第76話「メグの先生2」
落ち着いた頃、メグとルーカスは薬屋の裏にある、風通しのいい小さな休憩スペースに腰を下ろしていた。
「そういえばお姉ちゃんメンディ村に住んでるって言ってたけど本当なの? この町のことよく分からないみたいだし」
「ああ、この前のはちょっと忘れてちょうだい。会話の流れでそう言っただけ。ここに来たのは実はルーカスと出会った日なの」
「えぇ!? そうなの?」
メグの言葉にルーカスは目を丸くした。
「ええ、それで先生に拾われたの。だからなんでここにいるのかも分からない……でもなんとなく同じ年とは思えなくて、まさかとは思うけど時代も違ったりして。なんてね」
「時代ならこれで確認できるんじゃない?」
ルーカスは時計を渡した。
メグは確認すると数十年経っていることが分かった。
「うっそ!? じゃあ、私タイムスリップしたってこと!?」
「タイムスリップ?」
「ええ。時空間の歪 〈ひずみ〉に落ち込んで過去や未来に行くことね。まさかその原因ってあのカルロス、いやバカルロスの鏡みたいな水晶のせいなんじゃ!? 変に光ってたし!」
「カルロス……なんか聞いたことあるような……なぜか思い出したくないけど……」
ルーカスは幼い頃、カルロスと会っている。
「ええ、私もあんな奴思い出したくもないわ! あの傲慢顔! ムカムカする!」
メグが顔をしかめてそう言うと、ルーカスは笑みを浮かべた。
「あはは! もしかしたら同じカルロスだったりするかもね。でもどうするの? タイムスリップしたとなれば帰らなくていいの?」
「帰れる方法が分からないわ。それに、ここで働くと決めたからには帰れると分かったとしても帰るかどうか……」
「そっか……よし、お姉ちゃん長くここにいることになりそうだし町の案内するよ!」
「本当? ありがとう!」
ルーカスは嬉しそうに立ち上がり、メグを伴って薬屋を出た。
日暮れに染まりつつあるメンディ村を、二人は並んで歩き出す。
ルーカスは自分が過ごしてきた日々の記憶をひとつひとつ語りながら、メグを案内していった。
そして町の外れにある観光スポットであるメンディ隕石に到着した。
「へぇ、こんな巨大な隕石が」
「その頃の僕、いろんな場所を転々としてたからさ……ちょうどここを通ったんだ。
「村は大騒ぎでね。叫び声も、地面の揺れも、いまだに覚えてるよ」
「それはパニックになるわよね……でも、死傷者は?」
「幸い、死者は出なかったんだって。でも隕石の影響で一人の老人が行方不明になってしまったらしい」
「そうなんだ」
「あとね、怪我人はたくさん出たんだけど、その時たまたまここにいた治癒魔法の使い手が、次々と負傷者を治したんだ。その人がいなかったら、もっと大変なことになってたと思う」
「へぇ、そんなヒーローがいたのね」
メグは明るく言ったが、その直後、ルーカスが茶化すように笑った。
「僕もこの前、お姉ちゃんに助けられたばっかりなんだけどね」
「や、やめてよ……もう……」
メグは照れ隠しに頬を赤くした。
ルーカスは笑顔のまま、続けて説明した。
「でね、その隕石。あまりにも得体が知れなさすぎて、しばらく人が寄り付かなかったらしいんだ。危険かもしれないってことで。でも、時間が経つにつれて平気だと分かって村のみんなで動かそうとしたんだけど重すぎて全然ダメだったんだって。結局、どかせないからまぁ名物でいいよねってことで、観光スポットになっちゃったんだ」
「なるほどね……ルーカス、詳しいのね」
「まぁね。毎日ブラブラしてたから、こういうどうでもいい情報だけは詳しいんだ」
ルーカスは照れ隠しのように頭をかいた。
「へぇー! すごいじゃない!」
メグが素直に褒めるものだから、今度はルーカスが赤面した。
そして二人は薬屋に戻る。
「「ただいま」」
「どこ行ってたの?」
「お姉ちゃんを町の案内してた!」
「まぁ! メグちゃん、なんか印象的なものあった?」
「そうね……やっぱりメンディ隕石かなぁ。隕石自体もすごかったけど、それより……あれが降ってきたのに、一人の人が負傷者を片っ端から治したって話。それがなんだか、すごく良かったなって」
