第67話「遅れて未来へ」
カルネスが城主の時代、そこはサムライタウン──
サムライタウンはそこまで栄えているわけではないが、不便なく生活はできる。
その一角で、フラムはひっそりと生きていた。
両親はもういない。
身寄りもなく、頼る相手もいない。
わずかな貯えは底を突きかけ、明日の糧すら定かではなかった。
魔法の腕は確かだったが、それが今の生活を支える力にはならなかった。
卒業後になんとか就いた仕事も長くは続かず、やがて空白期間という名の孤独が、彼女の人生を侵食していった。
ヴィレムの血を引くというだけで、世間は彼女を遠ざける。
次第にやつれ、服は埃にまみれ、まるで町の片隅に棄てられた亡霊のようになっていった。
まるでフラムがあの時身ぐるみ剥がして捨てた生徒のように──
かつての自分の行いが、今になって自らに跳ね返ってくる。
「この後、どうやって生きていこう……」
彼女は膝を抱え、夜空を見上げた。
「やっぱり私には、生きる意味なんてないのかな。誰かが幸せになるたび、私みたいな誰かが不幸になる」
その時だった……突如、目の前の空間が歪み、光が弾けた。
耳をつんざくような音とともに、何かが落ちてくる。
すると、フラムの目の前に、残りの城のメンバーのシーサー、マヤ、リリア、メルが時空を超えて過去の世界からやって来た。
やはり時空の歪みが原因で、到着する日時、そして場所までもがバラバラのようだ。
「いってぇ!!」
「「いたっ!!!」
カルロスたちと同様、尻餅をつく。
「ここは?」
「どこ?」
リリアとマヤはキョロキョロしている。
「ここはサムライタウンかも」
メルが口を開く。
「どうして分かるの?」
「最近私はワープポールを作った。だから地形に詳しいのよ」
ギブタウン周辺の地理や歴史を熟知しており、冒険者たちに助言を与えることも多かった。
「ちょっと地形とか違うけど、面影がある。間違いなさそう」
すると、フラムは呟いた。
「今の異次元ホール……もしや時の水晶を使ったのかしら……両親から聞いたことがある。時の水晶はカルゴスが創り出した。その後、何者かが持ち出した……と。つまり今水晶から出てきた人は水晶を持ち出した関係者の可能性が高い……」
「あの、どうかされましたか?」
フラムはキョロキョロしながらボソボソと喋っていると、シーサーが気づいて近づき、声をかける。
「なんでもない。私に近づくとロクなことがないよ」
「なにか悩みがあるのなら、僕でよければ力になります。僕はこうみえて昔世界を救った人物と血が繋がっています」
「世界を救った?」
「そうです、僕の曽祖父はゴードンといい、世界一の富豪であり、極悪非道な大魔法使いを倒すことができたと聞いています。僕はそこまですごくないですが、血は繋がっています」
「極悪非道の大魔法使いってもしかしてカルゴスのこと?」
「そうです! その名前を聞かされていました! けれどカルゴスをなぜご存知なのですか?」
「私の両親は、カルゴスの仲間だったの」
空気が張りつめる。
「カルゴスは封印されたけど、両親はその後も悪事を続け、結局殺された。私はヴィレムの子ってだけで忌み嫌われ、家もなにもかも失った。なんとか生きてきたけど……もう、生きてる意味なんて、ないのかもしれない」
彼女の声は震え、後半になるにつれて涙声へと変わっていった。
「あなたには関係ないし、きっと理解もできない……今まで私に関わった人たちは、みんな私と同じ目で見られて、学校を退学させられたりしたの。だから……あなたも、私に近づかない方がいい」
しばしの沈黙。
シーサーは何も言わず、ただ真剣な眼差しでフラムを見つめた。
「……なるほど。あなたの過去は、そんなにも辛かったのですね」
責めるでも、慰めるでもない。
ただ、受け止めるような優しさがあった。
「思い出させてしまって、ごめんなさい」
「ねぇ……どうすることもできないでしょ?」
記憶の奥に封じ込めていた痛みが、再び溢れ出して涙が止まらない。
シーサーは彼女のそばに腰を下ろし、何も言わずに耳を傾けた。
ただ、聞いてくれた……それだけだった。
けれど……それだけで、フラムの心は少しだけ軽くなっていた。
自分の話を、誰かが最後まで聞いてくれた人なんてほとんどいない。
そして彼女は気づく。
胸の奥が、ほんの少しだけ温かい。
「そうだ! あなたたち異次元ホールから出てきたよね?」
フラムが指を刺すと既に異次元ホールは消えていた。
