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第92話「滑稽親子戦記」

仲間たちはオリジンカルゴスに総攻撃を仕掛けるも、完全には倒せず新たな形態へと変化する。

天使が現れ、力を貸して処刑されたラヴォスを復活させ、戦いに加勢する。

息子も報酬目当てで参戦し、仲間たちと共に攻撃を続ける。

天使の力でアーサーも復活し、戦力として加わるが、天使自身の存在は徐々に薄れて消えてしまう。

その結果、戦場に散った意志や怒りが粒子となり、新たな怪物──残穢カルゴスとして現れる。

仲間たちは再び武器を構え、パオンタウン、そして世界を守るために最後の戦いに挑む。


 ♢♦︎♢


夜空は黒い煙に覆われ、星のひとつも見えなかった。

爆音が響くたび、パオンタウンの家々が小刻みに震える。

町の大人たちは、必死に子供を抱えながら逃げていった。

誰も何が起きているのか正確には分からないが、ここに留まれば命はないというその本能だけが彼らの足を動かしていた。

町を守るために残った戦士たちは、崩れかけた建物の影に身を置きながら、人々の避難経路を必死に確保していた。

その背中は、小さな人々を覆い隠す巨大な盾となっている。

だがその目は皆、不安を押し殺した色で曇っている。

この夜が、パオンタウンにとってどれほど長く、どれほど残酷なものとなるのか──誰も想像することすらできなかった。


 ♢♦︎♢


一方カルネスは──

彼は微動だにしない。

城の受付になぜか戦場の中心のような顔で仁王立ちしていた。

外の戦場では誰もが命懸けで戦っている。

一方カルネスは誰にも気づかれぬまま孤独な戦いを繰り広げていた。


俺はどうすることもできなかった。

戦いが始まっているのに、俺は城に残り続けていた。

カルネスリンクの連携で精一杯だった。

その後はちょっと動いでも、カルネスナビのモニターを目にやりつつ、普段なら絶対やらない片付けをやっている程度だ。

机の隅に積まれた書類を並べ直してはまた崩す。

意味なんてない。

けど手を動かしていれば何かしている気になれた。

窓の外では仲間たちが命を懸けて戦っているのに。

俺はただ、ほこりを払って、机を拭いて、空になった棚を眺めている。

これが俺の戦いだと言うのなら、あまりにも滑稽だろう。

俺が片付けをして、いったい何になる?