先生は一瞬だけ目をそらし、口元が緩んだ。
「ま、まさか……その人物って……先生?」
「……まぁね。当時は若かったし、治癒魔法ぶん回してたのよ。で、浮かれて調子に乗った結果、このあいだ話した失敗もしちゃうんだけど……やれやれね」
「いやいや、あれ聞いてヒーローだと思いましたよ! ますます尊敬しちゃうわ!」
今度は先生の方が、頬を赤くした。
「でもさっき、たまたまここにいた人ってルーカスから聞いたわ。当時ここに薬屋はなかったの?」
「ええ。当時は何もなかったわ。私は別の土地で暮らしていたしね。でも隕石の被害が出たあと、この辺りには医療施設がまったくないことに気づいて……助けた人の中に建築家がいてね。お礼に薬屋を建ててくれることになったの。それが今のこの店よ」
「へぇ……先生、本当にすごいなぁ。全部が素敵すぎる。私、ここで働けて……本当に幸せだわ。よーし、このお店の看板に傷をつけさせないようにがんばらなきゃ!」
メグはやる気に満ちた声でそう言い、薬屋での日々にますます誇りを感じていた。
♢♦︎♢
青年が訪れた日、行方不明だったという老人であるオースティンが現れた時のことだ。
♢♦︎♢
「お前さんが連れてきた人たちはこの村の人だったのか。ふぅ……もうよい……ワシ一人で帰るとしよう」
「待ってください、元村長」
「村民を見捨てたワシが、この村に残ることはできん」
「たしかにあなたは村長としてはふさわしくなかったかもしれない。けれども、我々はあなたが夢を叶えるのを見届けたいんです。この小さい島から大きな宇宙へ飛べるのならば、我々はあなたを応援します。だからこそ、あなたにはこの村にいてほしいのです。私たちは皆、あなたの夢に期待を膨らませています」
「そうか……ありがとう。じゃが前にも言ったようにワシが研究を進めるにはこの村は狭いのじゃ。だからワシは、あの島に戻って再び作業をするつもりじゃ。皆には迷惑をかけたな。それではワシは行く」
「待ってくれ村長! そういうことなら俺も行くぜ! 村長一人、島に置いてくわけにはいかねぇよ!」
「僕も行きます」
「俺も行く!」
「私も!」
「み、皆……」
「私も行きたいところだけど、私には店が……」
「行ってきなさい、メグ」
「せ、先生! クラーラ先生は……」
「いいのよ、村の一つに医者や薬剤師がいなくてどうするの。人は誰しも仕事をすれば体調を崩すわ。そんな時、人の体を守るのが私たちの仕事よ。だからあなたも行ってきなさい」
「先生……分かりました。行ってきます」
「それにそっちに行く人もいるから、残された人たちで復興とかしなきゃだね」
「よし、それじゃあ準備が出来次第、島へ向かおう! 空よりも高い宇宙を目指して……あの島をスカイギャラクシーと名付けよう!」
♢♦︎♢
そしてメグはお世話になったメンディ村を離れる準備をした。
「先生、行ってきます。ルーカスも元気でね……でも……本当に……本当に大丈夫なんですよね……」
「だから大丈夫よ。人手のことなら、ルーカスがいるわ。最初は雑用みたいなことばかりやってもらってたけど今では仕事も覚えているんだから」
「そっか……お世話になりました」
「なに辛気臭い顔してんのよ。らしくないわね! あの島までそんな遠くないんだから、会おうと思えば船ですぐ会えるわよ」
「そうね! 向こうでも頑張ってきます! 二人とも、元気でね!」
「「いってらっしゃい!!」」
こうしてメグはメンディ村を離れ、スカイギャラクシーの薬屋で働くことになった。
♢♦︎♢
そして悲報を聞かされたメグはショックで立ち直れなかった。
「先生……」
「す、すまんな……メグ……こんな暗いメグ初めて見たな……」
「クラーラさんと……ルーカス……ごめんね……私がこっち(スカイギャラクシー)に来てしまったばかりにあなたたちになにもできなくて……私だけ助かって……」
「そんなの……そんなのカルゴスが全部悪いに決まってるじゃない!!」
声が聞こえたからか、奥にいたフラムたちはこちらに気づく。
「ん? なんか聞き覚えのある声……」
「ニ、ニーナ!?」
「……あなたは……フラム?」
ニーナとフラムは久しぶりに再会した。




