第71話「下品な理由」
「しかし、未来から帰ってきたはいいが、城の連中はどこ行ったんだよ。せっかく仕事と向き会おうってなってもいくらなんでも人手不足にもほどがあるだろ」
「まさか……みんなも水晶に吸い込まれていたとしたら……まだ未来の世界に……」
「そんな……嘘……だろ……そうとなれば仕事を押し付ける奴もいねぇじゃねぇか!」
「いやいや! まずはみんなの心配をしなさいよ!」
「わぁったよ、悪かったな。ところで、あいつ、水晶のことについて詳しいんだよな? 前に宝石店に勤めていたと聞いた。念のため、まずはあいつにあって状況を説明しようぜ」
「ええ、そうしましょう」
しかし、青年は家にはいなかった。
「きっと出かけてるんだろ。城の連中だってきっとそうだ。お前考えすぎだろ」
しかし、しばらくしても帰ってこなかった。
「やっぱりなにかあったんだわ」
「そうだ魔法だ。人の場所を特定できるっていう魔法をつかえよ」
「そっか、やってみる」
ニーナは目を閉じ、詠唱を始めた。
城の人間と青年の行方を探ったが、反応はなかった。
「この魔法で反応がないってことは、考えたくないけど、やはりこの世界にいないのかも……」
「うーむ……そういや、僕ちゃんたちが未来に行った時、奴は何日か前に到着してたよな?」
「え、ええ」
「時空が少しずれてるんだから、 城の連中も水晶で未来に行ったとするなら僕ちゃんたちと入れ違いに未来に言っててもおかしくないよな」
「そうね、ということはまさかあの子も!」
「ま、お前の魔法で反応なかったんなら、なんかの拍子に再度吸い込まれたってのはありえなくはないかもな」
「でも今は水晶ごとカルゴスを封じ込めているし一体どうやって……」
「やっとの思いで閉じ込めた宝箱だ。近づきたくもねぇよ」
「まぁ分からなくはないけど……でもね……そういや、未来の世界で、老けたアンタが生き返ったことあるわよね?」
「んで、なにが言いたいんだよ?」
ニーナは少し黙る。
「どうした?」
「アンタ、もう一度水晶に吸い込まれなさいよ」
ニーナはニッコリしていた。
♢♦︎♢
過去から来た城の人間、シーサー、マヤ、リリア、そしてメル。
彼女たちは、フラムと共にスカイギャラクシーの薬屋に集まっていた。
彼女たちの目的はアーサーたちを連れ戻し、水晶の力で元の世界へ帰ること。
アーサーの目撃情報を追ってたどり着いた先で、思いがけずメグにも再会することになった。
フラムと城の仲間たちは、未来の世界で出会い、ヴィレムの理解と協力を得て行動を共にしていた。
そして今、この薬屋で、高校以来となるフラムとメグの再会が果たされる。
そこまで広くない店内に、七人の気配が重なる。
薬草の香りと微かな緊張の中、静かな会話が始まった。
「つまり、みんな水晶により吸い込まれた。カルロスとニーナちゃんとカルロスに奴隷にされてたあの子は先に過去に帰ることができ、あなたたちはその後未来へ到着した。その後、私とアーサーが過去に帰った記録がないから探しにここまで……迷惑かけたわね……でもどうしよう」
「ねぇ、メグってあの?」
「そっか、フラムちゃんか。あなたと同じ学校に通ってたメグよ。見た目についてはいろいろと理由があるの」
「タイムスリップね。彼女たちと行動していたから知っているわ。それより私、あなたに言いたいことがあったの。あの時私はニーナを裏切り、あなたまで退学に追い込んだ。私、謝っても許されないことしたわよね」
「たしかにその時は少しは恨んだ。でもなんだかんだあの後、ニーナちゃんと出会い、同じ職場で働くことができ、楽しい日々を送っていたわ。上司がクソだったのはアレだけどね。それより、あなたが改心し、今のあなたがある。そう想えるってことは、私たちが退学させられたことに意味があったのかもしれない。そこは本当に良かったわ」
「メグ……あんなひどいことしたのに……優しすぎだよ。私のこと怒らないの? あんな……あんな……ねぇ、せめて私のことおもいっきりビンタしてよ!」
『パン!!!!』
おもいっきりビンタしたが、それは彼女たちが絆を深めるものだった。
特にこの時代を生きてきたフラムにとっては長い時間かけての。
「「えへへ!」」
「ほんとにおもいっきりビンタするんだからー」
「大丈夫? 痛ければここは薬屋、手当てしてあげるわ」
「へーきへーき!」
「あはは!」
フラムとメグはすっかり仲良くなった。
その様子を見てマヤたちは少しほっとした。
「「なんか私たちの時と態度違くない?」」
不満には思っていたが。
