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ぼくのはなし③
――気味が悪い。
僕が彼女を本気で憎んだのは、その日だ。
嫌悪じゃない。軽蔑でもない。
もっとはっきりした、排除したいという感情。
部室に置かれた、名前のないチョコレート。
包装は不格好で、メッセージもない。
なのに、誰のものかはすぐにわかった。
田端。
視界に入った瞬間、胃の奥が冷えた。
触れたくもなかった。
捨てた。
ゴミ箱に放り込んで、蓋を閉めた。
それで終わるはずだった。
だが、怒りは消えなかった。
むしろ、時間が経つほど濃くなっていく。
どうしてこの僕に?
どうして、あんな女が?
不釣り合いという言葉じゃ足りない。
存在そのものが、冒涜だった。
殺意が芽生えるのに、時間はかからなかった。
驚くほど自然に、当然の帰結として。
だから、実験をすることにした。
感情ではなく、検証だ。
「言葉で、人は殺せるか」
舞台は屋上。
彼女は花を手にしていた。
理由は知らないし、知る必要もない。
背後に立ち、距離を測る。
風の音に紛れる程度の声量で、囁いた。
「キモいんだよ。死ね」
彼女は振り返らなかった。
振り返る必要が、もうなかったからだ。
僕は走った。
考える前に、身体がそう判断した。
直後、鈍い音がした。
乾いた、現実的な音。
成功だ。
予想どおり、結果は再現された。
これは事故でも、自殺でもない。
でも、大げさに呼ぶほどのことでもない。
中くらいの、殺人実験。




