口調が代わり、先ほどまでの口調は演技だとナインは悟ったが、しかしそんな事はどうでも良かった。

「まあな。最初に会った時から気付いていはいたけど、あえて言わなかった。お前だって知られたくない過去があるんじゃないのか?」

「それは……」

 口籠るリオに畳み掛けるようにナインは言った。

「悪いな、今は話せない。この事件が片付いて、もしも興味があるなら話しても良いぜ? ただし条件があるがな」

 そして、ナインはリオの目を見て、ニッと笑みを浮かべてこう言った。


「ご馳走してくれたら、話してやるよ」


 小さな笑みを浮かべるリオを見て、ナインは人差し指を上げた。

「じゃ、俺は行く所があるからな」


 そして、ナインの姿は消えた。


「いっっ!!!!」

 が、次の瞬間には頭を抑えて床に転がっていた。


 『転移魔法』は建物内でも使用出来るが、使用しても無意味である。

 天井に頭をぶつける結末しかないのだから。


思う所があり、『瞬間移動魔法』→『転移魔法』にしました。

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