第98話「たとえ世界が違っても」
大きな戦いを終え、町には焦げ跡が残りながらも、兵士や住民たちによって復興が静かに進んでいた。
そしてラヴォスは自らの命と引き換えに青年を蘇らせる禁術を選び、チェロスや仲間たちは止めようとするが、彼の決意は揺らがなかった。
♢♦︎♢
魔法陣が床に刻まれ、眩い光が立ち昇った。
ラヴォスの身体は霧のように分解され、無数の粒子となって儀式の中心へ吸い込まれていく。
ニーナの声が響く。
「我らの光よ、命を繋げ!」
フラムの声が重なる。
「我らの炎よ、絶望を焼き尽くせ!」
二人の詠唱が重なった──
ラヴォスの魂は光の奔流となり、青年の胸へと注がれていった。
まるで長い旅路の果てに安らぎを見つけたかのように。
青年の身体が大きく痙攣し、息を吐き出す。
「……はぁっ……!」
青年の瞳が開かれる。
その瞬間、全員が息を呑んだ。
「……生き返った……!」
「すごい! 息ぴったり!」
青年は目を瞬かせ、ゆっくりと周囲を見渡した。
「……ここは……」
その時、この空気を破壊するために生まれてきたような男が、ドタドタと駆け込んできた。
「あの野郎……ラヴォ、だっけか? そいつに金もらおうとしたんだけどよ! どこにもいねぇんだよ!!」
みんなが振り向いた瞬間、その男──息子は、青年の方を見て固まった。
「と、父さん!!!」
「……お前……」
「と、父さん!!!」
息子は叫び、ためらうことなく駆け寄った。
二人はぶつかるように抱き合った。
「よかった……! よかったよ……! どこにもいなくて、もう二度と会えねぇのかと思った……!」
青年は強く息子を抱きしめ、かすれた声で言った。
「……すまなかったな。遅くなった……だが、もう離さない!」
「バカ野郎……! 金なんぞどうでもいい……! ただ、生きててくれりゃ、それでよかったんだ!」
「息子さんからこんな言葉が聞けるなんてね」
「たとえ世界が違っても、心はずっと一緒だ」
「そっか、じゃあ元の世界に戻るんだな」
「ああ、過去の世界の息子は寂しいだろうに。すぐに帰らなきゃ」
「そうか、帰ったら俺によろしくな」
♢♦︎♢
クルーと絆創膏は柱の影で見ていた。
「……ふっ、かっこつけやがって。さすがはラヴォス様だな」
「でもちょっと寂しいよな」
「いや、あれは彼なりの計算された決断だ! たぶん……」
「……でも、最後は笑ってた……救われたんだと思う」
三人は同時に鼻をすすり、ゴシゴシと袖で目をこすった。
「お前ら、俺っちについてくるか? 俺っちはこれから人様の役に立ちたいと思っているでヤンス。だから悪事は働かない。たぶんな」
三人は顔を見合わせた。
「俺っちだってな……ラヴォス様が最後にあんな顔したの見ちまったら、少しくらい真面目に生きようと思うもんだ……ちょいと寂しいけどな」
三人はしんと黙り、しばらくしてから肩を寄せ合うようにうなずいた。
「……じゃあ、俺たちも一緒に行くか」
「絆創膏改め……」
「そうだ、クルーバンデージとして!」
「なんだその名前は!」
バンが胸を張った。
「俺たち、いつも転んでケガばっかりしてただろ? でも最後はなんだかんだで誰かの傷を塞ぐように動いてた」
「そうそう! ドジでも、不器用でも、ちょっとは役に立ってんだよ!」
ソウが笑い、コウが鼻をすすりながら言った。
「……だから、ラヴォス様の生き様も……ちゃんと俺たちがつなげていきたいんだ」
クルーは呆れたように頭をかき、だが目の奥は少し潤んでいた。
「ったく……お前ら、揃いも揃って泣き虫だな……まあいい。今日から俺たちはクルーバンテージだ」
「「「おおーっ!」」」
三人は手を重ねた。
クルーもその上に手を置いた。
「よし、決まりだ。俺たちの役割は、残された人たちの痛みを少しでも軽くすることだ。ラヴォス様が守ろうとした未来を、支えるためにな」
その言葉に、三人は力強くうなずいた。
そして柱の影から出ていく四人の背中を、差し込む光がやさしく包んでいた。
