正義感の強すぎる皇太子殿下のせいで、飛竜で飛ぶはめになりました。でも、貴方の事が好きです。
「父上、母上、アリアンテ。怪しげな連中にさらわれそうになったんだが、お前の婚約者であるリュシウス皇太子殿下に助けて貰った」
「レイドがさらわれそうになっていたから助けたんだ。まったく、簀巻きにして連れ去ろうと。無事でよかった」
アリアンテと、その両親であるシャンテ公爵夫妻は、息子レイドと、アリアンテの婚約者であるリュシウス皇太子を見てため息をついた。
シャンテ公爵家では嫡男レイドにいつも悩まされていた。婚約者である令嬢がいた。ハリウス公爵家のレティシアである。その令嬢がいるのにもかかわらず、浮気を繰り返し、金も家から持ち出して湯水のごとく使う放蕩ぶり。
レティシアがキレた。
「婚約を破棄します。慰謝料はいらないわ。でも、二度と顔を見たくはない。こんな男は変…辺境騎士団へやってしまえばいいわ。屑の美男を教育する変…辺境騎士団。レイド様は金髪美男だから、さぞかし可愛がってもらえるでしょうね」
と言って、婚約破棄と変…辺境騎士団へ送るようにハリウス公爵家から言ってきた。
シャンテ公爵夫妻も息子の放蕩ぶりには手をやいていた。
妹であるアリアンテもである。
「お兄様。いい加減に行動を改めた方がよくてよ」
「私は楽しく過ごしたんだ。色々な女性と付き合って。色々と金を使って遊びたい」
そう言って、勉強もせず、遊び惚けていた。
だから、ハリウス公爵家のレティシアから、変…辺境騎士団へ行かせればいいと言われた時にシャンテ公爵夫妻も承知したのだ。
息子が可愛くないわけはない。ただ、このままではシャンテ公爵家は終わる。
だから、泣く泣く変…辺境騎士団へさらわせることにした。廃籍もした。
馬車に乗せて旅行へ行かせた。
付き合っている女性二人と共に、レイドは意気揚々と出かけたのだ。
シャンテ公爵夫妻は息子にはもう二度と会えないと涙を流した。
屑の美男教育を二年間過ごした後、屑の美男達は教会で奉仕活動をする。
そこへ、そっと見に行く事は出来るかもしれないが。公爵家として、非情に徹する事にした両親。
だから、影では泣きながら息子を見送ったのだ。
アリアンテはせいせいしたと思った。
自分はベルト帝国のリュシウス皇太子の婚約者である。
二人は来年婚姻を控えているのだ。
リュシウス皇太子は最強の強さを誇る帝国の英雄である。
銀髪碧眼。逞しい身体。年は25歳。アリアンテは歳は18歳。
金髪碧眼の自分の美しさには自信のある令嬢だ。
皇太子妃教育も優秀だと教師に褒められる位である。
ベルト帝国は隣国と頻繁に小競り合いを起こしていた。
そこへリュシウス皇太子は時々、出張っていて、隣国の兵達を蹴散らして、恐れられていた。
まさに帝国の英雄。
そんなリュシウスも帝都に戻ることもある。
皇城にも用があるし、ひたすらアリアンテに会いたいがためだ。
アリアンテもリュシウス皇太子の事は好きなのだが。
時々、彼は余計な事をやらかすのだ。
今回の件もそうである。
屑の美男をさらって教育するという変…辺境騎士団へさらわせるはずのレイドを助けて来たリュシウス皇太子。
だから、アリアンテは物陰にリュシウス皇太子を連れて行って文句を言った。
「ハリウス公爵家と、我が公爵家の総意なのですわ。兄はあまりにも素行が悪くて。だから彼らにくれてやることにしたのです。それなのに、助けてしまったのですか?」
「だって、兄上になるのだ。私の。助けるのが当然だろう?」
「でも、兄に任せておいては公爵家が終わります。我がシャンテ公爵家は養子を取る手続きをしておりますわ。それなのに」
兄レイドは、父に向かって、
「今度は安全な旅行がしたいと思います。女達も震えておりますから。馬車と旅費と旅行先の滞在費を用意してくれませんか?」
シャンテ公爵は屋敷の使用人達に、
「レイドを部屋に閉じ込めておけ」
「父上???」
レイドは引きずられて部屋に閉じ込められた。
リュシウス皇太子は、
