第75話「メグの先生1」
カルロスたちが最初に未来に行った時のことである。
「ったく、カルロスったらどこへ行ったのかしら! またどっかブラブラと! ん? なにこれ?」
メグは時の水晶に触れて未来の世界に到着した。
未来の世界にやってきたメグはワープホールから落ちて尻餅をつき、地面に手もついて傷を負った。
「いったぁ!」
「大丈夫!?」
白衣を着た人が駆け寄ってきた。
「まぁこれくらいでしたら……」
「ダメよ。放置しないでちゃんと手当てしなきゃ。あなたが大したことないと思っていても、他の怪我に繋がることや、後遺症になることもあるんだから。私は薬屋で働いている。そういう人を見て後悔した」
「薬屋の先生?」
「そうよ。名前はクラーラ。あなたは?」
「私はメグ」
「メグね。なにしてる人なの?」
「私はある意味ブラック企業で働いています。最終学歴は某有名な魔術学校だけどいろいろあって退学しました」
「魔術学校なの!? 学科は?」
「文明コースの治療術科です」
「だったらうちの薬屋で働かない? 人手不足なのよ」
「で、でも一応まだ働いてるし……ここがどこなのかも……」
「メンディ村よ」
「メンディ……? どこだろ? メルからも聞いたことない」
「とりあえず早く手当てするよ。こういうのは早く対処することが大事だからね」
「は、はい……」
メグはメンディ村の薬屋で手当てしてもらった。
「ありがとうございます!」
「いいのよこのくらい」
先生は悲しげな表情で話す。
「さっき言った他の怪我や後遺症、そしてそれらを後悔したって……少し前ね、私がここに働き始めた頃の話。そうそう、まず実は私も魔術学校出身なの」
「そうなんですか!?」
「えぇ。 そしてたぶん同じ高校だと思う。治療術科ってあるのここだけだと思うから。私も同じ科だった。将来魔法を使った医者になりたかったから。それで、話を戻すけど、ここで働き始めた頃の話。最初のうちは高校で学んだ魔法も使って治療していたわ。薬なんかよりよっぽど効果があると好評だった。でもある時、患者さんに誤った魔法をかけてしまった。特に異常なさそうだったから、私自身も間違ったことに気づいていなかった。でもその患者さんみるみる体調が悪化していって、違う魔法をかけてしまったことにようやくそこで気づいた。急いで正しい魔法をかけたら病気は治った……と思っただけで、しばらくすると最初にかけた魔法か原因なのかその患者さんに障害が残ってしまったの。なんとか治そうと試みたけどどうにもらなかなった」
クラーラの声は震えていた。
「その人は、私を責めなかった。しばらくして『ありがとう』って言って、笑って……そのまま、逝ったの」
「先生……」
「それ以来、私は魔法を封じたの。怖くて使えなくなった。でもね、逃げたくなかった。あの人のありがとうが、ずっと耳から離れなくて。せめて今度こそ、薬でも手でも、人を救える人間になろうって思ったの」
包帯を巻き終えると、クラーラは静かに手を離した。
「はい、終わり……少し沁みるかもしれないけど、もう大丈夫」
「ありがとうございます」
「いいのよ。私はね、こうして手を動かしている時が一番落ち着くの。この世界はね、優しさを忘れたのよ。魔法も、科学も、人を救うために生まれたのに、それを使う者の心が壊れたら、何も残らない」
「私、先生の気持ち分かる。私なんかが人の役に立ったことないと思う。でも……」
『バタン』
「ん? なんか外で音した?」
突然、外で物音がした。
メグはその音に反応して目を見開く。
「たしかに聞こえました……ちょっと見てきます!」
「気をつけてね!」
メグは地面に倒れている血色が悪い少年を確認した。
「先生! 大変! 少年が倒れていたわ!」
「なんですって! すぐに手当てするわ!」
救急用具を持った先生は外に出ると、急いでいたからか、転んでしまう。
「いたっ!」
「先生! 大丈夫ですか!?」
「え、えぇ……私なんかただのかすり傷。だけどこの子は多分持病かなんかが原因で倒れたんじゃないかしら……ただ、困ったわね」
「どうしたんですか?」