「まぁいいじゃないですか。彼女がこんなに笑顔になったならね。先ほどのフラムさんを見たでしょう」
そこでフラムはニーナのことを思い出す。
「そういえばニーナはどうしてる? あの後のこと分かる?」
「ニーナとは偶然出会い、それからでしばらく同じ所で働いたってことは言ったでしょ? その後私はいろいろあって未来であるここに来たんだけど、ニーナもこっち来てたんだよね? それに私が変化した水晶を見た時ニーナたちの姿なかったし、最初に出会ったほうの青年はニーナちゃんやバカルロスを探してたみたいだし、多分来てると思うんだけどね」
「ニーナは受付の変な奴がカルロスとかは過去に戻ったと言ってたからニーナも過去に帰ったと思う」
「そっか……こっち(未来)に来てたけど向こう(過去)に戻ったのね。できれば、帰る前にニーナちゃんに会っておきたかったな……向こうでちゃんとやってるかしら? でもおかしな話よね。数ヶ月前まで当たり前のように毎日仕事してたのが一変、過去と未来の別々の場所で働いてるんだから」
「私もニーナにちゃんと謝りたかった……」
メグとフラムは悲しげな表情をしていた。
少しの沈黙の後、メルが口を開く。
「そうだ、この後みんなはどうするの? 受付の人が金庫開けられたらみんなで帰るよね?」
「受付の奴って、バカの顔と似てる、ムカつく傲慢顔のことね。たしかカルネス」
「ああね! あのアホ面! 本当迷惑!」
「私はどうしよう……スカイギャラクシーや先生のこととか未来でいろいろあったし……ここに残ることは少し前から決めてたんだけど……」
メグはここに残ることを決めたとはいえ、まだ想うことはある。
「おっぱい」
殴られて倒れていたアーサーは起き上がった。
「あらアーサー、生きてたのね」
「おっぱい」
「そうだ、アーサーはどうするの? 今メグと働いてるんでしょ? メグがここに残るならアンタは?」
「おっぱい」
「おっぱいじゃ分からないよ! この後どうするの? ちょっと前から思ってたんだけど、なんでおっぱいばかり言うの? 前そんなんじゃなったよね?」
「実はっぱい……」
♢♦︎♢
過去の世界にいた時の出来事──
アーサーはカルロスによる依頼で、コーンチの実という珍しい木の実を採取していた。
「……言われていた実はこれか」
『ぐー』
腹が鳴る。
「そういえばご飯まだだったな。何個か実ってる。まぁ一個くらいなら」
つい空腹に負けて一粒を口に入れる
「おっ、おっ……………………」
そして城に戻った。
「遅かったじゃねえかどこで道草食ってたんだ! 依頼した実はちゃんと持ってきたんだろうな?」
アーサーは木の実を差し出す。
「お疲れちゃん♪ どうやらちゃんと依頼をこなしたようだな! 遅かったが、そこは許してやろう(よし、こいつを売り飛ばせば)」
「おっぱい」
沈黙が流れた。
「は? おっぱいだ? なんだこいつ? 頭がおかしくなったのか? いや待てよ、まさかお前、コーンチの実を食べたな?」
「食べたらどうなるの?」
「そうだな、下品なことしか言わなくなるらしい。それもいつも思っているけど、口に出さないような。そしてそのことが頭いっぱいになり、他のことが目に見えなくなる」
「だからあんなことを……アーサーって普段そんなこと考えてたのね」
「おっぱい」
「「……」」
「ま、まぁよい。仕事に戻れ! ただ罰としておっぱい言ってろ。人前で言って恥ずかしい思いをするんだな」
「おっぱい」
「あんなので仕事に行かせていいの?」
「そこまで生産性は期待してない。僕ちゃんはあいつに恥ずかしい思いをさせたいだけだ」
♢♦︎♢
一方、カルネスは──
「11081(いいおっぱい)……さすがにこんな舐めた暗証番号なわけないか。テキトーに閉めちゃった訳だしな。クソ、あいつら人使い荒いし、来たと思ったらどっか行くし理解が追いつかん……俺は何故突然やってきた変な奴の言いなりになっているのだ。こんなことしてるくらいなら、さっきのエ◯チな動画を……いやダメだ、そうとなると終わったら俺は疲れ果てて寝てしまうんだ。さっきの奴とか、今買い物に行ってるミオとかに見られたら信頼失墜に繋がる。ここは耐えるんだ俺……」
ひたすら金庫が開かなく、愚痴をこぼしていたのであった。
俺はどうすることもできなかった。
自分の首を絞めておいて、言い訳しかできなかった。
縮こまりながらひたすらダイヤルを回し続けるという、苦痛さから現実から早く解放されたかった。
そんな身勝手な奴に城主は務まるのだろうか……
平和だった……