「おそらくは……空中から飛び出したので、異空間を落ちていたような……なにが起きたかまだ整理できてないですけどね」
「時の水晶で未来に来たんだよね? 赤く光ってたし」
「時の水晶……分かりかねますね。僕はいつの間にかここにいたんです」
マヤたちも来る。
「その人だーれ? ていうかなんであたしたちサムライタウンってとこにいるのよ」
「私はフラム。あなたたちは時の水晶によってここに飛ばされたと考える。私は魔法を学んできた。だから分かる」
「時の水晶ってなーに?」
「あなたたちは水晶のことすら知らないの? カルゴスのことも?」
「うーん、知らないなぁ」
「カルゴス? カルロスなら知ってるけど! すっごく性格悪くてうざい奴!」
「ねー! ほんとにキモい!」
マヤたちは盛り上がる。
「(カルゴス……カルロス……名前が似てるのは偶然? もしかしたらこの人たちは水晶のことをあまり知らないで、なにしらかの被害に遭って水晶に飲み込まれたのかしら? ねぇ、水晶っていうのはクリスタル型の鏡になってるんだけど、近くにそんな物なかった?」
「あぁ! あったあった! あれのことなんだ! 城外に立て掛けられているやつね! あれカルロスが拾ってきたやつだよね?」
「たしかそんなこと自慢してたよね。いつも鏡として使ってて『今日も僕ちゃんイケメン』とか言っててそれを見て気色悪いとしか思わなかったけど!」
「あははは!! ウケる!! きっしょ!!」
マヤとリリアはまた悪口で盛り上がる。
「( カルゴスの魂は水晶に封印されたと聞いた。水晶を拾ってきたのはカルロスという人物で、この人らの近くに立てかけていたせいで、この人らがカルゴスの被害に!?) それが赤く発光しているってことは、あなたたちは過去から来たってことかも。水晶に触れて未来に行きたいって念じたの?」
「鮮明には覚えてないけど……元々赤くなってたような……?」
「え!? じゃあ、その前にその場所から誰か消えたこととかある?」
「そのカルロスさんが消えてましたね。他にも数名」
シーサーは答える。
「具体的に誰? 詳しく教えてほしい!」
フラムはシーサーに掴みかかる。
あまりの必死さに周りは唖然とした。
「そ、そんなに焦らなくても。なんかあったのですか?」
「ごめん、取り乱したわ。私の両親はカルゴスの仲間だったと言ったわよね。カルゴスはすさまじく残酷な存在。あなたたちが念じず、つまり故意にタイムスリップとかしていないと言った。つまりなにらかの拍子で奴の封印が解かれたと考えることもできる。もしもそうなら世界がヤバいことになるかも!」
「なーに? よく分かんないけどあたしたちヤバい所に飛ばされちゃって感じー?」
「最悪ー!! きゃはは!!」
「ちょっと! さっきからうるさい! メスどもッ!!」
マヤとリリアは一喝を喰らい、萎縮する。
「……カルゴスの残虐さは、聞いてるだけでも吐き気がするほどよ。パオンタウンは未だに復興できていないって話もある。ここが無事だったのは奇跡なのかも。だけどもしあいつが目覚めているなら、どこかでまた動き出してるはず」
場の空気が静まり返る。
「とにかく、今は情報を集めなきゃ。カルロスって人……その人物が鍵を握っている可能性がある」
「もしカルロスさんもこの世界に来たなら、元の世界に戻るために、自分の城であるギブタウンへ行った、ってのが濃厚ではないでしょうか? メルさん、ここからギブタウンがある場所は分かりますか?」
「えぇ、私の土地勘を頼って。元の世界とそこまで地形は変わらなそう。ついてきて!」
一行はメルの案内でギブタウンへ向かう。
♢♦︎♢
その頃、カルネスは──
「行ってしまったか。なんだかんだ寂しくなるな」
カルロスたちを過去に送り届けてしばらくした時だった。
「ま、いっか。とりあえず眠いし寝よ。あ、その前に水晶か。めんどっちーが、ちょっくら金庫にしまってくるか」
そして金庫の部屋に着き、水晶を金庫の中に入れる。
「んっと、ここにいれてダイヤルを……あっ! しまった! 寝ぼけてテキトーに番号変えて暗証番号が分からないまま閉めちゃった! ま、いっか。一件落着したんだ。再びこんな物騒な物使うことないっしょ」
俺はどうすることもできなかった。
眠気に負けて、業務が雑になっていた。
物もロクに管理できず、失敗したらなんとかると自分に言い聞かせる日々を過ごしていた。
そんな身勝手な奴に城主は務まるのだろうか……
平和だった……