「で、でもクルーバンテージってことはソウとコウの名前が入ってねぇじゃないか!」
「俺がテーか? お前がジ!?」
「細けぇこたぁ気にすんな!!」
♢♦︎♢
「そうとなれば、心置きなく元の世界に帰れるな。カルネス、水晶を持ってきてくれ。今度は割るなよ」
カルロスはカルネスを睨みつける。
「はいはい、父さん。今回はちゃんと気をつけやす」
そして時の水晶が用意される。
「……ああ、帰るぞ。みんな、覚悟はいいな?」
ニーナがうなずく。
「……ありがとう、皆さん。絶対に後悔しないように生きます」
青年は力強く頷く。
「よし……行くぞ! カルネス、僕ちゃん抜きでもしっかりやれよ! この城に泥を塗るようなことをしたら承知しなぇからな!」
「わかってやすよ!」
光に包まれた瞬間、全員の身体がふわりと浮き、空間がねじれるような感覚が走った。
「……いくぞ、元の世界!」
声と共に、ギブタウン城の景色は光の渦に溶け、過去の世界へと繋がる道が開かれた。
♢♦︎♢
元の世界に戻った──
「……無事に戻れたな」
「……戻れてよかった」
シーサーは軽く頷き、メルは周囲の様子を確認しながら、ふわりと笑う。
アーサーは無言だが、目の奥に安心が宿る。
マヤとリリアは互いに手を取り合い、少し跳ねるように喜ぶ。
「……これで、皆の平穏は、少しは守られたってことだな」
だが、その胸にはどこかぽっかりと空いた穴もあった。
ラヴォス、そして共に戦った仲間の一部を失ったこと。
「いろいろあったな。でも……これからは、自分たちの手で未来を作っていくんだ」
すると、ギブタウン城の店舗の方から慌ただしい足音と叫び声が聞こえてきた。
「……なんだ、今度は?」
店舗へ向かうと、荷車が横転し、木箱から野菜や果物が転がり散らばり、人々が混乱の中で右往左往していた。
「こ、これは……盗賊か、それとも事故か……?」
シーサーが顔を曇らせる。
「見ろ、あそこに!」
カルロスが指差した先には、倒れた荷車に挟まれた子供がいた。
カルロスはためらわず駆け寄り、子供を抱き上げる。
「……大丈夫か? 怪我はしてないか?」
だが、その瞬間、背後から物音がした。
「ちっ……またか……!」
木の陰から、小さな盗賊団の影が現れる。
「おらおら、ここの城は人が少ないと聞いて、金品をいただきに来たんだが、こんな人がいたとは!」
カルロスは目を細め、拳を握る。
「……しょうがねぇな。いっちょやってみっか」
カルロスは子供を安全な場所に下ろすと、拳を強く握り直した。
シーサーも剣を構え、冷静に周囲を確認する。
「皆、援護は任せて。無駄に傷つけさせない!」
アーサーは無言で前に出て、鋭い視線を盗賊たちに向ける。
「おっぱい」
マヤとリリアも息を合わせ、素早く盗賊の動きを封じる位置に移動した。
「あのバケモノ相手すると」
「こんなザコ余裕ね」
盗賊たちは威勢よく飛びかかってきたが、カルロスたちの動きは一糸乱れない。
カルロスの拳が一人を地面に叩きつけ、シーサーの剣が間合いを制す。
マヤとリリアの連携で、残る盗賊たちは次々に捕まり、もはや反撃の余地はなかった。
「……やっぱり、僕ちゃんたちはここにいなきゃダメだな。守るべきものがあるんだ」
カルロスは息をつきながら、散乱した荷物を整理する人々を見回す。
「戦うだけじゃなく、守るために戻ってきたんだ」
「……その通りね。失ったものもあったけど、残された私たちが未来を作るの」
メルも微笑み、子供たちの様子を確認する。
「やっぱり、この世界は守らなきゃ。見て、皆が笑ってるわ」
だが、ふと何かが足りないことに気づいた。
いつも真っ先に駆けつけて支えてくれるあの人の姿がない。
彼女なら、誰よりも早く状況を把握し、子供を助け、盗賊をひと睨みで震え上がらせていたはずだ。
「二、ニーナがいない!!」
♢♦︎♢
「ここは……どこ……? カルロスたちは……もう帰ったの……?」
ニーナは暗闇の中にいた。
すると奥から人がやってくる。
「時の流れに取り残されてしまったのですね、ニーナ」