どうせ明日になればまた散らかるに決まってる。

けれど手を止めたら……耳を澄ませたら……外で響く叫び声が、俺を押し潰してしまいそうだった。


結局、俺は何も変われなかった。

ただ、こうして時間を浪費して、何も残さずに一日を終えていく。


平和だった……

その言葉に甘えていた俺が今もここにいる。


ふと父親の背中を思い出す。

慕っていたわけじゃない。

なんなら声も、歩き方も、何もかも鼻についた。

だが、いなくなって初めて気づいた。

俺には父みたいな胆力なんて、欠片もないってことを。


ほこりを払う手が震えている。

笑っちまうよな。

戦場に出るのが怖くて、俺は机の引き出しを磨いている。


「……せめて、この城ぐらいはきれいに保っておかねえとな」


そう言い訳を重ねながら。

外で仲間たちが命を賭けている中、俺は城の中で小さな勇気を探していた。


ほこりだらけの机を拭き終えたとき、ふと笑ってしまった。

こんなことをしていても、何も変わらない。

どうせ臆病者のままなら、せめて最後くらい……


その時、背後から声がした。


「……カルネス こんな時に 掃除か」


ジェイムズだ。

カタコトの声が、やけに突き刺さる。


「……俺は……戦場に出るのが怖くて……だから」


「怖い いい みんな怖い けど 震える手でも 剣 握れる」


カルネスは顔を伏せる。


「俺には父さんみたいな胆力なんてないんだ。俺なんかが行ったって……」


ジェイムズはカルネスの肩を掴んだ。

その力強さに、言葉以上の重みが宿っている。


「胆力 違う 最初から ない 戦う 倒れる 立つ それで できる」


カルネスは息を呑む。


「……俺にできるのか? 本当に……」


ジェイムズは口元をわずかに緩め、短く言った。


「できる 俺 信じる」


「……分かった。俺も行く。震えてても、行かなきゃな」


ジェイムズは満足げに頷く。


「よし 行こう お前の戦場 ここじゃない」


二人は並んで城を出た。

外では、まだ戦いの咆哮が響き渡っていた。

それを聞いて腰が抜けそうになりながら剣を手に取った。

途中、廊下でミオに出くわす。


「まさか、パオンタウンに行くんですか?」


「ああ、止めんなよ」


「カルネスさんが珍しく……やる気な顔をしてる」


一歩、また一歩と外へ。

やがて戦場の気配が広がるパオンタウンにたどり着いた。


「……は?」


そこにあるはずの父親の姿はなかった。

カルロスは薬屋にいたのだ。


 ♢♦︎♢


そのカルロスは──


「バカルロス、混ぜ方が雑すぎる。そんなやり方じゃ効き目が落ちるわよ」


薬屋の奥、カルロスは大鍋の前で患者用の薬草をかき混ぜていた。

かつてないほど神妙な顔つきだった。

しかしその手つきは致命的に雑で、薬草が原形をとどめない勢いで砕かれたり、逆に丸ごと残されたりと、地獄の調理風景さながらだった。


「僕ちゃんはスーパーエリートだぞ! いちいち難癖つけるな!」


そのスーパーエリートは、さっきから鍋の外に薬草を三回投げ捨て、混ぜるたびに床が濡れるという仕事っぷりである。

メグは冷たい視線を向け、鼻で笑った。


「戦力外だからここにいるんでしょう?」


「ぐ……! こ、これはこれで重要な任務だ!」


カルロスは必死に正当化しながら、薬草をすり潰す手を止めない。

戦場で戦えない無力感を必死に隠すかのように。


「あなたがいなくても誰も困らない」


メグの声は冷たく、優しさのかけらもなかった。


「むしろバカルロスがいると、薬屋の秩序が乱れる。変なことしないように仕方なく見てるだけ」


「……そ、そうか。なら仕方ないな。僕ちゃんがここで薬を作って、少しでも戦力になってやるか」


メグは目も合わせず、淡々と答えた。


「私一人の方が効率いいし、戦力になってるとは思えないけど……せいぜい頑張って」


外では戦場の叫びが響いている。

だが薬屋には、戦力外のカルロスと冷たいメグ。

戦場とは別の小さな戦争が、ここで繰り広げられていた。

すると薬屋の扉が開く。


「父さん! なにしてるんですか!」


カルネスが駆け込んできた。


「……お、おう。カルネスか」


カルロスは鍋をかき混ぜたまま、のんきに振り返る。


「見ろ、薬だ。スーパーエリートの僕ちゃんが調合した特製だぞ〜」


「ふざけてる場合ですか! 外は地獄ですよ! 父さんまで薬屋に引きこもってどうする! ここにいるのはメグさんだけで十分でしょ!」


「バ、バカなこと言うな! これだって立派な戦いだ!」


カルロスは胸を張るが、その声は震えていた。

すると、その横から顔を出したのはミオだった。


「ミオ! ついてきたのか!」


「カルネスさんが心配で!」


「ってことは城は無人じゃねーかよ! 受付はどした!」


「今はそれどころじゃないでしょう!」


「ま、まあな……で、なんなんだ?」


「カルロスさんが、鍋を焦がしそうで!」


「鍋じゃない! 戦場だ!」


カルロスは震える手で鍋を叩いた。


「お、俺も行くぞ! スーパーエリートの本領発揮だ!」


「バカルロス! 鍋は置いてけ!」


「ふん、置いていけるか! この鍋ごとぶつけてやる!」


薬屋の扉を開けると、戦場の臭気が鼻を突いた。

そして仲間たちの叫び。

カルネスは剣を握る手が震え、腰を抜かしそうになるが、手にした剣を握り直す。

そして奥からメグがやってくる。


「これ、アンタが作った薬草。効果は微妙だけど持っていきなさいよ。負傷者が出たらこれを使いなさい」


その手渡された薬草袋は、温もりよりも重みを感じ、命を預かる覚悟の重さだった。

こうしてカルロス、カルネス、ジェイムズ、ミオも戦場に向かった。


その様子を見ていたハック、ピッケ、ギプト、マニーの船員組も続々と駆けつけてくる。


「へっ、やっと俺らの出番か!」


「船の甲板よりマシだろ!」


クルー、絆創膏も加勢。


「やっと俺っちの出番か!」


「俺たちの必殺技、今度こそ見せてやろうぜ!」


「久しぶりだな、クルー」


ミクロンだ。

刃を器用に回しながら、にやりと笑う。


「俺も加わるぜ」


ミクロンラヴォスがやられた以降は一人残り修行をしていた。

そして地響きを頼りにここにたどり着いたようだ。

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