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第97話「贖罪の果てに」

数日後、戦場はまだ黒い焦げ跡を残していた。

けれども吹き抜ける風はあの日よりも穏やかだった。

兵士たち、そして村長たちの手によって町の復興も少しずつ進んでいた。

兵士たちは壊れた柵を立て直し、村の大工は割れた壁を修繕する。

破壊された家々の前には、瓦礫の山と新しい木材が並び、子どもたちは周囲の大人に怒られながらも、その木材の上に座って遊び場にしていた。


ラヴォスは城から町を見下ろす場所に立ち、その風景を眺めていた。

かつて自分が破壊したこともある景色。

そして今回は、自分が守る側にいた景色。

胸の奥に、何か重たいものが沈んでいた。

罪なのか、後悔なのか、あるいは単なる無力感なのか……


 ♢♦︎♢


場面は変わり、ギブタウン城──

ギブタウン城の受付にはカルネスとミオがいた。


ミオは少し俯いたまま、ぽつりと声を漏らした。


「……あの戦い、私は……ほとんど役に立てなかったね」


カルネスは静かに彼女を見た。

仲間たちが血を流し、命を懸けたあの日、自分だけが何もできなかったという想いが胸に重くのしかかっていた。


「ニーナさんやチェロスさん……みんな自分の役割を果たしたのに。私は……ただ守られていただけだった」


やがてカルネスは、わざと大きく息をつき、少し肩をすくめるようにして笑った。


「……役に立ったかどうかなんて、誰が決めるものでもないさ」


ミオは顔を上げる。


「だが、少なくとも俺にとってはあの場にお前がいたから、踏みとどまれた瞬間があった」


「……私が?」


「そうだ。お前が無事でいる。それだけで、どれだけ救われる奴がいたと思う?」


カルネスは立ち上がり、窓の外に目を向ける。

そこには戦場の名残が広がり、修復に励む人々の姿があった。


「戦う奴だけが役に立つわけじゃない。笑って、泣いて、震えて……それでも生き残る奴がいるからこそ、今があるんだ」


ミオの目が少し揺れる。

その胸の奥に残っていた蟠りが少しずつほどけていくようだった。


「……カルネスさん」


「だから、役に立たなかったなんて言葉はもう口にするな」


カルネスは振り返り、軽く笑った。


「お前の生き残りが、みんなの勝利なんだ」


そこへカルロスがやって来る。


「お前も偉そうに言えるほど役になってなかったがな! ガハハハ!」


「と、父さん! 余計なことは言わないでください! せっかく今いい感じだったのに!」


カルロスはパンの袋を抱えたまま、にやついた顔でカルネスに近づいた。


「ま、でも……生き残ったってのは確かにデカいな。僕ちゃんたちがやった配達の仕事もそうだ。届かなきゃ意味がねぇ。どんだけ走ってもゴールに着かなきゃゼロだ」


「アンタもろくに配達やってなかったじゃない。そんな例え出さなきゃいいのに……」


そして仲間たちが続々と集まってきた。

元の世界に帰る者、この世界に残る者、それぞれの選択を告げる時が来た。

メグは穏やかな顔で皆に告げた。


「私は……この世界で生きていくことにしたわ。薬屋として。クラーラ先生も見守ってくれているわ。だからやはりここに残る」


「メグさんなら、この世界の人たちを守ってくれるはずです」


一方で、シーサー、メル、アーサー、マヤ、リリアの五人は顔を見合わせた後、決意を示した。


「僕たちは、元の世界に戻ります。まだやるべきことがある!」


「うん、ここで学んだことを……元の場所で生かしたい」


「おっぱい」


「「また必ず会えるよね」」


カルロスは視線をニーナに向けた。


「で、そろそろ……帰らねえとな。俺たちの元の世界に」


ニーナは頷いた。


「うん、長居はできない。あの世界にも守るべき人たちがいるもの」


そしてフラムは少し離れた場所で立っていた。


「……ニーナ」


「フラム?」


彼女はほんの少し震えながらも、笑みを作った。


「私はそっちにはいけない。だって、この世界の人間だし。それに守るべき人間がいるということをアナタが教えてくれた。ヴィレムの子だって構わない。だからこそ私はこの世界から背を向けてはいけない。あの血を継いでいるのに、何もせず逃げるなんて……それこそ裏切りだ」


