第68話「杜撰な城と城主」
シーサーたちはメルの案内でギブタウン城の付近に到着した。
「よかった、この時代もギブタウン城は存在しているんですね。少々外見などは違いますけどね」
門でチェロスに会う。
「誰だ?」
「私たちは過去から来た者です。人探しをしていまして」
「最近よく過去から人が来るな……なにかしら事情があるんだろう。分かった。通れ」
入門の許可を得て、一行は城の受付へと進む。
廊下の壁には見覚えのある絵画が少し残っており、どこか懐かしい空気が漂っていた。
「中もギブタウン城の面影がある!」
「さて、中には誰がいるのだろうか」
その時、奥からバタバタと足音が響き、カルネスが勢いよく飛び出してきた。
「誰だ貴様ら!!!!」
「あ、僕たちは過去から来たギブタウンで働いている者で、人探ししてるんです。だからとりあえずギブタウン城に来ました。私はこの方に事情を話すので、メルさんたちは先に彼を探していてください」
「分かったわ!」
「おいおい、貴様ら勝手に……にしても過去から来た奴がこんなにいたのか! 貴様らの名前は? カルネスコンピュータで照合が取れてからこの城の出入りを認める!」
しかしマヤたちはカルネスを言葉を聞かずに勝手に捜索を始める。
そして廊下の端末が目に入る。
「これ、カルネスナビってなってる! カルロスナビの後継機かなんかかな? 機能もいろいろ追加されてる!」
「へー、天気なんかも見れるようになったのね」
リリアが指先で画面をタップしながら感心する。
「さすがリリア、目の付け所がいいね!」
マヤは画面を指でスクロールする。
「ほら見て、今日の気分指数ってのまである! なんなのこれ!?」
「たぶんカルネスって奴が自分の気分を入力してるんじゃない?」
「うわ、自己管理アプリ!? 気持ち悪っ! 『今日の俺:絶好調』とか書いてそう!」
「『寝不足だけどがんばる俺』とかもありそう」
二人の笑い声が城の廊下に響き、カルネスの耳まで届いていた。
「……聞こえてるぞコラ……!」
メルはそんなやり取りを横目に、端末を分析するように画面を覗き込む。
「でも、これ本当に便利ね。地図機能もあるし……カルロスナビの時代からかなり進化してるわ」
「使い方さえちゃんとしてれば、ね。どうせ持ち主がバカだと意味ないけど!」
「うっ……」
廊下の奥でカルネスがまたうずくまった。
「よし、手分けして彼らを探し、彼らを見つけられたらこのカルネスナビで連絡を取り合うってのはどう?」
「おっ! メルさん名案!」
シーサーが明るい声で応じる。
「おい!! てめぇら!!」
カルネスは我慢できずにこっちに来て怒号を上げる。
「俺の城を荒らすな!! 好き勝手しやがって!! だから名前を言え!! 名前を!! 過去に働いていた名簿をカルネスコンピュータで調べるから、せめてそれまでは大人しくしてろ!! ったくよ、この城はセキュリティ面がガバガバじゃねぇか!!」
「自分で言うんだ、それ……」
リリアが呆れ声で呟く。
「クッ……そこは目を瞑ってくれ……」
カルネスは項垂れながらも必死に体裁を保つ。
「しかも散々無視しておいて、そこだけ反応するなよ……」
「申し訳ないです。急いでいたもので……僕はシーサーで、彼女は……」
数分後──
カルネスは端末を操作しながら、ぶつぶつと独り言を呟いていた。
「ええっと、シーサー……登録済み、と。で、このメルってやつも……ああ、こっちも照合済み。
マヤ、リリア……っと……おい!」
顔を上げたカルネスの眉が跳ね上がる。
「この女だけ照合が取れないんだけど?」
画面に照らし出された名前の欄は空白のままだ。
その照合不能者こそ、他ならぬフラムだった。
「……あ……彼女は……」
シーサーが言いよどむ。
「部外者なのか?」
「誰? この風変わりな人? たしかに私この城とは無関係だけど? だからいたらいけないの?」
フラムはカルネスに近づき、威圧的な態度をとる。
カルネスは萎縮する。
「うっ……そんなこと言ってないじゃん……で、でもいるならせめてお客さん用の受付へ……」
「ねぇ、アンタ、カルロスって人はどこ? その人に聞きたいことがあるんだけど」