「変…辺境騎士団にさらわせるのは間違っている。本当に更生させたいのなら、きちっとした施設を作るべきだと考えている。我が帝国はまだそういう施設がないからな」
アリアンテは、
「現実は施設を作ったとしても、王族や高位貴族はそこへ入る事もなく、のうのうと過ごしていると思いますわ。彼らは権力がありますから。どうしようもない時に、変…辺境騎士団へさらわせるのも仕方ないと思いますわ。わたくし」
「そういうものか?私は嫌だな。そういうのは」
レイドは結局、領地の片隅の屋敷で二度と外に出られないように、監視されて生きる事になった。
レイドと浮気をしていた数人の令嬢達の家をレティシアは全部、潰すとハリウス公爵家の力で圧力をかけた。
それをリュシウスが皇太子権限で、各家の事業を守り後押ししたのだ。
ハリウス公爵家から苦情がリュシウス皇太子に寄せられた。
リュシウス皇太子はハリウス公爵に、
「見せしめだからと言ってやりすぎだ。元婚約者の浮気相手だろう?元婚約者であったレイドは幽閉状態にある。勘弁してやれ」
と言って、令嬢達とその実家を庇った。
そんな調子だから、リュシウス皇太子は高位貴族達からにらまれた。
アリアンテは思う。
彼は優しいのだ。戦場での小競り合いで、沢山の人を殺している帝国の英雄であるリュシウス皇太子。
だが、本質はとても優しい人。
確かに高位貴族達にとって、煙たい存在かもしれないけれども。
アリアンテはそんな優しいリュシウス皇太子が好きだ。
リュシウス皇太子は、
「飛竜を手に入れる事が出来るようになった。今度、アリアンテを乗せて空を飛ぼう。
私が将来治める帝都。その景色を空から見たらどんなに素敵だろう。アリアンテにも見せてやりたい」
「まぁ、帝都を空から。それはとても楽しみですわ」
でも、アリアンテは知っている。
父やハリウス公爵が、煙たいリュシウス皇太子を皇太子の位から引きずり降ろしたいと思っているという事を。
第二皇子のアルフレッドを推しているという事を。
アルフレッド第二皇子は17歳。まだ婚約者がいないのだ。
とある日、皇太子妃教育が終わって廊下を歩いていると、アルフレッド第二皇子に声をかけられた。
「兄上を見限った方がいい。私の婚約者にならないか?」
リュシウス皇太子と似た面差しのアルフレッド第二皇子。
アリアンテはもし、リュシウス皇太子が失脚したら、自分はアルフレッド第二皇子と婚約させられるだろうなと、父の意向で。そう思った。
でも、わたくしは‥‥‥
「リュシウス皇太子殿下は帝国の英雄ですわ。見限る事なんて出来ません。ですので、婚約の話がもし貴方様から出た時はお断りしたいと思います」
「その時は、そなたは毒杯を飲まねばならない。そうだろう?皇太子妃教育を受けているんだ。帝国の皇族の秘密を含む教育も受けているのだろう?生き延びるのなら、私と婚約するしかない」
「リュシウス皇太子殿下が失脚したら、殿下はどうなりますの?」
「将軍として、前線で一生、働いて貰う。帝国の英雄だから。英雄なりに働く場所はある。そなたは私と婚約し、いずれ結婚するしかないだろう」
胸が痛い。
だから、リュシウス皇太子に話をすることにした。
「もっと、ハリウス公爵家や、我がシャンテ公爵家の意向を組んで下さいませ。公爵家を敵に回さないで。お願いですから。わたくしは貴方が失脚する姿を見たくはありません」
リュシウス皇太子は、
「弟に何か言われたのか?」
「わたくしは貴方様以外に嫁ぎたくありません。飛竜に乗って貴方とわたくしが治める帝国を見たいと思います」
リュシウス皇太子殿下が好き。この人と帝国を治めたいの。
正義感が強くて、優しい人。わたくしはそういう所が好きなんだわ。
リュシウス皇太子はアリアンテを抱き締めて、
「私は曲がった事が嫌いだ。ハリウス公爵家やシャンテ公爵家は他にも権力を使い、下位貴族達に嫌がらせをしている。
上が下を苦しめるのは間違っている。
屑の美男教育?何故、そんな事をしなければならない。
更生施設を作ればいいだろう?上位貴族はそこに入れられない?