ニーナの目が揺れる。


「……そっか。フラムらしいね」


フラムは一歩近づき、ニーナの手を握った。



「……フラム。アナタの居場所は、ここにあるんだよ」



フラムは強く頷き、握ったニーナの手に力を込めた。



「ヴィレムの子である私が、同じ血を繰り返さないと証明する。ニーナと過ごした時間……本当に楽しかった。ありがとう」


「私も……忘れない。ずっと、大切な仲間だよ」


そしてカルネスはカルロスに尋ねる。


「……本当に帰っちゃうんですか?」


「ったりめーだろ。俺たちは元々、この時代の人間じゃねぇ。ここで役割は果たした。なあ、ニーナ?」


「えぇ、でも……」


ニーナは一瞬、ミオを見て、口を噤んだ。

本来なら、共に帰るはずの青年もいたはずだった。

しかしカルゴスに取り込まれたため、青年の姿は、もうどこにもなかった。

その沈黙を破るように、重い扉が音を立てて開いた。

ラヴォスが入ってきた。

以前の荒々しさは薄れ、その瞳には決意が宿っていた。


「……帰るのか、二人とも」


「おう。もうここで俺たちが出しゃばる幕じゃねぇからな」


ラヴォスはうなずき、しばらく黙って彼らを見つめた。

その後、ゆっくりと口を開いた。


「青年を失わせてしまったのは俺だ」


空気が一気に重くなる。


「元はと言えば俺のくだらん計画のため巻き込み、死なせた。そこから始まったのだ。そして天使はもういない。だが……もし、俺の命を使えば、青年を復活させることはできないかと考えていた」


「おいおい、本気で言ってんのか?」


「俺が今まで撒き散らしてきた業を思えば……命一つで償えるものではない。だがそれでもせめて彼の命だけは取り戻させたい」


「……ラヴォス。その決意は本物か?」


チェロスが尋ね、ラヴォスは頷いた。


「ったく……お前ってやつは。死んで償おうなんざ、バカの考えだ」


「バカ、だと?」


「そうだよ。そんなんじゃ、救うどころか二度目の裏切りだろうが」


「すべての元凶は俺だ。この身でしか償えぬ」


「ふざけんな……!」


「チェロス、お前のおかげで気づけたんだ。憎しみだけで生きるのは……ただの空虚だった」


「いいのか?」


「いいのかとはなんのことだ」


「生き返らせるのはアンタの父親とか、ヴァルサ隊長じゃなくてということだ」


「フン……そんなんならお前の家族を生き返らせたいくらいだ」


「だったら」


チェロスは声を荒げる。


「だったら俺みたいに、どこまでもバカみたいに生き続けりゃいいだろ!」


その言葉に、ラヴォスの口元がわずかに緩む。


「……お前のように生きられたなら、きっと違っただろうな」


声を荒げているチェロスを邪魔しないようにミオは小さな声でニーナとフラムに尋ねる。


「でもそんなことできるのですか?」


ニーナとフラムは互いに頷き合った。


「……方法はあるわ」


「ま、まさか!」


メグは顔面蒼白になる。


「ねぇフラム。高校でやったやつ覚えてる?」


「まさか、あの禁断の? やったらいけないと念押しされたやつだよね?」


「古代の術式。命の残響を別の魂に移す……禁呪に近いものよ」


フラムが言葉を継ぐ。


「捧げる者の魂は完全に消える。存在そのものを代価に変える」


「おい……そんなもん、やったらお前は……! 本気でやるつもりなのか?」


チェロスたちはニーナたちの会話に耳を傾けていた。


「構わん」


ラヴォスは短く答えた。


「俺の命など、とうに余り物だ」


ニーナは深く目を閉じ、両手を組む。


「……わかった。なら、私とフラムが媒介になる。二人の力を合わせれば……橋を架けられる」


「ニーナ、フラム、やるのね」


ニーナとフラムは決意したように頷き、杖を掲げた。


「炎と光。絶望と希望。二つの力で道を作る……でもラヴォス。最後にもう一度問うわ」


「なんだ」


「本当に、それでいいのね?」


ラヴォスは目を閉じ、長く荒い息を吐いた。

そして、かつてないほど穏やかな声で答える。


「……ああ。俺の最初で最後の選択だ」


その瞬間、魔法陣が床に刻まれ、眩い光が立ち昇った。

ラヴォスの身体は霧のように分解され、無数の粒子となって儀式の中心へ吸い込まれていく。


ニーナの声が響く。


「我らの光よ、命を繋げ!」


フラムの声が重なる。


「我らの炎よ、絶望を焼き尽くせ!」


二人の詠唱が重なった──

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