「カルロス? 誰だ? あっ、父さんか。父さんならこないだ帰りましたよ」
「へぇ、アンタ、カルロスの子供なんだ。帰ったってどこに?」
「過去の世界ですよ。どうかしたんですか?」
「カルロスたちはやっぱりこの世界に来ていて、元の世界に帰っていったってことか。ならやはり時の水晶はギブタウン城の中に保管され続けていたのね」
「おい、ちょいちょい気になるんだが、父さんのこと呼び捨てるのやめてくれないか? 地味にムカつくんだけど」
カルネスは少し大きくなる。
「いい? 時間がないかもしれないの。だから敬称を端折ってるし、いちいち突っかかんないでくれる?」
「クッ……すいやせん……」
カルネスは再びちっちゃくなる。
「それで、まだ水晶はこの城にあるの?」
「まぁ、ありますよ。厳密にはスペアですが」
「スペア?」
「えぇ、父さんが過去の世界から来た時に、誤って俺が水晶を割ってしまった……なんてことはないんですが、なんか本物が割れていたのですよ。修復は無理だと聞き、スペアを集めてそれで代用しているんです」
「そのスペアはどこに?」
「今は金庫保管してますよ」
なぜ、カルネスは神か突然の訪問者に水晶のことをベラベラ喋れるのか。
フラムの態度に怯えているのもあるが、カルロスは水晶の危険性をカルネスに伝えるとか言っておきながら、物騒な物と思う程度で忘れていたのである。
「少なくとも水晶は城外に置かないほうがいいだろう。奴は悪さや自分の欲望に堕ちたときに復活すると言っていた。だから破壊したり捨てたり、誰かに譲渡したりしたらロクなことが起こらないかもしれない。水晶が他の所へ渡ったら、それがこんなにも凶悪な物かも知らないだろうし、僕ちゃんたちの監視下に置いた方が安全かと思う。僕ちゃんたちが三人がかりで奴と戦いギリギリで勝利したのだ。あいつが強くなって復活でもされたら、それこそひとたまりもない……もしこの水晶の封印を解くのであれば、この城を大きな災害から救えるような勇敢な者でないとダメだ」
「そうですね。珍しくカルロスさんに賛成です」
「どいつもこいつも一言多いな……そうだ、これはいずれカルネスにも伝えておかなければな……」
「ですね……」
「よし、この水晶を宝箱に封印するぞ!」
つまりカルネスは以前の水晶にカルゴスの魂が宿っていることなど知る由もなかったのだ。
「ちょっと見たいんだけどいい? 場合によっては私が過去に出向き、カルロスに水晶のことを吐かせる必要があるかも」
「まぁいいですけど……(……あ、ヤベ! 暗証番号分からんくなったんだった!)」
「あ、ちょっと用事ができちゃったのでまた今度でいいすか?」
「だから急いでるって言ってんでしょ!?」
フラムは睨みながら低音で喋る。
「いや……どうしても外せない用事が…………」
そして──
「暗証番号を忘れた!? バッカじゃないの!?」
「スマン……」
「もうこうなったら……アンタはそのまま金庫の番号を特定して開けてちょうだい」
「あ、はい……」
カルネスはすっかりフラムの言いなりになる。
するとシーサーが口を開く。
「そういえば、ニーナさんやアーサーさんはどこに行ってしまったんでしょうね」
「(ニーナ!? 聞き覚えがある)」
「ん? アーサー? 聞き覚えのある名前だな。ニーナさんは父さんと帰ったよ。そうだ、アーサーっていうのはおっぱいで誤魔化す変な小僧だろ? 先日にこの城に訪ねてきて、行く宛がないみたいだからこの城で働かせてやったんだが、配属になったらすぐに消えたんだよ。だからどこにいるかも分からんし、寡黙な奴で、おまけにおっぱいしか言わないから見つけてもあんまアテになんないと思うぞ」
「アーサーさんまでこっちに来てたんですね。メグさんとかも来てるんですかね?」
「(メグ!? ニーナにメグ……まさか……)」
「メグって人は特には来たって知らないけど」
「メグさんは分からないと……」
どちらも、かつて自分と同じ高校に通っていた人物と同じ名前。
あの出来事があってから、互いの道はまったく違う方向へと分かれていった。
「(……どうして、あの二人の名前がここで出てくるの……?)」