我がベルト帝国では、私が皇帝になったら、間違った連中は更生施設に入れる。
変…辺境騎士団など、介入はさせない」
アリアンテはその言葉を聞いて、覚悟を決めた。
「わたくしは貴方のそういう所が好きなのですわ。でも‥‥‥」
涙が零れる。
間違いなく父やハリウス公爵家はリュシウス皇太子をその位から失脚させるだろう。
「さようなら。皇太子殿下。わたくしは貴方の事を愛しています」
そう言って背を向けた。
リュシウス皇太子に後ろから抱き締められた。
「永遠に私と別れる。そんな言い方だな」
この人は解っていない。どんなに高位貴族達が怖い存在か‥‥‥
彼の手を振り払いその場を後にした。
一月後、高位貴族達は第二皇子アルフレッドを次の皇帝にするように、ガルド皇帝に向かって直訴した。
「しかし、リュシウスは英雄だからな」
ハリウス公爵は、
「英雄だからこそ、前線に常に置いて、隣国に睨みを利かせればよいかと」
シャンテ公爵も、
「そうですぞ。アルフレッド殿下には帝都でどんと構えて頂ければ、我々も安心して過ごせます」
ガルド皇帝は貴族達の支持を受けられなくなるのは困ると、リュシウスを皇太子から降ろして、アルフレッドを皇太子にすることにした。
その事を聞いたアリアンテは、部屋で毒の入った瓶を手にしていた。
父に渡されたのだ。
リュシウス元皇太子との婚約は解消された。
アルフレッド皇太子の婚約者にならなければ、この毒を飲むことになる。家の為に婚約者になれと。
「綺麗な青ね‥‥‥わたくしはリュシウス様が好き」
瓶を口元に持っていこうとする。
毒薬を飲もうとした。
テラスの窓がバンと開いて、リュシウスが立っていた。ここは三階だ。
大きな飛竜が顔を覗かせて、アリアンテは悲鳴をあげた。
リュシウスがアリアンテに手を差し伸べて、
「君は皇太子妃になるのか?アルフレッドと結婚して。いや、その手の瓶はなんだ?」
アリアンテは涙を流しながら、
「わたくしは貴方の事を愛しております。貴方以外と結婚したくはないから。毒をっ。
わたくしは皇族の秘密を知っております。アルフレッド様と結婚しなかったら殺されるでしょう」
「申し訳なかった。私の思慮が足りなかった。私は帝国を離れて遠くへ行く。着いて来てくれるか?」
「リュシウス様。どうかわたくしをお連れ下さいませ」
飛竜に乗って、空を飛んだ。
眼下に見えるベルト帝国の灯り。
キラキラと美しく輝いて。
本当ならリュシウス様と一緒に帝国を治めたかった。
この灯りをもっと希望の溢れる光に変えたかった。
飛竜が咆哮を上げる。
リュシウスが飛竜の手綱を操りながら、背のアリアンテに向かって、
「申し訳なかった。私の思慮のなさが君の未来を潰してしまった」
「いいのです。わたくしは貴方と共に生きたい。ずっと貴方の事を愛していました。今も愛していますわ」
「私も愛している。さぁ行こう」
帝都の灯りが遠のいて。
二人は飛竜に乗ってどこまでも飛んでいくのであった。
変…辺境騎士団にて
「屑の美男はどうなった?邪魔された挙句、さらいそこねてそのまま?」
「領地の片隅に幽閉されているらしいぞ」
「触手を使ってさらってこよう」
「その後、三日三晩だな」