「さっき話したあの件以来、私は魔法を封印してるの。でもこの子の容体は思わしくない。応急処置よりも、魔法で治療したほうが早いのは分かってる。けれど……封印してたせいで、うまく発動できるか不安なの」
メグはその言葉を聞いて、ふと自分の胸の奥に湧き上がる気持ちを抑えられなくなった。
「だったら私が魔法を使います!」
「メ、メグちゃん?」
「私だって普段、そこまで魔法は使わないわ。これはさっき言おうとしたことだけど、さっきの話を聞いて先生の役に立ちたい。いや、患者さんを助けたい。そう思った。私の時も過去の経験もあったからこそ、怪我をしてる私の所へすぐに駆け寄ってくれたんですよね? だからこの子も助けたいと思えた」
「気持ちは十分伝わった。でも怖いの。私みたいに間違った魔法をかけないかって。メグちゃんを信頼してないわけじゃないよ。もしものことがあれば取り返しのつかないことになってしまうから」
「でも……」
「そんなに言うなら、まずは私の怪我を魔法で治してみて? それでうまくいったらこの子にも魔法を使って治療して」
「……分かりました」
メグは目を閉じ、高校時代に学んだ治癒魔法の詠唱を思い出す。
掌が淡い光に包まれ、クラーラの傷口を照らした。
次の瞬間、血が止まり、裂けた皮膚がすうっと閉じていく。
「やったわ!」
クラーラはその様子を見つめながら、微笑む。
「メグちゃん……私が過去のことにこだわりすぎてたみたい。ごめんねそれをおしつけちゃって……」
「いいんです、先生。先生の考えも大事なんですから」
「さぁ、早くその子を魔法で治してあげて!」
「はい!!」
メグは倒れた少年のもとへ駆け寄った。
両手をかざし、心を集中させる。
病が体を蝕んでいるせいか、魔力の消耗は激しい。
それでも、彼女は止めなかった。
汗が滴り、光が弾ける……やがて少年のまぶたがゆっくりと開いた。
魔法が成功したのだ。
「「よかった!!」」
「お姉ちゃん……が……助けてくれたの……?」
「そうよ」
「緑の髪のお姉ちゃんありがとう!」
少年の笑顔を見た瞬間、メグの胸に張りつめていた何かがふっとほどけた。
助けられた……その事実が、あまりにも嬉しくて、涙が止まらない。
「なんでお姉ちゃんが泣いてるの? そうだ、お姉ちゃんってどこに住んでるの?」
「ここの村よ。メンディ村。先生の助手としてあそこにある薬屋で働いてるわ」
「メ、メグちゃん!?」
「あれ? さっき人手不足で働いてほしいって言ってませんでした?」
「そ、それは言ったけど……ふふっ、そうね。あはは!」
「じゃ、じゃあ……?」
「えぇ。改めて採用! こんな優秀な人材、他にいるわけないもの!」
「先生! ありがとうございます!」
そこにはまだ少年がいた。
「あら、あなたはどうするの? あなたこそどこに住んでるの?」
メグが問いかけると、少年は俯き、小さな声で答えた。
「……最近は、メンディ村……かな」
「最近? どういうこと?」
「……実は、数年前に父親が事件を起こして逮捕された。その後母親はショックで自殺してしまった……それで……」
この少年は以前カルロスがボンビー村を訪れた際に出会っていた子供だった。
父親が逮捕され、母親が自殺してしまい、一人残された息子は路頭に迷った。
住むところを転々とし、最近はメンディ村近くの洞窟で暮らしていたようだ。
食べ物も落ちている木の実や、誰かが食べた物の残飯などを食べてなんとか生きてきた。
そのため、病気にもなり、今回倒れているのをメグたちが発見したという訳だ。
「そっか……辛かったのね……よかったら私の家にいなさい。二階が空いてるわ」
「え!? いいの!?」
「いいわよ。ただし、しばらく休んだら、たまには買い出しに行くなど少しは手伝ってもらうからね」
「うん! 分かった! ありがとう! よろしく、メグさん……と」
「クラーラよ」
「クラーラさん! 僕はルーカス!」
その後、ルーカスは定期的に先生に診てもらい、健康的な生活を送った。
治癒魔法などもうまくいったからか快方に向かっていった。




